◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
「ふむふむ、なるほど……」
「これで俺が知ってるナンバー付きカードの詳細は全部だ」
クロゼに声を掛けて来た男の名前は、トルコロール=ヒビコポッチ=デマグリアン=サチコルーボッチーノ。通称、ボッチである。
クロゼは彼からほぼ全てのナンバー付きカードの情報を聞くことが出来ていた。どうやら、彼に付いて行ったのは正解だった様だ。最初のカツアゲでレアカードを手に入れられたこともあって、クロゼは運が良い様だ。
「となると……俺が手に入れるカードとしてピックアップするなら……これとこれかな?」
クロゼが選んだのは、入手難易度SSクラスの『ブループラネット』と同じくSSクラスの『一坪の密林』だ。前者はカード化限度枚数が5、後者は3だ。
「そりゃまた随分と難しいのを狙ったな……」
「カード化限度枚数が少ないほど良いんだよ」
「……ま、このゲームをクリアしてくれれば俺はどうでもいいんだが」
「お前はクリアしねぇのか?」
クロゼはとりあえずの目標を決めたので、ボッチの目的を聞く事にした。元々クリアが目的だったはずなのに、今ではクロゼにクリアして貰いたい様な想いすらある。
「ああ……本来なら俺もクリアしてぇ所なんだがよ……いかんせん俺には実力がない。でも、俺は現実世界に戻りたいんだよ……だから、情報を掻き集めて、実力のある奴にこのゲームをクリアして貰おうと思ったんだ。もう報酬なんていらねぇから……現実に帰りてぇんだ……!」
「あ、ゴメン聞いて無かった」
「ぶち壊しだぜ!!」
クロゼは立ち上がり、肩を回しながらコキッと首を鳴らした。
「ま、とりあえず俺は俺のやり方でクリアを目指すさ。なんなら現実世界に戻るカードが手に入ったらくれてやるよ」
「!」
「お前の知ってる情報、全部出しな」
「お、おう!」
クロゼはなんだかんだいって、優しかったのだった。
◇ ◇ ◇
「さて……」
その後、クロゼはとりあえずカード化限度枚数が多い方、ブループラネットを手に入れる為に動き始めた。このカードの入手方法は、『これ以外の宝石を集めて、ゴージャスホテルにいる女性に話し掛ける』だ。これはなんというかおかしな話である。ボッチの情報によれば、このブループラネットは他の宝石の追随を許さない程のレアな宝石だ。なにせ、唯一無二の青く輝く宝石な上、宇宙からの贈り物ともされているのだから。
なのに、他の宝石をじゃらじゃら持っていけばくれるというのだ。その女、頭おかしいんじゃないだろうか?
「とりあえず……最初のカツアゲで手に入れたカードの中に、宝石系のカードは数枚あったな」
クロゼが持っているのは、『さまようルビー』『孤独なサファイヤ』『闇のヒスイ』『美を呼ぶエメラルド』の四つだ。どれも宝石系のカードの入手難度で言えば、低い方のカードだ。
「そうなのか?」
「ああ、まぁ入手難易度は低い方だけどな」
「そうか……あ、そうだ」
「どうしたボッチ」
「ほら、これ。やるよ!」
「これは……『浮遊石』!? なんでお前がこれを……?」
「俺はずっと前からこのゲームをやってた……去年の6,7月だったか、山賊の村でラピュタのイベントがあったんだ。それで、手に入れられた」
クロゼは入手難易度Sの『浮遊石』を手に入れた。カードポケットに収め、本を消す。これで残る宝石は『レインボーダイヤ』『賢者のアクアマリン』『奇運アレキサンドライト』の三つだ。
それぞれ、入手方法は、
『レインボーダイヤ』
→ドリアスという街のスロットの景品。
『賢者のアクアマリン』
→『マッド博士の整形マシーン』を持ってマッド博士という人物に話し掛ける。
『奇運アレキサンドライト』
→山賊の村で有り金をあげた後、聖騎士の首飾りをもって再度山賊に会う。
だ。さて、クロゼはまずボッチに協力して貰って、賢者のアクアマリンを手に入れて貰う事にした。これは、比較的簡単な入手経路だ。マッド博士の家に置いてある『マッド博士の整形マシーン』が入った宝箱を探して貰い、それをマッド博士の所まで持っていって貰うのだ。
とはいえ、それをするには恐らく、かなりの罠が待ち受けているだろう。入手難易度Aは伊達ではないのだから。
「だから、お前だけで行かせる訳じゃない」
「……どういうことだ?」
「ここで俺の『発』を使う」
「お前の『発』? どういうことだよ」
クロゼの発、それは操作系の極みとも言っていい技だ。クロゼは自分のオーラを日常的に溜めている。これはクロゼの発に必要な事なのだ。
そして、クロゼは既に念を習得し、発の話を聞いてから約半年の間、オーラを溜め続けているのだ。故に、クロゼは大体クロゼ30人分のオーラを溜められている。これは、クロゼの異常なオーラコントロール力あってのモノだ。少しでもコントロールを乱せば直ぐにでも溜めたオーラは行き場を失い、霧散していってしまうのだから。
「ああ、俺の発―――『
クロゼはそう言うと、ボッチに触れ、自分のオーラを流し込んだ。
「お、おお!?」
ボッチは流れ込んできたオーラが自分の身体の隅々まで染みわたるのが分かる。だが、反面オーラによる強化がされた様子もなかった。これはどういう発なのだろうか?
「俺は操作系の能力者だ。だから、他のモノを操るのが得意なんだ……んで、俺が元々持ってた技術である衝撃透しを媒介に、俺のオーラを他人に流し込む事で相手を操作する能力を作ったんだ」
「へぇ……あれ? でも俺操られて無いが……」
「ああ、これはただの操作とは違うんだよ。これは、相手を強制的に操る事も出来るが、その真価は操る対象に意識があるまま操ることが出来る、ということだ。しかも、身体の隅々までオーラを透したことで感覚を共有する事も出来るんだ」
「感覚を?」
「ああ、ちょっと後ろ向いて俺に見えない様に何本か指立ててみ?」
クロゼの言葉に、ボッチは後ろを向いて三本指を立てた。勿論クロゼに見えない様にだ。すると、後ろからクロゼが声を掛ける。
「三本」
「!?」
「お前の視界を共有したんだ。ま、こういうことだ」
「ってことは……それってつまり」
「そう、俺はお前の身体で戦う事も出来る、ということだ。そして、俺単体のオーラとお前のオーラも相まって、普段の俺同様の戦闘が可能なんだ。だから、戦闘になったら俺が代わって戦ってやるよ」
クロゼの能力は、操作の先。他人を他人のまま自分の物にするのだ。だから、ボッチが自分の意思を持ったまま操作する事が出来るし、いざとなればクロゼがその身体を乗っ取る事も出来る。しかも、相手に意識がある故に幾ら離れても能力が解除されることはない。オーラを管理させることが出来るのだから。
「……なんというか……恐ろしい能力に掛かったんだな俺……」
「まぁアレだ。ちゃんと目当てのカードを手に入れたら解除するから」
「ならいいんだけどよ……」
ボッチは若干不安になると同時に、クロゼがとんでもない奴だという事に希望を感じていた。これなら、自分は元の世界に帰れるかもしれないと。
「じゃ、行こうか。アクアマリンの方、よろしく頼むぜ?」
「分かってるよ」
ボッチとクロゼは、そうして動きだした。