◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄が眼を覚ました時、知らない天井が視界に入ってきた。どうやら、ベッドに寝かされているようだ。起き上がろうと身体に力を入れると、脇腹に激痛が走り、再度ベッドに身体を沈める破目になった。
「……此処は」
「宿屋だよ」
「……クロゼ」
珱嗄の短い疑問に答えたのは、クロゼだった。どうやら、ゼノとの戦いの後、出血多量満身創痍な珱嗄は気を失ったらしく、そこをウボォーギンとの勝負を終えたクロゼが見つけ、運んだということらしい。
首だけ動かして部屋を見渡してみると、ベッドが二つの二人部屋だった。陽桜もテーブルの上に置いてある。まぁ盗られる可能性も頭に過ぎったが、あんなにクソ重たい刀、それも扱いも難しい品物を持っていこうと思う奴はいなかったということだろう。
「それにしても、何があったんだ? お前がそんな状態になるなんてよ。見つけた時は吃驚したぜ」
「……ま、色々あったんだよ。でも、負けた訳じゃない」
「……そうか、まぁお前が良いならそれでいいさ」
クロゼはそれ以上追及して来なかった。珱嗄の表情にどこかすっきりした物を見たからだろう。
そんなことより、と話を変えて、クロゼは明るい調子で話しだす。
「珱嗄、あの刀はなんだよ? 持ってみたらクソ重いし、刃に触れたらかなり深く切られたんだけど! 見ろよこの指!」
クロゼは包帯を巻いた指を見せて来た。血が滲んでいる所を見ると、随分と深く切り込みを入れられたようだ。まぁ陽桜の切れ味は珱嗄も承知済みだ。なにせ鞘にすら入れられない切れ味なのだから。
「ははは、ざまあみろ!」
「お前最悪だな!?」
「アレは俺が買った武器だよ。まぁこれから先結構重宝するだろ」
「……幾ら?」
「132ジェニー」
「天空闘技場の1階ファイトマネーより少ねぇ!!」
珱嗄が重傷を負ったとは言っても、通常通りの様子でどこか安心するクロゼ。ツッコミもどことなく嬉しそうだ。多分、こんなやりとりが出来ることが、クロゼ自身、気に入っているのだろう。
「あ、そうだ。俺発完成したぞ」
「お、マジかよ! やったじゃねーか!」
「ま、まだ成功した訳じゃねーけどさ」
『
「その代償として、ここまで負傷したとなれば、この状態も悪くない」
「……ははは、じゃあ楽しみにしてるぜ。その発」
クロゼは珱嗄の言葉に対して、優しく微笑んだ。
◇ ◇ ◇
その頃、とある場所、とある集団が、集まっていた。集まっている集団は、個々で個性的すぎる容姿をしていた。筋骨隆々の大男、顔をマフラーで半分隠した小柄の青年、黒ずくめの何処か不気味な男、そして、凶悪に笑みを浮かべる道化師。
彼らは、その名を『幻影旅団』とし、史上最凶との悪名高いA級首の盗賊団とされている。彼等は全員が凄腕の念能力者で、熟練のハンターでもうかつに手を出せない。団員それぞれが体のどこかに、旅団のシンボルである12本の足を持つクモのタトゥーを入れている。それゆえ彼等に近しい者、また彼等自身も幻影旅団のことを「クモ」と呼ぶ。
彼らは奇しくも、珱嗄とクロゼのいるこの街、ヨークシンにやってきていた。
「さて、オークションの日程だが……9月1日、つまりは今日な訳だ」
その内の、団長がそう言う。名前はクロロ=ルシルフル。今言った通り、本日は9月1日、このヨークシンでドリームオークションと呼ばれる地下競売が行なわれる日だ。
幻影旅団はこのオークションを襲撃する予定なのだ。
「だが、その前に少し厄介な要素が幾つか出て来た」
「厄介な要素?」
団長の言葉に団員の一人が問う。
「今日、ヨークシンの街市場裏にある広間で、戦闘があった。しかも、どちらも凄腕の念能力者同士だ。両者は戦闘を行ない、勝敗は有耶無耶になった。が、おそらくこの旅団にいれば両者ともトップに立つ実力者だ」
『!?』
「このタイミングでそんな実力者がこの街にいる、となると我々の動向を掴んだ何者かが送りこんできた刺客かもしれない」
「でも戦闘を行なってたんだろ? 片方は確実に刺客では無いだろ」
「ああ、だがどちらも一流の実力者だ。片方だけだろうと敵に回ると厄介だ」
団長がそう言うと、団員が少しだけ息を飲んだ。戦いになることが怖い訳ではない。各々の目的を邪魔される可能性があることが少し不安なのだ。ハッキリ言って、面倒極まりない。
「でだ……一応片方の情報を手に入れた。写真も一応ある」
団長が出した写真を、団員達が覗きこむ。そこには――――
「ん♡」
「お?」
――――珱嗄の姿が映っていた。
(これはちょっと……あんなに清々しく別れたばっかなのになぁ……会いづらい……♦)
道化師が心の内でそう思いながら、苦々しそうに頬を掻いた。というか、ヒソカだった。