Belkaリターンズ   作:てんぞー

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英雄完全殺害マニュアル-4

 一メートルほどの柄の先端に金属の塊がついている鈍器―――メイスを軽めに握りながら、右足から踏み込み、下から振り上げるようにしつつ、握る手に力を込める。反応するようにヴィヴィオは回避ではなく、片足と両腕を交差させる事によって防御を固める。だがそれで威力が殺せるわけもなく、メイスにはじかれた衝撃によってヴィヴィオのからだが後ろへと押し込まれてゆく―――()()()()()()()()()()()()だ。魔法で身体を強化していなければとっくに骨は折れている。魔法で強化して折れないレベルで徹しを調整している。だから精々骨に衝撃が伝わる程度にしかダメージは通っていない。くらい続ければそれで一時的に神経が衝撃から麻痺するものだが―――今は関係ない。

 

 ヴィヴィオを三メートルほど後方へと押し込み、その姿勢が安定する前にメイスを前方へと投げ、ヴィヴィオがそれを腕ではじく間に近くに落ちていた槍を蹴り上げる。それをつかみ、左半身を前に見せるように構え終わった瞬間、ヴィヴィオの姿勢が安定し、一気に踏み込んでくる。が、それを牽制するように縦に斬る。ヴィヴィオはそれを後ろへと軽くスウェーしながら回避し、その反動で体を加速させ、前に出る。

 

 その瞬間に合わせるように斬りつつ小さく円を描いた矛先を薙ぐ。それをヴィヴィオは敏感に反応し、片手でガードするように防ぐ―――瞬間、突き出された槍が一瞬でヴィヴィオの喉に到達し、動きを止める。

 

「ハイ、ストップ、っと。ここまで。一旦休憩いれっぞ」

 

「はぁーい! ……ふぅ、一発も入らない……」

 

 黄昏るような表情を浮かべてヴィヴィオが溜息を吐くと、休憩を入れる為に持ち込んだスポーツドリンクの補給へと向かう。その恰好はインナースーツに白いジャケットのバリアジャケット姿だ。途中から無強化、魔法なしの状態だと話にならないのが発覚したのだ、魔法込みで反撃の許可をヴィヴィオに出した。だがこれがその結果だった。

 

 今のところ、ヴィヴィオは格闘のみで反撃しているが、一撃さえ体に掠らせる事が出来なかった。此方がヴィヴィオの様な超人を殺すことに慣れているのも事実の一つだが、それ以上にヴィヴィオの動きに関しては問題があった。だから槍のストレージデバイスを軽く回転させ、片手で振り回してから床に突き刺し、それに寄り添うようにヴィヴィオへと視線を向け、口を開く。

 

「―――ひっでぇ悪癖があるな」

 

 ヴィヴィオが驚いたような表情を浮かべるが、ヴィヴィオ以上になのはがそれに食いついた。

 

「本当に?」

 

「インファイターやるなら致命的なんじゃねぇかな」

 

 いいか、と少しだけ勿体ぶる様に言葉を置く。少しだけ間を開けて、ヴィヴィオとなのはが此方へと集中する時間を作り、それからゆっくりと言葉を放つ。

 

「―――ガードのし過ぎだ」

 

 ヴィヴィオはその言葉に首を傾げるが、なのはは理解したようにあぁ、と小さく声を発し、そして認めた。

 

「たぶん私が原因かなぁ……フェイトちゃんだと参考にならないし」

 

 苦笑する様ななのはの声にヴィヴィオがやはり首を傾げる。ヴィヴィオにはいったいどういう事なのか、話が通じていないらしい。だから再びいいか、と言葉を置く。馬鹿にするみたいだが、教えるなら徹底的に―――基本的な要素から話した方がいいだろう。なのはの方に視線を向けると、此方の意図を理解してか、首から下げているペンダント型で待機しているデバイス、レイジングハートに一言、言葉を送ると此方の正面にホロウィンドウが出現する。それを引っ張って大きくさせると、ホワイトボード代わりになる。

 

「いいかヴィヴィオちゃん? 戦闘で取れる三つの動きはなんだ」

 

「えーと、回避と攻撃と防御ですよね」

 

 正解だと答える。これが戦闘における三大要素だ。攻撃、回避、防御。すべての行動は大体この三つで分類する事が出来る。出来るのだが、素質や保有技能、スタイル等によってこの比率は大きく変動する。まぁ、ここには問題はないのだが、問題なのはヴィヴィオが意識的にガードしすぎる、という事なのだ。

