◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
四次試験は、念の調整というか試しに丁度良いモノだった。所謂、サバイバルゲーム。試験会場にやってきた際に渡されたプレートがあるのだが、それが今回のサバイバルゲームの要だ。
キルアと共に来た俺は、100番。ちなみにキルアは99番だ。三次試験までに残ったメンバーのナンバープレートを、一週間という時間内で、用意された森の中で奪い合い、自分のプレートとターゲットのプレートが各3点、その他のプレートが1点とし、終了までに6点集める、というのが、試験の内容。
今回残った三次試験合格者は、25人。そして、既に試験が始まってから三日が過ぎていた。
というのも、この試験が始まってから三日間はほぼ探り合いの期間だったのだ。直接的に動く者は殆ど居らず、自分のターゲットナンバーを持つ相手を探し、そして相手の手札や情報を出来る限り収集し、確実な対策を練ってから向かう。慎重である事は、ハンターにとってかなり重要な心構えだ。
そして、珱嗄はそんな探り合いの期間の中で、既に規定の6点を集め終えていた。
「いやぁ……やっぱ『円』ってのは便利だね」
珱嗄はまず、初日に森の中へと散らばる参加者を全て『円』で把握していた。そして、散らばった瞬間ターゲットを捕捉、開始10秒も経たない内に瞬殺したのだ。故に、自分のプレートとターゲットのプレートで計6点。無事に合格点を獲得しているのだ。つまり、珱嗄はこの3日間ずっと一ヵ所に留まって『円』を広げ続けていた。その範囲は、珱嗄を中心に半径500m、つまり直径1kmの円を広げられるのだ。三日間ずっと『円』だけをやっていた結果、突出して『円』の感知能力がかなり高くなってしまった。とはいえ、纏やその他の四大行なんかは知識面や経験値の少なさから必要最低限しか出来ないでいるのだが。元々、神様から貰った『強靭な肉体』は強度や筋力は勿論のこと、感覚器官、治癒能力、内臓強度、重力耐性、等々、多くの部分がこの世界の人間よりも上位の領域に足を踏み入れている。
そしてそれはつまり、生命力がずば抜けて高いという事になる。そう、念能力で使用する生命エネルギー、『オーラ』の質が比べようも無く高く、圧倒的に量が多いのだ。
つまり、持てるオーラを出来るだけ広げ、その範囲内なら正確な気配察知が出来る『円』と、オーラ量が膨大な珱嗄とは、抜群に相性が良かった訳だ。オーラ量が多ければ、『円』に回せるオーラの量も上がり、結果的にその範囲が広くなるという事なのだから。
「……まぁ、6点取ったから特に意味は無いんだけど………勿論のこと俺のナンバーを狙ってくるハンターも……いる訳だ」
珱嗄はそう言ってゆらりと笑い、立ち上がる。着物の裾がひらりと揺れた。
そして、珱嗄の身体を風が通り抜ける。そして、その風がぴたりと止んだ瞬間――――
「うわあああああああ!!」
一人の男が突撃してきた。本来ならば、背後からの奇襲だった。しかし、珱嗄はこの襲撃を随分前から察知していたし、どの方向から来るのかもしっかり把握していた。そして、その男は念を使えない。
つまり、
「負ける気がしないな」
珱嗄は短くそう言って、突撃してきた男の手を取って引っ張り、足を払って前のめりに体勢を崩す。そしてそのまま地面に落ちる腹を殴って空中で一回転させ、そのまま地面へと身体を打ち付け、トドメとばかりに珱嗄は仰向けになった男の腹に足を落とした。
「ぐえっ……!?」
「―――ふぅ……まぁ、こんなもんだろ」
珱嗄は敢えてプレートを取らずに男を転がしたままその場を去る。特に欲しい訳でもないし、誰か他の参加者が見つければ好機とばかりに持っていくだろうと考えたのだ。その結果、あの男が蛇や蛭なんかに殺されたとしても、関係無いのだ。ハンターになるとは多分、そういう事なのだから。
「さようなら、名前も知らない誰かさん」
珱嗄はそう言って、もう慣れた風にゆらりと笑った。
◇ ◇ ◇
三次試験で、珱嗄と共に合格したヒソカは、なるべく珱嗄とは戦いたくないと思っていた。といっても、このハンター試験内では、という条件が付くが。
勿論のこと、戦闘狂である彼は強者である珱嗄と戦いたいという欲求はある、のだが……このハンター試験の中で彼と戦うのは恐らく、合否にかなり影響してくるだろうという考えもあった。勿論、強者と戦うのも目的にあったのだが、本当は人を殺しても免罪符としてハンターライセンスが便利そうだからというのもあるのだ。故に、彼としては人を殺す為に受けた試験を、人と殺し合いをして落ちるというのは余りに滑稽だった。
「うーん……とはいえ、僕のターゲットが見当たらないのも少し困ったかな♡」
何故か語尾にトランプのマークを付けるという意味不明でどう喋ってんだと思う、書き手からすれば面倒極まりない話し方をするヒソカだが、やはりその辺の常識は持っていたようだ。
「……というかさっきからオウカの円から抜け出せないんだけどコレどういうこと?」
ヒソカは珍しく汗を一筋流しつつ、困った風にそう言った。