Belkaリターンズ   作:てんぞー

28 / 30
修羅舞踏-4

 カルナージの空港は小さく、そして乗客のほとんども自分たちが占めていた―――当たり前だ、そもそもカルナージは無人世界であり、観測班や監視を抜けばほとんど人が住んでいない。ここにいるのはなのは達の知人であるルーテシアとメガーヌという人物らしく、それを除けば管理局の観測班ぐらいだろう。今回の旅行にベルカの騎士の護衛はヴォルケンリッターが二人も参加している事から存在しないし、安全性は保障されている。そういう訳で空気を完全にお葬式状態にしてしまった手前、少しだけ居心地の悪さを感じており、飛行機が着陸してからは全員を押し出すような形で空港から押し出せば、たちまち気力を回復させる。だろう。そんな事を思いながら空港を歩く左側には人の感触があった。

 

「……」

 

「一緒です!」

 

 左側へと視線を向ければ飛行機から降りた直後、腕を絡めてきたヴィヴィオの姿があり、その反対側の腕はハイディの腕と絡んでおり、ヴィヴィオが中継ぎをする様に自分とハイディの姿を繋げていた。まだまだ目元は泣いた跡で少しだけ、赤く腫れているが、今では笑みを浮かべている。本当に子どもの様な奴だなぁ、とは思いもするが、実際のところ、自分やハイディが精神的に老成しすぎているだけの話だ。むしろヴィヴィオぐらい能天気なのが普通の子供なんだろうとは思う。まぁ、それにしたって次元世界では老成した子供がそれなりに比率としては多いのは事実なのだが。

 

「なぁご」

 

 ケージから解放された猫が自業自得だと言わんばかりに軽く笑うような声で鳴き声を響かせたのがやけに印象的だった。

 

 

                           ◆

 

 

 ターミナルを出てエアポートバスに乗って一時間ほど大自然に囲まれながら進むと、やがて陰鬱な雰囲気はその景色の前に完全に吹き飛んでいた。バスから降りて更に歩く事十分ほど、道がなくなって切り開かれた草原に木製の大型ロッジの姿があり、その前で紫髪の少女が大きく手を振りながら立っていた。

 

(エリオ)がないなら帰っていいよ―――!」

 

「畜生にしか気に入られないのかアイツ」

 

 第一声から狂気を感じさせる発言から、小走りで追いついたピンク髪―――キャロのドロップキックが決まって紫髪の少女、ルーテシアが蹴り飛ばされた。恋敵やってるんだなぁ、とどこかホンワカとしつつ、何時になったら俺とハイディは解放されるんだろうか、と横で笑顔のまま腕を組んだヴィヴィオを素早く確認し、視線を他の男共へと向ける。

 

 エリオはそんな場合じゃなかった。

 

 ザフィーラはいつの間にか小型犬になって首根っこで掴まれて運ばれていた。

 

 ―――もしかして男子の立場ヤバイ? そんな事実に今更ながら気づかされる。

 

 そんなことを考えながらもロッジに近づけば、営業スマイルを浮かべたルーテシアが片目で野獣の眼光をエリオへとむけて放ちながら、口を開いた。

 

「皆ようこそカルナージへ! (エリオ)だけ置いて帰っていいよ!」

 

 ロッジの扉が開いて虫人の様な存在が出現し、ルーテシアを掴むとそのままロッジの中へと引きずって連行して行き、入れ替わる様にロッジの中からルーテシアの母であるメガーヌが出現した。

 

「娘がやんちゃやんちゃで……本当に申し訳ありません。それはそれとしてようこそカルナージへ、長旅お疲れでしょうし、まずは部屋の方へ案内しますね」

 

「どうも、メガーヌさん。数日間お世話になりますね」

 

「いえいえ、此方も―――」

 

 既に顔見知りらしいなのは達一部の年長者は直ぐメガーヌへと近づき、そのまま話を始めるとロッジの中へと進んでゆく。自分達もそのままヴィヴィオに引っ張られるような形でロッジの中に入って行く。ロッジの内装は広く、それこそ普通に客商売が出来そうなほどに整っており、宿泊施設でも開けばいいんじゃないかな、と思える程まともなロビーが存在し、カウンターに置いてあった鍵を取ると、メガーヌがそのままロッジ内の案内を始める。遊技場、露天風呂、そして男子部屋、と順に案内をしてもらう。男子部屋に到着した所で組まれた腕から逃げ出そうとするが、意外とがっちり腕をからまれており、

 

 面倒なので、気配を殺してから猫を拾い、自分の腕と入れ替える様に猫を変わりに挟み込み、脱出した。

 

「……」

 

 信じられないものを見るような目を猫が向けてくるが、それを無視してそのまま男部屋の中へと入り、ショルダーバッグを部屋の隅のほうへと投げ捨てながらおいてある二つの二段ベッドを確認し、

