兄と妹~ときどき妹~   作:kielly

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ンミチャアアアアアアアアアア!!

ということで海未ちゃん誕生日記念回ですヽ(´▽`)/

今回会話多めです。




1日限定妹、海未

 「今日1日、泊めていただけませんか?」

 

 海未ちゃんからの一言を聞いた俺は唖然とした。

 

 

 

 

 

 海未ちゃん誕生日記念

 

 1日限定妹、海未

 

 

 

 

 

 「あの、光穂さん?」

 「……え? あ、うんごめん、もう1回言ってくれる?」

 「ですから、今日1日泊めていただけないかと」

 「あー……うん。なんでそれを俺に言うんだ?」

 

 確認のためもう一度聞いてみたが、どうやら聞き間違いではないらしい。でもなんで俺に言ってきたんだろうか、普通なら幼馴染である穂乃果に聞くだろうに。

 

 「え? い、いえその、変な意味があってお願いしてるんじゃないんです! ただ、穂乃果に言うのはちょっと抵抗が……」

 「どういうこと?」

 「じ、実は」

 

 恥ずかしそうにモジモジしながら、海未ちゃんは話し出した。

 

 「きょ、今日はうちの親が旅行で家にいないんです。本当は私もお呼ばれしていたんですが、μ'sの練習があるからと言ってお断りさせていただいたんです」

 

 μ'sのために家族旅行を断ったのか。なんて真面目な……

 

 「ですから今日は家に私しかいません。ですが、何分家が広いですから1人だと寂しくて……でもそんなことを穂乃果に言ってしまっては、絶対に穂乃果にからかわれてしまいます」

「なるほど、穂乃果にからかわれるのが嫌だったから俺に言ってきたのね」

「だ、ダメでしょうか?」

「ん~」

 

 ダメ、ってわけじゃない。ただ、俺にお願いしたところで結局は穂乃果にバレるのは変わりない。それに、うちの親なら間違いなくOKしてくれるだろうが、雪穂はどうだろうか。急に海未ちゃんが泊まりにきて困惑しないだろうか。そんな考えが頭をよぎる。

 ただ、ずっと考え込んでいる俺を小動物のような目で見てくる海未ちゃんをほっとくわけにもいかず、とりあえず適当に質問してみた。

 

「ダメではないんだけど、そうなると海未ちゃんの家には誰もいなくなることになるけど、それは大丈夫なのか?」

「……あっ」

「考えてなかったんだな」

 

 小動物から一転、ぽかーんとした顔を見せる海未ちゃん。そして徐々に表情を曇らせてゆく海未ちゃん。

 

「そう、でした。お父様やお母様がいないとなっては、私が家を守らなければ」

「あーまってまって!」

 

 表情が沈んだ海未ちゃんを見てしまった俺は、いけないと思ってなんとか表情を明るくさせようと提案する。

 

「ならさ、海未ちゃんの家に泊まりに行ったらいいんじゃないかな?」

「えっ? 私の家にですか?」

「おう、誰もいないんだろ? 海未ちゃんまで家からいなくなったらまずいだろうし、うちだとちょっとせまいだろうからさ。どうかな?」

 

 俺の提案に、海未ちゃんは笑顔を見せてくれた。

 

「そうです! 初めから私の家に呼べばよかったんですよ! 何も穂乃果を恐れてまでして高坂家にお世話になる必要などなかったのです!」

「そうだそうだ。じゃあ決まりだな」

「ありがとうございます!」

 

 嬉しそうに笑う海未ちゃん。よかった、そう思いつつ、早速穂乃果に海未ちゃんの家に泊まってあげるようにお願いするためにスマホを取り出した。

 

「じゃあ穂乃果に、今晩海未ちゃんの家に泊まってあげるよう連絡しとくからさ。2人で楽しみなよ。もし2人でも寂しいようなら雪穂にもお願いするけど?」

 

 そう聞きながらも、俺はスマホで穂乃果宛にメッセージを打ち込んでいく。しかし海未ちゃんからの返事がないのを不思議に思った俺は、海未ちゃんの方を見た。

 

「え? 光穂さんは来てくださらないんですか?」

「へ?」

「来てくださりますよね?」

「え? いや、俺男だけど」

「……ダメ、なんですか?」

 

 またまた海未ちゃんの小動物的視線を浴びてしまった俺は断ることができなかった。

 こうして俺は今晩、海未ちゃんの家に泊まりに行くことになったのだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「やっほー海未ちゃん! 来たよ!」

「こんばんわ穂乃果、よく来てくださいましたね」

 

 日が落ちた頃、泊まるための準備を済ませ、俺たちは海未ちゃんの家を訪れた。

 

「光穂さんも、ありがとうございます」

「あ、あぁ。でもあれだな、なんというか緊張するっていうか」

「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ」

「お、おう」

 

 多分海未ちゃんは意味を履き違えているだろうが、俺が緊張するといったのは女の子の家に泊まりに来ることなんて今までなかったからだ。あ~、なんかダメなことしてる気がする。

 

「ふふっ。それと、来てくれてありがとうございます、雪穂」

「うん。海未さんの家来るの久々だね」

「そうですね、幼い頃以来だったでしょうか? 何にせよ嬉しいです」

 

 ダメもとで雪穂にも来るかどうかを聞いてみたところ、二つ返事で来てくれたのだった。だから今回は、海未ちゃんの家に高坂兄妹3人でお邪魔している。親がいなくてよかったよ。

 

「ささ、上がってください。私の部屋は奥にありますので」

 

 海未ちゃんから手招きを受け、俺たちは海未ちゃんの部屋に向かった。

 

 

 

「適当に座っちゃってください」

「こ、ここが海未ちゃんの部屋か」

 

 案内され、俺たちは部屋に入った。部屋の中は綺麗に片付けられていて、女の子の部屋にしては質素な部屋。しかし周りを見てみると、ちらほらとぬいぐるみやピンク色の可愛らしい小物などが置かれていて、女の子らしさも感じられる、そんな部屋だった。

 

「ちょ、ちょっと光穂さん、あまり見回さないでください……恥ずかしいです」

「ご、ごめん海未ちゃん!」

「お兄ちゃんさすがに気持ちわるいよ」

「ご、ごめん雪穂」

「海未ちゃんを恥ずかしがらせちゃだめ! 恥ずかしがらせるのは穂乃果だけにしてっ!」

「ほ、穂乃果もごめんな?」

 

 見渡した結果、3人に叱られてしまった。さ、流石に女の子の部屋ジロジロと見渡すのはまずかったよな、これじゃただの変態じゃないか。反省反省。

 

「……ふふっ」

 

 シュンとした俺を見てか、海未ちゃんはクスクスと笑いだした。

 

「ふふっ、別に怒ってるわけではありませんから、そんなに落ち込まなくていいんですよ」

「いやでも、さすがに失礼なことしちゃったし」

「ふふふっ」

「??」

 

 謝る俺を見てさらに笑いだした海未ちゃん。俺の様子がそんなにおかしかったのだろうか?

 

「なんでしょうかね」

「え?」

「高校に入ってからやっとお話しだしたくらいの関係でしかないはずなのに、なