兄と妹~ときどき妹~   作:kielly

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 穂乃果ちゃん!ほのかちゃん?ホノカチャン!

 今回は前回の続きになります。
 すみません、今回まで穂乃果ちゃんはでません!
 でも安心してください、このバレンタイン編、実はもう1話だけ投稿する予定ですが、そちらの方で穂乃果ちゃんちゃんと出てきます(●・8・●)
 
 このままじゃこの作品のメインが分からなくなっちゃいますからね(汗)

 ※前回同様、三点リーダーが下に来てしまっています、ご了承ください。




在学最後のバレンタインー後編ー

「お~! よくついてこれたやん!」

 

「う、うる、うるせぇ」

 

 

 余裕と言わんばかりににこにこしている東條の前で、膝に手をつき息を整える俺。

 情けねぇ。情けなさ過ぎて泣きそうだ。

 

 でも、一応追いつけたから、鍵は渡してくれるはず。

 

 

「さ、さあ、鍵を」

 

「鍵? ……あぁ、そうやったね、そういう話やったね」

 

「え、な、なんて?」

 

「ううん、何でもない!」

 

 

 東條の言葉に風が乗っかり上手く聞き取れなかったが、そんなの関係なしと笑いながら近づいて来る東條。

 その手にはちゃんと、俺から奪い去った鍵が握られている。

 

 ただ鍵を閉めて職員室に持っていくだけだったはずなのに、なんでこんなことに。

 

 

 東條が鍵を持った手を俺の前に出したとき、俺も膝から手を離し、何とか顔をあげた。

 

 

「……え?」

 

 

 東條の手を確認したとき、東條は持っていた。

 

 

 

 1つの鍵と、1つのラッピングされた箱(・・・・・・・・・)

 

 

 

 

「これって」

 

 

 まさか、そう驚いてしまい手が出ない俺に、東條がらしくもない細い声で言った。

 

 

 

 

 

「受け取って……くれないの?」

 

 

 

 

 

 それは走った後だからなのか、はたまた夕日に照らされてるからなのか────

 

 理由は分からないけれど、東條の顔は、紅く染められていた。

 

 

 さっきまでのいたずらっ子の顔とは違う、ドラマでよく見る大人の顔。

 

 

「ありがとう」

 

「……ん」

 

 

 受け取ったその箱は、制服のポケットにもすんなりと入りそうな可愛らしいサイズ。

 ピンクの包装紙に赤いリボンの、いかにもと言わん見た目をしている。

 

 

「今日はそういう日だから……にこっちみたいに手作りじゃないけれど」

 

「まさか、さっきまでのやりとりって」

 

「言わないでっ! これでも結構頑張ったのっ!」

 

 

 いつものエセ関西弁は全くと言っていいほどに使わず、手のひらで顔を隠しつつ標準語で動揺を顕にしている。

 

 

「この前のっ」

 

 

 動揺を必死に隠すように、東條は勢いのままに言葉を続ける。

 

 

「この前のコレクションのお礼してなかったからっ。本当はもっと、素直に渡せればよかったんだけど」

 

 

 まさかとは思ったけど、素直に渡すプランが立てられなかったから、こんな遠まわしな手段で無理矢理渡そうとしてきたのか。

 いつも他人を茶化してはクスクスと意地悪な笑みを浮かべるくせに、肝心な時には勇気が出ないなんて。

 

 

「ははっ」

 

「な、なんで笑ってるのっ」

 

「いやっ、東條って面白いなって」

 

「っもう!」

 

「はははっ!」

 

 

 おかしくなって笑ってしまった。

 そのギャップが面白い。今も顔を赤くして照れながら怒ってる。

 

 ほんと、面白い子だ。

 

 

「ありがとう、大事に食べるよ」

 

「……うん」

 

 

 そんな子からチョコをもらえるなんて、すごく嬉しいことじゃないか。

 あの時、コレクションに一緒に出たときはものすごく緊張したけど、東條の素の姿を見ることができたことと、このお礼をもらえたのなら、頑張った甲斐はあった。

 

 東條は俺の顔を一度見ると、軽い深呼吸をしつつ笑みを浮かべた。

 

 

「ほな、うちは絵里ちのところへ戻ろかな」

 

 

 調子を取り戻したらしい東條は、俺の横を抜けて、ドアの方へと向かう。

 

 

「ありがとう東條。このチョコのお返し、ちゃんとするから」

 

 

 俺がそう言うと軽く振り返り、優しく笑った。

 

 

