Belkaリターンズ   作:てんぞー

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現代の王達-1

 オリヴィエ・ゼーゲブレヒトを探す。

 

 このミッドチルダという世界にいる事は間違いがないのだ。なら後はその場所を特定するだけになる。そしてその作業は―――個人的に言わせて貰えば、そう難しくはない。第一にオリヴィエ・ゼーゲブレヒトという女が特徴的過ぎる。彼女の遺伝子からクローンを生み出したのであれば、いくつか特徴的な要素が残る。それをベースにオリヴィエ・ゼーゲブレヒトの継承者を探し出せばいいのだ。そう難しい話ではない。クラウスとハイディがそうで、自分とエレミアがそうであるように、髪色は濃く遺伝する。同時に赤と緑のオッドアイもオリヴィエのクローンであれば、まず間違いなく発現しているし、最後に証拠となる虹色の魔力(カイゼル・ファルベ)を纏っていれば確定だ。場合によっては特徴のどれかが外れているかもしれないが、最低限二つ満たす様であればかなりいい線行っているだろう。少なくともオッドアイに関してはオリヴィエの遺伝的特徴だ、これはまず外れない。

 

 ここまで特徴を確認したら、ミッドの総人口の中からオッドアイの人間を情報屋にリストアップさせる。そこから金髪に絞り込めば、かなり狙えてくるが、ここからさらに情報を絞って行く。判断材料は簡単に手に入るのだから、難しく考える必要はない。

 

 数年前に発生したJS事件にてゆりかごが浮かび上がった―――アレの起動にはそもそも聖王家の血族が必要だ。だから可能性とクローンがこの時期に生み出されたと判断し、使用されたと考える。そうなるとこの事件にかかわった人間の周辺に身柄が渡った事考えるのが自然だ―――一次保護、或いは護衛、間違いなくオリヴィエ・クローンと一回接触しているだろう。だから主要人物を中心に、その周りにオッドアイで金髪の少女の姿がないかを調べて行けば―――見事ヒットする。

 

 予想通り、彼女は存在した。情報屋から見事に獲得できた彼女の写真はおそらくは十五、十六程の少女のものであり、緑と赤のオッドアイを持ち、金髪のサイドポニーという髪型をしていた。データではなく写真という形で受け取ったそれを懐へと滑り込まさせ、そして確信する。

 

 ―――この子がターゲットである、と。

 

 

                           ◆

 

 

 場所はミッドチルダ北部―――ここにはベルカ自治区が存在する。ベルカは一度、古代の騒乱によって滅んでいるが、その文化は散った民によって再興され、そして聖王教会都市という形で復興を果たし、ミッドチルダの中でも大きな土地を得ている。次元世界にを跨ぐ様に広がる聖王教会の勢力は広がっている。重要なのはこのベルカ自治区には聖王教会関連の学園や施設が多く存在し、

 

 また、件の少女もここにある学園に通っているとの事であった。

 

 ミッドチルダ北部―――ベルカ自治区、距離は数キロあるが、それでもダールグリュン邸が存在する事を考えれば、意外と近い場所にいたらしい。そのことに対して少々間抜けだったと思わなくもないが、これもまた()()なのだろう。誰かが、或いは世界が()()()()()と告げている様な、そんな気さえする。

 

 ―――灰色のパーカーのフードを被り、口にパイプを咥え、両手をジーンズのポケットに入れた状態で朝、ザンクト・ヒルデ魔法学院の校門近くを、適当な民家の壁に寄りかかりながら気配を消して観察する。普通の登校風景がそこには見えた。口から煙を吐き出そうとも、気配を殺している限り、誰もこちらに気付くような事はない。一切気にする事も疑問に思う事も、そんな事はなく真っ直ぐ学院の敷地へと向かって歩いて進む学生達の姿が見える。小・中・高等部がそろっている上に学士資格まで最終的に取得可能なこの学院はかなりの規模を保有しており、学院へと向かう学生の姿は幼い子供から、大学院に通う大人の姿まで、多種多様に入り混じっている。それを眺めながら、

 

 ふと、自分とジークリンデが手を繋いで登校している風景を幻視する。

 

 給食には何が出るのだろうか、宿題はどんなだったのか、次の授業の準備をしたり―――そんな日常を幻視し、振り払う。ジークリンデだけでもせめて、学校に通わせてあげたかった、という気持ちはある。だがジークリンデには欠片も学校に通う気持ちはないし、俺ももはや通う様な年齢も通り過ぎた。モラトリアムの時間はもう終わってしまった。辛い現実と戦わなきゃいけない時間がきてしまったのだ。

 

「ま、未練だわな……」

 

 口から煙を吐き出しながらパイプを咥え直す。パイプに詰められた葉が燃え、そして精神の鎮静効果を持ったそれがゆっくりと心を泥沼の底へと沈めて行く―――ヴィルフリッドの意志と共に。やかましい先祖の声を完全に抑え込みながら。薬は悪くない。あまりやかましい時は強制的に意識を沈める事が出来るのだから。そう思いながらしっかりと、校門を抜けて学院内へと進んで行く姿をチェックする。既に写真の姿は脳裏に焼き付いている。だから一々確認する必要はない。気配を消して背景に紛れ込みながら静かに確認をしてゆく。

