◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

34 / 74
クロロ×勘違い

 クロゼと珱嗄はとりあえず、療養に尽くすことにしていた。宿屋のベッドに寝転がる珱嗄は、どこか退屈そうだ。神様特製の肉体だからか、回復力も並では無く、傷口自体は既に塞がっており、身体を動かす事に関してはまぁ問題ない。

 だが、それでもまだ内面に関しては回復しきっていない。この状態で無理に身体を動かすと、後々まで後遺症を残す破目になるのだ。というわけで、珱嗄はベッドの上から動けなかった。

 

「陽桜」

 

 珱嗄はゼノの時にやったように、陽桜の持つオーラを操作して手元に引き寄せる。相変わらず刃毀れも無く、紅く光を反射する刃はその切れ味を見ただけで想像させる。しかも、陽桜の持つオーラは珱嗄のオーラと混じり合って更に強力な物になっていた。使い手を選ぶ、というのはこういう事でもあるのだろう。

 

「……『不知火(シラヌイ)』のイメトレでもするか」

 

 珱嗄は陽桜を軽く振って、イメージトレーニングを開始する。眼を閉じ、陽桜を正面に構えたまま、しんと動かない。そして、その状態のまま深呼吸をして、意識をすーっと奥深くへと沈めて行き、ゼノとの戦いのときに行なった技を思い返し、頭の中で洗練し、完成形をイメージする。そうしていく内に、周囲の音が気にならなくなり、無駄な情報が遮断され、珱嗄は集中力をどんどん高めていった。

 

 

 ◇

 

 

 珱嗄の部屋に、入って来る者がいた。隠れもせず、堂々と、なんならノックもして入ってきた者がいた。幻影旅団の団長、クロロ=ルシルフルである。黒いコートを揺らして、集中する珱嗄を見た。

 

「……安心しろ、敵意は無い」

 

 クロロはそう言う。珱嗄が入って来た自分に向かって刀を構え、ひしひしと感じられる程の威圧感を放っていたからだ。だが、それでも珱嗄はその構えを崩さず、クロロの方に剣先を向けていた。

 瞳は前髪に隠れていて見えないが、この威圧感とオーラの量を見れば、あまり機嫌を悪くするのは好ましくない。故に、クロロは手早く用件を告げる事にした。

 

「そのままでいい……聞きたい事がある」

「――――」

 

 だが、珱嗄は何も言わない。クロロはその沈黙を用件を言え、という意味と受け取った。そして、妙な話だったら叩き斬る、と言わんばかりに、刀が赤く煌めく。クロロはその迫力に固唾を呑んで、冷や汗を掻きながら話を続けた。

 

「幻影旅団の団長をしている……クロロ=ルシルフルだ。今回は、お前が我々に敵意があるかどうかを問いに来た」

「………」

「先日、お前が強力な実力者と戦闘を行なった事は知っている。結論から言って、お前は強い。それこそ、我々の目的を脅かす程に……敵にまわられると少し面倒だ」

 

 クロロは率直に聞きに来たのだ。幻影旅団に、敵意があるか、ないかを。

 

「………」

 

 だが、珱嗄は一向に口を開かない。ただただ、刀を構えていた。その様子がとてつもなく、怖かった。すると、少しづつ紅い刀にオーラが収束されていく。うねる様にして刀を振動させるオーラの量は、最早一人の人間が抱えるには多過ぎるほどだ。

 

「っ………! 今日の所は………帰ろう、ではな」

 

 クロロはそのオーラの重圧と、今にも殺されそうな殺意の波動から逃げた。部屋から出て行き、持てる全速力でその場から去った。

 そして、走りながらぶわっと吹き出る汗を拭う事も忘れて、こう結論を出した。

 

(奴は……危険だ……! あの一瞬たりとも感情の変化を見せなかったあの態度、あの刀のオーラ、これは不味い事になったな……)

 

 幻影旅団は団長の勘違いから、珱嗄を警戒するようになった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一方、珱嗄は大きく息を吐き、切っ先を下に向けた。瞳を開いて吹き出て来た汗を拭う。陽桜に乗せたオーラをふと霧散させる。そして、ベッドにどさっと寝っ転がった。

 

「まぁ……こんなもんだろ。後は回復して……一回試してみない事には分かんないけど」

 

 『不知火』のイメージを掴む事は出来たようだ。ただ、まだあくまでイメージ、完成した訳ではない。やはり、一度試しに技を行なう必要がある。その為には回復が優先だ。

 

「あれ? 誰かいたのかな?」

 

 珱嗄は開けっぱなしになっている扉を見て、そう呟いたのだった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。