Belkaリターンズ   作:てんぞー

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現代の王達-5

「―――お、やっぱり身辺洗われてるな」

 

「お前は一体何をやらかしたんだ……」

 

 目の前、ゆりかごの様な、椅子の様な機械に座り、首元にケーブルを繋げる男の姿がある。肉体を直接機械とつなげる事によって高速で情報処理、ハッキングやクラッキングを行う男は次元世界の中でもそこそこ名の売れている情報屋だった。ミッドチルダ北部に存在する広大な廃棄都市群は昔は栄えていた都市の残骸だ。ロストロギア、或いは凶悪な事件の発生により廃棄された都市の残りであり、もはや普通の人は住んでいない。

 

 普通の人は。

 

 逆に言えば残骸ではあるが多くの建造物が普通の街の様に存在するこの区画は身を隠すには最適な場所でもある。それは無論、後ろ暗い人間、或いは金のない人間にとっても同様である。廃棄都市は犯罪都市であり、そしてまたスラムでもあるのだ。広大な土地を占領する廃棄都市はいくつかのセクターに分かれており、スラム区画、そして管理局が演習等に利用する区画と別れている。砲撃戦を行っても凄まじいほどに余裕があるのは流石元大都市だと言うべきだが、今では犯罪者を育てる苗床でしかない。管理局も管理局でどうにかスラム区画の浄化を行おうとしているが、圧倒的に人が足りない。

 

 数年前のレジアス・ゲイズの失脚、死亡から管理局の陸の弱体化は未だに回復していない。空と海が力を増し、首都圏の治安維持は強化されている。

 

 だがそれと引き換えにスラム、辺境、小規模や中規模都市に対する人員の配置や管理能力は下がっている。近年ではそれを危惧した管理局が漸く陸に対する優遇政策を初め、予算を一気に増やしたりもしたが、長期的な計画であり、今はまだ、ほとんど成果が上がっていない。その為、ミッドチルダに存在する無数の廃棄都市は身を隠すためには非常に有用な場所だった。少なくとも大規模な捜索隊は入り込む事の出来ない、そういう場所なのだから。

 

 故に、情報屋はこういう場所を拠点にする。特に地下にアジトを掘る事が多い。空戦魔導士は空という広い空間で戦うからこそその実力を発揮できるのだ。地下アジトは大抵狭く、ろくに武器を振り回す事が出来ない様にできている。そうやって空の魔導士が戦い難い環境を作っているのだ。そうすれば警戒するのは陸戦を得意とする陸士にのみなる―――そして此方は人員不足で動きが鈍い。

 

 目の前の情報屋も同じように地下にアジトを持つ者であり、ヴィヴィオの存在を見つけ出すのに苦労して貰った者だ。とはいえ、此方はしっかりと金を出している為、ここら辺、問題はないはずなのだが。ともあれ、顔を隠すようにフードとサングラスをかけたまま答える。

 

「なんだ、情報か? 情報が欲しいのか? ―――金の話をしようか」

 

「いや、どうせ件のエース・オブ・エース襲撃事件の犯人がお前ってだけだろ」

 

「お、真実を理解してしまったか―――金を払え」

 

「がめついぞこいつ……! ま、アンタの事だから絶対にやらかすと思ったけど、予想の斜め上にやらかしてくれたな。いや、調べるからには何かをやるのかと思ってたけどさ―――」

 

 そう言いながら情報屋の前でホロウィンドウが開いては消え、それを素早く何十と繰り返しながら情報を整理、そして集め、精査して行く。その中で集まって行く情報をフィルタリングし、本当に必要な情報のみをピックアップして行く。静かにパイプを吹かしながら情報屋の動きを待っていると、終わったぜ、と情報屋の声がかかってくる。

 

