◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
さて、それから更に二ヵ月の時が経った。クロゼはこの時間で指定ポケットカードではなく、呪文カードを集めていた。元々、クロゼはこのゲームをクリアするつもりではなかった。珱嗄が修行に入る、ということで、暇潰しの出来るものを探した結果、このゲームに参加する事を決めたのだ。
故に、そろそろゲームを終わろうと考えた。そこで入手しようとしたカードが、現実世界へと戻る効果を持つカード、『
そして、それを協力者である12人の念能力者達に配り、ゲームを終了することにした。
「それに、ゴン達に渡した全部の指定ポケットカードがあるんだ。直ぐにクリアされるだろうさ」
クロゼは、そう考えたのだ。
そして、現在。クロゼはそのカードの効果で現実世界へと戻って来ていた。そして、同じく戻ってきたボッチは、現実世界の久々の空気に触れ、感激しながらクロゼに礼を言った。
「ありがとう……本当にありがとう……!」
クロゼはそんなボッチに対してひらひらと手を振って、珱嗄の下へと歩き去る。時間は既に約6ヵ月が経っている。つまり、半年だ。半年もの間、珱嗄は修行。クロゼはゲームを楽しんでいたのだ。しかも、ある意味クロゼはゲーム内でカードを対価とした勝負を何度も行って来ている。ある種、修行にもなっていた。
つまり、この半年はクロゼにとっても珱嗄にとっても、実力向上の期間として有意義なものだった。
「あいつはどうしてんのかなー」
のんきにそんな事を言いながら、街を歩く。泊まっていた宿が見えてくると、心なしか少しだけ安堵する自分が居て、やはり帰る場所というのは安心出来るものなのだろう。
だが、何故か宿に近づいていくごとに降りかかる圧力がある。とはいっても気のせいといっても良い位の微かなモノだ。しかし、クロゼには気のせいとは思えなかった。
「なんだ……これは……?」
宿に入り、自分達が取った部屋を目指す。この時点で、圧力は最早気のせいなんてレベルでは無くなっている。身体を押し潰す様な圧力では無く、心臓を鷲掴みにされているような、次の瞬間には死んでしまうのではないかと思う様な圧力。
部屋の前まで来て、扉に手を掛ける。そして、ドアを開けた。瞬間、
ぞわっ……
背筋に氷を入れられたかのような緊張感で身体が硬直した。次に感じたのは、皮膚が焼かれているのではないかと思う位のオーラの波動。うねりを上げる灼熱のオーラが、開いた扉から熱された空気を勢いよく吐き出す。その熱風がクロゼの身体を通り抜け、汗や眼の水分が乾いていくのを感じた。
そして、その原因を探ろうと部屋の中を見ようとした、その時。
先程まであった気配が、消えた。
「!?」
クロゼは部屋の中を見て、何もない、誰もいない事実に、目を丸くして驚愕する。
「――――ん?」
だが、それは錯覚だ。本当は部屋の中心に、珱嗄は居た。オーラを普段通りに戻し、瞳を開く。そして、開いた入口に佇むクロゼに気が付いた。視線を向けられたクロゼは、どことなく珱嗄に恐怖を抱いた。自分がゲームをしている間に付いてしまった圧倒的な格の違いを理解した。それと同時、珱嗄が自分の発である『不知火』を、完成させている事も強制的に分からされた。
故に、珱嗄の視線に一歩、足を下げた。しかし、
「ああ、ようクロゼ。ゲームはどうだった?」
珱嗄は以前と同様の柔らかい雰囲気と、ゆらりとした笑みを浮かべてそう言う。クロゼはそんな珱嗄に、きょとんとした。そして、引き攣った笑みを浮かべながら、部屋に下げた足を入れた。
「ああ………楽しかったぜ、満足だよ」
「それは良かった。俺も大分強くなれたんじゃないかなと思うよ」
珱嗄はそう言う。そこまでいって、クロゼは珱嗄は珱嗄だと思った。どれだけ強くなろうが、それを扱う珱嗄はどこまでいっても変わらない。ならば、どこまでいっても自分は珱嗄の友人だ。
「さぁて、それじゃどうする? アレから半年も経ってずいぶんと世情にも疎くなっちったし……年もいつの間にか明けてるし、もう3月だぜ? 3ヵ月遅れの新年挨拶でもする?」
「明けましておめでとう」
「おめでとー………はい、それじゃあ次のこと考えようか」
「無駄なやり取りだったなオイ」
「ああ、そうだ。ババアには会った?」
「そうだよ、お前嘘吐いたろ! あの子の名前ババアじゃなくてビスケらしいんだけど!」
「そうだよ」
「さらっと認めんなぁあああ!!」
久々のこんなやり取り。クロゼは内心で、やはり楽しいなと、そう思った。
―――そして、この時はまだ気付かない。自分の命が脅かされる事態が、直ぐ近くまで迫ってきている事に。