◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
戦いに来たのではない、という言葉が放たれ、ピトーが意気込んで交渉に入った後の話。結果的に、交渉は数秒で終了した。というか、珱嗄が此処に来た理由は嫌な予感がしたからだ。その原因を探る為に来た訳で、特に何か仕出かすつもりは毛頭ない。なので、交渉自体はこんなやり取りで終わった。
「結構無茶な事を言ってるのは分かってる………でも、出来れば女王に手を出さないで欲しい」
「いいよ(^O^)/」
「えっ……」
今はその後の話だ。珱嗄とピトーは大木の根っこでお互いに座って話をしていた。女王に手を出さない条件として、友達になれという対価を珱嗄が要求したのだ。会話をすれば中々弄り甲斐のある猫だということが分かったので、そう言ったのだ。
「へぇ、ってことは王様産む為に女王さんはへこへこ頑張ってんの?」
「その言い方はちょっと気に食わないけど、まぁそうだよ」
「よし、決めた。王様生まれたらとことん子供扱いしておちょくってやろ」
「君なら本当にやっちゃいそうだから今から不安になって来たよ……」
珱嗄がケタケタと笑うと、ピトーは疲れた様に肩を落とした。女王直属の護衛軍一人が仕事を忘れて会話に勤しんでいる、と思われるかもしれないが、今の彼女の仕事は女王に命じられた命令だ。
つまり、『珱嗄を女王の下へ連れて行かないこと』
こうして珱嗄を足止めしていれば、十分仕事をこなしているという事になるのだ。故に、ピトーは少しだけ胸中不安が渦巻いていた。珱嗄がその気になれば、すぐさまピトーを振り切って女王の下へと向かうだろう。言葉だけの約束では、まだ警戒は解けないのだ。
だから、交換条件である『友人になる』という対価を今払っている。こうして大人しく言う事を聞けば、少なくとも時間稼ぎは出来る。足止めは出来る。後はどうにかして帰って貰えば良い。
「なぁネコー」
「ピトーだってば」
「お前ちょっと猫みたいに振る舞ってみ? とりあえず語尾に『にゃ』付けろ」
「え」
「お手」
「それ犬じゃないか……にゃ?」
「そんな感じそんな感じ」
「……とても複雑な気持ちになる………にゃ」
ピトーは元々猫だからか、語尾に『にゃ』を付けて話す事になんの違和感も感じなかった事と、人間に対してそんな言葉遣いを強要されるのが、少しだけ屈辱的だった。
とはいっても、そうしないと機嫌を悪くされる気もして、逆らえない。とても複雑な気持ちだ。
「そういえば君の名前はなんて言うのにゃ?」
「あ、もう『にゃ』要らない」
「強要時間短過ぎだよ!」
「えー……」
「おい今なんで引いた」
「ネコー、口調崩れてるよ」
「ピトー!!」
ピトーはふしゃー! と怒りながら叫んだ。珱嗄はそんなピトーに対して、楽しそうに笑うばかり。ピトーはそんな珱嗄の屈託のない笑みに、毒気を抜かれつつ、頬を膨らませた。
なんだか警戒しているのが馬鹿みたいに思えてくる。珱嗄は本当にピトーを友人みたいに扱ってくるし、キメラアントと人間という種族の壁すら簡単に破壊してくる。乗り越えるのではない、最早通り抜けてくる感じだ。そして、こちらが作った壁を壊して入って来る。
多分、ピトーはまだよく分からないが、これが嫌いになれない人、というのだろう。
「ま、いいや。そういえば俺の名前を言ってなかったな」
「むぅ……」
「俺の名前は泉ヶ仙珱嗄、珱嗄と呼んでくれ」
「オウカ、ね……ところでオウカはなんで此処に来たのかな?」
「なんか嫌な予感がしたから」
「嫌な予感?」
「まぁなんかあんのかなーと調査に来た訳。連れがいたんだけど、そいつは別の方向からあの塔を目指してる」
「!?」
珱嗄の言うことが本当ならば、ここでピトーが寛いでいる暇などない。そっちの方を止めなければならない。女王が危ないのだ。
「そう焦んなよネコー」
「ピトー」
「とりあえず、連れの方は近くの街の宿を取る様にさっき連絡しといたから女王さんには近づいてないだろ」
「な……いつそんな事を?」
「アイツの能力でね、俺と感覚を共有してたんだよ。だからお前の容姿や俺らの会話も聞いてたはずだ。だから危険はないと判断して宿を取りに行ったはずだ。事前にそう言っておいたからね」
クロゼの念能力、『
ある意味、お互いの状況確認をするのにうってつけの能力と言える。
「ならいいけど……」
「さて、と」
珱嗄はピトーの不服そうな表情を見て、立ち上がる。ピトーは少し警戒するが、帰るのかという希望も抱いた。
「行くぞ、猫」
「せめてネコーで留めておいてよ! それとピトーだって言ってるじゃないか! それで何処に!?」
「女王さんの所」
「は!?」
「大丈夫大丈夫、何もしないから。ただ挨拶にね、うちのペットがお世話になってますって」
「そのペットってボクのことじゃないよね? ねぇ違うよね?」
「………さ、行こうか」
「その間は何!? 待ってよ! 女王の下へは行かないって約束だったよね!」
「……そんな約束しましたっけかね!!」
「この鬼畜!」
ネコー、もといピトーは珱嗄に引き摺られる様にして女王の下へと帰還する。やはり、珱嗄を止めるのは無理だった様だ。