「エース・オブ・エースの身内と生徒達がカンカンになって襲撃者を探しているぜ。ついでに小さい聖王様が襲われたって事でもベルカ教会の方もカンカンだな。ま、管理局の看板娘の一人が闇討ちされたんだ。キレてもしょうがないって話だけどな―――おぉっと、無限書庫の旦那さんも情報を集めてるみたいだな。お、お前がエレミアだって事までバレている様だぜ。妹、いるんだろ?」

 

「簀巻きにして転がしてきたから大丈夫だろ」

 

「って事は十中八九、兄ちゃんバレてるぜ」

 

「隠す気ねーしな」

 

 笑いながらそう告げる。そう、俺の方はどうでもいいのだ。寧ろバレて管理局のエース級が来るならそれはそれでいい、きっと楽しいに違いない。残念な話だが、此方は正道から外れてしまった人間だ。欲望の為なら多少、犯罪に走るぐらいはどうって事はないと思っている。ヴィルフリッドの件も始末したし、エレミアの宿業からの解放記念に、いっちょ派手にやっておくか、という程度にしか感じていない。まぁ、元から戦う事と強くなることにしか興味を持たない屑だ、こんな人生でいいだろうと思っている。

 

「で、どうするんだよ、ここから。お得意様で居続ける限りは協力するけど―――」

 

 情報屋から視線を外し、メタリックな天井を見上げながらどするかなぁ、と呟きながら腕を組み、考える。ぶっちゃけた話―――自分の本音は戦いたいだけなのだ。管理局のエース級なんてそもそもこういう機会じゃないと戦えないし、正規の手段を取ろうとすれば絶対にどこかの組織に所属しなくてはならなくなる。だからいい感じに、お互い一切の遠慮なく()()()()()()()()()()()()()()()()()と思っている。だからそうだなぁ、と呟く。

 

「セクターB-10かなぁ……」

 

「無人区画がどうした?」

 

「無限書庫の色男に俺の居場所だ、って送ってくれないか―――そうだな、一週間後ぐらいがいいんじゃねぇか。ミッドの再生医療ならそれぐらいで良さそうだしな」

 

「あいよ」

 

 理由は実に簡単だ―――身内の汚名は身内で晴らそうとするからだ。これが管理局へと送られたなら、管理局はチームを組んで殺しに来るだろう。ベルカの聖王教会もおそらく知れば間違いなく暗殺チームを送り込んでくるだろう。だが、高町なのは、及び高町ヴィヴィオと親しい人間が知れば話は変わる。まず間違いなく身内でケリをつけようと動いてくる。組織のやり方ではなく個人のやり方で決着をつけようとするのは結末に、或いは過程に納得がいかないからだ。

 

 無限書庫の司書長は個人的に高町なのは、そして彼女の友人達と親しい。

 

 ―――だから、絶対に管理局にも、聖王教会にも情報を漏らさないだろう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。おそらくはエレミアが犯人だという情報も司書長から漏れている事はまずないだろう。ミッドチルダの再生医療ならば一週間もあれば回復するだろう。少なくとも治し易い様に綺麗に骨は折ったつもりだ。変に後遺症が残ってしまっては此方の方がやり難い。まぁ、それにあっても付き添いが一人、或いは二人という所だろう。

 

 前回は奇襲したうえでの不意打ち、ガンメタを張っての勝負だった。

 

 ()()()()()()()()()()()()のだ―――今度、戦う時はそんな事はせずに、全力で正面から戦い、地の引きずり落としてその首を斬り落としたい。そういう願望と欲望が己の中にある。そしてそれに素直に従う事にしている。だからこそ家を出て、妹を捨てて武者修行なんてことをした。そうやって戦いを求めでもしないと、

 

 自分が生まれてきたその意味が解らない。

 

 無駄に経験と技術を詰め込まれ、一体何をすればいいのだろうか。クラウスとの和解? オリヴィエとの和解? そんな事はたった数分で解決してしまった。そうなると増々解らなくなってくる―――だったら好き勝手に生きるしかない。手遅れなのは自覚しているのだ。だったら後は破滅に向かってまっしぐらになるだけだ。そもそも自分はジークリンデの様に業に恐怖する事はない。それを受け入れている。だからこそこんなザマなのだ。

