兄と妹~ときどき妹~   作:kielly

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 穂乃果ちゃん! ほのかちゃん? ホノカチャン!
 
 ですが今回は雪穂ちゃん回です。
 雪穂ちゃんに怒られたい……雪穂ちゃんにからかわれたい……
 そんな欲望のままに書いてみました。



激おこ雪穂に遊ばれて

「やっべ、急がないと」

 

 東條の家から慌てて飛び出した俺は、全力で家まで走る。

 3人と話していたのというのと、スマホをマナーモード設定にしていたというのが原因で、俺が雪穂からのSOSメッセージに気づいたのは送られてきてから1時間後だった。

 

 

『何かわかんないんだけど今日に限っていっぱいお客さん来てるの! 当番の日じゃないのは分かってるけど助けてお兄ちゃん!』

 

 

 あまりに珍しいその慌てっぷりに、俺は更に慌てる。

 

 店が見えてきた。だがしかし様子がおかしい。

 人が多いというのであれば、扉は開っぱなしだろうが今は閉まっており、雪穂の言う通りなら客が店の周りにゾロゾロいるはずなのだが今は人がいない。

 

 扉の前までたどり着き、荒れた息を整え、恐る恐る扉を開けた。

 

「……お兄ちゃん、遅すぎ」

「ひっ!?」

 

 開けた先にあるカウンターには、椅子に座りレジ前に肘をついて、明らかに激おこと言わんばかりの様子の雪穂がいた。

 雪穂は肘をつけたまま目だけこちらをジロッと見てきては、明らかに不機嫌そうな表情を浮かべた。

 

「ぶー……」

 

 その表情を見た瞬間ハッとなり、壁に掛けてある時計を確認した。

 

「あっ」

 

 メッセージを見るためにスマホを開いたとき、時間を正確に見ていなかったのが悪かった。

 少し前にに閉店時間を迎えていたのだ。

 

「……いっぱいお客さん来てたんだよ」

「はい」

「お母さんと2人でなんとか頑張って対応したんだよ」

「すいません」

「お姉ちゃんからのメッセージは遅くても分単位で返信するのに、私には1時間かかるんだ?」

「返す言葉もございません」

 

 雪穂からのお然りを受けながら、俺は自然とその場で膝をつき、正座の体勢をとっていた。頭は完全に床につき、両手とも綺麗に三角形を描くよう形を作っている。

 そんな俺の様子を見てか、雪穂の口から

 

「ふふっ、あははっ」

 

 楽しそうな笑い声が漏れた。その声に俺も顔を上げた。

 

「なっ、こっちは真剣に謝ってんだぞ」

「ふふふっ、うん。もういいよお兄ちゃん、元からそんなに怒ってなかったから」

「え? でもさっきまで鬼みたいな顔して」

「何か言ったお兄ちゃん?」

「いえ、何でもございません」

 

 雪穂は怒ってなかったなどと言っているが、これは単なる優しさだろう。さっきまでの雪穂は明らかに怒っていた、兄としての経験で分かる。だがそれも謝罪1つで許してくれるつもりらしい。何とも優しい妹だ。

 

「ごめんな雪穂、気づけなくて」

「もういいってば」

 

 もう一度謝ると、雪穂は呆れたような笑みを浮かべながら椅子から立ちあがり、膝をついている俺に手を差し伸べてくれた。俺はありがたくその手をとり、立ち上がった。

 

「ところでお兄ちゃん」

 

 俺が立ち上がったところで雪穂が俺に聞いてきた。

 

「ん、どうした?」

「もしかして何か忙しかったの?」

「え?」

 

 忙しかったのかと聞かれ、俺は思わず言葉を詰まらせる。

 忙しかったわけでは決してない。だがここで雪穂に本当のこと――――俺の進路の話をしていたことは知られたくない。

 

 雪穂にもまだ、俺のこれからのことは伝えていないから。

 

 言葉を詰まらせた俺を不思議そうに見ながら、また尋ねてきた。

 

「じゃあ質問変えるね、どこに行ってたの?」

「あ、そ、それは」

「それは?」

「……東條の家」

「はぁ!?」

 

 考えた挙句結局素直に行き先を伝えると、雪穂は少し怒ったような態度で俺を見てきた。

 

「東條って希さんの家でしょ!? えっ、お兄ちゃん希さんとそんな関係だったの!?」

「あ、いやそういうわけじゃなくて、絢瀬と矢澤もいたんだよ」

「えぇっ!? 絵里さんとにこさんともそういう関係だったのお兄ちゃん!?」

「いやだからそうじゃないってば!」

 

 家に行ったと伝えたのだが、何を勘違いしたのか雪穂は俺がその3人とそういう仲なのかと聞き始めた。

 