 

「大事に育てられているのはわかるが、防御のし過ぎだ。たぶんなのは辺りを参考にしているか、或いは他に体が丈夫な奴を参考にしているんだろうけど、回避に対して純粋な防御の回数が多すぎるんだよ」

 

「……何か問題なんですか?」

 

 そうだね、となのはが言葉を浮かべる。

 

()()()()問題はないだろうね。まぁ、元々教えているのが私やスバルだからね。自然と戦い方が耐えて殴る、という方向性に流れちゃったんだろうね。実際私は強固なシールドを張れるからいいし、スバルは肉体的には天性のものがあるから殺す気で攻撃を加えてもケロリと耐えちゃうときがあるからね。まぁ、そこらへんしょうがないけど―――正直、ヴィヴィオは参考にしちゃダメかな」

 

「え、なんで?」

 

「即死出来るからだよ」

 

 そうだな、言葉を吐きながらなのはにシールドを張る様に頼む。それを了承したなのはがシールドを生み出し、そのシールドから数歩後ろへと下がる。それを見届けてから軽いステップでシールドへと向かって踏み込み、右手を軽くひねりながら貫手の形で脱力させ、肩、肘、手首、と動きを連動するように動かして行き、一気にそれを前へと向かって放つ。

 

 ―――結果、ノータイムで放たれた貫手がシールドの一点を貫通して穴を穿つ。

 

「はい、ヴィヴィオ生徒。ガードしようとしてシールドを張った場合の君の末路を口にしてください」

 

「ヨシュア先生、私これ超即死してます」

 

 振り返りながらついでに裏拳でシールドを完全粉砕しながらヴィヴィオへと視線を向け直す。視線の先でヴィヴィオは軽く震えていたが、それを無視して話を続ける。

 

「基本的にな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだよ。特にグラップラーの類は攻撃を受けない事が最も好ましい。そして攻撃をどうしても避けられない時は確実に受け流しておきたい―――何故か解るか?」

 

「……ダメージが発生するから?」

 

 それは合っている。素手で戦っている以上、防御を選択した場合には自然と体にダメージが発生する。これは全体的な勝機を奪う行動であるが、それよりも致命的な問題が防御という選択肢には存在する。それが、

 

()()()()()()()んだよ」

 

「回転率、ですか」

 

 おう、と頷いて答えながらホロウィンドウに情報を入力、表示してゆく。

 

「とりあえず理想的な戦闘ってのは最初の一撃で敵を倒す、或いは殺すことだ。だけどそんな風に勝負を決められる事は多くないってのが現実だ。そうなってくると戦闘のサイクルが生まれてくる。つまりは攻防のサイクルだ。お前が攻撃し、相手がそれを防ぎ、相手が攻撃し、此方がそれを防ぐってサイクルだな。格闘に限った話だとこのサイクルの回転率は凄まじく早い。そしてそのスピードを維持し、戦うってのが理想だ」

 

 解るだろ、と言う。

 

「防御って行動は動きを止める必要性が出てくるんだ―――まぁ、少なくとも攻撃はできないわなぁ! それにダメージが発生セイセイセーイ! ごめん、ちょっと飽きたからラップ調にしてみたけどクソ微妙だったわ。まぁ話が逸れたから戻すな。つまり俺が言いたいのは回転率の低下が勝率の低下にイコールするって話だ。特に徒手格闘の場合―――」

 

 軽く拳を振るう。

 

「―――リーチが短い。威力が低い。壊されると詰む。一回防御に回ると一気に削られる要素が増える。特に俺やハイディみたいな超達人級とも呼べる連中になってくるとまず狙うのは必殺だ。初手で殺す。次に初手で殺せないなら手足を破壊する。確実に殺すための手段を取る。んで防御なんてしようものなら徹しでガードに使ったものごと心臓ぶち抜いてジ・エンド、って訳だ。まぁ、あのお友達たちと戦う分には特に問題ないんじゃねぇかなぁ。俺とかのレベルを相手にするなら自殺志願者にしか見えないけど」

 

「先生」

 

「何かな生徒」

 

「辛辣すぎて涙が出そうです」

 

「泣け。泣いたら全裸になって周りで踊るから」

 

「というか今さっき聞き捨てならない名前が出た気がするんですけど」

 