 

 ―――その中で、強い気配を感じるようになる。

 

 明らかに高い魔力を持った存在が一定の距離を開けながら歩いている。集団ではなく、それとなく距離を開けながら陣形を保つ様に接近している―――護衛の基本形だ。付かず離れずの距離を維持しながら見守る為の陣形、感じられる気配は三人ほどで、その中に一人、突出して強い者がいるのも感じられる。ガードが厳重だなぁ、と思いつつ特に何かをする訳でもなく、そのまま静かにパイプを吹かしながら民家の壁に背中を任せながら登校風景を眺めていれば、

 

 ―――その姿が見えた。

 

 St.ヒルデ(ザンクト・ヒルデ)の制服に身を包んだ、金髪でサイドポニーの少女の姿が見える。ロングツインテールの子と、そして東方の雰囲気を持つ黒髪の少女と共にSt.ヒルデの高等部の制服に身を包んだ彼女はまっすぐ、校門へと向かって歩いていた。左目の緑目と右目の赤目を確認する。それは間違いなくオリヴィエ・ゼーゲブレヒトと同じ瞳の色で、遺伝的特徴を兼ね備えた少女だった。何よりもクスリで沈めていたヴィルフリッドが倦怠を引き裂く様に目覚めようとしていたのが何よりもの証拠だった。オリヴィエの姿を思い出し、そして重ねてみれば成程、と納得できる。彼女にはオリヴィエの面影がある。どことなく似ている感じはする。

 

 ただ、

 

「―――これはあんまりだろう……」

 

 制服の下からでもこれでもか、という程に強調されるその豊かな胸の存在が悲しすぎた、憐れすぎた。主にオリヴィエが。オリヴィエは両手が存在しなかった事からある種の発育不良に見舞われており、その最たるものとして身長は伸びず、そして胸の発育も非常に悪い―――簡単に言ってしまえば凄まじい貧乳だったのだ。なおヴィルフリッドも大きくはなかったのだが、多分それが理由でクラウスには女としてさえ気づかれなかったのだろうと思う。それにしても高校生にはとても見えないサイズの胸なのだが―――アレか、もしかして貧乳のまま死んでしまったから来世では、とかそういうノリだろうか。

 

 それにしてはジークリンデの胸、そこまで大きくないのだが。いや、育ってるのだがぶっちゃけヴィクトーリア程じゃないというか。

 

 そこまで考えた所で、ここで考える事でもなかったなぁ、と思い出す。ゆっくりとパイプを口から離し、煙を吐き出す。無論、見えないが護衛がちゃんと存在している。それ故にしっかりと気配を殺したまま、ゆっくりと気取られないように動き、再びパイプを咥え直す。が、何かを感じ取ったのか、彼女は此方へと視線を向けた。そしてその両目で此方を軽く捉えた為、とりあえず軽くだが頭を下げた。それに反応する様に彼女も軽く頭を下げ、学友と共にそのまま学院の校門を抜けて行った。

 

「まさか気を向けられるとは思わなかったな―――流石ヴィヴィ様、って所か」

 

 いや―――今はエース・オブ・エース高町なのはの娘、高町ヴィヴィオか、と胸中で呟く。これでJS事件に巻き込まれたのがヴィヴィオであるとほぼ確定出来た。そしてヴィルフリッドの反応を見る限り、おそらくはこれで正解なのだろうとも思う。彼女こそがオリヴィエ・ゼーゲブレヒトの現代の姿なのである、と。そうなってくると重要なのは果たして彼女がこちらの事を覚えているのか―――過去の記憶を継承しているのかどうかだ。

 

 エレミアを、イングヴァルトを覚えているかどうか。それが重要な話になってくる。それとこれでは問題が異なってくるからだ―――覚えているのなら、一番めんどくさいパターンに突入する。その時は本当に殺さなくてはいけなくなる。ハイディが暴走するようならハイディも殺す必要がある。そうやって血脈を断てば二度と蘇る事も、継承される事もない。それを祈るばかりだが、

 

「さて、どう動くかなぁ……」

 

 間違いなくヴィヴィオに対して接触しないといけないが―――おそらく、普通に接触しようとしたところで出来るわけがない。クローンとはいえ、ベルカの、聖王教会の信仰対象なのだから。こっそりと隠形を維持しつつ護衛しているベルカ騎士の存在を察知すれば、それぐらいは解る。こうなってくると出来る事は非常に限られてくる。取れる手段は色々とある。まずは学校に潜入して接触する事、次は誘拐するとか。

 

 ただ、一人でそれをやるとなると、どこか面倒な事になってくる。まず間違いなくチェックが入ってくるのだから。

 

「どうしたもんかね……やっぱ襲うか?」

 

