兄と妹~ときどき妹~   作:kielly

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 穂乃果ちゃん! ほのかちゃん? ホノカチャン!

 ではなく、今回は雪穂ちゃんです。
 今回より、なんと穂乃果ちゃんが修学旅行へ向かうという悲劇に悲しむ光穂と、それを励ます3年生組、そしてもう1人の妹雪穂がメインのお話が数話続きます。
 
 とても大事なものだとしても、それが常にそばにあると、どれだけ大事なものかが分からなくなる。いざ離れてみてやっと、それがどれだけ大事だったかを思い知らされる。

 今回より、私も読者様も共に穂乃果ちゃん離れをして、穂乃果ちゃんがどれだけ尊い存在かというのを再認識していきましょう!



without you...
お姉ちゃんの代わりに


「お兄ちゃん」

 

 穂乃果が悲しそうな表情を浮かべながら俺を見る。

 

「穂乃果……」

 

 その表情につられて、俺も泣きそうになりながら穂乃果を呼んだ。穂乃果の目にはうっすらと涙が。

 

「じゃ、じゃあお兄ちゃん、穂乃果、行くね……っ」

「あぁ、楽しんで、こいよ……くっ」

「……行ってきますっ」

「あっ! ほ、穂乃果……穂乃果あああああああああああっ!!」

 

 行ってきますの声とともに、穂乃果は俺に背を向け走り出した。その姿を見ながら、穂乃果に差し出した届かない手を下げることもなく、俺は膝をつく。

 

「穂乃果っ、楽しんでこいよ……うわあああああああああああ!!」

 

 人目をはばからず、俺は泣いた。

 

 

 

 

 

「たかが修学旅行(・・・・)に行ってる間の4日間離れるだけなのに大袈裟すぎんのよあんたらは」

「あ? 黙れよ矢澤」

 

 横にいるイカれた黒髪チビから余計な言葉をもらった俺は立ち上がりながら怒りをヘンテコツインテチビに向ける。

 

 そう、今日から穂乃果たちは修学旅行でいなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 お姉ちゃんの代わりに

 

 

 

 

 

 

 

「ほげー」

「なんや光穂っち、すごくだらしない顔して。穂乃果ちゃんがいなくて寂しいんは分かるんやけど」

「あー……んー? 大丈夫だぞー」

 

 放課後、2年生が修学旅行だからということで今日の練習は休みらしく、部室には2年生以外のμ'sメンバーが揃っていた。

 いつもなら俺の膝上には穂乃果が座っていて、穂乃果の頭を撫でながら和んでいるが今日はいない。

 もう、今日は適当に過ごすか。そう思っていた時、花陽ちゃんが俺を心配する目で見てきた。

 

「だ、大丈夫には見えませんけど」

「じゃあ花陽ちゃーん、ナデナデさせてー?」

「ええっ!? あわ、あわわわ!!」

「かよちんが顔真っ赤になっちゃったからダメにゃ!」

「じゃあ凛ちゃーん、お兄ちゃんって呼んでー?」

「にゃにゃ!? そ、それはなんていうか、恥ずかしいからダメっていうか……」

「ふへへへへ」

「これじゃただの変態じゃない、気持ち悪い」

「真姫ちゃーん、そんなことー、ないよーぅ」

「あんたもうちょっとで捕まるわよ」

「黙れよ矢澤」

「にこにだけ素で喋るのはなんでよ」

 

 花陽ちゃんや凛ちゃんに軽いセクハラ紛いの発言、そして真姫ちゃんには超適当に返事をする。穂乃果がいないだけでここまで適当に喋れてしまうのか俺は。まぁ、矢澤に対してはいつも通りだが。

 そんな俺を見てか、絢瀬が花陽ちゃんより心配そうな顔をして俺に声をかけてきた。

 

「本当に大丈夫なの光穂くん? 今日1日ずっとそんな感じだけど……」

 

 昼休みや休み時間の間もちょこちょこ見に来てくれていた絢瀬、それだけに今日1日の俺がどんな様子だったかを知っている。

 

「大丈夫だよ絢瀬、そんなに心配してもらう必要は無いから」

「そんな事言ったって、今日1日ずっと変だったじゃない? 穂乃果がいなくて寂しい気持ちは私も一緒だけど」

 

