◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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不知火×弐桜

「で、私は何をすればいいだわさ?」

「まぁ実戦形式で俺と戦ってくれればそれでいい。何せ俺は実戦経験を積んでまだ半年位しか経ってないからな。経験量で上の奴ら相手にも戦える技を磨かないとな」

「へぇ……確かに、貴方の身体能力を見ればこれ以上ない位の素材ってことは分かる……でも、付け焼刃の技で私が倒されるとでも思ってるの?」

「倒すさ、その為の技だ」

 

 珱嗄とビスケはあの後、しばらく歩いてウボォーとクラピカが勝負していた荒野へとやって来ていた。ここならば誰も迷惑掛けないし、技の特訓的にも試合的にもぴったりだ。

 

「じゃあまぁやろうか」

「分かっただわさ……それじゃ……ッ!!」

 

 ビスケがオーラを開放し、その容姿が変わる。少女の姿は一変、体格が2m程で筋骨隆々の人物へと変わった。男と見間違えるほどの迫力と肉体。だがその節々に女性の要素が垣間見えることから、なんとか女性であることが分かった。

 オーラも先程とは違って猛り狂う程に溢れており、その実力はトップクラスだと理解出来る。伊達に50年もの間生きて来たわけではない、ということだろう。しかも、彼女はこの真の姿を見せた場合、相手を大抵瞬殺してしまうらしく、思い出として一撃打たせてやるのがビスケのやり方らしい。

 

「泉ヶ仙珱嗄だ、よろしくクソババア」

「ビスケット=クルーガー、掛かってきな若僧」

 

 珱嗄が肩に掛けていた陽桜をふっと下に降ろす。そして、肩幅に足を開いて発を発動させる為にオーラを開放した。

 

「いいね……ビリビリくるよ!」

 

 ビスケはそのオーラに自分以上の殺意と圧力を感じた。肌をビリビリと振るわせ、まるで焼け付くような熱さを持っていた。一瞬でも気を抜けば、すぐにでも刃が自分の肉に届いてくるだろう。故に、ビスケは自身の身体をオーラで強化、防御力だけでなく攻撃力も強化し、珱嗄の一挙手一投足を見逃さない。

 久々に一撃で死なない、自身が負けるかもしれない相手。ビスケもそんな珱嗄を見て、身体の内側から湧き出る者があった。

 

「久しぶりに猛って来ただわさ……!!」

 

 最近ではあまり抱かなくなって来ていた、戦士として当然の――――闘志。

 

「―――行くぞババア」

「本当に生意気な……ッ!」

 

 珱嗄のオーラがうねり、煌々と輝きながら燃えるようにその場に溢れた。この辺一帯が火の海に包まれたかのようにオーラが広がり、一点に収束されていく。大きな熱風が身体を叩いた。ビスケはその熱に眼を開けられない程だ。片腕を眼の前に置いてどうにか視界を確保する。

 そして、珱嗄がじり、と足を一歩、前に出した瞬間、

 

 

「!?」

 

 

 ビスケは珱嗄を見失った。急いで珱嗄を探す。前、横、後ろ、上、いない。そしてまた前に視線を移した時、珱嗄の刃がビスケの懐まで迫っていた。紅い輝きが軌跡を描き、例えるなら紅い閃光。

 

 

不知火(シラヌイ)――――『一閃』」

「う、ぐ、あ……! ァァァァアアアアア!!!」

 

 だが、ビスケは自身の身体を捻り、その刃の動きに合わせて自身の身体を引く。そして刃の軌跡から強引に身体をずらす、ミシミシと身体の骨が軋み、紅い一閃はビスケの脇腹を微かに切り裂いた。そして、切り抜けた刃はビスケの背後まで抜けて、それを操る珱嗄は地面をガリガリと削って停止した。

 

「―――驚いたな……まさかこれを躱せるなんて」

「膨大なオーラの気配を感じさせ、その状態に慣らした瞬間の絶………これじゃ見失うのは必至……か」

「その通り」

 

 珱嗄は技の仕組みを見抜いたビスケに、ゆらりと笑う。

 

(もう少し近くからやられてたら間違いなく斬られてた………それに、この脇腹の傷……出血が全くない……凄まじい切れ味だわさ……!)

 

 ビスケは軽く斬られた自身の脇腹をちらりと見る。そこからは一切の出血がなく、本当に綺麗に斬られている。これは陽桜の切れ味が本当に凄まじいものだという事を証明していた。痛みもない所を見ると、神経までもが完全に断ち切られている。

 

(確かに初見の相手ならそれこそ上位の実力者でも確実に殺せる発だわさ……しかし、弱点はある!)

 

 ビスケは傷から眼を逸らし、珱嗄を見る。珱嗄は瞳を閉じて大きく息を吸って、吐いていた。

 

(………?)

「いやはや参った……この技もまだ、未完成って訳だ――――でも」

「でも?」

「お前が相手なら、どうにかやれそうだ」

 

 珱嗄は下段に下ろしていた陽桜を今度は水平に持ち上げた。そして、大きく足を開いて腰を落とす。そして、今度は本当に『すぐ』だった。いつの間にか先程同様の灼熱のオーラの奔流が辺りに広がっていた。

 

「―――なっ!?」

「お前が相手なら………『閃光』から『桜』へ移っても大丈夫そうだ」

「どういう………ッ!?」

「閃光の向こう側、良く見とけ………不知火(シラヌイ)―――」

 

 音が消えた。ビスケの視界から、珱嗄が消えた。これは、先程と同じ不知火。だが、一度見た技ならば、躱せる。ビスケは目の前に集中し、凝を行なう。

 

(―――見えた!)

