今回は、この作品のお気に入り数が931の瞬間をスクショすることに成功したのを記念して、穂乃果ちゃんに良い香りを纏ってもらいました(謎)
後半、この作品の隠れた(?)物語に関係ある展開ありです。
いつも感想・お気に入り・評価いただき、ありがとうございます!
「お兄ちゃん、早く早く〜!」
「ほら、早く来てよ〜」
ピンク色に染まる小道を、2人の妹たちが早く早くと俺を嬉しそうに急かす。俺もまた、そんな2人を見ながら、小走りに2人のあとを追う。
今日は兄妹3人で花見に来たんだ。
ピンクの花びらたちが風に乗り、ヒラヒラと舞っていて、春満開と言わんばかりに桜が咲き誇っている。
「綺麗だね〜」
「うんうん! お兄ちゃんもそうだよね!?」
「あぁ、すごく綺麗だよな」
「だよねだよねっ! あ! あそこに良い場所あるから行こうよ!」
「あっ、ちょっとお姉ちゃん!」
「っとと、落ち着け穂乃果」
「早く行かないとあの場所取られちゃうもん!」
嬉しそうに俺と雪穂の手を引っ張る穂乃果に連れられ、俺達は桜の木の下へと向かった。
「穂乃果たちだけの貸切みたいだね! やったー!」
「ほんとだ、他に誰もいないみたい」
「ラッキーだったな」
そこそこ早い時間に来たためか、周りには他の花見客たちがたくさんいるにも関わらず、俺たちのいる木の下には俺たちしかいない。偶然なのかもしれないが、早く家を出た甲斐はあったようだ。
満開の桜の木を陣取ることに成功した俺たち、風に乗って散る桜の花びらとともに、春の匂いが辺りに広がっていくのが分かる。優しくて、気持ちを穏やかにしてくれるような、そんな匂いが……
と思っていたのだが、匂いの正体は桜でも周りに咲いている花たちでもなかったことに気づいた。
その匂いは、俺の隣から香っていた。
「穂乃果、今日の穂乃果はなんだかいつもより良い匂いがするな」
頭を撫でながら匂いを確認すると、やはりこの良い匂いの正体は穂乃果だと確信した。
穂乃果はえへへと笑いながら俺を見る。
「気づいた? えへへ、今日はちょっとだけ頑張ってみたんだよ!」
「そっかそっか。頑張ってる穂乃果も可愛いぞ」
「えへへぇ♡」
「お姉ちゃん、今日のためにわざわざ私と一緒に昨日香水買いにに行ったんだよ?」
「ちょっ、雪穂ぉ~!」
雪穂にネタ晒しされ顔を赤くする穂乃果。今日のためにわざわざ香水を買いに行ったとは、正直驚きだった。普段は穂乃果は香水など使ったりしないから。
赤くなる穂乃果を撫でながら雪穂の匂いも確認してみる。
「お、雪穂もやっぱ穂乃果と同じやつ付けてるんだな?」
一緒に買いに行ったというのなら、おそらく雪穂も同じのをつけてるはずだと思い確認すると、やはりそうだったらしい。
「ふんっ、今更気づくなんて遅すぎだよお兄ちゃん!」
「ははっ、ごめんごめん。いつもと雰囲気変わって良いな」
「……電車の中でいっぱいくっついてたのに」
謝りながら雪穂も撫でてみると、ぷいっと顔を俺から背けながらそんなことを言ってきた。言われてみれば、今日来るときの電車の中で、やたら雪穂が身体を近づけてきていた気がした、そういうことだったのかと今更気づかされた。
「穂乃果だっていっぱいお兄ちゃんにくっついてたもんっ! 今更気づくなんて遅いよ!」
さっきまで笑顔を見せてくれていた穂乃果も、雪穂の言葉を聞いて頬を膨らまし、俺に指摘してきた。穂乃果は俺にしがみつくように抱きつき、雪穂は完全にそっぽを向いてしまっている。
「悪かったよ2人とも、許してくれ」
「むー……今回は特別に許してあげるっ」
「ありがとう穂乃果。な、雪穂もごめんよ」
「……うん」
「やっぱり2人とも優しいなぁもう!」
「わわっ!」
「きゃっ!? ちょっとお兄ちゃん!?」
