◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
それから一晩明けて、三次試験の会場へと辿り着いた。まぁ見た目で言えば高い塔だった。俺達がいるのはその頂上で、そこそこ風も吹き荒ぶ中だった。
試験内容は単純な物で、制限時間以内にこの塔の一番下に辿り着け、というものだった。どうやら、時間内に一番下に辿り着けば方法は問わないようで、特に説明は無かった。そしてその説明があってからしばらく、どうやって下へと行くか参加者全てが頭を捻っていた。
「とはいえ、随分と人数は減ってるみたいなんだけどねぇ……」
そんな中俺は周囲を見渡しながら参加者の姿が少しづつ減っている事に気が付いた。キルアやゴンもいないことから、随分と出遅れているようだ。
といってもまぁ、攻略方法は幾つかある。まず第一に、塔を破壊して一番下に行く手っ取り早い方法。第二に、地面にある塔への入り口から入って真面目に行く方法とかだね。
「オウカ♡」
「ん、ヒソカか……どうしたよ。もう拗ねてたのは良いのか?」
「君が原因だよねソレ?」
「何のことかな」
「………まぁいいよ♦ それより、君は進まないのかな?」
ヒソカがそんな事を言いながら話し掛けて来た。ふむ、コイツと組むのもまぁいいか。方法は第二方法で行こうかね。
「じゃあ行くかヒソカ」
「え?」
「よっ!」
俺は足元にあった隠し扉を開けて中に入る。ヒソカもその隣にあった隠し扉に叩き込んだ。そして、その先にあったのはそこそこ広い部屋だった。あるのは、ラジカセと床に刻まれた赤いライン。部屋の端と端に一本ずつ赤いラインが刻まれていた。
「なんだろコレ」
「さぁねぇ……でもまぁ、このラジカセを再生してみれば分かるんじゃないかな♣」
「分かってんなら速く流せよ」
「…………♦」
ヒソカは無言でラジカセのスイッチを押した。すると、多少のノイズが聞こえた後、何処か高い女性の声が聞こえてきた。
『はーい! さて、この部屋に居るのは何人かな? アハハッ! どうせ二人なんだけどさっ! 』
「うざいな」
「同感だね♡」
「ヒソカと同じ位」
「…………♠」
ヒソカはもう何も言わない事を心に決めたようだ。俺としてはここまで他人に暴言を言う事はそこまで無かったのだが、どうやら転生したからか若干性格が捻子曲がったようだ。まぁそれも面白いからいいかなって思うんだけどね。
『というわけで、君達にはこれから20mシャトルランをして貰いまーす! 曲が1000往復分流れ終わった時点で生きてたらクリア! ま、精々頑張ってねー! ちなみに、君達を邪魔する
最後の言葉は軽快な口調ではなく、真剣な面持ちのトーンだった。ヒソカはそんな声に楽しそうに笑い、俺はその言葉につまらないなと感想を抱いた。
『じゃ、位置に付いて!』
その言葉と同時に俺とヒソカは赤い線に並んだ。そして、
『スタート!』
曲が流れだす。その曲は、俺が転生前の世界で聞いた事があるドレミファソラシドの音階を流したもの。そこは似てるんだな、と思う。
そして、ヒソカが走りだす。俺は動かない。
「? どうしたの珱嗄? 走らないと失格になっちゃうよ♡」
「馬鹿かヒソカ。この試験は『1000往復分の曲が流れ終わった時生きていたら勝ち』なんだよ。そんで、この赤い線の内側は、所謂セーフティゾーンだ。つまり、」
「そこで1000往復分の曲が流れ終わるのを待ってればクリアってことか♡」
「そういうこと」
ヒソカが戻って来る。俺とヒソカはとりあえず安全領域の中で座って待つ事にした。お互い、動きたい訳でもないし、無理に戦闘を行なう事も無いだろう。
「さて……ヒソカ、お前………なんか変な力使ってるだろ。それの使い方を教えろよ」
「んー……そうだね♡ 僕と戦って、勝ったら良いよ♦」
ヒソカはそう言ってなんというか気持ち悪い笑みを浮かべてくれやがった。なんて野郎だ、死ねばいいのに。と言ってみたものの………戦って、勝てば良いのなら、戦って勝てば良い。お望み通りに行こうじゃないか。それに、この部屋では今でも罠が自動で作動しまくっている。赤い線の向こう側では肉を穿つ矢が、断ち切る剣が、貫く弾丸が、首を刎ねるピアノ線が、足を滑らせる潤滑油が、次々と溢れだし、命を奪う機会が通り過ぎている。
そんな中で、
面白いじゃないか
「良いだろう。掛かって来いよヒソカ、俺の死ぬ日は今日じゃないが、お前の死ぬ日は今日かもしれないぜ?」
ヒソカの提案を呑もう。そうする事で、俺は更に強くなれるだろう。あのネテロの鼻っ面、圧し折ってやれるじゃないか。それに、実践は出来るだけ積むべきだ。
「ハハッ!」
ヒソカは俺の言葉を聞いて笑う。心なしか股間が盛り上がっているし、とんでもなく気持ち悪いな。まぁいい……とりあえず、ここで少し捻ってさくっと教えて貰おう。あの変な力を。
「さ、やろうか」
「じゃあ、まずは小手調べ♡」
ヒソカがトランプを複数投げ付けて来た。実はアレかなりの切れ味を誇る。普通に肉を切断するのだから、どれだけ鋭いのかは予想するに難くない。
なので、喰らう訳にはいかないのだが、赤い線の内側はかなり狭い。躱すには少し厳しいモノがある。故に、
「避けられないなら、斬りおとせばいいじゃない」
俺は赤い線の向こう側に手を伸ばして飛んでくる剣を掴み取った。そして、トランプを躱しつつ斬り落とした。そして、そのまま剣をヒソカに投げ付ける。
「まだまだ♦」
「そう、それだけじゃない」
「―――!?」
「追撃!」
ヒソカが剣に気を取られてる間にヒソカの腕を取る。そして、そのまま罠ゾーンへと放り投げる。
「ぐっ―――!」
「もういっちょう!」
ヒソカは迫りくる罠を全て何やらオーラっぽい物で対処していた。だが、そこに俺は再度剣を拾って投げ付ける。
「お、しい、ねっ♡」
だが、ヒソカはその剣が自身に届く前に向こう側の赤い線の内側へと退避した。
「チッ……そう簡単にはやられてくれないか」
「そりゃそうだよ♦ 僕は負けるのは嫌いなんだ♡」
ヒソカが剣や矢が行きかう向こう側で、そう言った。笑っているのはヒソカだけでなく、俺もだけどね。
「さて……まずはあの力、ちょいと分析してみますかね……」
俺は少しばかり、ヒソカの使ったあのオーラを、解析してみることにしたのだった。曲は丁度、500往復目を超えた所だった。