◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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クロゼ×スタート

 さて、珱嗄が修行している中、クロゼはグリードアイランドをプレイする訳だが、まずクロゼはゲームに入って感じた視線に注目した。ゲームのスタート地点は、先にこのゲームをプレイしていたプレイヤー達に見張られている。新人の顔を覚えて、有望そうならば初期の段階で手に入れたカードを横どり出来るからだ。ルールをまだ良く理解していない新人が持つレアカード程、良いカモはない。

 だから、クロゼ達新規加入プレイヤー達は、視線を感じる方へ行くか感じない方へ行くかの二択で行動を取っていた。

 

 だが、クロゼはそのどちらの選択肢も取らなかった。クロゼの取った行動は、視線を送ってきているプレイヤーを探しだして、叩きのめすことだった。

 

「ふぅ……これで最後かな?」

 

 クロゼの立つ足元には、視線を送って来ていたプレイヤーが転がっている。彼らはゲームを始めて、実力不足でゲームから出られなくなった者達だ。故に、クロゼとは実戦経験を差し引いても圧倒的な実力差があった。

 

「えーと……まぁまぁの出だしかね?」

 

 クロゼは倒した者達から根こそぎカードを奪っていた。所謂、カツアゲである。この世界ではカードを手に入れる方法が大きく分ければ2つある。

 カードを正規の入手条件をクリアする事で入手する方法とカードを持っているプレイヤーから譲渡、もしくは強奪する方法だ。クロゼの取ったのは言うまでも無く後者である。

 

「なるほど、レアカードも持ってた様だし……ナンバー付きのポケットにもカードが入れられたってことは、運が良いな、俺」

 

 クロゼはブックと唱えて本を消す。カードや本の使い方はプレイヤーを倒していった中で覚えた。まぁ視線を送って来ていたプレイヤーは多くいたからカードの効果は全て他の奴に押し付けたが。

 

「さて……それじゃあカード探しに行こうか」

 

 クロゼはそう呟いて歩きだす。どうやら奪ったカードの中にあった『地図』によると、近くに大きな街があるようだった。故に、そこを目指す。とりあえずは情報収集と有益なカードの収集が必須になって来るだろう。

 

「珱嗄だったらなんて言うのかねぇ……ま、どうせゆらゆら笑って自由に行動するんだろうけどさ」

 

 クロゼはそう言いながら、にやりと笑わなかった。笑っているけれど、雰囲気は笑っていなかった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 クロゼがしばらく歩いた先には、大きな街があった。プレイヤーの他にも事前に容易されたNPC的キャラクターもいるし、ずっと前から参加していたプレイヤーらしき人物もちらほらと見かけた。

 但し、そういった人々の表情は、どこか浮かないものがあった。憂いがあるというべきだろうか。

 

「さて、と……このゲームのクリア方法はカードを全て揃えること、その手段は問わない訳だ。となると……交渉手段を手に入れるのが一番か……」

 

 クロゼの頭には、カードを手に入れる手段として『他人から奪う』というのがあった。というか、それを実行するつもりであった。

 その為に、クロゼはまずその奪う相手との交渉を行なう為の交渉手段を手に入れる事にした。まぁ挙げてみれば、レアカードだ。

 

 レアカードをちらつかせ、勝負に持ち込み、勝利して、カードを奪う。これがクロゼの思い付いたカード強奪のプロセスである。

 このゲームにはその場から遠距離にある街や人の下へと瞬時に移動出来るカードがある。勝負に持ち込む前にそれを使われては元も子もない。だから、『もしかしたらレアカードが手に入るかもしれない』という考えを持たせることで、逃げる可能性を減らすのだ。しかも、クロゼはオーラの量が少ない上に、念自体習得したのはごく最近の話だ。それも相まって、クロゼの実力を格下と舐めてくれればこっちのものである。

 

 このゲームのプレイヤーはまだゲームをクリア出来ていないことと、現実へ戻るカードを手に入れる実力が無いから、戻りたくても現実へ戻れない。だからこそ、この世界においてゲームクリアの鍵である『レアカード』の価値は、現実のどんな金額よりも上になってくる。

 そして、このゲームのカードにはそれぞれ『カード化限度枚数』というシステムがある。カードは元々物体であった物で、例えば条件をクリアして名剣を手に入れたり、遭遇した動物を倒したりして初めてカードになるのだ。いわば、現実物のカード化だ。

 このカード化には各々にカード化出来る回数が決まっている。その回数が『カード化限度枚数』。例えば、『カード化限度枚数』が『3』のカードを3人のプレイヤーがそれぞれカード化し、保有している状態で、4人目のプレイヤーがそのカードの現実物を手に入れても、既に『カード化限度枚数』を満たしてしまっている故、それはカード化する事が出来ないという事だ。

 だから、クロゼのカード入手手段に使うレアカードは『カード化限度枚数』が少ない程効果を増す。何せ、難しい条件をクリアしなくても、比較的弱そうなクロゼを倒すだけでレアカードが手に入れられるのだから。

 

「まずはナンバー付きのカードの情報を集めようかな……」

「おい、アンタ」

「あ?」

「アンタ、今日参加した新人だろ?」

「……そうだけど、お前は?」

「俺はずっと前からこのゲームをプレイしてる……今アンタが情報を集めようかと呟いてたから声を掛けたんだ。ナンバー付きのカードの情報が欲しいんだろ? 俺で良ければ教えるぜ?」

「へぇ……」

 

 クロゼは正直に思った。怪しい、と。だが、ここでこの男を逃せば情報の手がかりが無いのも事実だ。さてどうしたものか。

 

「……ま、考えるまでもないか……」

 

 クロゼは少し迷ったが、自分に念を教えてくれたあの師匠ならどう行動するかを考えれば、迷うまでもなかった。面白そうならば、危険など顧みないのがあの男のやり方だ。

 

「よし、行こう。教えてくれよ、その情報」

「お、おお! 意外だな、自分でも怪しい誘いと思ってたんだが……」

「お前の常識を少しでもあの馬鹿師匠が持っていれば俺もこうはならなかっただろうけどな」

 

 クロゼは苦笑する。そう言ってはいるものの、嫌いになれないのは、珱嗄の魅力と言えるだろう。その理由として挙げるのなら、珱嗄は何処までも自分に自由に生きているのだ。その生き方は、時に人に羨望の眼差しを向けられる。珱嗄の様に自由に生きている人間は、実はかなり少ないだろう。自由に生きるにはこの世界は殺伐としているし、自由に生きるには大切なものが多過ぎるからだ。だからこそ、クロゼもそんな珱嗄に惹かれたのだろう。

 

「ま、とりあえずはお前の怪しい誘いに乗ってやるよ。その方が、面白い―――受け売りだけどな」

「………ははは、そりゃ良い……その受け売りの台詞を言った本人に会ってみたくなったぜ。良いだろう、付いてきな……俺の知ってること、教えてやるよ」

 

 クロゼの台詞を聞いたその男は、気が抜けた様に破顔した。

 

 


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