「チョコはチョコでも、うちのはチョコキャラメル(・・・・・・・・)! このうちが真剣に吟味したんだから、味わわへんかったら承知せんよっ!」

 

 

 完全にいつもの調子に戻った東條の後ろ姿を見ながら、俺は思った。

 

 

 

 

 

 あぁ、こんな楽しいやつらと一緒にいられるのも、あと────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では失礼します」

 

 

 東條から取られた鍵を職員室に戻しに来たのは、部室を離れてから1時間くらいしてからだった。

 

 何かしら怒られるかと思いきや、その件はあっさり流され、全く違う話に花が咲いてしまったため、先生とかれこれ1時間ほど話し込んでしまい、ようやっと開放された。

 嫌々話をしていたわけではないのだけれど、もう周りは暗くなり、さっきより寒さが増してしまっている。

 

 

「あ~寒い。早く帰って穂乃果に抱きつきたい」

 

 

 1人寂しくそんなことを呟きつつ、穂乃果からの連絡がないかとスマホを見るが一切なし。珍しいことだが、代わりにことりちゃんから連絡が来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

『すみません、今穂乃果ちゃんはうちで預かっています! 返して欲しいかもしれませんがもう少し時間をください!』

 

 

 

 

 

 

 

「新手の脅迫?」

 

 

 随分と変わった可愛らしい脅迫ではあったものの、どうやら穂乃果はことりちゃんの家にいるらしい。それなら安心だ。

 メッセージが来たのが30分前、ということはまだ穂乃果もことりちゃんの家だろう。

 

 

「ゆっくり帰るかなぁ」

 

 

 俺がいないと騒ぐのは、うちだと穂乃果くらいで、親はともかく雪穂はむしろ静かな方がいいのかもしれない。

 何となくそんなことを考えながら、帰るべく下駄箱へ向かった。

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 角を曲がり、下駄箱が見えた時だった。

 

 もう1つ、見えたものがあった。

 その姿にすごく見覚えがあり、俺は小走り気味に近づいて声をかけた。

 

 

 

「絢瀬?」

 

「ひぃぃっ!?」

 

 

 

 申し訳ないことに、急に後ろから声をかけたせいで、身体を大きく跳ねさせ掠れた声で悲鳴をあげてしまっていた。

 

 

「ごめん絢瀬、俺だよ俺」

 

「来ないで来ないで来な……あ、光穂くん」

 

「絢瀬、そんなに怖いの苦手だったのか」

 

 

 俺の顔を見るとすぐ顔を赤くしては、恥ずかしそうに頭を縦に振った。

 怖いのが苦手ということ自体は知っていたものの、まさかここまでのレベルだとは思わず、申し訳なくなってしまう。

 

 

「すまん絢瀬、別に驚かそうとしたわけじゃなくって」

 

 

 わざとじゃないと、弁解しようとしたのだが、その必要はなかったらしい。

 さっきまでの怯えきっていたのも束の間、頬は赤いものの絢瀬はもう平常通りに戻っていた。

 

 

「もう大丈夫よ光穂くん。それに私、光穂くんを待っていたのだもの」

 

 

 やっと会えたと言わんばかりに優しく笑う絢瀬はそんな事を言ってきた。

 

 

「俺を待ってた?」

 

「えぇ。だって光穂くん、部室にバッグ置きっぱなしで走り出すんだもの」

 

「……あ」

 

 

 次は楽しそうに笑う絢瀬。よく見てみれば、その手には俺のバッグと、昼間にクラスメイトにもらった大きな袋が1つ。

 

 

「随分モテモテねぇ、光穂くんは」

 

「ははっ、ほとんど穂乃果用だけどな。ありがとう」

 

 

 茶化す口調で絢瀬が渡してきたそれらを受け取った。

 そこそこの重さだったのに、底が擦れた形跡がないあたり、おそらくずっと持ち続けてくれたのだろう。

 矢澤や東條とは違って、素直に優しいタイプだな。

 

 周りを見渡した限りだと、他のメンバーはもう帰ったようだ。

 

 

「1人で待ってたのか?」

 

 

 下駄箱から靴を取り出していた絢瀬は、俺の言葉に少し身体をビクつかせながらも、軽くこっちを向き答えた。

 

 

「えぇ。暗くなっちゃったから、これ以上帰りが遅くなると親御さんたちに心配させるだろうし」

 

「そっか」

 

 

 それじゃお前も心配されるだろうに。

 そう言おうとしたものの、せっかく俺の荷物を暗くなる中待っていてくれたのに、そんな言葉をかけるのはさすがに違う気がして、言わなかった。

 