 

 ―――まぁ、生まれてきた意味とか所詮はどうでもいい話だ。

 

 んなもん、満足していればそれで解決するのだから。

 

「んー、高町本人、そしてテスタロッサが控え、って所かな……」

 

「あん……?」

 

「何でもねぇよ。それよりも金は出してるんだからしっかりと頼むぜ」

 

「あいよ、暴れるのはいいけど、こっちは絶対に巻き込むんじゃねーぞ」

 

 まぁ任せな、と言葉を放ちながら地下アジトの外へと階段を上がって出る。セキュリティの類は存在しない―――そんなものを露骨に導入すれば誰かがいる、と示しているからだ。ともあれ、周囲を軽く確認しつつもアジトから出て、廃棄都市区画―――スラム街へと出た。相変わらず腐った様な臭いがスラム街には充満している。異臭、そして同時に性根の腐った人間の臭いだ。綺麗な服装の人間を見れば、それを狙おうと視線を向けてくる。だからそれを散らすように視線に殺気を突き返せば、蜘蛛の子を散らすように消えて行く。

 

 所詮はハイエナ―――でもそうしないと生活が苦しいのがスラムの真実だ。ミッドチルダでの生活は基本的にID管理された電子通貨を利用する。その為、不法入居、密入国している人間はミッドチルダでは非常に生活がしづらい。IDを持たぬものはこういう環境でしか暮らしていけない―――慣れれば、或いは能力があればあの情報屋みたいに快適な生活を送れるのだろうが、ここいらにいる大半は限りないリソースを奪い合う様な者ばかりだ。

 

 それが一番楽な生き方だから。

 

「さぁてと、お買いものとかしなきゃだめかねぇー」

 

 この先、どれぐらい戦えるかはわからないが、とりあえずの相手は予測できる。だからそれに対応する様に装備や道具の購入、罠の仕掛けなどをしなくてはならない。此方が意図的に魔法の無使用という制約を己に課している限り、常に相手と自分の戦力はイーブンではない、と理解しなくてはならない。此方が抜きんでている技術を持っていても、相手には魔法という凶悪な武器を保有している。その武器を自分は己の意志で投げ捨てているのだから、

 

 その状態で勝利してこそ己の正しさは証明される。

 

 軽い鼻歌を口ずさみながらスラム街の通りを歩み、進んで行く。やっぱり欠片も反省していないのでジークリンデやヴィクトーリアには済まない事をした、とは思わない。悪いが思えない。なので反省する代わりに思いっきり楽しんでくるのを心の中で約束しつつ、

 

「―――ハイディちゃん、どうしてっかねぇ……」

 

 クラウスの呪縛から解き放たれた今、ハイディは精神的に完全に解放された―――あの襲撃の夜以降、一度も連絡を取り合う事も、会う事もしていない。その後の彼女は一体何をしているのだろうか、と、少々気になる所だ。だが、彼女もずっと子供でいられるわけがない。解って手を出したのだ、一体どういう報いが返ってくるのか、それを理解している筈だ。理解せずにやったのなら……やはり子供だった、それだけの話か、

 

 或いは俺の様な狂人だった、というだけだ。

 

「ま、終わって生きてたら会いに行くか」

 

 なんだかんだでハイディは可愛いし、美少女を愛でるというのは男として生まれた以上、確実に正しい行動であるに違いない。だがそれも結局は終わったら、の話だ。

 

 人生は所詮一瞬で。背負うべきことがなくなったら自由がやってくる。そうなったら生きがいを見つけるしかないのだから、今は他の事を考えずに、鼻歌を軽く口ずさみながらスラム街を歩き、来たるべき日の為に備えよう。




 長く続いたプロジェクトが終わった後妙にハイテンションになる人いませんか?

 こいつです。

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