 

「いっちばぁ―――ん!」

 

 軽いステップから跳躍し、壁に足をつけたらそのまま壁を歩いて二段ベッドの上へと到着し、壁から足を外してベッドの上へと着地、そのまま寝転がる。軽く見た感じ、普通に宿泊施設として取れるロッジの一室、そのままな感じだ。特に不満のない、いい部屋だ。それに二段ベッドはあんまり使った経験がない。個人的には割とこの時点で満足している。そんなことを考えながら二段ベッドから首を出して下へ視線を向ければ、エリオとザフィーラの視線がこちらへと向けられていた。

 

「えーと……本当に魔法、使ってないんですよね……?」

 

「俺はな。魔法使わないほうが強いからな」

 

お前ら(エレミア)は何時もどこか突き抜けたやつが一人いるよな」

 

「そういう一族だからな」

 

 よっこらしょ、と声を零しながら頭から落ちるようにベッドから落下し、逆さまに倒立するように着地し、軽く両手で体を跳ね上げて両足で着地する。そのまま軽く体を右へ、左へと捻る様に動かしてから拳を握り、短く振るう。やっぱり移動時間が長く、体が活動を求めている。せっかく猫を連れてきたもんだし、今日はいつもと違うことに挑戦するのもオツなのかもしれない。

 

 この程度のことで気分を良くするのだから、自分も安い男だなぁ、と考えていると、エリオの声が思考を中断するように入り込んできた。

 

「今まで魔法を使わずに戦う人は見た事がないんですけど……辛くありませんか?」

 

 辛いか辛くないかで問われれば、

 

「勿論辛いさ。だけどこいつぁ俺が事故で使えなくなったわけでも、特別な事情があってやってるもんじゃねぇ。俺が俺自身に対して与えた強くなるためのルールみたいなもんよ。どっかの白い魔王みたいに遠距離引き撃ち高高度、ってコンボをやられるとものすごくめんどくせぇけど、そういうのに以外は俺、安定して即殺してるぜ」

 

 まぁ、と言葉を置く。

 

「―――今、オフトレに来ている連中に負ける気はしねぇな」

 

「……ほう」

 

 ザフィーラから好戦的な声が漏れた。ザフィーラへと気配を向ければ、エレミアの記憶にあるザフィーラよりも存在としての、()()としての密度が落ちているように感じられる。だけども、その肉体は鍛錬を欠かさないようにしっかりと磨かれ、闘志も研がれた刃のように鋭く感じる。なんてことはない、ザフィーラは生物に近くなっている。それだけの話だ。兵器だった頃よりも間違いなく()()()()()()()と自分は思う。

 

 だが強くなっているのは彼だけじゃない。

 

「どうだ、軽く体、動かしてみるか? まずは柔軟からの技術交流って感じで」

 

「悪くないな。数百年の間にお互い、どういう風に技を磨いたのか、それを語り合ってからでもいろいろと遅くはないだろう」

 

 結構乗り気だなぁ、とザフィーラの反応を見て思う。しかし良く考えれば乗り気じゃなければそもそもここまで来ないだろうと思いつき、当たり前の話だったよなぁ、と理解する。そこでじゃあ、とエリオが声を漏らす。

 

「すぐ傍に運動用のグランドがあるのでそこへと行きませんか?」

 

 

                           ◆

 

 

 どうやらメール等でルーテシアがしきりに自慢などをしている為、構造や場所についてはエリオがよく知っているらしい。これなら態々ガイドを読んでくる必要はないな、と考え、エリオの先導に従って部屋を出て、そのままロッジの外へと向かって行く。

 

 エリオの言う通り、トレーニング用の設備も非常に充実している、と言えるレベルで用意されており、自分が知っているダールグリュン邸の庭よりも広く、そして本格的に戦闘訓練を行える広場があった。どうやらシミュレーター機能搭載の様で、DSAAで標準となっている擬似戦闘プログラムのほかに環境再現プログラムも搭載されているようで、かなり自由が利くようになっているらしい。

 

 正直、羨ましい話だ。これで想像できる限り一番険しい環境を再現し、そこに引きこもれば武者修行の旅なんて―――なんてことも思わなくはないが、今は今、と切り捨てて、ザフィーラと相対する事にする。

 

「環境設定はどうしますかー?」

 

「障害物が多いとヨッシー有利になる」

 

「逆に開けているとザッフィーの方が有利になるな」

 

「二人とも半ば殴り合う様に名前を言い合うのやめません? なんでそんなに喧嘩腰であだ名を言うんですか? というか僕にどうしろと……」

 

