◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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珱嗄×発×完成

 ぷるん!

 

 もう何度目になるだろうか? そんな音が室内に響く。床にはパタタタタッ! と水滴が落ち、ウボォーとクロゼの無表情にも、水滴が飛んでいた。

 原因は、ノブナガと珱嗄の剣戟? だ。ノブナガがもう何度目かになる居合を繰り出すと、その剣先を完全に身切って、こんにゃくで受け流す珱嗄。結果、先程の音を響かせて瑞々しい水滴を弾かせるのだ。切れない、こんにゃくなのに、切れない。何故だろうか。

 

「お前の剣を見た時に思ったんだ」

「何をだよッ!」

 

 珱嗄の言葉に再度剣を抜くノブナガ、弾かれる。

 

「あれ? あの剣って――――」

「はぁッ!!」

 

 剣を抜く、弾かれる。

 

「―――五右ェ門の斬鉄剣じゃね? って」

「割と本気で誰だよ!!」

 

 剣を抜く、弾かれた。

 

「知ってるか! 斬鉄剣はこんにゃくを切れないんだよ!!」

「これ斬鉄剣じゃねぇんだけど!!」

「似たようなもんだろうが!」

「本物知らねぇけど似てるだけで別モンだ!!」

「うるせぇ、その剣曲げるぞ髷だけに」

「面白くもねぇよ!?」

 

 まぁこんなやり取りをしつつ、結論を出すなら、ノブナガは珱嗄に弄ばれていた。攻撃しようと剣を抜くと、こんにゃくで弾かれるのだ。しかも、ぷるん! という音とは別に、ぺちっ! という音も響く事もある。ノブナガの顔はその音が鳴る度びしょびしょになっていく。

 こんにゃくで叩かれるのだ。顔を。無駄に濡れているから顔がもう洪水警報鳴らしまくっている。

 

「……今気付いたけど部屋がびしょ濡れじゃねーか……何してくれてんだオイ」

「悉く酷いぞお前!」

 

 そこまで来て、珱嗄はこんにゃくを後ろに放り投げた。

 

「あん?」

「ウホッ、食え」

「ウボォーだ。嫌だ」

「マゲナガの顔に触れたこんにゃくはやっぱ無理?」

「ノブナガだ。ウボォー、捨てとけそんなの」

「とりあえず置いとくわ」

 

 珱嗄はそこまで来て陽桜を担いでいた肩から下ろす。そして、峰を返した。これで斬ろうとしても殺す事はないだろう。ウボォーやノブナガは弄ってて面白かったから、殺さない事にしたらしい。

 

「じゃ、そろそろ終いにしようか……クロゼ、俺の発……よーく見とけよ?」

「あいよ」

「ノブナ……マゲナガ……お前とのやりとり、面白かったぜ?」

「ノブナガでいいじゃねぇか、なんで言いなおした」

「フッ……!!」

 

 クロロが見た時の様に、珱嗄の視線が鋭くなり、ノブナガはその視線に込められた殺意の大きさに身構えた。

 オーラが陽桜に収束されていく。うねる様に膨大なオーラ、押し潰される様な圧倒的重圧、そして、そのどんどん大きくなっていくオーラが突然―――

 

 

 

 ふっと消えた

 

 

 

「!?」

 

 珱嗄の姿を見失う。そして、ノブナガは自分が広げていた円の中に、珱嗄がいる事に気付いた。場所は背後、一瞬の間に抜かれていた。

 

「どういうッ……―――は?」

 

 かくんと膝が折れ、倒れるノブナガ。そして遅れるように全身がビリビリと激痛に捕らわれた。声が出せない、力も入らない、ただただ、痛い。

 

「~~~~~ッッ!!!」

「ノブナガ!」

 

 ウボォーが駆け寄るが、ノブナガに触れた瞬間、ウボォーの手にも鈍い痛みが走った。触れることが出来ないなど、治療も出来ないということと同義だ。

 珱嗄はそんなウボォーに対して陽桜を肩に担ぎながら言う。

 

「大丈夫、死にはしないよ。少しの間、痛みが止まらないだろうけど、まぁ寝かせておけば数分で元に戻る」

「……本当だろうな……」

「本当だよ。俺はこれだけの為に旅団を探してたんだ。さ、もう帰って良いよウボォーも」

「……これでノブナガが死んだら、今度は俺がてめぇを殺すからな……!」

「ま、楽しみにしとくよ」

 

 珱嗄の言葉に、ウボォーは歯噛みしてノブナガに寄り添う。触れる事も出来ない状態で、放置しておくしか出来ないなど、悔しくて仕方が無かった。

 

「クソッ!」

 

 ウボォーは床に拳を叩きつけてそう叫んだ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 さて、その後部屋を出た珱嗄とクロゼは先程の発に付いて話しながら歩いていた。珱嗄は先程何をしたのか、クロゼに分かりやすく教えていたのだ。教えた所でどうしようもないと考えているのだ。

 

「で、お前が一瞬消えたのはなんでだ? ただの高速移動ってわけじゃないだろ」

「アレは『絶』だよ」

「絶?」

 

