◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
嫌な予感は、確実に当たるのが漫画やアニメの定番だ。つまり、クロロの嫌な予感は当たっていた。ウボォーギンを攫ったのは、珱嗄だ。
ノブナガ達はウボォーギンの行方を探すべく街に繰り出し―――直ぐに大きな手がかりを見つけた。珱嗄がウボォーの逃亡防止、およびノブナガ達を誘き寄せる為の『円』だ。ノブナガ達はその円に入った瞬間にその出所を掴み、即座に行動に移った。
珱嗄達の住む宿屋を取り囲み、円を行なっている珱嗄のいる部屋の前までやってきた。この時点でノブナガ達は相手を鎖野郎ではなく、珱嗄だと認識している。何故なら、ウボォーが一度鎖で囚われた時に、これほどまでに大きなオーラを感じなかったからだ。別人だというのなら、相手候補はもう珱嗄しかいない。
そしてその珱嗄はクロロが危険視する程の実力者と来ている。うかつに部屋に飛び込めない。
「………それにしても、このオーラの量はなんだ……!? 普通の人間の出せる量じゃねぇぞ……!」
ノブナガはそう言って嫌な汗を一筋頬を伝わせながら刀を握り締めた。幸いなことに、この円に使われているオーラは本当に唯の察知用であり、それ以外の物は感じない。もしも殺意が込められていた場合、どんな影響を齎すか、計り知れない。
「……入るぞ!」
ノブナガはドアを開けた。部屋の中にある物を瞬時に把握する。正面に写真で見た珱嗄、その斜め前にクロゼがおり、その斜め前にウボォーがいた。三人で三角形の頂点を描く様な陣形で向かい合っていた。
「ウボォー「あがりー」……お?」
ノブナガは言葉を遮られてきょとんとする。目の前では珱嗄とクロゼとウボォーがトランプでババ抜きをしていた。
「クソッ!! また負けた!!」
「オウカ! てめぇイカサマしてんだろ!」
「してね~よ~(笑)」
ウボォーが頭をガシガシ掻きながら手元の残ったトランプ睨み、クロゼはカードを叩きつけながら珱嗄に迫った。だが珱嗄はゆらゆらと笑いながら流している。
「オイ! ウボォー!」
「あん? お、おお! ノブナガじゃねぇか………逃げろノブナガ! 今すぐに!!」
あまりの拍子抜けな空気にノブナガは耐え切れずに大声を出した。だが、ウボォーはノブナガに気付いた瞬間、逃亡を指示した。しかも、かなり焦った表情で。
今までの温い空気は一瞬で凍りつく。珱嗄がノブナガの視界の端で、ゆらりと立ち上がっていくのが見えた。その手には紅く光る抜き身の刀、そしてその口端はゆらりと吊り上がっていく。
「っ!?」
円に込められたオーラが一瞬揺れた。今までなんの影響も及ぼさなかったオーラの領域は、転じて重い重圧を与えて来た。一瞬、切り刻まれたかと思ってしまう程の威圧感が、ノブナガ達を襲っていた。
(これが………! 団長の言ってた奴か……!!)