 珍しくおどおどした様子の絢瀬。それまでに今の俺はいつもと違うということなのだろう。

 

「光穂っち、今日の光穂っち見てると不安な気持ちになるから、今日は早いうちに家に帰ったら?」

「そうよ、今日のあんたは何しでかすか分からなくて怖いわ。早く帰って部屋に篭ってなさい」

「……あぁ、そうさせてもらうよ」

 

 東條はともかく、あろうことかあの矢澤にすら気を使われてしまう始末。

 絢瀬も心配そうな表情を浮かべたままだったということもあり、俺は素直に家に帰ることにしたのだった。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ただいま~」

 

 いつも一緒に帰ってくるはずの穂乃果の姿は俺の横にはなく、玄関には俺1人だけの虚しい声が響く。それが俺の心を一層寂しくさせる。

 

「おかえりお兄ちゃん」

「ただいま雪穂~……はぁ」

 

 1人寂しくなっていたところに、雪穂が出迎えてくれた。しかしそのお出迎えにもため息混じりで俺は返事する。雪穂もまた、俺の最愛の妹ではあるのだが、やはりどちらかがいないとなると寂しい気持ちになってしまうもので。

 俺は雪穂の顔を見ることもできないまま、自分の部屋へ向かった。

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

「はぁ」

 

 部屋に帰り制服から着替えたものの、何もする気になれずそのままベッドに仰向けになった。μ'sの活動がない日はいつも横には穂乃果がいて、「お兄ちゃん○○しようよ!」と嬉しそうな笑みを浮かべてくれている。

 だが今日は、その穂乃果はいない。いや今日だけじゃない、今日から4日後の夕方までは穂乃果の顔を見ることはできない。俺がどれだけ穂乃果に依存していたかに気づかされる。

 

 スマホを手に取り着信はないかを確認するものの、なかった。電話なりメッセージなりを送ろうかとも一瞬考えたが、折角の修学旅行に水を差すようなことがあってはならない。電源ボタンを押し、スマホを頭の横に置いて再び天井を見る。

 

 あ~……早く帰ってきてくれ~。

 

 

 

 

 コン、コン

 

 ドアを叩く音がした。

 

 

『お兄ちゃん、入ってもいい?』

 

 

 雪穂の声だ。こちらの様子を伺うような声色で聞いてきた雪穂に、俺は上体を起こして答えた。

 

「おう、いいぞ」

 

 するとドアがゆっくりと開かれ、ドアの後ろから雪穂の顔だけがひょっこり現れた。

 

「お兄ちゃん大丈夫?」

 

 やたらと慎重な態度に俺は少し顔をほころばせながら、雪穂を手招きした。

 

「俺を心配してきてくれたのか? 優しいな雪穂は」

 

 手招きしながらそう声をかけると、雪穂も安心したように笑みを浮かべながら、部屋に入りドアを閉め、ベッドに座っている俺の横に座った。

 

「だっていつもみたいにバカ騒ぎしてないんだもん。心配にもなるよ」

「ありがとう雪穂。でも俺は大丈夫だぞ」

 

 少し困ったような笑みを浮かべる雪穂に、俺は軽く笑みを浮かべそう答えた。俺が何かに困ったとき、明るい笑顔で元気をくれるのが穂乃果なら、雪穂はこうやって隣に来て、苦しみを共有しようと優しく手を差し伸べてくれる

 

「――――やっぱり寂しい?」

 

 優しい子。

 

「……ちょっとごめんな」

「あ……」

 

 ゆっくり優しく、雪穂を抱きしめる。一切の抵抗もなく、雪穂は俺の腕の中に。いきなりだったからか少し声を漏らし、身体が硬直していたようだったが、すぐに抱きつき返してきた。何ともきごちないそれは、俺を安心させる。

 

「雪穂にこうやって抱きつくのって結構久々かもな」

「……お姉ちゃんにはいつもやってるのにね」

「ははっ」

 

 少し怒ったような声で返す雪穂に、俺は思わず笑ってしまう。

 普段は1人でも平気そうに見せて、実は結構な寂しがり屋な雪穂だからこそ、今の言葉が可愛く思える。

 