 これも友情の形の一つだ、なんて言っている間にエリオが適当に環境設定を終わらせる。シミュレーターによって再現されたのはごつごつとした岩肌、山の斜面だった。足元の大地が盛り上がり、斜めに大地が傾きながら岩石がそこら中にあるが、多すぎず、少なすぎずといった感じに存在している。まぁ、これならある程度はフェアだろう、とは思う。しかしここまで環境を再現できるのはすごい技術だと関心を抱く。

 

「クラッシュシミュレーターも起動したのでよほどのダメージじゃない限りは大丈夫ですよー!」

 

 エリオのその言葉にはぁ、と息を吐く。

 

「便利になったもんだわ……」

 

「俺もそう思う……が、悪い事ばかりではない」

 

 そう言いながらザフィーラが足元を確かめるのを見た。しっかり大地を踏み、身体を固定するように靴裏で斜面を踏み潰し、感触を確かめる姿が見える。それを見て、さて、と小さく息を吐きながら武器が手元にない事を思い出しつつ、

 

 ―――足元の小石を蹴り上げ、右へと全力で投げ飛ばした。

 

「―――」

 

 瞬間、一瞬だけザフィーラの意識がそれを追うのを察知し、息をするよりも早くその意識の虚へと潜り込み、不安定な岩肌の斜面を全力で疾走する。慣れていない人間であれば転びそうになる事もあるだろう。だが己には確固たる山での踏破の経験がある―――それが山でのフリーランニングの仕方を体に伝える。

 

 故に一切のロスもなく、躓く事も何もなく、一瞬で落下するように、滑空する様にザフィーラへと到達する。そのまま迷う事無く着地で踏み込んだ右足を軸に体を前へと押し出す慣性をそのまま右手の掌底に乗せ、流れる様にそれをザフィーラの胸へ、最初は脱力した状態―――当てる寸前に力を籠め、肩、肘、手首、指関節を通すように衝撃を”押し込む”。

 

 ザフィーラの体を抜け、衝撃が反対側へと抜ける。

 

 が―――その肉体が硬い。

 

 押し込むように放った掌底を受けてもなお小動もしない。それはまるで鋼の塊を叩いたような、そういう類の感触である。そしてそれには覚えがある。

 

 蛇腹剣、或いはスネークソードと呼ばれる剣がある。

 

 伸びればリーチも長く、自由に動く武器ではあるが、それを戻し、完全に合一させている間は通常の剣同様の高い強度を見せる―――ザフィーラがやっているのはそれと同じことだ。

 

 肉体を締め上げ、筋肉で体を包み、抑え、そしてガッチリと固定し、押し込んだ衝撃をそのまま殺すように”強度で耐える”やり方だ。故に押し込まれた攻撃を完全に殺すように耐えきったザフィーラはこちらの攻撃後のわずかなゆるみを強制的に生み出し、戦闘のリズムを破壊する様に踏み込み、此方の軸足を逃がさないように踏み潰す。実戦であればそのまま足を踏み抜いて破壊する動きだが、クラッシュシミュレートでやっているせいか、そこまでの破壊力はなく、

 

 しかし、此方の逃亡を許さない。

 

 故に踏み込みのなく放ってくる拳に対して最小限の動きで指先で拳に触れ、クッションにする様に関節を折りながら殺す勢いを増やし、それをそのまま横へと弾く様にもう一歩、あいている足で踏み込みながら、肩からザフィーラの胸板へと踏まれている足を背後へと押し出すように体を前へと突き出し、

 

 体当たりをする様に下からザフィーラの体を押し上げ、物理的に踏み込みを無効化し、衝撃を利用して体を後ろへと滑らせる。

 

 それを阻むようにザフィーラの左腕が伸びる。指先が拳ではなく爪の様な、フックの形をしている。それは体ではなく、服装を狙ったものが目に見えている。

 

 故に上着の袖に指が引っかかり、突き抜けるのと同時に倒れこみながら足元の砂利を顔面へと蹴り上げつつ、上着を抵抗する事無くするり、と抜けて体を倒す。

 

 腕が降りぬかれるのと同時に上着が眼前へと引っ張られ、砂利から守る様に広がる。その瞬間に大地に背から着地し、両手で大地を掴んで蹴り上げる様に倒立、後ろへと体を飛ばしながら両足で着地する。

 

 見事にそれを片腕で防いだザフィーラが上着を投げ捨てるのを確認しつつ、再び大地の感触を足裏に―――久々の強敵の気配に血を滾らせ、踏み込んだ。




 気分転換がてら久しぶりの投稿というかなろうと合わせて本日は二作品目の更新だこれ。まぁ、なにはともあれ、

 基本的にザッフィーってなのはだと空気な場合が多いので、少しはカッコいい方がいいんじゃないの? という事で。あ、あとインドでリアルで牛に追いかけられたトラックに飛び乗って逃亡しました。怖い。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。