◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
ヨークシンで行われるオークションが、
「んで、どうするよ珱嗄?」
「何が?」
「いや、この話を聞いてどうするのかってことだよ」
そして、クロゼは珱嗄にそう聞いていた。この襲撃の話を聞いてどうするのかを。ゼノとの戦いから一晩が明けている。珱嗄の怪我も脇腹のもの以外はほぼ完治していた。まぁただ蹴った殴っただけの打撲だ。その程度なら強化系の念能力者でなくとも、ある程度回復力を強化することですぐに回復出来るのだから。
「そうだねぇ……なら、その襲撃者を探してみようか。んで……俺の発の試し打ちに付き合って貰おうか。見せてやるよ、完成した俺の発」
「くっはは! そりゃ良い! だが、その腹の怪我はいいのかよ?」
「まぁ強化系を完全に使いこなせる訳じゃないからまだ完治はしてねーけど……俺はオーラの性質を複数同時に使えるし、回復力を強化しつつ行動してれば今晩には治るだろ」
珱嗄の言葉に、クロゼはもう心配いらないということを理解し、ひとまず安堵の息を吐いた。
珱嗄はそんなクロゼを傍目に、ゆらりと笑う。窓の外、賑やかに商売に勤しむ街並みが広がっている。そして、その一角で一つの野次馬達で作られた輪があった。その中心にいる者も、宿屋の窓という高さからなら見えてくる。
「クロゼ、襲撃者に辿り着く為の第一歩になるかもしれない」
「あん? ありゃあ……なんだ?」
「ん、俺の知り合いだ。取引を持ちかけようぜ?」
珱嗄はその手に一万ジェニーをぴらっと持って、そう言う。
「取引だと?」
クロゼは首を傾げてそう言った。
◇ ◇ ◇
珱嗄達がやって来た騒ぎの中心にいたのは、ゴンとキルアとレオリオだった。どうやら、一万ジェニーの参加代でゴンと腕相撲し、その結果勝った場合は三百万ジェニー相当のダイヤ、負ければ参加代を取られる、というゲームだ。珱嗄はこれに参加するつもりなのだ。
「――――俺も参加、いいか?」
「え? ああはい! どうぞどうぞ!」
レオリオは珱嗄の事を忘れているのか営業スマイルで一万ジェニーを受け取り、ゴンの前に座らせる。そして、珱嗄がゴンの前に座ると、ゴンとキルアは珱嗄の顔を見て―――表情を固まらせた。
「お、オウカ……」
「なんで此処に……?」
金を増やす為にやっているこの商売で、ゴンは一切負けてはいけない。それこそ、念能力での強化をしてでもだ。結果的に、今までの勝負では負け無し。念能力者でもない相手に対して負ける事はなかったのだ。
だが、此処に来て敗色濃いこの相手、これは金を増やす目的が達成出来ない。
「それではいいですか! レディ……ファイト!!」
レオリオが開始の合図を言うと、珱嗄とゴンは繋いだ手に力を込める。拮抗する勝負だが、ゴンは全力、珱嗄は余裕の笑みを浮かべている。地力が違い過ぎる。
ゴンは此処でオーラの強化を更に強くする。だが、珱嗄はそれに対して自分も強化することで対抗する。念についての練度は珱嗄の方が上、このままではゴンは負けてしまうだろう。
「なぁゴン、ここで俺に負けるのは都合が悪いんだろ?」
「ぐぎぎぎ……ま、まぁね……!」
「取引しようか、負けてやるから一つ聞かせろ」
「え?」
珱嗄は返答を聞かずにぱたっと負けた。周囲の野次馬が歓声を上げて珱嗄に励ましのエールを送る。珱嗄は椅子から立ち上がり、手をぷらぷらと振りながらゆらりと笑った。
「それじゃ、一つ聞きたい。オークションを襲撃した奴、知ってる?」
「え? んーと……知らない、かな?」
「ああ、知らないぜ」
ゴンとキルアは正直に答えた。珱嗄はその答えに眉を潜める。主人公勢なら何か知ってるんじゃないかと思っていたのだが、どうやら期待外れのようだ。
「……オウカ、オークションを襲撃した奴らを探してんの?」
「まぁね」
ゴンが腕相撲の続きを始めた横で、珱嗄はキルアと会話する。クロゼはとりあえずゴンと腕相撲を始めていた。事前に珱嗄に勝ってはいけないと言われていたので、勝つ気はないのだが、とりあえず実力試しの様な物だ。
「なんでだ?」
「んー……そうだな、発を創ったからその試し打ちの相手が欲しいんだよねー」
「不憫すぎる!」
珱嗄はキルアのシャウトに苦笑する。
「ま、知らないならいいんだ。邪魔したね、ほら報酬」
「え、報酬って……ええ!?」
珱嗄はキルアの手に茶封筒を置いて去る。クロゼもそれを見て早々と負け、珱嗄の背後を付いて行った。
キルアは茶封筒の中の物を再度見る。中には、およそ500万ジェニーが入っていた。