◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
その後、試合登録をして最初にヒソカが戦う破目になったのは、珱嗄ではなくクロゼの方だった。性質的な勝負で言えば、操作系対変化系といったところか。クロゼの戦闘経験や過去の実績は知らないが、ヒソカはかなりの戦闘を乗り越えてきており、その実力は恐らくトップクラス。使いこなしているとはいえ、念を覚えたばかりのクロゼでは少々辛い勝負なのではないかと、珱嗄的には予想している。
だが、それは経験と実績を見た場合の予想だ。予想はあくまで予想、どうなるかは、分からない。
「それにしても、君と戦うのは初めてか♡」
「そうだな、まぁ会ってまだそう経ってねぇし」
ヒソカとクロゼは闘技場の上で軽く身体を伸ばしながらそう会話する。試合開始もまもなく、両者ともその瞳には確かな闘志を宿していた。
「ん~~~……っあぁ! ふぅ……じゃ、やろうか」
「オッケー♣」
クロゼがぐいーっと身体を伸ばし、大きく息を吐いた後、そう言い、対してヒソカは首をゴキゴキッと鳴らしながら短く答えた。
お互い、今までの試合である程度手の内を知っている。クロゼの衝撃透しの技術は、ヒソカだけでなく念能力者には驚異的であるし、ヒソカの発も応用の幅が広い。接近戦でならクロゼに分があるし、中距離ならばヒソカに分があるだろう。
「それでは試合を始めて下さい!」
審判の言葉にヒソカとクロゼが構える。200階以上になると、武器の使用が許可されてくる。つまり、ヒソカはあの切れ味抜群のトランプを使えるようになるという事だ。
開始の合図と同時に、ヒソカはクロゼに向かってトランプを数枚投げつけた。が、当然クロゼはそれを避ける。地面に突き刺さるトランプを無視して、クロゼはヒソカに迫った。
「うわーお♡ 怖い怖い♣」
「んなッ……!」
だが、ヒソカはそんなクロゼから、にたっと笑って逃げる。トランプを投げた際、クロゼの方だけでなく天井にも一枚投げていた様で、そのトランプには自身のオーラを纏わせていた。周の応用だ。
そして、ヒソカの使う変化系の発の一つ『
「ふっ!!」
「ちィ!」
そして天井に上がりながらヒソカはまたクロゼにトランプを数枚投げる。だが、クロゼもやられっぱなしではない。投げ付けられたトランプを二枚ほどキャッチし、同様にオーラで覆った。そして、そのままヒソカに向けて投げる。空中にいる事でヒソカはそれを避けられない。
「危ない危ない♡」
だがヒソカは『
「なっ……ぐっ!?」
ヒソカはそれに驚愕して少し身体を硬直させるが、即座に防御態勢に入る。頭と胴体を守る様に腕を交差させ、トランプによる怪我を最小限に抑えるために備えた。
そしてそこにトランプが数枚やってきたが、事前に備えていたおかげでトランプは一枚を除いてヒソカの身体を掠る結果に終わった。だが一枚はヒソカの左腕に深く突き刺さってた。
「まぁこんなに複数の物体を操作したのは初めてだったが……まぁ中々の結果だな」
「ふぅ……いたたた……全く、末恐ろしいねぇ♦」
ヒソカはトランプを腕から引き抜く。自身の用意した武器で自身が傷付く事になろうとは、ほとほと呆れるほどに、
「厄介だね……♡」
「そりゃこっちの台詞だ。こうも近づけなくちゃ決定打に欠ける」
つまりはお互い、戦闘における相性は悪かった。ヒソカに関してはこう隠れる場所も無い闘技場という環境が実力を発揮出来ずにいる要素になってた。元々ヒソカの得意とするのは複雑な空間を利用した心理戦やトリッキーな戦闘だ。隠れる場所も無く、闘技場の上だけという制限の掛かった環境はヒソカの実力を大きく制限していた。
「つまり、お互い実力を発揮しきれてない訳だ」
「そうだね♡」
「まぁそんなのは―――」
「―――関係無いけどね♡」
二人とも、珱嗄と一緒にいたせいか、中々苦しい展開に対して笑うようになった気がする。苦しい時ほど、笑って見せろ。珱嗄のようでなくてもいい、自分らしく、自分の思う様に、楽しめ。
それでこそ、戦いである。
「掛かって来いよ、返り討ちにしてやんぜ? ピエロ野郎」
「掛かっていくさ、風通し良くしてあげるよ♡ 風穴開けてね♠」
クロゼは接近戦でヒソカ以上に戦える。だが、敢えてヒソカはクロゼに肉薄した。これは命懸けの戦い。死んでも文句は言えないのだ。故に、ヒソカの狙うは最小限の傷で最大の結果を出す攻撃。クロゼは念能力者であっても耐えがたい衝撃透し。
まず、クロゼの拳が振り上げる様にヒソカの胴を狙う。ヒソカは身体を捻子ってそれをなんとか躱す。そして、お返しとばかりにクロゼの首目掛けてトランプを振りぬく。当たれば頸動脈を切り裂き大量出血で殺す事が出来る。だが、クロゼはそれをオーラを操作し首に全オーラを集めることで肉を守った。トランプはオーラに阻まれ首を切り裂けない。
次に、クロゼは低い体勢を取っていたヒソカの背中目掛けて拳を振り下ろす。ヒソカはその拳をクロゼの足を掴んで引っ張る事で体勢を崩させ、軌道を自分から外した。だが、クロゼはそこで引っ張られた足を逆に発破られる方向に勢いよく蹴りあげることでヒソカの鎖骨部分に蹴りを当てた。
「ぐっ……!」
「ぉ――――……おらァ!」
ヒソカの上体が蹴りの衝撃で起き上がる。クロゼは蹴りあげた勢いのままバク天し、体勢を立て直す。どうやら無理な体勢で蹴ったせいか衝撃透しは上手く決まらなかったようだ。
「シッ!!」
「―――こっちの番だよっ♡」
続く様にヒソカの胴へと裏拳を繰り出すが、ヒソカはその拳を下から殴ることで軌道を逸らし、結果クロゼの拳はヒソカの顔の横を通り過ぎた。そしてその隙にヒソカは通り過ぎた拳の付け根、手首をトランプで切り裂く。クロゼのオーラも間に合わず、手首にある動脈が浅く切られた。
「ぐ……ァっ!?」
勢いよく吹き出る血液。ヒソカはトドメとばかりにクロゼの足を払い、転ばせる。そして、そのまま無防備になった胴体を全力で踏みつけた。
「はぁああ!!」
「ぐがァァッ……ガハッ!?」
地面とヒソカの足で板挟みになるクロゼ。大量に抜けていく血液とも相まって、クロゼは意識を失ったのだった。
「はぁ……はぁ……ふぅ~……ひやひやしたよ♦ でも、楽しかったよ、クロゼ♡」
この勝負は、ヒソカの勝利で幕を閉じたのだった。