 クロゼは首を傾げた。『絶』はオーラを遮断して気配を限りなく断つ技術だ。目の前にいるのに気配を感じなくなるほど希薄な存在になることが出来る。

 だが、珱嗄は絶はおろか隠も出来なかった筈だ。そのオーラの量故に、完全に隠し切れなかった筈なのだ。

 

「なのになんで………! 陽桜か!」

「正解」

 

 そう、そこで珱嗄は自分のオーラを隠し切れるほどに減らす事で『絶』を行う事を可能にしたのだ。陽桜という自身のオーラを持つ武器に、珱嗄は自身のオーラの約3割を込め、自身に絶を行なう事を可能にしたのだ。とはいっても、その回復能力の高さから減ったオーラはしばらくすれば直ぐに戻ってしまうのだが、とりあえず陽桜にオーラを移した状態なら絶が可能なのだ。

 

 これが珱嗄の発の中心。絶に入る直前の膨大なオーラをその身に感じていた相手は、一瞬で絶に入った珱嗄を確実に見失う。その場から動いていない珱嗄に、気付くことが出来ないのだ。そこから珱嗄は持ち前のスピードで相手に接近、膨大なオーラで強化された陽桜の馬鹿げた威力と切れ味で真っ二つ、という訳だ。

 

「で、でもよ! 陽桜とお前のオーラの質は違うだろ? なのになんで陽桜にオーラを込められるんだよ? オーラ同士がぶつかって刀が壊れちまうんじゃねぇのか? それに、お前が絶で消えたとしても、陽桜は絶で消えられないだろ」

「まぁそうだろうな。でも、それは俺のオーラの特性が解決してくれた」

「オーラの特性……お前は特質系だったよな?」

 

 珱嗄のオーラの性質は特質系、特質系とは他の五種の性質とは全く異なるレアなオーラなのだが、珱嗄の場合、変化系にも若干の適正があった事もあり、そのオーラには『別種のオーラに合わせる』という特性を持っていたのだ。

 結果、陽桜のオーラに『合わせる』ことで二つのオーラを『同化』させることが出来たという訳だ。つまり、陽桜のオーラ=珱嗄のオーラと変換する事が出来るのだ。

 そして、その状態ならば珱嗄は陽桜を自分のオーラ故に絶で隠すことが出来る。何故なら、自分のオーラなのだから。珱嗄という器には珱嗄のオーラ全てを隠し切ることが出来ない。だが、珱嗄という器と陽桜という器、二つの器を使えば珱嗄のオーラを分けて隠す事が出来るのだ。

 

 故に、陽桜に珱嗄のオーラを込める事が出来たし、陽桜自体を絶で隠す事も出来たのだ。

 

「そうか……お前は複数のオーラを並列操作出来たし、不可能ではないな……」

 

 珱嗄は以前天空闘技場で複数の性質でオーラを同時使用した事がある。珱嗄自身と陽桜の二つのオーラを同時に絶で隠す事も朝飯前、という訳だ。しかも、珱嗄のオーラを陽桜のオーラに合わせるという工程を一瞬で行なうその技術力。凄まじいオーラコントロールと膨大な量のオーラ、そして持ち前の身体能力あっての発という訳だ。

 クロゼは知らないが、神様から貰った『人間が習得し得る全ての技術』もこの発に使われていることが分かるだろう。ちなみに衝撃透しを習得した時も、この特典が大きな要因となっている。

 

「だから『不知火(シラヌイ)』なんだな……そこに在るのに、無いように見える技、ね」

 

 どこかの妖怪ぬらりひょんの鏡花○月的な技だが、これは認識をずらすのではなく、完全に隠して殺す技だ。

 

「とはいっても、さっきノブナガにやったのは『不知火』の改良版なんだよね」

「改良型?」

「お前の衝撃透しの技術を使ってる」

「ってことは……」

「そう、俺のオーラで強化されまくった陽桜の馬鹿威力を峰打ちで放つことで衝撃透しが行なえるんだよ。斬撃じゃなく、打撃になるんだから。だから、この馬鹿威力を衝撃透しで相手の身体全体に振動させた。結果、めっちゃ痛い」

「ノブナガに触れられなかったのは触れたら衝撃透しで振動しているダメージが触れた所から伝わってくるからか」

「ま、そういうことだ」

「恐ろしい技だな……俺なら絶対喰らいたくない」

 

 クロゼは若干引きながらそう言う。だが、珱嗄はまだこの発を進化させるつもりだった。

 

「最終的にはこれを『連撃で』出来るようにするのが目標だ」

「俺達ずっと友達だよな」

 

 クロゼは珱嗄の敵に回らない事を決めた。珱嗄はクロゼのそんな意思に苦笑し、完成した発を最終目標を踏まえて名付けた。

 

「さしずめ、これは『不知火(シラヌイ):一閃』……かな?」

「……ああ、まだ一撃だけだからか」

「おう、これから先増えてくつもりだ。とりあえず……10連撃位良ければいいかな?」

「一瞬で10回もそれ受けたら細切れだな……ホント、酷い奴だ」

 

 クロゼは珱嗄の目標に対して、最早呆れるしかなかったのだった。

 

 


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