◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
紅く輝く抜き身の刀を肩に掛けながら歩く珱嗄の姿は、購入時同様とても目立つ。オークションを襲撃した奴らを探しているといえば、十中八九そいつらを殺しに行くんだなと勘違いされそうだ。
さて、あの後珱嗄は街を闇雲に探すというアホな行動は取らず、まずは情報収集をする事にした。オークションに乗り込んできた相手の数、容姿の特徴、襲われた結果、そいつらの実力等々だ。回ったのは酒場、情報屋等、そして使ったのはプロハンターライセンスを持つ念能力者しか入れない情報サイト等だ。
結果、集まった情報はこうだ。
オークションを襲撃したのは数名いて、大男や女、小柄な少年と様々な容姿をしていたそうだ。そして、実力的には警備員を軽く蹴散らす程、オークションの品物は盗られずに済んだ様だ。
「ふーん……とどのつまり、盗賊か」
「なんでだ?」
「いいか? まず犯行は複数人ということは、オークションの商品の中から一つ盗りたい訳じゃないだろう。おそらく、商品を全てかっさらうつもりだったか……そうでなくても出来るだけ多くの商品を盗りたかったんだと思う。一つだけ盗りたいなら、オークションを襲撃して陽動させる意味はないからな。隠密行動でこっそり取った方が理に適ってる」
「なるほど……」
「でだ、その複数人の連携行動からしてそいつらは仲間、おそらく全員念能力者だ」
「警備員の持つ銃弾が全く効かなかったからか」
「そうだ。そして、そうなると……タダの強盗じゃなく、実力のある盗賊だろう。そしてハンターライセンスを持った奴が入れるサイトから手に入れた盗賊団の情報を鑑みるに……相手は『幻影旅団』かねぇ」
珱嗄の言葉に、クロゼは眼を丸くした。幻影旅団と言えば、A級の盗賊団だ。実力的には12人のメンバー全員が高位の念能力者で、勝負になれば数で圧倒される事もある。
「だが、念能力者の盗賊なら他にもあるだろ。なんで幻影旅団なんだ?」
そう、クロゼの言うとおりだ。念能力の使える盗賊団なら他にもある。そこで幻影旅団と決めつけるのは無理があるだろう。
「それは……ただの勘だよ」
「へぇ……そりゃいい、じゃあその方向で行こうか」
「そういう大雑把な所は好きだぜ?」
「くははっ! だってよ、そっちの方が面白いだろ?」
「! わはは、それは俺の台詞だ馬鹿」
珱嗄とクロゼは笑って歩く。勘で動くのも悪くないと思うのは、やはり珱嗄の影響なのだろう。この結果で例えなんの成果も得られなくても問題ないのだ。失敗も一つの娯楽として呑み込めるのが、珱嗄という人間なのだから。
「さて、幻影旅団と言えば……蜘蛛の刺青がある訳だが、そんなの一々探してもな」
「ん? 蜘蛛の刺青だと? あ! それなら俺見たことあるぜ!」
「何?」
「あの食事処であったあの大男……俺はあいつと荒野で喧嘩したんだけどよ……背中に11番の蜘蛛の刺青があった!」
「――――へぇ」
珱嗄の口端がゆらりと吊り上がる。これは大きな手がかりだ。あんな特徴的かつ膨大なオーラを持ってる男は早々いない。ならば、探すのは容易だ。
「じゃあそいつを探そうか、そんで取り敢えず殺そう」
「お前さらっと怖い事言うよな」
「えー……じゃあ発試しにいこーぜ!」
「散歩行こうぜみたいな言い方で言っても同じだっつーの!」
さらっと言えるようになったこの言葉は、ある種珱嗄の変化でもある。人が殺せる、という事実は珱嗄の強さを遺憾なく発揮出来るということなのだから。
「じゃあ行こうか。蜘蛛の糸を手繰り寄せ、蜘蛛を殺そう」
「オッケー」
珱嗄は笑い、クロゼは肩をすくめた。
◇ ◇ ◇
珱嗄とクロゼがウボォーギンを見つけたのは、もう夜が更けて来ていた頃だった。珱嗄の脇腹の怪我も完治し、正真正銘全快で動ける。
