◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
始まり
何があったのかは分からない。突然唐突にオレはこの場所へやって来ていたのだから。だが、先程まで、何をしていたのかは覚えている。
幼馴染の女子や親友だった男子、一つ下の妹。そこにオレを交えて4人で一緒に遊んでいたのだ。休日だったのを利用して、朝からお祭りかと思わせる位はしゃいで……幼馴染がナンパされたのを妹が金的で退けたり、親友が妹に愛の告白していたのを殴り飛ばしたり、妹がやけにひっついてくるのを苦笑したり、とにかく楽しい時間を過ごしていた筈なのだ。
だが、気づけばどうだろうか? 3人は影も形も無く、オレは何も無い真っ黒な世界にやって来ていた。良くどこかの修行僧とかが心を無にする、なんて馬鹿な事を言っていたが…まさしくこの世界こそ無と言っていいのではないだろうか? そう思わせるほどこの世界は
真っ黒で、何も無かった。
「…どういう事かな…こいつは」
状況確認もままならない。オレはここでどうすればいいのだろうか? 幼馴染達によく「お前は面白い事以外興味を持て」と言わしめたオレだが、こんな世界でどうやって娯楽や楽しみを見出せというのだ。
だが、そこへ一つの声が響いた
「やぁやぁ。良い困惑っぷりだよ。仙道桜君」
振り向くとそこには真っ黒の世界に関わらず、やけにはっきりと見える男の姿があった。みれば、オレの手や身体もはっきりと輪郭を持っていた。
「お前は…誰だ?」
とにかく、現状確認を優先しよう。手掛かりはこの目の前の男しかないのだから。
「僕? 俺は神様だよ。君達の言う所のね」
一人称が定まらないこの男は、自身の事を神とのたまった。まぁ、それならそれでいいのだが…オレの考える神様とは大きくイメージが違ったな。服装だって和服を現代風に改造した様な服を着ているし。人間の文明の進化と共に神様の世界も進化を遂げているのだろうか?
「まぁ、大方合っているよ。私達神は人間が作り出した存在だからね」
「なるほど」
納得だ。じゃあ、何故その神様がオレの目の前にいるのだろうか
「それはね。君が死んでしまったからだよ」
「なるほど」
納得だ。じゃあ、何故オレは死んでしまったのだろうか?
「思ったほど困惑して無いね。いいのかい?死んだんだぜ?」
「まぁ、死んだのなら仕方ないよ。大方、テンプレ通りトラックに轢かれたとかそんな理由でしょ」
「いや、君は歩いていたら某禁書目録のテレポーターよろしく心臓に針が現れて死んだんだよ」
なにそれ怖い。でも、神様が言うのなら間違いは無いのだろう。神に二言は無いとかギリシア神話で読んだ気がするし。
「で、それならそうで良いんだけど。オレはこれからどうすればいいのかな?」
「うん、本題はそれだ。正直、君の死因って現実にありえないだろう?」
「まぁ、そうだね」
心臓に針が転移されてくるとかありえないだろう。オレの世界は魔法も無ければ超能力も無いし、ましてそんな特殊な現象だって起こり得る筈も無いのだから。
「まぁ、ぶっちゃけると…あれはこちらの不手際なんだよね」
「どういう意味だ?」
「神様の世界には人間界に干渉できる物質がまぁ色々有るんだ。それが君の胸を刺し貫いたあの針だ」
「ふむ」
「で、あの針は別に誰が投げたとか、使ったとかそういう訳で君の世界に行った訳じゃない。本当に偶然、針を取り巻く環境が針の効果を発動させたんだ。結果、君は死ぬことになった訳だ」
神様の世界には中々どうして…面白い物が色々あるようだ。是非行ってみたいもんだね。
男子なら一度は考えたことがある筈だ。超能力とか使って見たいなぁとか、魔法が使えたらな、とかね。
「それで、オレはそのせいで死んだからここに呼ばれた訳?」
「そう。今や神様の世界は大慌てだよ。やっちまった!ってね」
「で、これがその対策ってわけ?」
「理解が早くて助かるよ。君にはこれから第2の人生を歩んでもらう」
.
第2の人生…つまり、生き返れるってわけか。それともテンプレ通りに別世界に転生か…まぁ、どちらでもどんどこいって感じだ。どちらにせよ、面白そうだからな。
「まぁ、後者だよ。別世界に転生できる」
「そうかい、嬉しい限りだよ」
「まぁ、転生と言ってもアニメとか漫画の世界だけどね。僕が管理しているのは空想の世界だから」
「なるほど」
てことはこいつは究極のオタクって事に…
「ならないよ」
「そうかい」
「じゃ、転生させるけど……何か希望はあるかい?こういう物が欲しいとか、生まれる環境とか―――能力とか…ね」
にやりと笑い、神様はそう言った。正直…この神様はオレと同じで面白い事が大好きと見える。能力を希望して欲しいって感じに見えるぞ
ならば、お望み通り…能力を貰おうじゃないか。
「じゃ、能力を貰おうか」
「いいね。どんな能力が良い?なんでも、いくつでも、商品はいくらでも揃ってる」
「じゃ、とりあえず……強靭な肉体を貰おうか」
そう、それこそ…拳で地を砕き、蹴りで海を割り、音速以上で駆け抜け、鋭い感覚を持つ強靭な肉体を。
「オーケー。一番良いのを上げよう」
「次に、あらゆる世界の人間が習得出来得る全ての技術を」
全ての人間が、習得し得る技術の全て。生きることから死ぬことまで、声帯模写や危険察知、料理やハッキング、ピッキング…人間が出来る事なら何でも出来る技術を
「オーケー、最高の技術を授けよう」
「匙加減は任せるよ。神様が良いと思う位の物をくれ」
「分かった。君は面白いね、君の転生した後の事はずっと見てるから…安心して楽しむと良いよ」
「もちろん、そのつもりだよ」
オレはカラカラと笑い、神様はケタケタと笑った。笑い方が特殊な2人だと、自分でも思うさ。
「じゃ、行っておいで。仙道桜」
「ああ、ありがとう神様」
世界が真っ白に染まって行き、ハッキリと見えていた神様の姿が光がまぶしくて見えなくなった。そして、視界が光でいっぱいになり、意識を失っているのか…はたまた視界がまぶしすぎるのか…良く分からない状況になった。
そして、眼を覚ました時…『俺』は新緑に囲まれた森の中―――小さな手を握り締めていた。