◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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モブ×発

 クロゼは、中々に素材として十分な資質を兼ね備えており、珱嗄やヒソカ同様に戦闘において高い潜在能力を秘めていた。

 故に、彼が念能力の基本的な技術を習得するのに、そう時間は掛からなかった。と言っても、彼のオーラ量は珱嗄よりもかなり劣る。ひょっとすれば、並の念能力者より少なかった。

 だからか、珱嗄が得意とする『円』などの、オーラを広げて行なうような、オーラ量に関わってくる技術はさっぱりだった。その代わりと言ってはなんだけれど、オーラを瞬時に移動させて拳や蹴り等、一瞬の攻撃力や防御力を向上させる技術、『流』にはかなりの適正があった。初めて扱ったにしては、中級者並の精密なオーラコントロールを行なって見せた。

 おそらく、『衝撃透し』の修行で得た攻撃の精密性や衝撃を伝えるという感覚も相まって、かなり相性が良かったのだろう。

 

 結果的に言えば、クロゼは念能力を習得し、尚且つオーラ量の少なさを補って余りあるオーラコントロール能力に長けていたということだ。

 

 そして、そうして成長したクロゼは、すぐに珱嗄達のいる階に追い付いた。やはり、念能力という一般人とは一線画し強力な力は、身体を鍛え、実践を積んだだけの者に混ざるには異色すぎるのだ。

 という訳で、珱嗄とクロゼ、そして珱嗄に合わせて再度一階から上っているヒソカは現在、120階までその足を進めていた。

 

「なぁヒソカ、クロゼ」

「なんだ?」

「何かな♡」

 

 珱嗄達はここまで危なげなく進んできているが、珱嗄には少しだけ不服というか、なんだかなぁ、と考える事があった。

 

「……ファイトマネー、此処までで225万ジェニーになったんだけどさ」

「それがどうした?」

「勝ち進んできたんだから当然の報酬だよ♦」

 

 珱嗄は少しだけ言葉を溜めて、そして少し不満気に言った。

 

「なんか此処まで来るとお金のありがたみって何だろうと思って」

「「あぁ~……(♣)」」

 

 結構くだらないと思いつつも、共感出来る内容だった。命懸けの試合というか、怪我する事もあり得る勝負に勝ってきたのだから、それ位貰っても当然と考えるものの、珱嗄達の様な実力者からすれば、ただ念の使えないそこそこの実力者達を倒して得た金だ。ありがたみのあの字すら感じられない。

 それこそ、一階で152ジェニーを貰っただけであそこまで喜んだ珱嗄なら尚更だ。

 

「しかも、こんな個室まで与えて貰えるときた」

 

 この天空闘技場は100階へ到達すると、専用の個室が与えられる。かなりの優遇体制を取られ、この100階以上に残るのは、至難の技だ。

 

「ま、まぁ……仕方ねぇだろ。そういう場所なんだしよ」

「そ、そうだよ。寧ろそれを当然と思わない珱嗄はその気持ちを大切にすればいいんだよ♦」

「ま、いいか。金は幾らあっても困らねーし」

「「俺達(僕達)の慰めの言葉を返せ(♣)!!」」

 

 120階という決して低くない高さまでやってきた訳だが、そのせいで珱嗄の金銭感覚は若干壊れていたのだった。というか、もう金はあっても無くても別にいいやという結論に至っていたのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 その後、珱嗄達は試合をする事になった。この階になって来ると、ちらほらと念能力者が混ざってくる。上の階に上るに連れて、参加者も少なくなり、そしてその中に念能力を持った人間が増えて行くのは、この天空闘技場のシステム上仕方のない事なのだ。

 珱嗄の相手は、奇しくも念能力者だった。とはいえ、珱嗄が此処に来た目的は『実戦経験を積むこと』。強ければ強いだけ、寧ろ歓迎ものなのだ。

 