「2人とも可愛いぞ~!」
なんだかんだ許してくれる穂乃果と雪穂が2人が愛おしくて、俺は2人をまとめて抱きしめた。2人とも一切抵抗せずに俺の腕の中に。穂乃果は再び嬉しそうな笑顔を、雪穂は赤い顔で驚き戸惑っていたが、少しすると柔らかな笑みを見せてくれた。
桜の木の下で何も話さず、風に流れる木々の音を聞きながら、少しの間3人で抱きつきあっていた。
ぐぅ~、そんな和やかな空気を崩す音が聞こえた。
「あっ……あぅ、お腹鳴っちゃったよぉ」
「お姉ちゃん空気読めなさすぎでしょ」
「うぐぅ! 雪穂ぉ……」
「まぁまぁ。もう時間もいい頃だし、お弁当食べるか?」
「うんっ、食べる!」
穂乃果のお腹の音を聞き、俺たちはお弁当を食べることにした。
「お~、綺麗に盛り付けられてるな!」
「えっへんっ!」
「お姉ちゃん盛りつけしかやってないじゃん」
広げられた弁当の中は綺麗に盛り付けられていて、歩いて持ってきたにしては特に崩れた様子もない。
実はこのお弁当は俺たちが朝自分たちで作ってきたもので、その際穂乃果は盛りつけを担当したんだ。雪穂の言うとおり、穂乃果は盛り付けのみで、調理自体は俺と雪穂の2人で担当したため穂乃果は料理に関しては盛り付け以外一切関わっていないのだが、このドヤ顔である。
そんな穂乃果も非常に可愛いから俺にとっては何の問題もないのだが。
「お姉ちゃんももうちょっと女子力磨いとかないとダメなんじゃない?」
「うぐっ! お、お兄ちゃんもそう思う?」
「いや? 穂乃果はそのままでも十分に女の子だと思うぞ」
「お兄ちゃん大好きっ!」
「はぁ……これだからお姉ちゃんが成長できないんだよ」
俺は穂乃果に"お兄ちゃん大好き"と言われたいがために生きているのかもしれない、そう思わせるほど嬉しそうな顔を浮かべる穂乃果。こんな顔をされてはもう女子力などというくだらないものなど必要なくなってしまう。
それに対して雪穂は呆れ顔でため息までつく。真面目な雪穂なだけに、穂乃果の将来を心配しているのだろう。
俺としては、俺とずっと一緒にいてくれるのであれば、2人に女子力なんて求めないんだけどな。
それに穂乃果だって、女子力がないわけじゃない。
「はいお兄ちゃん、あーん♡」
おかずを箸でとり、俺にあーんしてくれる穂乃果。いつもは恥ずかしがるのだが、今は相当機嫌が良いらしく、躊躇いも恥じらいもなくやってくれた。こういうところで穂乃果も女子力を発揮してくれてるのだ。
その様子をみた雪穂が、何を思ったのか慌てて箸でおかずをとり、穂乃果同様に
「ほら、あーん!」
あーんしてくれたのだ。穂乃果をちらちら見ながら、早く食べろと箸を俺の方に押しやってくる。
「あ! 穂乃果が先にお兄ちゃんにあーんしてたんだから雪穂は待っててよ!!」
「別にいいじゃんどっちが先でも」
「だめーっ! 穂乃果が先にお兄ちゃんに食べてもらうの!」
「お姉ちゃん大人げないよ~?」
雪穂を見て穂乃果がそれに対抗するように俺の方に箸を近づける。雪穂も雪穂で譲らず、2人で軽い言い合いをしている。そう言ってる間にも2人が俺に向ける箸はすでに両方とも俺の口の前に。
「あむっ……うん、美味いよ2人とも」
「あっ……もう、お兄ちゃんったら」
「一緒に食べちゃったんだ」
「喧嘩しちゃダメだぞ~」
「あぅ、ごめんね雪穂」
「……ううん、私も大人げなかったかも。ごめんね」
2人がくれた分を両方同時に食べると、2人も落ち着きを取り戻した。謝り合う2人の様子を見ながら、2人もまだまだ子供だなと、2人を愛おしく思うのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
