◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
四次試験が終わった。簡単に言えば、そうなるのだが、結果的に見れば25名もの参加者はおおよそ半分以下にまで減り、最終試験へ進んだ参加者は全参加者約400名中の内、たったの10名。勿論のこと、主人公と名前が与えられている主要キャラ勢は合格、珱嗄もご存知の通りに無事に通過している。
つまり、ゴン、キルア、レオリオ、クラピカ、ヒソカの5名と、珱嗄、そこに他4名を加えた10人だ。
そして、最終試験へと移行する訳だが、またも会場を移動する事になった。例によって、あのバカでかい飛行機で、である。
とはいっても、一週間というけして短くない時間の中で、命がけのサバイバルをクリアした直後な訳で、それはつまり一週間の中ずっと警戒心を高め、張りつめた緊張感の中で精神をガリガリと削っていたという事だ。故に、会場の移動のためとはいえ、飛行機の中で緊張感から解放されて落ち付ける時間がある、というのは少なからず最終試験通過者にとって、安堵と休憩を得る事となった。特に、サバイバルの中で一度でも命の危険を感じた者や、ターゲットが自分よりも強者だった者からすれば、それは顕著になる。
といっても、珱嗄やヒソカといった、今回の参加者の中で一二を争う強者からすれば、そんなに疲労は無く、寧ろ森林浴気分でとても英気を養えたというべきだろう。まぁ、命の危険が一切なく、『円』によって警戒心も最小で済んだ珱嗄にとっては、精神的にも肉体的にも、疲労感というものは余り無かった。
さてまぁ話は変わって、この移動中の飛行機の中で何もしないという訳ではない。最終試験の内容に関わる面接的な物を行なうようだ。マンツーマンで、参加者が順にネテロ会長と一つ二つ質疑応答をするのだ。
今はその面接中。珱嗄は自分の番号が呼ばれるまでの間、ヒソカから聞いた念についての実験を行なっていた。やはり、生身一つで出来る実験というのは余計な準備がいらなくて良い。
「――――ふむ」
珱嗄がヒソカから教わったのは、実践ではなく言葉による知識だけだ。基本的な所で、四大行を、応用的な所でヒソカが見本を見せられるモノを、教わった。
今はそれを実践してみている。
まずは四大行。これは念における基本的な修行法と以前に言っただろうけれど、珱嗄にとってはこの基本的な事を行なうのは、少しばかりコツを掴むのに時間が掛かった。
『纏』については、既に出来ているので問題は無い。他の『練』や『発』については問題はなかった。問題なのは、精孔を意図的に閉じて、オーラを隠し、気配を絶つ技術―――『絶』
珱嗄の場合、その膨大なオーラ量を全て身体の中に押し込めて隠すというのがかなり難しかった。精孔を閉じる事は出来る。だが、閉じ『続けられない』のだ。数秒経てばオーラが精孔を無理矢理開いて溢れ出てしまう。念が使えなかった時は恐らく、精孔がまだ一度も開いた事が無かった故に、無意識に流れ出ていたオーラだけで、内側に眠っていたオーラは溢れ出て来なかったのだ。だが、珱嗄の精孔は一度開いてしまった。故に、再度閉じる事が出来ない。キャップを開けたペットボトルのキャップを、元々の開いて無い状態に戻せない事と同じ様な物だ。
つまり、現段階の珱嗄では『絶』を行なう事は無理であった。
「オーラが多いってのも考えものか……」
とはいっても、珱嗄にとって気配を隠す必要性は特に無いので、今のところは問題はない。そして、次に応用編だが、ヒソカが教えてくれたもので珱嗄が使えるのは『
簡単に応用について解説すると、『堅』というのは『纏』の強化版の様なもので、『纏』に『練』を組み合わせて、より多くのオーラを纏い肉体を強化し、防御力を上昇させる技術。実力者は約3時間以上その状態を維持出来るのが望ましい。珱嗄はそのオーラ量と特典の技術で普通にこなす事が出来た。
次に、『凝』。これは身体の一部分にオーラを集中してその部分の攻防力や感覚を強化する技術。珱嗄が絶対に使えなかった『隠』や『絶』で隠匿されたモノを眼にオーラを集中させると見破る事が出来る。