二人は街をずっと探していたのだが、珱嗄はその際に得意な『円』をちょくちょく広げていたのだ。その距離は停止していれば半径2kmまで広がり、動いている時は1kmにまで狭まるが、それで十分。円に引っ掛かったウボォーギンのオーラは恐らく戦闘中で、場所は余裕で把握できた。
場所は荒野、肉眼で確認する限り、ウボォーギンの相手はハンター試験でも会ったクラピカだ。周囲に人の気配はなく、二人だけの戦闘らしい。
「あれはお前の知り合いか? オウカ」
「ああ、まぁ顔見知りって所だ。それにしても……あの鎖は具現化した物か……なるほど、つってもあのウボォーギンを殺されるのはちっとばかり面倒だ。蜘蛛への手がかりが無くなっちまう」
「そりゃそうだ」
珱嗄はそう言って戦闘に割り込む為に近づく。クロゼはその場に待機だ。他に隠れている敵などの排除を担当する。
戦況はほぼクラピカの優勢。時間の問題でウボォーギンは死ぬだろう。だから、その前に止める。
「ご機嫌いかが? パプリカ」
「……オウカ!? 何故此処に!? あとパプリカじゃない」
「ゴメンよピクルス」
「どんどん離れてるぞ」
「なんだっけ?」
「忘れてるんじゃないか!?」
珱嗄の言葉にウボォーギンを鎖で縛っているクラピカは煩わしそうにそう言った。今は蜘蛛への復讐の最中だ。ギャグを処理出来る気分にはなれないのだろう。
「クラピカだ」
「似たようなもんだろ。パプリカもピクルスも」
「似てないな。ピクルスに至っては一文字も合ってない………何をしに来た」
「止めに来たんだよ。この馬鹿を殺されると困るんだ」
「何……?」
珱嗄はウボォーギンを捕まえている鎖を掴んだ。そして、すぐにその鎖に使われているオーラの密度と量に気付く。極めて強力だ。
「こいつらは私の復讐の相手だ。譲る訳にはいかない」
「なら俺はお前をここで動けなくなるまで叩きのめすだけだ。オーケー?」
「ふぅ……ならば仕方が無い、恨みはないが……退いてもらおう……力づくでも」
「オイちょっと待てよ。これは俺と鎖野郎の勝負だ、介入してんじゃねーぞ」
珱嗄とクラピカが戦意を醸し出すと、ウボォーギンがドスの利いた声でそう言った。
「うっせ」
「ごふっ!?」
だが珱嗄はその言葉を無視して裏拳をウボォーギンの鳩尾に入れた。暫く呻いたウボォーギンは、そのまま膝から崩れ落ち、意識を失った。
「なっ……!?」
クラピカは一撃でウボォーギンを沈めた珱嗄に後ずさりする。オーラを使った強化はしていなかった故に、それは自力での拳ということになる。つまり、珱嗄の生身の拳だけで、クラピカは攻撃力で大きく劣っている事になる。
「さて……やろうか?」
「……一つ問いたい、なぜその男を狙う?」
「決まってるだろ、幻影旅団と仲良く
「どういう事だ?」
「いやね、発を習得したからさぁ……試し打ちの人形が欲しくて」
「そんな理由で奴らと戦うというのか!?」
「そうだ、悪いか」
「悪いわ!!」
ふんぞり返る珱嗄にクラピカは怒鳴った。幾らなんでも関わる理由が適当すぎる。
「まぁそんなわけでコイツは貰ってくぜ? お前の復讐なんて知ったことか」
「何……?」
「やるなら勝手にやって勝手に悲劇の主人公ぶってろ」
「この……! お前に何が分かる!!」
「分からねーよ、分かりたくもない。復讐する奴の気持ちなんて知るか、生憎と俺はそう言った物から一番遠い人間なんでね」
「……だがそれでも……私は復讐を遂げる」
「あっそ、勝手にすれば? それじゃ」
珱嗄はウボォーギンを抱えてクラピカに背を向けて去っていく。本来ならば止めなければならないのだろうが、不思議とクラピカの身体は動かなかった。珱嗄に言われた言葉に傷付いた訳じゃない。ただ珱嗄の実力を見て、戦うのは得策ではないと判断したまでだ。ウボォーギンを逃すのは痛手だが、復讐を遂げるまで死ぬわけにはいかないのだ。故に、クラピカはしばらく、その場に立ち尽くすばかりであった。