「お姉ちゃんがいなくて寂しいからって……そういうのはいけないんと思うんだ!」

「いや、雪穂落ち着け」

「おかーさーん! お兄ちゃんがμ'sの人の家に」

「やめろぉ!?」

 

 危うくお母さんに知らせようとまでしてきたから俺は慌てて雪穂の口を塞ぎ無理やり止める。少し暴れはしたもののすぐに落ち着いたため手を話す。

 

「はぁはぁ……ならお姉ちゃんだけにでも絶対教えてやる……」

「少しは俺の話を聞けっ」

「あでっ! 妹に暴力振るうなんて最低だよお兄ちゃん!?」

「少しは落ち着いたか雪穂」

「うわーんおかーさーん! お兄ちゃんが暴力」

「だからお母さんはやめろぉ!!」

 

 穂乃果にだけでもと言い始めたから、俺は軽く雪穂の頭を叩いた。がしかし、雪穂が再び変なことを言い出したため、再び俺は慌てて雪穂の口を塞ぎにかかる。すると雪穂は、暴れるのをやめたかと思えば次は身体を小刻みに震えさせ始めた。

 

「どうした雪穂!?」

「……ふっ」

「え?」

「ふふっ、あははっ、あははははっ!」

 

 心配して雪穂に尋ねたが、雪穂はそんな心配とは裏腹に大爆笑。腹を抱えて、今までに見たこともないくらいに笑っている。

 

 結構長い間笑っていた雪穂だったが、次第に収まってきたようで、雪穂は楽しそうな笑みを浮かべながら俺の方を見て話し出した。

 

「お兄ちゃん慌てすぎ! 私がからかってやってるなんて全く気づいてなかったんでしょ、ふふっ」

「なっ!? からかってたのか!?」

「あはははっ! やっぱり気づいてなかったんだ! お兄ちゃんもまだまだ甘いね!」

「ぐっ、ぐぬぬ」

 

 正直まったく気付かなかった、からかわれてたなんて。さっきまでじゃないにしろ、まだふふふと笑っている雪穂。からかわれていたという事実を知った今なら、その笑いは小悪魔そのものに見える。

 

 しかしながら、雪穂がこうやって大爆笑したりいろんな表情見せてくれるのは珍しい。からかわれていたのは少し悔しい気もするが、反面すごく新鮮な気持ちだ。

 

「雪穂」

「ふふふ……え、なに?」

「何かいいことあったのか?」

 

 兄としては妹が楽しそうにしているのは嬉しいことなのだが、何か嬉しくなるようなことでもあったのかと疑問に思って聞いてみた。

 雪穂はまたふふっと笑い、答えた。

 

「だって、お兄ちゃんとこうやって話すの楽しいんだもん」

 

 少し恥ずかしそうにしながらも、笑顔で俺にそう言ってきた。

 思えば、雪穂は穂乃果がいないときにだけ、こうやって俺をからかったり積極的に話しかけにきたりすることが多い気がする。

 

 もしかしたら雪穂は、ずっと俺や穂乃果に気を遣ってくれていたのかもしれない。

 

「……俺も雪穂と話すの楽しいよ。からかわれるのはちょっと悔しいけどな?」

「えへへっ」

 

 俺がそう言うと、雪穂も子供のように笑う。いつもは穂乃果がいるから遠慮しているだけで、これが本当の雪穂なのかもしれない、そう思った。俺もまだ知らなかった雪穂の魅力をまた1つ見つけられたようだ。

 

 なら、もっともっと雪穂の可愛いところを見つけていきたい。

 

「よーし、じゃあ今日は俺も雪穂の可愛いところ見つけるために、雪穂をとことんいじめてやるぞ~!」

 

 知っていたようで知らなかった妹の魅力。

 それを見つけるために俺は頑張ろう、そう思ったのだった。

 

 

 

 

「えっ……お兄ちゃん私を"虐める"って……お兄ちゃんのえっちっ」

「あ!? 虐めるってそういう意味じゃねえよ!?」

「ふっ、あははははっ」

「はっ!? くっくそおおおおおお!!」

 

 だが結局、今日1日雪穂にからかわれ続けた俺であった。

 

 




 雪穂ちゃんの怒った顔も、笑った顔も、切なそうな表情も。
 全て尊いですよね、えぇ。

 でもそろそろ穂乃果ちゃんも書きたいです(真顔)
 今回で修学旅行2日目まで終了したことになりますので、次の次のお話(予定)でようやく穂乃果ちゃんが修学旅行から帰ってくることになります。

 それまで読者様も、私と一緒に耐えてくださいねっ(拳を握りながら)

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