◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
その後、珱嗄は『不知火』をただただ速く打てるように、ひたすら打ち続けた。
―――まず、オーラを刀に移し
―――次に瞬時に『絶』で刀と自身を隠し
―――そして相手の気付かれない内に斬り抜ける
これが珱嗄の発、不知火の『一閃』だ。そしてこれを、『弐桜』へと続ける為に、切り抜けた後に再度これを行なう。
―――斬り抜けた直後に刀の強化を行ない
―――完了と同時に相手に二撃目を叩き込む
これが二撃目。これを行なうに当たって珱嗄の肉体が付いていけていないのが現状だ。故に、珱嗄はその技を行なう為の脚力、腕力、オーラ操作を鍛える。故にビスケに教えて貰った『一万回正拳』不知火に変えて打つのだ。
まずはゆっくり不知火を放ち、連撃を行なう。おそらく、この速度ならギリギリ十連撃が出来る速度だ。ただこの速度では素人でも珱嗄の動きを目視出来る。ただし、これは相手に気付かれない様に十連撃を当て終えるのが最終的な完成度だ。故に、これでは駄目だ。
次に、速度を上げて素人には目視出来ない速度で行なってみる。すると、今度は十連撃には届かず、精々五連撃程しか出来なかった。
そして、全速力でやってみると、やはり二連撃が関の山だ。
「んー……やっぱりまだ無理か」
珱嗄は刀をトントンと肩に担いでそう言う。とはいえまだ始めてまだ初日だ、これから進歩していけばいい。
そう思ってもう一度行なう。ゆっくりと動きながら十連撃を成功させ、少しづつ速度を上げて行けばいい。
「フッッ!!」
オーラがうねり、消え、空気が切り裂かれる音が響く。誰もいない荒野で風の音と共に響く空気を切る音が、何度も何度も響いては消えて行く。
「ぅぐあ!?」
途中で足が縺れて転んでしまった。勢いを失った刀は歪んだ軌跡を描きながら地面に突き刺さる。
「っと……やっぱ上手くいかねーなぁ……」
珱嗄は呟きながら服の土を叩いて落とす。そして刺さった陽桜を抜いて、肩に担いだ。
「さて……と……帰るか」
空は既に真っ暗になっていた。荒野を照らしていたのはオーラの燃える様な輝きと、陽桜の紅い輝きだけだ。ビスケも随分と前に帰ってしまっている。クロゼも待っているだろう。そろそろ帰らなければ。
「当面は『弐桜』までを簡単にやれるようにすることかな~……」
珱嗄はそう呟きながら、着物を翻して宿へと戻って行った。
◇ ◇ ◇
さて、それから日が経ち、珱嗄は相も変わらず修行に励んでいる。
修行法を教えたビスケや、お金を集めて『グリードアイランド』を手に入れようとしていたゴンやキルア達は、オークションの結果全てのグリードアイランドを手に入れた、バッテラという豪商が行なった念能力者プレイヤー募集に赴き、無事に試験に合格。グリードアイランドをプレイしていた。
そして、その合格者の中には―――――
「おーおー……随分と面白そうなゲームじゃねぇか」
―――クロゼが参加していた。
珱嗄が修行に入る事は修行初日の後、クロゼには伝わっていた。故に、クロゼはその修行が終わるまで暇潰しを探したのだ。というか、珱嗄がビスケに会った日、クロゼもまた見つけていたのだ。
グリードアイランドのプレイヤーをバッテラが探していた事に。
だから参加した。クロゼは試験で自身の作った『発』を使って、見事に合格してみせたのだ。
「ふむ……『ブック』」
ここはグリードアイランドのゲームの中。クロゼはこのゲームに置いて重要な呪文を唱えた。すると、クロゼの手の中に大きな本がぽんっと現れる。中は100枚のカードを入れるナンバーの付いたポケットと、40枚のフリーポケットがあった。
これは、このグリードアイランドをクリアするために必要なアイテムだ。この世界にはあらゆるモンスターやアイテム等のカードが存在し、0から99までのナンバーが付いたレアカードを指定の番号が書かれたポケットに入れることで、ゲームをクリアした事になるのだ。
「さて……それじゃあまずはこのうざったい視線をどうにかするとしよう」
クロゼはそう言って、珱嗄を真似する様に、口端を吊り上げる。しかし珱嗄とは違い、表情はそっくりなのに、雰囲気は全く違う。クロゼはあたかも笑っているかのように、にやりと笑わなかった。