信長は刀の柄を掴んで練を行なう。普段よりも多くのオーラを生み出し、気休め程度だが威圧感に対抗する。
「いやぁ………待ちくたびれたぞ――――はろー? 蜘蛛の皆様……まぁ円で気配は察知してたけど、些か警戒が足りないんじゃねーの?」
珱嗄の言葉が、剣の様にひしひしと身体を刺す。別に何でもない言葉なのに、なぜこうも精神をガリガリと削るのか。
「お前らに一つ選ばせてやる。これはウボォーにも行ったんだけどな?」
「……!」
―――一つ、裸に剥かれて四つん這いの状態のまま街を徘徊する
―――二つ、拠点を教える
―――三つ、髪の毛を失う
―――四つ、股間にある一物を失う/子宮を引き摺りだす
―――五つ、取り敢えず死ぬ
珱嗄はウボォーに出した五つの選択肢を出し、刀を肩に担ぐと、前髪に隠れていた青黒く輝く瞳をすっと細め、言う。
――――さぁ、選べ
ノブナガやマチ、その他の旅団のメンバーは、その選択肢を聞いて、頭の中でウボォーと同じツッコミが浮かぶが、余りの威圧感に何も言えない。
すると、珱嗄はノブナガの手にある刀を見つけ、少し不機嫌になった。
「おい」
「っ……なんだ……!?」
「その刀、俺とキャラが被るだろうが。こんにゃくと交換」
「……いや、それはおかしい」
珱嗄の言葉に、ノブナガは今度こそツッコんだ。刀とこんにゃく、交換するには価値が違い過ぎる。
「なぁウホッ、コイツ名前なんだっけ?」
「ウボォーだ。そいつはノブナガだ」
「何それ? 織田信長気取ってんの? 本能寺で死ぬんだぜ裏切られて。光秀はいねぇの?」
「ミツヒデ? そんな奴は知らねぇが……」
「なんで? ノブナガときたら取り敢えず光秀、秀吉、家康の三人は揃えとけよ。なんでそこで止まっちゃうの? 信長とか一番の重要人物がいるじゃん、あと少しじゃん。頑張れよ」
「いや知らねぇよ!?」
珱嗄の重圧が消えた。ノブナガ達は少しふらついたが、珱嗄とウボォーの会話に少し脱力する。ババ抜きしていると思ったら凄まじい重圧が降り注ぎ、かと思ったら急に重圧が消えて変な会話を始める。この空気を破壊して作って破壊しての繰り返しに少し疲れてしまう。
「ま、いいや。ノブナガね……ノブナガノブナガマゲナガ……ぷふっ……」
「いや面白くねーよ! ………ぶふっ……!」
「おいウボォー、お前今笑っただろ? 髷が長くて面白いか? ん?」
珱嗄のちょっとしたネタを一蹴したウボォーだが、ちょっと考えて笑ってしまった。ノブナガがそれに対して青筋立てて食い掛かる。
だが、そこにフィンクス達補佐組が入ってきた。
「ノブナガ、それ位にしなさいよ。私達の目的を忘れないで………うあー……っ……!」
「おいパクノダ、真面目な台詞なら貫き通せよ。口開けて笑い堪えるんじゃねぇ!」
「その位にしとくよノブナガ。今のお前とても見苦しいね………っっ……!」
「肩震えてんぞフェイタン、口元いつもより隠してんじゃねぇ」
「良いから早くウボォーを連れて帰るよノブナgンッンン゛ッ!!」
「無理矢理笑いを打ち消してんじゃねぇぞマチ!」
「オイ……! お前らいい加減に―――ぶふっ!」
「フィンクス! お前ぶっ殺すぞ!!」
旅団の全員が笑いを堪えていた。恐らく普段から気にはしていたのだろう。珱嗄の言葉による切っ掛けで全員がツボに入ったようだ。ノブナガは顔を赤くして羞恥心を堪えつつ、珱嗄を睨んだ。
「テメェのせいでいい笑われモンだぜ……コケにしてくれた礼に、その首刎ねてやる……!」
珱嗄程ではないが円を展開し、珱嗄に殺意を向けるノブナガ。だが、
「ふあ………あ、ゴメンもう一回言って」
珱嗄は聞いていなかった。
「……てめぇのせいでいいわらわれもんだぜ……こけにしてくれたれいに、そのくびはねてやる……!」
「え? なんだって? 棒読みで良く分からなかった。もう一回全力で!」
「テメェのせいで良い笑われもんだぜ!! コケにしてくれた礼にその首刎ねてやるっつってんだァァァ!!」
遂にキレるノブナガ。刀を構えて居合の体勢に入った。殺気を振りまき、珱嗄に怒りをぶつける。オーラが煌々と輝き、ノブナガの感情に呼応するように燃え上がった。
「ヤバい……ノブナガの奴、本気だ……!」
「止めるか?」
「無理ね、アレは止めよとして止まるものじゃないよ」
「……なら、一回離れるか」
フィンクスの提案に旅団の全員が頷き、窓から距離を取るべく出て行く。だが、彼らが窓から出て行く際に、短くこんな言葉が聞こえた。
「え? 何だって?」
そう言った珱嗄は、ただただ面白そうに、陽桜を肩に担ぎ、『こんにゃく』片手にゆらりと笑った。