◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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娯楽×主義

 それからしばらくして、珱嗄達は150階から190階の間を意図的に上がったり下がったりして、目的である実戦経験を積めるだけ積んでいた。中でも、ゲイルを初めとした念能力者との勝負はそこそこ珱嗄に経験値を与える結果となっている。

 さて、今回はそんな珱嗄達がついにその足を190階から200階へと進めようと考え、そこでヒソカによる、珱嗄とクロゼの性質検査を行おうという話だ。

 

 前回、ゲイルとの勝負で『発』にある六つの性質について話しただろう。これは別に六つの内一つだけが使えるという訳では無く、六つの内一つの性質に向いているということなのだ。別に他の五種類が全く使えないという訳ではない。

 そしてその向いている性質を検査する方法が、『水見式』と呼ばれるコップと水と木の葉を使った方法だ。現在、この方法が一番ポピュラーとなっている。

 やり方としては、コップギリギリまで水を注ぎ、その水の上に木の葉を乗せ、そこに『練』によるオーラをぶつけ、その反応をみる感じになる。

 性質毎の結果を記載しておこう。

 

 強化系ならば水の量が増え、コップから溢れてくる。

 

 変化系ならば水の味が甘くなったりと味が変わる。

 

 操作系ならば浮かべた葉が動きだす。

 

 具現化系ならば水の中に不純物が生まれる。

 

 放出系ならば水の色が変化する。

 

 特質系ならば上記以外の変化が起きる。

 

 こんな感じだ。ヒソカの持論だが、この性質には法則があり、その人の性格にも影響があるらしい。強化系なら単純一途、変化系なら気まぐれで嘘吐き、操作系なら理屈屋でマイペース、放出系なら短気で大雑把、具現化系なら神経質、特質系なら個人主義でカリスマがあるとのこと。ヒソカは変化系なので、中々的を得ているのではないだろうか?

 

「じゃあまずはクロゼからやってみようか♦」

「おう」

 

 という訳で、水見式を行うわけだが、まずはクロゼが行うようだ。

 

「フッッ!!!」

 

 オーラ量の少ないクロゼだが、練をする。そして、コップに現れた変化は―――

 

「ふむ……どうやらクロゼは操作系の気があるようだね♡」

 

 ―――葉が動いて水の上からコップの外へと落ちた。つまり、操作系。やはりオーラコントロール力に定評があるクロゼとしては、オーラを操作するという性質が性に合っているようだ。

 それに、理屈屋でマイペース、というのも中々的を得ている。ヒソカの持論も、あながち間違ってはいないのかもしれない。

 

「なるほど……操作系か、まぁこの先は考え方しだいかねぇ……」

「それじゃあ次は俺か」

 

 続いては、珱嗄。ヒソカの考えでは操作系ではないかとなっている。珱嗄はマイペースだし、オーラを広げる円や一瞬で攻防力を上げ下げする流などが得意だからだ。

 落ちた葉をもう一度水に浮かべて、珱嗄は練を行なう。クロゼとヒソカはそのコップを覗きこむ様にして、その結果を見た。

 

「「!」」

「へぇ……」

 

 珱嗄はゆらりと笑い、クロゼとヒソカはその眼を見開いた。

 

「まぁ良いんじゃないの? 中々やりがいがありそうだ……っと、そろそろ試合だ」

 

 珱嗄はそう言って立ち上がり、試合の為に個室から出て行く。ヒソカとクロゼは出て行った珱嗄を尻目に、コップを再度見た。そこには、

 

「なるほどねぇ……確かにオウカにはある種のカリスマ性があるしね♣」

 

 コップが割れ落ち、コップの形に水が凍りつき、その上で葉が炭になった姿があった。つまり、どの性質にも無い変化。それは確実に――――

 

 

 ―――特質系の変化だった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 俺は娯楽(おもしろい)という概念が好きだ。

 

 だからハンターハンターという死がかなり身近にある世界に転生したとしても、特に悲観したりしなかったし、修行という面倒な事をしなければならない状況でも、笑ってそれを行なう事が出来た。

 例え人が死のうが、例え戦いに巻き込まれようが、例え平穏に暮らそうが、例えボロボロにやられようが、例え主人公と出会おうが、例え敵と仲間になろうが、例え自分が死のうが、どんな状況であれ、俺は全てを娯楽として受け入れて行くのだろう。

 

 元々、オレは娯楽が好きだったわけではない。転生をする前は、確かに面白い事が好きだったが、それで死んでも良いと思っていた訳ではない。

 だから、こうして転生した後にこう考えてしまう俺は、何処か精神が壊れてしまっているのかもしれない。

 

 転生前の名前は、仙道桜だった。そして、今の俺は泉ヶ仙珱嗄、名前も身体も違う。精神(こころ)だけが同じ別人だ。昔のオレは死んで、今の俺が生まれた。人格が変化した、というよりは昔のオレの人格が壊れ、その先に俺がいたという感覚が近い。

 

 昔の『オレ』はただ面白い事が好きだった、そして今の『俺』は娯楽(おもしろい)という概念そのものが好きなのだ。似ているようで、まるで違う。

 

 

 だから俺は、こうして転生して生まれた俺は、昔のオレを引き摺ってはいけないのだろう。忘れてはいけないが、引き摺ってもいけない。面白い、楽しい、こんな日々がずっと続いて欲しい、そんな事を思って幸せに生きていた普通の平凡な男子高校生ではもう、いられない。そうしていられる人間でも、環境でも、無くなってしまったのだから。

 

 故に俺は、昔のオレから決別するために、引き摺らない為に、オレが俺になる為に、自分の事をこう表現しよう。面白い『こと』が好きなのではなく、娯楽(おもしろい)『そのもの』を愛し、楽しむ者、そう――――

 

 

 

 ―――『娯楽主義者』と

 

 

 


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