 

 珱嗄の刃を捉えた。今度は完全に躱した。そこから後ろへ抜けた珱嗄にその無骨な拳を叩きつけようとして、気付いた。

 

 

「――――『弐桜(にざくら)』」

 

 

 背後から、首を断つように二撃目が迫っていた。今度は、躱せない。

 

「ぐッ!?」

「………っはぁ……はぁ……!」

 

 寸止め。珱嗄の刀はビスケの首ギリギリで止まっていた。決定的な敗北だ。

 

「っふぅ……」

「……アンタ、今のは?」

「最初にやった一撃を連続で叩き込んだだけだ………ま、抜けた瞬間二撃目の為に動かなきゃいけねーから結構しんどい……はぁ……はぁ……こりゃ三撃目はキツイか……!」

 

 見れば珱嗄は顔を汗で濡らしており、息も荒くなっていた。おそらく、珱嗄の動こうとした動作に対して、肉体が付いて来ていない。珱嗄の考えている技は、珱嗄の身体能力を凌駕する動きだという訳だ。

 一撃目ですら精密なオーラコントロールを行ない、一瞬で相手に迫る必要があるのに、その一撃の後、二撃目の為に振り返って踏み込む脚力、刀を返して斬りつけるバランス調整、そして高速で動いている故にぶれる視界の中で相手に直撃させる動体視力と、分散したオーラを次の攻撃までに再強化する素早いオーラ操作、やることが多過ぎて一瞬で行なうにはかなり無理がある。

 珱嗄の特典である『人間の習得し得る全ての技術』と『神様製の強靭な肉体』を持ってしても、まだまだ成長途中の珱嗄では二撃行なうのが関の山だった。

 

 今回はビスケに通用したものの、これ以上の相手、ネテロやゼノ、果てはその上にいる様な相手には通用するかは分からない。少なくとも、この段階では『弐桜』は技足り得ていない。

 

「……なるほどね……『不知火』だったわね? ……その技を連撃で繰り出せればこれほど脅威な発もないだわさ……おそらく、初太刀を躱せるのはかなりいる。でもその次の弐の太刀を躱せるのは、それこそ限られてくる筈だわさ……それに加えて、参の太刀を完成させたとすれば――――この発は無敵の発に化ける!」

 

 ビスケは確信していた。これは完成すればどんな実力者であれ対処することは出来ないだろうと。まず、初撃の段階で、確実に太刀の攻撃範囲内に入られる。初撃を躱したとして、急速で迫ってきた刀を躱すのに、バランスを整えたままに躱せる余裕はまずないだろう。そこに間髪いれずにやってくる二太刀目、身体の体勢は辛うじて整えられるとしても、防御するには切れ味が強化されすぎている。下手な防御ではそれごと切り捨てられるだろう。

 どうにかその二撃目も避けた所で、体勢は完全に崩れる。もしそこに三撃目が待っているとなれば―――

 

 ビスケはゾクッと背筋に震えが走った。ビスケ程の実力者であっても、珱嗄の発の三撃目を躱すイメージを思い浮かべられない。初撃や二撃目をどう対処しても、三撃目でやられるイメージしか浮かんでこなかった。

 

「俺は最終的にこの不知火を、十連で出来るようにしたいんだよ」

「!?」

 

 珱嗄の言葉に、ビスケは目を見開いて驚愕する。三撃目で死ぬイメージしかないというのに、十連続も行なうというのか? もしもソレが本当に可能なのだとしたら、その時、その斬撃は全てを切り裂く刃へと変わるかもしれない。

 それこそ、陽桜の前の持ち主の逸話である、『空を裂き、海を割り、大地を切り裂いた』という絵空事を、可能にしてしまうかもしれない。

 

「ま、そういう訳で……良い修行法を知らないか?」

 

 珱嗄は肩に陽桜を担ぎ、大分整った呼吸でそう聞いてくる。ビスケはそれに対して、最適な修行法を一つだけ知っていた。だが、教えて良いのか躊躇った。

 この先、この技が珱嗄の言う所まで完成した時、珱嗄は最強の地位を手に入れるかもしれない。そうなれば、その力の使いようによっては最悪な事件が引き起こるかもしれないからだ。

 

「………昔、ハンター協会会長……ネテロがやったとされる修行法……『一万回正拳』」

「なにそれ?」

「一定のルーチンワークをこなした後、正拳を繰り出す。という動作を一万回、細部まで拘りながら打っては見直し、打っては修正を繰り返して毎日毎日行なったらしいだわさ……最初はそれこそ、一発の正拳に5,6秒は掛けていたそうよ」

「ふむ……それで?」

「彼が中年位まで年老いた頃、彼の一万回の正拳突きは一時間を切ったらしい」

「……成程……それをこの不知火でやれば……」

「おそらく、連撃も可能だと思うだわさ」

 

 それでも、ビスケは見たかった。この珱嗄という最高の原石が、光輝く宝石へと変わったあとの姿を。だから教えた。その修行法を。

 

「正直、この修行法を貴方に教えても良いのか分からなかった。でも、私は貴方の完成したその技が見たくなった! だから約束だわさ、その発が完成した時……私にそれを見せて欲しい!」

 

 ビスケは、言った。その言葉に対して珱嗄は、少しきょとんとした物の、いつも通りゆらりと笑って言った。

 

「いいよ―――そういう約束も、悪くない」

 

 


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