◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
200階という場所は、この天空闘技場においてある種のボーダーラインである。この階へと到達した『一般人』は、『念能力者』達による『洗礼』を受ける事になる。それは、耐えられない程の重圧を感じさせる殺気を浴びせかけられたり、試合で殺されたり、殺されなくとも五体満足ではいられない状態にされたり、再起不能にさせられたりといったものだ。
つまりどういう事かというと、この200階より上には『念能力』が必要最低限保有していなければならない力だということだ。そうでなければ、勝ち進む事じたい、不可能なのだ。
さて、そんな強者の領域に足を踏み入れた珱嗄達もまた、念能力者。『洗礼』を受けるにはあまりにも非凡な実力を持っていた。故に、珱嗄達は新参でありながら200階でも十分やっていけていた。
そして、現在。珱嗄は200階へ到達してから、ゴン達と合流してから、3日の間に5回の試合を既に行なっていた。戦績は、5戦5勝。順調に勝利を積み重ねていた。そして、今、6戦目へと望んでいる最中である。
「―――念能力、それは自身の生命エネルギーであるオーラを使った技術である」
「今更、どうしたァ!!」
相手は小柄だが、強化系の念能力者。そのオーラをもって脚力や腕力を強化し、素早く小回りの利く体格を利用した俊敏な動きで珱嗄に迫っていた。その速度だけで言えば、おそらくヒソカともタメが張れるほど。その速度を保ったまま方向転換出来ない所を見ると、まだまだ使いこなせているという訳ではない。
「―――ならば、そのオーラとは何か?」
「このッ! ゆらゆら動きやがって!」
故に、珱嗄は軽く円を広げることで相手の動きを全て先読み、及び察知する事が可能であり、その攻撃は全て単純な動きで躱す事が出来た。
「―――考察してみれば、変化系や具現化系の能力者はオーラを物理的に触れられるモノへ変換する事が出来る訳だ。つまり、オーラは性質を変えられれば触れられないエネルギーから触れられる物体へと姿を変える」
「ハァ……ハァ……!」
相手は少し動きを止めて、構える。珱嗄と距離を取って、呼吸を整える事に徹する。幸い、珱嗄はまだ攻撃して来ない。
「―――なら、『触れられる』という性質を利用しない訳にはいかないだろう?」
珱嗄はそう言って、ゆらりと笑う。
「ッ!?」
相手はその笑みを見て背筋が凍った様な感覚に陥った。何かが、恐ろしい何かが始まっている様な気がした。
そしてその考えはかくして当たる事になる。珱嗄がトンッという音と共に相手に向かって一直線に地面を蹴った。その速度は強化して俊敏な動きを可能にした相手からしても、かなり速かった。そして尚且つ一瞬の硬直の後だった故に、即座に対応出来ない。とりあえず後ろに下がろうとする。
「なっ……これは!?」
だが、それは珱嗄の思い通りだった。下がろうとした所に『オーラで作られた壁』があった。つまり、逃げられない。
「
珱嗄はその隙に零距離まで近づき、相手の顔面に拳を突き刺した。
◇ ◇ ◇
「ふー……」
「お疲れオウカ」
「おうクロゼ」
「それにしても随分と多種類の性質を使いこなすねオウカは♡」
「ああ、ペロリシャスもいたのか」
「ヒソカだけどッ!?」
試合を終えた珱嗄にクロゼ達が近寄ってくる。ヒソカはすっかりペロリシャスが定着してしまっていた。
さて、ここで珱嗄の戦闘について解説しておこう。まず、珱嗄の性質は『特質系』だが、それは別に他の性質が全くないという訳ではないのだ。故に、珱嗄は他の性質も使えるように多少鍛えていた。『変化系』と『具現化系』の二つだ。
さきほど、珱嗄はオーラの性質を『空気に触れた場所に固定する性質』に変化させ、そして具現化系でその性質を持ったオーラを壁として具現化させたのだ。故に、相手がぶつかった時もオーラの壁はその場を動かなかったし、物理的に触れられる故に『ぶつかる』という事も出来たのだ。
「まぁ結構集中力使うんだけどな。それに、さっきのだって壁と俺が離れすぎれば持続出来なくなるから、壁が消えるんだよ」
「流石に具現化系、変化系に加えて放出系を同時に使いこなすのは無理があるか♣」
「それが出来たらもっと使いようがあるんだろうけどな」
「操作系特化の俺からすれば少し羨ましいぜ」
珱嗄の複数の性質を使いこなす、という所業にクロゼはそう言って肩を竦めた。珱嗄に対してクロゼは操作系の一極集中型だ。100%操作系を使いこなす余り、他の性質はさっぱりだった。正確には操作系に関しては右に出る者はいない位使いこなすのだが、他の性質では微妙な効果しか出ないのだ。実用には程遠い。
だが、それでも珱嗄と同等にオーラを使いこなす。オーラを正確に、精密に、操るコントロール力はある意味脅威だった。
操作系と言えば、生物や物体を操る事に長けているのだが、クロゼがそれをやった場合、余りの精密なコントロール力によって、まばたきや呼吸の仕方、眼球の動きすら詳細に操る事が出来るのだ。現段階ですらそうなのだから、成長すれば内臓の動きや筋肉の収縮作用ですら手中に収めるかもしれない。
「僕からしたらどっちもどっちだけどね♡」
「なんだヒソカ、珍しく弱気じゃないか」
「そうだぜ。念能力者歴でいえばお前の方が先輩なんだからもう少し強きで行こうぜ」
「いやオウカ達が強くなり過ぎだから♡ 流石の僕も戦うタイミングを計らざるを得ないよ♦」
ヒソカがため息を吐く。珱嗄とクロゼはあの戦闘狂であるヒソカにそう言わしめるほど、念能力者として相当な実力を開花させていたのだ。異常な身体能力を持った珱嗄と、衝撃透しという技術を極めていたクロゼ。この二人に念能力は他の追随を許さない程相性が良かったのだ。
「よし、じゃあヒソカ。ちょっと俺らと勝負しようぜ?」
「お、試合か」
「話聞いてた?」
珱嗄とクロゼがやる気満々に立ち上がり、対ヒソカ戦を提案する。ヒソカはその台詞を聞いていつも通りツッコミを入れた。だが、珱嗄とクロゼは最早止まらない。
「いつやろうか?」
「今でしょ」
という訳で、善は急げ、思い立ったが吉日とばかりに、試合を組みに行く珱嗄とクロゼだった。ヒソカはそんな二人の背中を見送りながら、ため息を吐き、こう呟いたのだった。
「………はぁ……僕が戦いたくないと思う時が来るとはね……♦」