◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄と対峙した男は、その名をクロゼと言った。彼も珱嗄と同じく何処かの流派出身では無く、我流での戦闘技術を学んできたらしい。その構えはまるで路地裏で喧嘩する不良の様な荒い構えだった。オーラの動きは一般人と同じものだった故に、珱嗄は鍛えられてはいるもののオーラを使える自分よりはまだ弱いだろうと考えた。
だが、だからこそ驚いた。オーラで身体を纏い、防御力を高めていた筈の自分の身体に、関係無しの打撃を『透してみせた』から。オーラを擦り抜け、珱嗄の皮膚を擦り抜け、内臓までその衝撃を届かせてみせたのだ。
油断していた、甘く見ていた、下に見ていた、軽んじていた、だからこそ、命取りになったかもしれない一撃を貰った。貰ってしまった。
『一撃位は喰らってやろう』
こんな考えを持った事が、馬鹿だった。珱嗄が自分の力を過信したから出た馬鹿で、愚かな考え。
「ぐっ………!?」
内臓をしっちゃかめっちゃか掻き回された様な感覚、鈍い打撃痛よりも、鈍い痛み。分かりやすく言うのなら、股間を蹴りあげられた後、あるべきものが上に上がってきている様な感覚が、胴体部分の内臓でも起こっていた。
「なんだ、随分とまぁ油断してくれたもんだな」
「ケホッ………なんつーか、これが噂の『衝撃透し』って奴か?」
「まぁな、習得するのには案外時間が掛かったが……そのおかげか一撃の精確さと威力には、自信がある」
「ああ、やっちゃったな……ケホッ」
恐らく、念能力者にとってこれほど天敵たる技術は無いだろう。オーラではなく、しっかりと肉体にダメージを透す為の技術。幾らオーラで身体を覆っていようが、幾らオーラで肉体を強化していようが、その衝撃と振動で確実に内臓を抉るダメージを与えるのだから。本当に厄介で、不愉快だ。
「はぁ……面倒だな、その技術」
「まぁコレが通用しなかった相手は、そんなにいない」
「へぇ」
「一撃で沈まなかったのは、アンタが初めてだけどな」
ある意味、珱嗄がこの技術で倒れなかったのは、単に珱嗄の肉体が神様製の強化された肉体だったからだ。おそらく普通の肉体で喰らっていたら、珱嗄はまず立っている事が出来なかったかもしれない。
「ま、結構鍛えてるからね……まぁそれはさておき、試合を続けようか……やられっぱなしは、好きじゃない」
珱嗄はそう言うと、拳を握る。握った後、開いて『手刀』の形へと変えた。
「拳ではやり辛そうだし……やりやすそうな形でやるとしよう」
「……お前、まさか『衝撃透し』をやるつもりなのか?」
「その通り、お前の技術は俺も習得出来る技術だ。ここらでもう少し、引き出しを増やしておくとしよう」
珱嗄の言葉に、クロゼは少しだけ眉を潜めた。何故なら、それだけ自分の技術を軽んじられているからだ。自分でも習得出来る、言いかえればその程度の技術と言われている訳なのだから。
「お礼に少しばかり俺もお前にこの世界にある一つの技術を教えてやろう」
「………良い感じに舐めてくれんじゃねーか。良いぜ、もう一発お見舞いして前言撤回させてやる」
珱嗄は手刀をゆらりと揺らし、クロゼは拳を力強く握った。
「シッ!」
「ふっ!」
一呼吸の間に、珱嗄とクロゼが地面を蹴った。速度で言えば、珱嗄の方が圧倒的に分がある。だが、クロゼはその速度に対応して一撃を当てた実績がある。動体視力と勘の良さで言えば、かなりの域に達している。
故に、珱嗄の接近に対して、クロゼは焦ることなく肉薄した。迫る珱嗄の手刀を体勢を低くすることで避け、珱嗄の鳩尾目掛けて拳を放つ。だが、珱嗄もそれを焦ることなく対処した。
躱された手刀の勢いのままに回転し、その拳に逆の手で作った掌底をぶつけた。本来そうなれば拳と掌底の衝突で鈍い音が鳴る筈なのだが、この場合
――――パァン!
風船が弾ける様な甲高い音が鳴った。それは、クロゼの衝撃透しの拳で作られた衝撃と、珱嗄の模倣した衝撃通しによる衝撃が、衝突の瞬間にぶつかって、行き場を失った結果空気中に弾けた音だ。
「んなっ……!」
「―――オラァ!!」
その事実に驚愕するクロゼの一瞬の隙に、珱嗄は蹴りを叩き込んだ。勿論、オーラを纏わせた蹴り。衝撃透しとは違うが、念能力者でないクロゼにはそれと同等以上のダメージを与える。
「ゴハッ……!?」
「何処かの名探偵的な某Lが言ってたんだけど……一発は一発だ」
勿論、クロゼにその一撃を耐えられる訳も無く、その場でクロゼは気絶。試合は珱嗄の勝利で幕を閉じたのだった。