 夜、襲いかかる様に試すのが一番手っ取り早いとは思わなくもない。そうなると完全に姿を隠す必要が出てくるが―――まぁ、個人的な趣味として一番楽しい手段ではないかなぁ、と思わなくもない。んじゃ、計画でも立てるかねぇ、と口の中で呟いて離れようとしたところで、

 

 ―――通学路を歩く姿を見る。

 

 一人、静かに、St.ヒルデの高等部制服に身を包んで歩くのは見覚えのある緑髪の少女―――ハイディの姿だった。制服姿に身を包んだ彼女の姿を見て、似合うなぁ、と軽く和みつつ彼女もSt.ヒルデの生徒だったのか、と軽い驚きを感じ、その姿を眺めていると、後ろから歩いてくる複数の生徒の姿が見えた。おそらく年齢はハイディと変わらないだろう数人の少女は後ろからハイディの事を指さすと、軽く嗤う様に仕草を取ってから歩くペースを上げ、その背中姿に追いつく。あまり、いい気配がしないなぁ、何て事を思っていると、

 

 ハイディに追いついた少女達が後ろからハイディにぶつかり、その姿を道路に転ばせた。

 

「あら、ごめんなさい。少し急いでいたの」

 

「……いえ、大丈夫です」

 

「そう、それじゃあね」

 

 くすくすと悪戯が成功したような喜びの声を漏らしながら少女達はハイディを助け起こす事もなく、そのまま校門へと向けて走り去っていった。ハイディへと放った言葉は明らかな嘘であり、どこからどう見ても最初からハイディを転ばすこと以外の意図は見えなかった。転ばせた後もまるで気にする様な姿は見せなかった姿―――これが噂のイジメかぁ、と納得する。そして同時に、そんな被害に合っているハイディが何もしないのが不思議だった。

 

 転んだ拍子に背負っていたカバンが開いてしまい、その中身が道路に零れていた。それをハイディは集め、カバンの中に詰め直していた。その姿を見て、溜息を吐く―――なんでヴィヴィオの事を探りに来ていたのに、こんな事をしているんだろうか。そう思いながら、

 

 足はハイディの所へと向かっており、カバンに筆記用具などを入れ直した彼女へと向け、手を伸ばしていた。ハイディはパーカーのフードを被っている此方の姿を見て、気配を察し、驚くような表情を浮かべた。

 

「……もしかして、ヨシュア、ですか?」

 

「何時まで転んでるんだ、さっさと起き上れよお前も」

 

 ハイディへと手を伸ばし、その体を大地から引き揚げ、立ち上がらせる。それに小さくありがとうございます、とハイディは声を放つと、転んだことによって付いた埃をはたいて落とし、改めて此方へと視線を向ける。

 

「えーと……その気配が一緒ですし……ヨシュアでいいんですよね? 一体ここへ何しに来たんですか?」

 

「無論制服姿の女の子を視姦しに―――あ、いや、冗談です。冗談だからそんな視線を向けるなよ。俺、そこまで飢えてねーから!」

 

 突き刺さるハイディの視線を受け流しながら、学園の方を指さす。

 

「オラ、予鈴が鳴る前に教室へと急いだ方がいいんじゃねぇのか?」

 

「あ……そうでした。えーと」

 

 ハイディが走り出そうとする前に、此方へと振り返りながら何かを言おうと、言葉を求めている。だからその姿を見て苦笑し、

 

「昼休みになったら話したい事があるから、その時にな」

 

「はい。それではまた後で」

 

 振り返り、校門へと向けて走って行くハイディの姿に小さく苦笑しながら、これは同時にチャンスだとも取れた。

 

 ―――彼女を上手く利用すれば怪しまれずにSt.ヒルデに侵入できる。身分はハイディが保証してくれる。

 

 そんな事を考えながらも、

 

 どうにも、先ほどの光景、放置しておくには尻の座りが悪かった。ヴィルフリッドもなんだか情けなさに少々いつもとは違う方向に嘆いている様な、そんな気がする。もしかしてクラウスのヘタレっぷりは現代まで遺伝しているのかもしれない。そんな事を考えながら一旦St.ヒルデへと背を向けて、歩き出す。

 

「昼まで適当に時間を潰すかねぇー……」

 

 呟き、脳裏にヴィヴィオ、オリヴィエ、ハイディの姿を巡らせながらどうするべきかを考え、歩いた。




 ヴィヴィオ(大)のお胸大き過ぎね? オリヴィエとか言う人が憐れでしょうがないんですけど。一番憐れなのは隠してもいないのに女として認識さえされなかったヴィルフリッドなんだけどね。まぁ、このお話は全体的にvividの闇を深くしている感じだから余計ひどくなってるところあるかもだけど。

 それにしても大人ヴィヴィオや大人アインハルト(ハイディ)の活躍するssってないよなぁ、基本的にロリだし。ロリだと一切食指が動かないんだよなぁ……。これみたいに年齢ズラして原作とかないかな。

 無印なのはをStsの年齢で、とか発想としては面白そう。

 ともあれ、次回は学園潜入。原作vividでも思ったけどお前ら同じ学校にいるのに何で気づかないん?

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