お弁当を食べ終わって結構長いこと3人でゆっくり話していたのだが、今日は店番を控えているということで、俺たちは帰ることにした。
3人、手をつないで。
「外で綺麗な桜見ながら食べるお弁当、美味しかったね!」
「あぁ、そうだな」
「たまにはこういうのもいいよね」
右には嬉しそうに笑う穂乃果、左には少し恥ずかしそうに笑う雪穂が。桜満開の道を歩く2人の笑顔は、いつもより一段と輝いて見える。
と、穂乃果が何かを指さした。
「あっ! お兄ちゃん雪穂! あそこにアイス売ってる屋台あるよ! 行こう行こうっ!」
「ちょっ!? こら待て!」
「あらら~、お姉ちゃん行っちゃったね」
穂乃果がアイスの屋台を見つけたらしく、1人走り去っていってしまった。俺たち2人は置き去りにされてしまったが、雪穂もアイスを食べたそうな顔をしている。
「ほら雪穂、これでアイス買ってきなよ」
「っ! わっ私は別にいらないもんお姉ちゃんじゃないんだし」
「でも食べたいんだろう? そんな顔してるぞ」
「うっ……じゃ、じゃあ行ってきます」
「おう」
雪穂にお金を渡すと、初めは嫌がってたものの、結局素直になって穂乃果の後を追うことにした雪穂。
「あ、お兄ちゃん」
走り出そうとしていた雪穂だったが、その寸前で足を止め俺のほうを向く。
「お兄ちゃんはどんなアイス食べたい?」
「ん、じゃあミント系のやつで」
「えへっ、任せておいて!」
やはり雪穂は出来る子だった。俺に質問すると、笑顔を浮かべそのまま走っていった。
「さて、俺も行くかな」
そう思い、俺は歩き出そうとした。
だが俺は雪穂の走っていく後ろ姿しか見ておらず、
タイミング悪く、俺が歩き出すタイミングと横から歩いてくる人のペースが重なり、互いに気づけずぶつかってしまった。
「きゃっ!?」
「いたっ!」
ぶつかった衝撃で体がぐらついたがなんとか踏ん張る。しかし横から来ていた人はバランスを崩してしまったらしく、地面をこするような音が聞こえた。
俺の目の前では
慌てて俺はぶつかった人の方向を見てさらに慌てる。俺より少し年上に見える綺麗な女性が、地面に倒れ込んでいるのだ。
「だ、大丈夫ですか!? すいません、前しか向いていなかったもので……」
俺が手を出し、立ち上がるのを手伝おうとしたのだが、その女性はその手を取らず、自力で立ち上がった。
「いえ、私の方こそすいませんでした。人を探していたもので」
地面に触れたところを払いながら謝罪してきたその女性は、日本人離れしたスタイルと容姿を持っていた。落ち着いた声で俺にそう言った女性だったが、女性は俺の顔を見るなりハッとしたような表情を一瞬だけ浮かべ、すぐに表情を戻した。
「それでは、急いでいるので私はこれで」
「あっ、ちょっとお詫びくらいは!」
呼び止めようとしたがそれも虚しく、女性は走り去ってしまった。何もお詫びもできないままだったため、気持ちは少し沈んでしまった。
だがしかしあの女性、どっかで見たことある気がする。もしかしたらまた、会えるかもしれない。
そう思った俺は、下手に追うこともせず、雪穂たちの方へと向かった。
「あっ! お姉ちゃんいたー!」
「あ、亜里沙! やっと見つけた。もう、心配したんだから」
「えへへ、ごめんなさい……どうしたのお姉ちゃん?」
「……ううん、何でもないの。さ、帰りましょ」
「うんっ!」
妹を見つけることができ、安堵する。
"亜里沙"と呼ぶその妹に心配されたが、何でもないと偽り、その場を後にした。
「高坂……光穂くん、だったかしら」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お兄ちゃんおそーい! アイス溶けちゃうよお!」
「何やってたの~? はいこれ、お兄ちゃんの分」