「ねえ、お兄ちゃん」

 

 雪穂は抱きついたまま、俺を呼ぶ。

 

「……私は、お姉ちゃんにはなれないけど、でも、お兄ちゃんが寂しいって言うなら」

 

 少しずつ離れ、俺と顔を向かい合わせる。

 

 

「私がお姉ちゃんの代わりに、少しでもお兄ちゃんが寂しさを忘れられるように頑張る。だって私もお兄ちゃんの妹だから」

 

 

 頬を染めながら真剣に言う雪穂は、可愛いながらにして頼りがいのある妹。そんな雪穂の頭を撫でると

 

「あぁ、よろしくな雪穂」

 

 自然と、さっきまでの寂しさは消えていた。

 

 

 

 

 

「おりゃっ、それっ!」

「……えいっ」

「あぁっ!? また負けたあああああっ!!」

「ふふっ、お兄ちゃん弱すぎ~」

「くっくそおおおっ……」

 

 夕食を食べた後、俺と雪穂は俺の部屋でひたすらテレビゲームに熱中していたのだが、何度対戦しても雪穂に1度も勝てずじまい。

 

「あ、もうこんな時間。お兄ちゃんそろそろやめにして寝ようよ」

「ぐっ!? 勝ち逃げとは卑怯な……っ」

「えっへん! 悔しかったらまた挑戦してきてもいいよ~! じゃあ私部屋にもどるね」

 

 しかも勝ち逃げされてしまった。雪穂は自慢げな顔を浮かべながら自分の部屋に戻っていってしまった。

 悔しみながらもゲーム機を片付けていたときふと遠目にスマホを見ると、何やら着信があるようで、一旦手を止めてスマホを手に持ち開いた。穂乃果からのようだ。

 

『お兄ちゃん! 今日沖縄に台風が来てて海行けなかったの! うわーん、楽しみにしてたのに~っ! 海未ちゃんとことりちゃんもこんな表情してるよ~っ 明日は晴れるといいな! お兄ちゃんも晴れるようにお願いしててね! それじゃあおやすみなさい♡』

 

 メッセージの途中に、スマホの内カメラを構えながらもう片方の手で海未ちゃんとことりちゃんの方に手を向ける穂乃果と、手を前に突き出し明らかに恥ずかしがってる海未ちゃんと、カメラ目線でしっかりピースを笑顔でキメていることりちゃんの3人が写った写真が添付されていた。どうやらなんだかんだで楽しんでいるらしい。

 

「晴れるといいな、あんまり海未ちゃんとことりちゃんに迷惑かけるんじゃないぞ……おやすみ……っと」

 

 メッセージを送信し、再びゲーム機を片付け始める。

 折角の修学旅行なんだから晴れてくれ、と心の中で神様に願いながら片付けを終え、そのままベッドに倒れこむように横になった。

 

 穂乃果と今朝別れた時は正直持ちこたえられそうにないとまで思っていたのに、3年生組からの気遣いや雪穂の優しさに包まれて。なんとかなりそうだ。

 

 でも、そっか。"代わりになる"とはいっても、さすがに一緒に寝るまではしないか。

 

 なんて、少し残念がりながらも俺は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 ――――ガチャッ。ギシッ、ギシッ……

 

 

「えへへ……」

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 朝、目を覚ました俺は目をこすりながら体を起こした。が、起こすとき、温かい何か(・・・・・)が俺の胸から腹までストンと落ちた。

 

「ふふっ」

 

 俺はその温かい何か(・・・・・)を握りながら笑みをこぼした。

 




 いかがでしたか? 
 穂乃果ちゃん離れ、穂乃果ちゃん系作家(?)である私にとってかなり悲しいことなのですが、きっとこれからの執筆に関わるので大事にしていきます。
 ですので、少しの間ではありますが、穂乃果ちゃん系読者様(謎)も私のわがままにお付き合いくださいませ。

 ところで雪穂ちゃん可愛すぎません?????????

 
 少しずつ、物語を進めていきます。穂乃果ちゃん離れ編はそういった意味でも大事な場面になります。

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