「よう、テメェの事は少し前から眼を付けてたんだ。こうしてやり合えるのは嬉しいぜ」

「へぇ、俺はお前の事なんてさっぱり知らないけど……スライムでは終わってくれんなよ?」

 

 お前は俺の経験値なんだから、という言葉は呑み込んだ。この天空闘技場も中盤まで上って来たのだから、そろそろ中ボス程度の経験値が欲しい所だ。

 

「それでは、試合を始めて下さい」

 

 審判の声が響いた後、珱嗄と対戦相手は構えた。

 

「まぁ一応俺の名前を言っておくぜ………俺はゲイル……お前を倒す男の名前だ。頭に刻みこんどけや」

 

 ゲイル。この先、此処でしか出番のない、幸いにも名前を貰ったモブキャラである。

 

「!」

 

 ゲイルは、そのオーラを足に溜め、爆発させるようにして瞬間的に加速した。予想以上の速度で迫って来た事で、珱嗄は少し驚愕する。そして、その珱嗄の作った一瞬の隙に、懐へ潜り込んできたゲイルは目の前で全力で踏み込み、オーラで作った鉤爪の様な武器を横薙ぎに振るった。

 だが、珱嗄は歯をギリッと食いしばりながら、上体を後ろへ傾け、片足でゲイルの腕を蹴り、その攻撃を躱した。そして、そのまま後方へ倒れながら地面に手を着き、バク天を二三繰り返して距離を取った。

 

「………オーラで武器を作った……?」

 

 珱嗄はゲイルの手に精製されたオーラの鍵爪を見て眉を潜める。

 

「まさか……『発』か……?」

 

 珱嗄はその鍵爪に、オーラの修行の集大成、必殺技ともなり得るオーラの技術、『発』を考えついた。ヒソカから聞くには、この『発』には6種類の性質に分類する事が出来、念能力の創意工夫による固有能力へと応用する事が出来る。

 そして、その種類というのが、強化系、変化系、具現化系、操作系、放出系、特質系の6種類。ゲイルの場合は、具現化系となるのだろう。

 

 具現化系とは、オーラを物質化する事に長けた性質だ。ゲイルの様に、オーラで鍵爪という物質を作り出すというやり方があるのだ。

 その他にも、強化系というものの持つ働きや力を単純に強くする性質、操作系という物質や生物を操る性質、放出系というオーラを体外へと飛ばす事が出来る性質、変化系というオーラの性質を変える性質、そして特質系という他に類のない特殊なオーラを持つ性質がある。

 

 ちなみに、ヒソカはこの中の変化系に分類され、オーラを粘着性や伸縮性を持つオーラに変化させる事が出来る。

 

「なるほど……コレが」

 

 珱嗄はまだ、自分の性質が分かっていない。故に、『発』を行なう事が出来ない。だがしかし、だからと言って、珱嗄が確実に負けるという訳ではない。

 

「―――面白い」

 

 珱嗄はゆらりと笑い、ゲイルに立ち直る。ゲイルは珱嗄のそんな笑みと突き刺さる様な威圧感に、強風に煽られた様な感覚に陥った。こんどはその隙を、珱嗄が衝く番だ。

 

「―――くぅっ……!?」

「フッ……!!」

 

 両手に鍵爪を具現化し、珱嗄の接近に対して防御姿勢を取るゲイル、だが―――珱嗄はその両の手刀に『流』で一瞬の攻防力を上昇させ、その鍵爪を力づくで破壊する。

 

「んなっ……馬鹿な!?」

「残念だったなゲイルちゃん――――お前の『発』より俺の『流』の方が強いみたいだ」

 

 珱嗄はゲイルの目の前に踏み込み、止めを刺そうとして――――

 

 

「武器の使用は禁止だ! ゲイル選手、違反により失格!!」

 

 

 審判によって決着が呆気なく付いてしまった。

 

「………えー……」

 

 妙な空気がその場を支配し、試合が終わったのだった。

 


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