 

 外に出た頃にはもう、街灯なしには見えないくらい暗くなってしまっていた。

 

 

「ごめんな、こんな時間まで待たせて」

 

 

 本当ならもっと明るいうちに帰っていたはずなのにと、そう思わずにはいられなくなって、俺は絢瀬に言葉をかけた。

 しかし当の本人は、むしろ嬉しそうに笑いながら答える。

 

 

「ふふふっ、いいのよこれくらい。それに私、怖いのは嫌いだけど、街灯に照らされた道を歩くのは好きよ?」

 

 

 弾むような足取りで少し先を歩く絢瀬を見ながら、生徒会長としての絢瀬を思い出す。

 

 

 前はもっと怖い感じの、鬼教師みたいな雰囲気だったんだけど、今の絢瀬はただの女子高生だな。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ光穂くん、ここまでね」

 

 

 適当な話をしていたら、いつの間にか絢瀬たちと別れるポイントまで歩いてきたようだ。

 絢瀬はそう言うと立ち止まる。

 

 

「私の家はあっちなの。光穂くんの家は方向が違うから、これ以上は一緒に帰れないわね」

 

 

 絢瀬はどうやらここで別れる気みたいだが、俺は元から最後まで送るつもりでいる。

 

 

「いや何言ってんだ、もう暗いんだから、女の子が1人で帰るなんて危ないに決まってんだろ」

 

 

 最初からそのつもりだったから、あたかも当たり前のように言ってしまった。

 

 でもよく考えればこれって彼氏が彼女にやるものなんじゃないか? 

 彼氏でも家族でもない俺がそんなことするのは、家の場所知られるリスクもあるしむしろ迷惑なんじゃないのか? 

 しかしながら、やっぱり暗闇を1人で距離歩かせるのは……

 

 言った後になって迷ってるのも変なのかもしれないけど、もっと慎重になるべきだったと後悔してしまった。

 

 

 

 でも、そんな後悔はいらなかったらしい。

 

 

「え!? いいの?」

 

 

 一瞬すごく嬉しそうに、けどすぐに申し訳なさそうな表情で、俺を見てくる絢瀬。

 申し訳なさそうにこそしていたけど、嫌とは言わなかったし、むしろ嬉しそうにしていた。

 

 俺は一応確認のために、尋ねてみた。

 

 

「迷惑でなかったら、絢瀬を家まで……いや近くまででもいいから送りたいんだけど」

 

 

 さっきの失態を修正するように言葉を選びつつ尋ねたところ、絢瀬は嬉しそうに笑った。

 

 

「迷惑だなんてとんでもないわ! むしろ送ってくれるなら嬉しいもの!」

 

「そっか、なら絢瀬が許すとこまで送っていくよ」

 

「えぇ! よろしく頼むわ♪」

 

 

 さっきまで少し前を歩いていた絢瀬は、俺の言葉に合わせるように、横に並んで歩き始めた。

 

 街灯に照らされる中、たわいもない話をしながら歩く俺たち。

 女の子と横に並んで歩くなんて、それこそ穂乃果や雪穂、学校内とか、この前の東條の件以外だとそうそうない機会だと思う。

 

 だけど今の俺は特に緊張もしないで話していられる。矢澤や東條もそうだけど、絢瀬は特にそう感じる。

 同じ妹持ちだからだろうか、それとも性格が似ていたりするのだろうか、分からないけど。

 

 

 本当に俺は、同級生に恵まれた、それは確かだ。

 

 

 

 

 もうそこそこ歩いた気がする。周りは、知ってる場所でこそあるけれど、そこまで馴染みのあるものはなくなっていた。

 

 ある程度のお互いの話題が出尽きて、少しばかりの沈黙が続いたところだった。

 

 

「ねえ光穂くん」

 

 

 絢瀬が、こちらを茶化すような口調で言ってきた。

 

 

「バレンタイン。きっと、希やにこからもらったんでしょう?」

 

 

 ちょっと意地悪そうな顔をしながらも、チラチラと俺の目を見ては外してを繰り返す。

 

 

「どんなものをもらったか気になるなぁ」

 

 

 次は俺の持つ、お菓子が入った袋を凝視している。

 やっぱり他の女の子がどういうものをあげるのかって気になるものなのかな。

 

 俺は特に隠すつもりもなかったため、口頭で簡単に伝えた。

 

 

「矢澤からはチョコクッキー、東條からはチョコキャラメルだったな。まだ開けてないから分からないけど、2人はそう言ってた」

 