「ごめんごめん、ちょっと人と話しててさ。お、ありがとう雪穂」
合流すると、2人はアイスを手に持ち食べずに待っていてくれた。雪穂からミントのアイスを受け取ると、穂乃果が我慢ならないと言わんばかりに声を出す。
「うー! もう食べるよ! いただきまーすっ!」
相当アイスを食べたかったのだろう、穂乃果は大きく口を開け、手に持っているいちごのアイスにかぶりついていた。雪穂もまた、そんな穂乃果の様子を見て、自分の手にあるチョコのアイスをペロペロと食べ始めた。
さて、俺も雪穂に買ってきてもらったアイス、食べようかな。そう思って口をつけようとした時だった。
「お兄ちゃん! 穂乃果のアイス、美味しいよ! 食べて食べて!」
「お兄ちゃん、このチョコのアイス結構いけるよ、食べてみて!」
2人の妹からほぼ同時のタイミングでアイスを差し出されてしまった。さっきもこんなことあったよな。
「あー……お、このいちごのアイス、果実感あって美味いな!」
「でしょでしょ!」
「おう! で、こっちも、あーん……おぉ、こっちは甘さ控えめで大人味って感じのチョコアイスだな」
「どう? 私っぽいチョイスでしょ?」
「そうだな、雪穂なら選びそうな味だな、美味いよ」
「……えへ」
妹からもらった2つの味のアイスは、それぞれ違った美味しさがあって、まさに穂乃果と雪穂を表しているようだった。
俺たちは買ったアイスを食べながら、3人仲良く帰るのだった。
――――――――――――
ねえ光穂くん、覚えてる? 私と光穂くんが初めてお話したときのこと。
満開の桜で彩られた道で、私はいなくなった亜里沙を探すのに必死で、光穂くんが歩いていることに気づけなくてぶつかっちゃったときのこと。私は今でもはっきり覚えているわ。
光穂くん、あの時はまだ私のことを知らなかったみたいね、同じ学校の同じ学年の生徒だってことに。おかしいなぁ、これでも私、悪目立ちする外見してるはずなのに、それでも光穂くんにはわかってもらえなかったみたいで。
私はちゃんと光穂くんのこと、知ってたのに。
だから、私だけ知ってるっていうのがバレるのは恥ずかしくて、足早に逃げちゃったの。ふふっ、情けないわよね。
それから少し経ってから、私は穂乃果たちとμ'sとして活動することになって、穂乃果の家にお邪魔することになった。その時も君は私に気づくのが遅かった。
『あれ? 絢瀬と東條と矢澤もいるじゃん。なんで……?』
私の名前を覚えててくれたのは嬉しかった、でも誰よりも先に、1番に気づいて欲しかった。そう思ったからかしら、私もこう返した。
『今さら気づいたのかしら?』
ちょっとだけ、怒ってたのよ? あの時。でもそのときは、なぜ怒ってしまっていたのか全くわからなかった。
自己紹介するとき、本当は桜道で会ったがあること、言おうか迷った、でも言わなかった。
でも私の中の要らないプライドが邪魔した、そして、初めましてであんな出会い方をしたくなかった、そんな思いで私は。
『あなたと直接話すのって初めてかしら? 私は絢瀬絵里、生徒会長を務めてるわ』
私は、絢瀬絵里は、初めて会った春休みのことも、光穂くんに"初めまして"と伝えた
きっと、ずっと忘れない。
そう、私はきっと、初めて会った時から光穂くんのことが――――
好きだったのかもしれない。
ハノケチェン……尊すぎて生きるのが辛いです(´・ω・`)
雪穂ちゃんも可愛いんですよね~これが。
やっぱりほのゆきは神がくれた癒しの女神なんですよねぇ……!
この作品内で、何度か絵里ちの話をちょっとずつ書いてるかとは思いますが、今回はこのような形で、光穂と絵里ちの出会いを書いてみました。
ラストの部分は、この作品の第2話につながります。