◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
ウボォーギンを攫った後、珱嗄とクロゼは何時まで経っても起きないウボォーギン……もうウボォーでいいや。ウボォーに飽きて来たので、とりあえず起こす事にした。そこで使ったのは、あの武器屋で売っていた、『こんにゃく』である。
珱嗄はこんにゃくを幾つか買って来て、ウボォーの口の中に次々と詰め込んだ。しかも呑み込めない様に首を締めながらである。
その結果
「もがぁっ!?」
「あ、起きた」
「俺はお前のより一層酷くなったアグレッシブさに脱帽だよ」
ウボォーは慌てて起き上がり、珱嗄は軽い調子で首から手を放した。クロゼはそんな珱嗄に脱力しながら呆れた。
「あー……ん? お前らあの時の! なんでお前らが!?」
「うっせぇよ筋肉ダルマ。お前は人質だ」
「あ? ハハハッ! 見た所拘束もされてねーのにか? それに、誰に対しての人質だよ」
「わはは、決まってるだろ――――お前だよ」
ウボォーの命を人質に、ウボォーを利用する。簡単なことだ。
「……何が目的だ」
「お前らの素性、そんで何処を拠点にしてるか……教えな」
「教えなかったらどうなるんだよ」
「決まってるだろ?」
「ハッ……殺すってか……やってみn」
「自分から死にたくなる位に辱める」
「オイ待て、話を聞こうじゃねぇか」
珱嗄の言葉にウボォーは冷や汗を掻きながら話し合いをしようと言いだした。この時初めてウボォーは交渉の取引に生き死にだけでなく『辱める』という手段を取って来る奴がいる事を思い知った。
「まず、俺らの目的から話そうか」
「ああ……」
「と言っても、俺らじゃなくて俺の目的なんだけどな。ま、簡単に言えば発の試し打ちの相手が欲しいんだよ。当たれば相手を確実に殺せる自信があるからさ、迷惑掛からなそうな奴を探してんだけど」
「お前仮にもA級の盗賊団をそんな理由で探すんじゃねぇよ!」
「うるせぇぞ……えー、ウボォーギンだったか? 長いな、あだ名を付けよう」
「なんで親しくもねぇ奴にあだ名付けられてんだ俺」
「ウホッ」
「ゴリラか? ゴリラってか? 流石の俺でもそのネーミングセンスはないと思うぞ!? てか最早名前じゃなくて鳴き声じゃねぇか!」
珱嗄のあだ名にウボォーは歯を剥いて怒った。とても良い名前だと思ったんだけどなぁと珱嗄は頭を掻いたが、結局クロゼの考えたウボォーというあだ名で落ち付いた。
「でだウボォー、お前に選ばせてやろう」
「偉そうに……」
「一つ、ここで裸に向かれた挙句四つん這いで金太郎よろしく夜の街を徘徊する。二つ、拠点を吐く、三つ、髪の毛を失う。四つ、股にある一物を失う。五つ、とりあえず死ぬ。さぁどうする!」
「碌な選択肢がねぇ……だが、みっ――――」
「ちなみに俺は髪の毛を毛根を死滅させつつ消滅させることが出来る。つまり、もう髪は生えてこない事になる」
「ちょっと時間をくれるか」
ウボォーは頭を抱えた。此処まで常識の通用しない相手は初めてだった。なんだこの男はと心底思う。クロゼの同情の眼差しが痛い。
(どうする……まず五つ目と四つ目は駄目だ。どっちにしろ死ねる……二番目と最初は論外だろ……三つ目が無難だが……この先、俺はハゲで生きて行かなきゃならねぇってことが問題だ……この年でハゲを覚悟しろってのか! クソッ、一生を決める覚悟だ……!)
「はい、もう『ちょっと』待ったぞ。はよ決めろ」
「頼む、あと三分!」
「いーち……×180。三分待ったぞ、言え」
「鬼畜過ぎんだろ!!」
掛け算がありな数え方なんて常識外れにも程があるだろう。
「く……さ……」
「さ?」
「三……番……!」
「お、いっちゃう? 三番いっちゃう?」
「あ、ああ……!」
「Number three 入りましたー」
「心底ムカつく奴だなお前……!!」
無駄に発音の良い言い方や見下す様な笑みにあからさまな挑発の意図が感じられるが、あからさまだからこそ余計に腹立つ。なんというか、人を怒らせるのが上手い。
「まぁ冗談として」
「俺の覚悟を返しやがれ!」
「ハッ……いいかよく聞けよウホッ」
「ウボォーだ」
「お前の髪の毛抜くのにどれだけ時間が掛かると思う? 俺の時間はお前にやれるほど安くねーんだよウホッ」
「ウボォーだ」
「とりあえず一番で行こうぜ」
「それこそ時間使うんじゃねぇか!?」
珱嗄の言葉にウボォーは必死に食い下がる。よりにもよって仲間に見られたら一番不味い選択肢を選ばれた。これはまずい。
「おいオウカ、それは止めてやれ」
「はいはい、分かったよ」
クロゼの言葉で珱嗄は引き下がる。ウボォーは内心でクロゼに感謝した。
「それじゃあ本題だ……拠点を教えろ、ウボォー」
「……言えねぇな」
「へぇ……仲間は売れねぇってか?」
「そんな所だ。例え殺されようと吐かねぇよ」
「なら良いや。拷問だの尋問だの面倒だし」
珱嗄はウボォーの言葉にあっさり引いた。追求するのも面倒になったのだ。
「なら解放してくれよ」
「いや、解放しない」
珱嗄はそれでも、ウボォーを解放しない。情報を吐かせるのは諦めた。だが、解放はしない。その理由は何故か? 決まってる。ウボォーギンは背中の刺青からして確実に幻影旅団だ。そして、ウボォーの仲間を売らない所からして、おそらく旅団の中でも仲の良かったメンバーがいるのだろう。
ウボォーが戻らない、所在も分からない、となれば向こうの方から動きを見せる筈だ。珱嗄はそれを狙う。
「お前が動いてくれないなら、向こうから寄って来て貰おうじゃないか」
「……お前……!」
「喜べ。お前の価値はたった今『人質』から『餌』に変わったぞ」
「チッ……」
珱嗄はソファに座ってウボォーの眼を見た。その視線に込められた楽しそうな感情から逃げるように、ウボォーは眼を逸らす。
先程、拘束はされていないと言ったが、ならば何故ウボォーが逃げないのか分かるだろうか? それは、単純に逃げられない程に隙が無いからだ。ウボォーは気が付いている。珱嗄の発している円が、宿屋だけでなく、半径2kmまで広がっている事に。幾らウボォーでも一瞬でこの円の外へ逃げる事は出来ないのだ。
しかも、この円は旅団のメンバーに居場所を教える効果すら持ってしまっている。何もかも珱嗄の掌の上だ。この状況を脱するには珱嗄とクロゼをウボォーが打倒して逃げる事だが、ウボォーはクロゼと一回喧嘩しており、その実力を知っている。珱嗄もクロゼと同等に強いと見ると、二人を相手に勝算は見えない。つまり、逃げられないのだ。
「ま、お仲間が助けに来ない事を願うと良いよ。仲良くやろうぜウホッ」
「ウボォーだ」