 

 伝えると、絢瀬はありがとうと軽い笑みを送り、顎に手を当て何かを考えるような素振りで呟きだした。

 

 

「2人ともチョコ系なのね……ってちょっと待って、確か希の嫌いな物(・・・・・・)って」

 

 

 何か言ってるのは分かるんだけど、はっきりとは聞こえない。

 呟きが終わると顎から手を下げ、少しの間無言。

 

 

「光穂くん、迷惑を承知でお願いがあるんだけど」

 

 

 唐突に絢瀬は、何かを決心したような声で、凛とした表情でこちらを見た。

 俺はその絢瀬の声に少しの緊張を覚えながら、続く言葉を待った。

 

 数秒。少し待ってからだった。

 

 

 絢瀬は自分のバッグを開け、その中から取り出したものを俺の前に出す。

 

 

「その、今日はそういう日だから。私もチョコ味のマドレーヌ(・・・・・・・・・・)用意してきたんだけど、渡すタイミングを失っちゃって」

 

 

 出されたのは、今日もらってきたものの中ではそこそこ大きめの袋だった。

 

 

「バレンタインだもの。光穂くんには何かとお世話になってたから、あげたいなって思ってたの」

 

 

 ちょっとだけ声が震えている気がする。

 こちらに差し出している袋を持つ手は、少しだけ肘が曲がっている。

 

 

「みんなからたくさんもらってるみたいだから、きっと迷惑になるかもしれないけれど」

 

 

 若干目線を下に落としつつ、申し訳なさそうにしているその姿が、すごくらしくて、らしくない。

 

 

「でも、よかったら光穂くんにもらってほしいの」

 

 

 その表情はとても真剣で力強く、でも少し頬が染まって唇が少し震えている。

 そんな絢瀬を、俺は思わず少しの間見つめてしまう。

 

 どうして俺の同級生は、こういう時はそんな風な態度で来るんだ、そんなことを思いながら。

 

 

 

 でも、俺の答えは最初から決まっている。

 

 

 

 

 

 そんなに表情で言われて、もらわない理由がない。

 

 

 

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 俺は絢瀬の手にある袋を優しく受け取った。

 

 

「絢瀬からもらえるとは思ってなかったわ、すごく嬉しいよ」

 

「っ! ありがとう光穂くん」

 

 

 安心したのか嬉しいのか、少し目に涙を浮かべている絢瀬。

 そんな絢瀬を見るのは初めてだった俺は、思わず絢瀬の頭を撫でた。

 

 

「ありがとう。ちゃんとお返しするよ」

 

 

 撫でたせいか、浮かべていた涙が地面にポロポロと落ち始めた。

 

 

「いいの、いいのお返しなんかっ。これは私の気持ちなんだから」

 

 

 顔を両手で隠しながら、涙ぐんだ声で言う。

 泣かせるくらいに渡すことを躊躇わせていたのなら、きっと俺が悪かったのだろう、謝ろうと口を開こうとした。

 

 そのときだった。

 

 

「……でも、せめて1つだけ、望むのなら」

 

 

 涙をこらえ、搾り出すように言った絢瀬。

 

 目の周りを軽く手で拭い、目を合わせ、意を決した様に。

 

 

 

 

 

「私たちと、同じ大学に」

 

 

 

 

 

「絢瀬」

 

 

 俺は絢瀬の言葉を遮るように口を開いた。

 言いたいことは分かった、分かったけど、もうそれは

 

 

「それはもう、手遅れだ」

 

 

 分かっていた、前からずっと言われてきたことだったから。

 でももう遅いんだ、仮に結果がダメだったとしても、その道に進むことを諦めるつもりはない。

 

 

「うぅ……っ、いやぁっ」

 

「ごめん絢瀬。お返しは、別のものにしてくれ」

 

 

 声に出して泣いてしまった絢瀬に、俺は謝る事しかできなかった。

 

 

 

 

 その道────遠くの大学に行くっていうのは

 

 

 

 

 俺のためでもあって、何よりやっぱり

 

 

 

 

 

 穂乃果のためだから。

 

 

 

 

 

 




 今回の2話は、ストーリーに関わる内容を含んだ内容になっています。
 久しぶりの更新ということもあり、そっちの方面で書きたくなってしまいました。
 
 次回の穂乃果ちゃんは、この作品らしい穂乃果ちゃんが出せるように、穂乃果ちゃんらしい可愛さを伝えられるように執筆を進めていますので、もうしばらくお待ちください!

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