◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
筋肉×店員
きっかけは、筋肉でした。俺はあの時、友人と食事をしに適当な食事処に来ていた。その時、彼は俺の席に相席してきた。
これがまぁ不良とのぶつかりで、因縁付けられた、という展開ならありきたりなのだろう。だが、私が会ったのは筋肉だった。筋骨隆々の大男。まさしく野生人とも言える様なあの猛々しい大男。とてつもなく迫力が大きかった。そして、彼は私の友人を見てこう言った。
「お前の筋肉しょーぼーいっ!」
子供か。
――――by 珱嗄
◇ ◇ ◇
ヨークシンにやってきた珱嗄とクロゼは、天空闘技場にて溜めたファイトマネーを豪勢に使う、という真似はせずにとりあえず適当な食事処で昼食を取っていた。席はほぼ満席で、おそらく新たな客がくれば席に座る事は出来ないだろう。
「それで、これからどうする?」
「ヨークシンに来て見たは良いモノの、特に無いよなぁ……やりたいこと」
「まぁそうだよな。精々買い物位だ………面白いことはないかねぇ」
そう話す珱嗄とクロゼの表情には、暇を持て余している、ということが見て取れた。正直言って、この状況では手詰まりだ。苦しい状況でも、楽しい状況でも、なんでもいい。なんでもいいから、何か起こって欲しかった。
だが、この物語において、何も起こらない、なんて状況が維持される筈が無い。故に、事は起こり始めていた。
「すいませんお客様、相席よろしいでしょうか?」
「あ、はい。いいっすよ」
店員の呼び掛けに、クロゼが答えた。相席、こんなに混んでいる店だ。相席でもしないと人が入れないのだろう。そして、クロゼに一つ頭を下げた店員は入り口から随分と大柄な男を連れて来た。おそらく、この店の中にいる誰よりも大きいだろう。そして、その身体付きはとんでもない筋肉で覆われている。まさしく、表現するなら『野生児』といったところだろう。
「こちらになります」
「おう」
野太い声で店員に片手を上げて答えた男は、クロゼの真正面、珱嗄の隣に腰かけた。
「はははっ! ワリィなお前ら、まぁこんなに混雑してんだ。よろしく頼む」
「わはは、寧ろその筋肉が邪魔にならない程度の混雑で良かったな」
「小生意気な奴だなお前!」
珱嗄の皮肉に大男は笑う。かなりおおらかな性格の様だ。というより、大雑把な性格なのか。
「まぁお前らは反対にひ弱そうだなァ!」
「………なんだと?」
そして、それに大男も皮肉で返す。珱嗄と男の間では社交辞令的な意識があったのだが……クロゼは空気が読めなかった。皮肉をそのまま受け取ってしまった。珱嗄はそれに気付いてため息交じりに頭を抱えたのだった。
「アン?」
「てめぇ、今俺らが弱いっつったか?」
「………ハッ、言ったがどうした?」
(あ、こいつ楽しんでるなコレ。いいや、しばらくほっとこ)
変換したら一番最初にホット子になった言葉である。誰だ、ホット子って。
「俺はお前見てェな図体だけの馬鹿よりよっぽど強ぇよ」
「はっはっは! 言うじゃねえか………試してみるか?」
両者が立ち上がる。店員も雰囲気の悪さに気付いて少し慌てている。同席しているからか、珱嗄の方に助けを求める様な視線を送ってきた。どうしたものかと考える珱嗄だが、このままでは店に迷惑が掛かるだろう。あと、少しばかり珱嗄にも。
「……仕方ないなぁ……ん」
珱嗄はメニューを店員に分かる様に見せて、とりあえず一番高いものを指差した。つまり、この騒ぎを収める為にこのメニューを
「交渉成立……さて―――」
珱嗄は立っている二人の方を見る。
「ここで勝負を付けるか?」
「上等だぜ」
拳を握って動きだそうとした二人。だが、
「―――お前ら、少し黙れよ」
珱嗄の言葉で、強制的に、抑えつけられる様に座った。これは特別何かしている訳ではない。ある程度の実力者であるからこそ出来る、圧力による組み伏せだ。視線と言葉に殺気を乗せ、相手の身体ではなく精神にぶつけるのだ。すると、気圧された精神によって肉体を一瞬弛緩させ、強制的に立っていられなくなるのだ。
まぁ空想の中でこそ出来る技術なのだが。
「お、お前……今何をした?」
「何も?」
「……そ、そうか」
クロゼも大男も驚いた様な表情で黙った。
「ま、そういう事で、大人しく飯を食おうか。とりあえず、俺は珱嗄だ。よろしく」
「え、と……クロゼだ。よろしく」
珱嗄がゆらりと笑ってそう言うと、クロゼも同様に自己紹介した。先程までの怒りはどこへやら、やはり師弟関係である珱嗄とクロゼの上下関係でいえば、実力的にも精神的にも珱嗄の方が上だった。
「あー、おう……俺はウボォーギンだ。まぁ、悪かったな」
大男はウボォーギンと名乗った。そしてこれが、彼の所属している、とある旅団と接触する、きっかけであった。