◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
修行×パート
それから三日後。珱嗄はいつもの宿で身体の調子を確認していた。ゼノとの勝負で付けられた傷は全て完治し、傷跡も残らずに済んだ。後遺症も無く、以前と同様―――いや、精神面での問題が解決されたので、以前以上に動くことが出来るだろう。
そして、この三日間で襲撃されたオークションは大体終わった。幻影旅団も活動を潜め、既にヨークシンからは出て行ったものとされている。クラピカはオーナーの意向で今日中にヨークシンから去る予定で、ゴン達はお金を集めていた理由である、高額のゲーム『グリード・アイランド』の入手に力を込め始めた。
とはいえ、珱嗄の円による感知で旅団がまだヨークシンにいる事は確認済みである。どうやらクラピカの復讐とやらは結果的に見れば失敗したようだ。だがどうやらウボォーギンは死んだらしい。珱嗄が助けに入った直前、クラピカの能力である鎖の刃を心臓に打ち込まれていたようだ。
クラピカの鎖の刃は具現化された能力で、これを打ち込まれた者はクラピカの指示に対して反抗すると、心臓を刺されて死ぬらしい。ウボォーに課せられたのは、『クラピカの問いに対して正直に答えること』。あの後クラピカに会い、こんなやりとりがあった。
『よう、久しぶりだな鎖野郎』
『命拾いした奴か……オウカはどうした?』
『アイツなら俺に変なあだ名付けた挙句色々やって解放してくれたぜ?』
『成程……ちなみになんてあだ名だ?』
『………教える訳ねーだろ』
さて、ここでもう一度。クラピカがウボォーに課したのは『クラピカの問いに対して正直に答えること』、分かるだろうか? 『正直に答えること』だ。では上のやり取りを見返してみようか。
『なんてあだ名?』
『教えない』
正直に答えてますか? 答えてません。ということは?
『ぐはぁぁッ!!?』
『『『『ウボォオオオオオオ!?』』』』
ウボォーギンは死んでしまった。おお、なんと情けない。流石にこの時ばかりはクラピカも苦々しい表情で何とも言えなかった。辛うじて絞り出した言葉として、
『何だ……これは?』
自分が打ち込んだ、打ち込まれた事を忘れていたらしい二人は、そのせいでこんな状況を作り出してしまったのだった。
まぁ、そんな感じでウボォーギン死亡。珱嗄もそれを知った時には苦笑するしかなかった。ウホウホ言ってたあの男にはもう会えないとなると、別段寂しい気はしない。
「しねぇのかよ!?」
「そういえばクロゼ、お前ウホッと戦った時どうなったんだ?」
「一瞬、『ウホッと戦う』って何だと思ったぜ……」
「面白いなそれ。両者ウホウホ言いながら戦ってそう」
「シュールすぎて見たくもねーわ!! まぁあの時は腕相撲で勝負したんだよ」
「へぇ?」
「勝った。余裕で勝ったぜ」
普通に力技で勝負すればウボォーに分がある。地力的にもオーラ量的にもウボォーの方が勝っているのだから。
だからクロゼは念能力アリで行こうぜ、と提案。ウボォーが承諾すると、ウボォーの身体を操作、勝手に負けさせたのだ。力技ではなく、オーラの操作ならばクロゼに分がある。ウボォーが身体のコントロールを奪われ、敗北したのは、一瞬の事だった。
「卑怯だなお前」
「お前にだけは言われたくねーわ!」
クロゼのオーラコントロール能力を見たウボォーはそこで戦闘になった場合を考え、クロゼの実力を悟ったのだ。まぁ過ぎた話だ。
「さて……これからどうしようか?」
「とりあえず別行動にしないか?」
「なんで?」
「いや、やる事もないし、それぞれで何か見つけてくる方が効率良さそうだしな」
「ふーん……まぁいいか。それでいこう」
クロゼの提案で、珱嗄とクロゼは二手に分かれて行動する事にした。したい事もやりたい事もない。ならば、何かやってる事を探しに行くしかない。
「じゃ、まだあとで」
「おう」
珱嗄とクロゼは宿の前で別々に歩いて行った。
◇ ◇ ◇
さて、珱嗄はその後1時間ほど歩いていたのだが……そこで一人の少女に出会った。珱嗄が見るに、その少女も念能力者。纏の熟練度からして、かなりの実力者であることが窺えた。しかも、少女の容姿にしてはやたらの貫録染みている。彼女の名前はビスケット=クルーガー。50歳の高位念能力者だ。
切っ掛けは、街角を曲がった際にぶつかったこと。体格差からビスケが尻もちを着いてもおかしくないのだが、ビスケの体重は予想以上に重く、両者ふらつくだけで済んだ。
「悪いな、お嬢ちゃん。怪我はないか?」
「……ええ、大丈夫です~……!」
珱嗄の言葉にひくひくと口端を引き攣らせながら返すビスケ。それもその筈、50歳のビスケからすれば、20そこそこの容姿をしている珱嗄にお嬢ちゃん扱いされるのは少し癇に障るだろう。
「で、お前は何者だ?」
「!」
「その纏と容姿不相応な貫録……その容姿通りの年齢では無いんだろ?」
「良く分かったわね……その纏を見る限り、念を覚えてそんなに経ってはいなさそうなのに」
「まぁそれなりにな」
「……ふん、私はビスケット=クルーガー、50歳の念能力者だわさ」
「へー、50歳とかババアじゃん。それでそんな若づくりしてんの? でもさっきお嬢ちゃんって言われた時はかなり苛立ったようだけど、それっておかしくない? その容姿は絶対作ってるよね? なのに子供扱いされたら怒るってどうなの? それって年長者としてどうなの? 矛盾してない? してるよね? おかしいよね? しかも50歳って言ったって事はちゃんと大人の扱いをしてほしいってことだよね? 更に矛盾が深まったね? おかしいね? ねぇどうなの? そこのところどうなの?」
珱嗄は一気に責め立てた。ビスケはぐいぐい攻める珱嗄に後ずさりする。たしかに、自分で少女の容姿を取っておいて少女扱いされたら怒る、というのは些か矛盾していた。言い返す言葉もない。
「わ、わかっただわさ! 私が悪かった!」
「じゃあ認めるんだな? 自分がババアであることを」
「……ぐ……はいはい! 認めるだわさ! そんなに言わなくても良いじゃないの!!」
「わはは、このクソババア」
「ぶち殺されたいの貴方は!?」
珱嗄の胸ぐらを掴むビスケ。何が面白くてこんな街角でぶつかっただけの相手からここまで言われなければならないのだ。理不尽にも程があるだろう。と、ビスケは感じていた。
「さてビスケちゃん」
「あによ!」
「ちょっと俺の修行に付き合え」
「いきなり過ぎて付いていけねーだわさ!!!」
ビスケはそう言って、頭を抱えた。