「こまけぇ事はいいんだよ、良い全自動型英雄殺戮マシーンになれないぞ」

 

「なりたいとは欠片も思ってないんです!」

 

 笑って無理やりヴィヴィオの指摘や抗議の声を受け流し、とりあえず必要な情報をホロウィンドウに追加して行く。真面目な話をすると格闘家、或いはグラップラーとも言える存在に必要なのは高い攻撃の回転率を維持する事だ。だから必要なものは簡単にまとめると、

 

 初撃で殺せる技術、

 

 相手へと素早く接近する方法、

 

 確実に攻撃を流す技術、

 

 的確に攻撃を先読みして回避する知識。

 

「……ま、ざっと纏めるとこんな感じだ。拳で戦う以上は絶対に遵守しなきゃいけないのは最悪の状況ではない限りガードしない事、魔法に対して過剰に信頼を置かない事、そして常に一撃で仕留める気で攻撃を繰り出す事になる。まぁ、今はこれ以上詰め込んでも頭に入らないだろ。雑学とか基本的に俺もめんどくせー、って感じだからな」

 

 ヴィヴィオへと視線を向けるといえいえ、と首を横に振る。

 

「なんかちょっと途中でふざけが入っているせいか聞いていて飽きないです」

 

「そうか? そりゃあ良かった、ふざけがいがあるってもんだ。ま、今語ったのはとりあえずとしての知識だ。一度に全部改善するってのはどうあがいても不可能な事なんだ、焦る理由がなけりゃあ苦しむ必要も一切ねぇ、一つ一つ座学交えて覚えていきゃあ良い。千里の道も一歩からな、な?」

 

「はい!」

 

 良い返事だった。そしていい感じに体から疲労が―――何よりも緊張が抜けているのが解る。先ほど色んな武器で殴り掛かったときはまだ此方の事をよく理解していないからか、ヴィヴィオのからだが強張っているのが解った。だがこうやって付き合いやすい人間だと話をすれば、心を開いてくれればもっとやりやすくなる。親しみやすい様にしただけの苦労はあった―――少々だましているようで心が痛むのはこの際、見逃しておこう。

 

 何より、誰かに教えるということに対して楽しみを感じている自分がいた。

 

 はたして、ヴィルフリッドも同じような思いだったのだろうか―――もう、彼女に聞く事はできない。

 

 だから俺は俺の道を進む。

 

「んじゃそろそろ再開しよっか。つっても今日は色々と調べたい事が多いし、射撃魔法解禁で俺とちょっと模擬戦流してみっか。ふぇー、意外と人に教えるのって大変だな。お前、良くこんなめんどくせぇ事やってられるな」

 

 その言葉をなのはへと放つと、放つは軽く笑いながら答える。

 

「でも楽しいでしょ?」

 

 否定はしない―――いや、出来なかった。実際誰かを育てる、というのは自分を鍛えるのとは違う楽しみがあった。今、まだそれを始めたばかりだが、そのプロセスを楽しんでいる自分がいるのは事実だった。自分を鍛えるのだったら出来る事を把握し、そして必要なことを行う。それだけでいいし、どんな無理だって出来る。だが誰かに教えるということは理解できるように情報を与え、メリットを伝え、そして出来る事をさせないといけない―――自分を鍛えるのとは全く違う事を要求してくるのだ。

 

 しかし、まずは、

 

「肉質、クセ、呼吸、とっさの判断の仕方とか調べさせてもらうぞ」

 

「はい!」

 

「―――そして理不尽に蹂躙される側の気持ちを徹底して教えてやる。お前がこれから経験するのはお前が多くの人間に与えた絶望で、そしてこれから多くの人間に与える絶望だ。汝、己を知るべし。故にまずは徹底して無力さを覚えろ、体で」

 

「あ、この人の目軽くイってる」

 

 そんな風に―――新たな鍛錬の日々が始まった。




 なのはが面倒見てたから基礎能力があって、スバルが見てたから基本動作が出来ているイメージ。ただし要塞型のなのはや、殴り合いが基本のスバルを見てきたからその悪癖がある感じな。

 ヴィヴィ王は何故か可愛いのに昔からヒロインに上がってこれない不遇な子な気がする。ヤンデレに走るとヒロインの座を逃す法則。マッマの正妻力が高すぎるんや……。

 ともあれ、授業&授業。戦うにはやはり座学も必要という感じのアレ。

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