◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
それから、クロゼはしばらくゴンとキルアの修行をビスケと一緒に眺めていた。というのも、山賊の村まで行くのには少し掛かる。休憩がてら見物としたのだ。
そして、隣にはビスケが居り、雑談を交えて、少しばかり関係も良好な物になっていた。主に、珱嗄への愚痴りあいだったが。
「それで、アンタは此処に何しに来ただわさ?」
「んー……まぁいいか、『ブループラネット』って奴を手に入れるつもりなんだ」
「え!?」
「どうした」
「それは私も狙っているモノだわさ! ち、ちなみに入手条件は分かってるの?」
ビスケが食いついてきた。どうやら、ビスケも同様に『ブループラネット』を狙っているようだ。まぁ、クロゼとは違って本当の意味で欲しいようだが。
クロゼは、『ブループラネット』の入手方法をビスケに教えた。そして、条件達成に必要なカードが、残り一枚であることも教えた。
「………そう、ってことはアンタは『奇運アレキサンドライト』があれば『ブループラネット』を入手出来るってだわさ?」
「そういう事になるな」
「……なら、私の持ってる『奇運アレキサンドライト』を預けるだわさ」
「持ってるのか!?」
「ええ」
ビスケは、ブックと唱えて本を実体化させ、その中からまさしくクロゼの目的である所の、指定ポケットカードにして最後の宝石系カード、『奇運アレキサンドライト』を取り出して、クロゼに差し出した。クロゼはそれを受け取り、少し考えた。
クロゼは聞き逃さない。このカードを、ビスケは『あげる』ではなく、『預ける』と言ったのだ。それはつまり、対価として何かを返せという事になる。そして、彼女の目的はクロゼと同じ、『ブループラネット』だ。必然的に、その対価として求めたいのは入手した後の『ブループラネット』だろう。といっても、たった一枚の条件カードを譲渡したからと言って、わざわざ入手した、それこそ入手難度もSと高く、カード化限度枚数も僅かしかない極上のレアカードをくれてやるのは、対価として合わない。
「だから、チャンスを頂戴」
そんなことはビスケも分かっている。だが、その極上のカードを入手出来た要素として協力している以上、2割程度の所有権はある筈なのだ。だから、ビスケはただで貰うつもりは毛頭ない。
条件を加える。もしも、この『奇運アレキサンドライト』を譲渡して、『ブループラネット』を手に入れることが出来たなら、その『ブループラネット』の所有権を賭けて勝負しろ、という事なのだ。
「成程な……」
「良いだわさ?」
「拒否する」
「なんでよ!?」
だが、クロゼは拒否した。正直言えば、ここで『奇運アレキサンドライト』を譲渡して貰えば、これ以上なく楽に条件を達成出来るだろう。だが、それでもだ。クロゼは元々、山賊の村へと辿り着けば、なんの障害も無く『奇運アレキサンドライト』を入手する事が出来る。この取引は、応じなくても構わないのだ。
「俺はな、お前の助けなんか必要無いんだよ。オウカ風に言うのなら、『引っ込んでろこのクソババア(笑)』」
「うん分かった、つまりお前も殺されたいんだな?」
「俺を殺したらきっとオウカ怒るぜ?」
「う……」
「………………………多分」
「うん、ゴメン。私もアンタを殺した後アイツがキレるイメージが付かなかっただわさ……」
「寧ろ、高々と笑いそうで………」
クロゼがビスケに殺された場合の珱嗄の動向をイメージして、クロゼは少し落ち込んだ。弟子であり、友人であるクロゼが死んでも悲しむイメージが付かないというのは、単に珱嗄の人柄が問題なのだろう。あそこまで鬼畜だと、例え自分が死んでも悲しまなさそうだ。
「……ま、まぁ殺されるのは困る」
「うん、まぁ私も本当にやろうとは思って無いだわさ」
「さて……俺はそろそろ行くわ」
「あ、うん。まただわさ」
クロゼは『同行』のカードを使ってとある街へと飛んで行ったのだった。
「……ふぅ、全く。オウカと同じでとんでもない奴だっただわさ……あれ?」
そして、ビスケは気付く、クロゼに手渡した『奇運アレキサンドライト』が無い事に。何処へ行ったのか、そんなの簡単に分かる。クロゼに渡したままなのだから、クロゼが持っているのだ。だが、彼は既にこの場にはいない。そしてビスケにはそれを追う手段が無い。
「あ、あんにゃろおおおおおお!!!!!」
ビスケの雄叫びに、再度ゴンとキルアの肩が震えた。
◇ ◇ ◇
「っと……」
さて、クロゼはそんなビスケを尻目に、にやりと口端を歪める。その手にはビスケの『奇運アレキサンドライト』があった。ブックと本を実体化してそれを収めた。
恐るべき手腕というか、実にさりげなくカードを盗んで見せた。
「これで、条件は達成か……あとは『ブループラネット』を手に入れて……それをダシにカツアゲするだけだ」
クロゼは気が付いていないが、かなり珱嗄の影響を受けている。以前のクロゼなら、こういった卑怯な手段は取らなかっただろう。なのに、今ではこうやってさらっとやってのけてしまっている。これは、珱嗄と一緒に過ごしてきたから、やって良い事の範囲が大きく広がったのだろう。
「さて、それじゃあ行くとしますか」
クロゼは飛んできた街の、ブループラネットを持った女性のいるホテルへと、足を向けたのだった。