次に、『周』だが、これは『纏』を自分の身体だけでなく他の物に行なう技術。例えば、武器にオーラを纏わせれば刃物は切れ味や強度が上がるし、シャベルに使えば掘る能力が上昇する。
次に、『流』。これは『堅』の状態のまま、攻撃や防御の瞬間に一部分へ『凝』でオーラを集中し、一瞬の攻防力を上昇させる技術。実力者の戦闘では『堅』のまま戦う事が多いので、こうした『流』で行なう一瞬の攻防力の上昇が勝敗を決めたりする。
まぁこんなところだろう。後は追々登場ごとに紹介しよう。
珱嗄としては、紹介した物は習得する事が出来た。まだ効果や練度は少ないものの、そこはまぁ努力次第だろう。
「―――続いて、100番の方」
「ん……へーい」
珱嗄がしばらくオーラを操作して応用技術の修行をしていると、珱嗄の番号が呼ばれた。忘れているかもしれないが、珱嗄は100番である。
そして、珱嗄は面接部屋に入って、中に鎮座するネテロと視線を合わせ、ゆらりと笑って対面に座った。
◇ ◇ ◇
さて、こうして面談が始まったのだが、ネテロは一週間ぶりに見た珱嗄の姿に眼を丸くした。何故なら、一週間前までは出来なかった筈の、念能力を習得していたからだ。
その証拠に、珱嗄から溢れ出るオーラがしっかりと、『纏』で整っていたからだ。
「……どうやら、この一週間で見違えるように成長したようじゃな?」
「まぁね、こんな技を使ってたとは随分と卑怯じゃないか」
「ほっほっほ、おぬしに言われたくないわ」
念で防御していたにも拘らず、念を使わないで若干喰らうのが躊躇われる威力の蹴りをする存在に、念を使うのがずるいと言われるのは理不尽に思えたのか、ネテロは引き攣った笑みを浮かべてそう言った。珱嗄はそれに気付いていないが、まぁ世間話だ。別に気にするまでも無い。
「それじゃ、さくっと面談を始めようぜ。後ろが
「ふむ、それもそうじゃな。ごほんっ……えー、それじゃあ一つ二つ質問をするぞ」
「おう」
「それではまず、何故ハンターになりたいのじゃ?」
質問。ハンターになりたい理由だが、珱嗄は特に理由は無かった。どう答えたものかと少し考えたものの、まぁ特に考えるべき事でも無いかと思って軽い気持ちで答えた。
「えーとね、新聞でハンター試験やるよーって書いてあったからだ」
「おぬしそれでいいのか? もしかしたら死ぬかもしれない試験受けるの軽くね?」
「ほら、死んでないし?」
「マイペース極まりないなオイ」
ネテロはそう言ってため息を吐いた。珱嗄は苦笑した。
「まぁいい。それじゃあまぁ……次の質問じゃ」
「おう」
「今注目している参加者はおるかの?」
「一次試験で落ちたデブ」
「……なんで落ちた中で言うんじゃ。ちなみに理由はなんじゃ」
「あの後どうなったかなーって思って」
「それ注目違う! 残った者の中で選んでくれ!」
「……んー、じゃあキルア。99番の」
「何故じゃ?」
「アイツ落ちそうな顔してるでしょ?」
「おぬし考え方最悪じゃな」
ネテロのツッコミに珱嗄はゆらりと笑った。ネテロにはその笑みがなんだか、悪人の様に見えた。最初にこの部屋に入って来た時に浮かべた笑みと同じなのに、どうしてこうも与える印象が違うのだろうと疑問に思ってしまう。
「ま、そんな所だ。プラス思考で考えるのならまぁ……53番かなー……ポックルとかいう」
「………………何故じゃ?」
「今それ聞くのすっごい迷ったな」
「聞かんといかんこのシステムに初めて嫌悪感を抱いたぞ」
「まぁ………近いうちにポックリ死にそうだから?」
「名前だろソレ。絶対名前から考えただろソレ」
ネテロは持っていたペンの頭でぽりぽりと額を掻いた。そして再度ため息を吐いた後、次の質問に移った。
「えーと、それじゃあ最後に……一番戦いたくない相手は居るか?」
「いないな。全員倒せそうだし」
「そうか……それじゃあもう良いぞ」
ネテロは予想通りの答えを聞いて少しほっとする。そして、珱嗄にそう言うと、珱嗄はすっと立ち上がってゆらゆらと部屋を後にした。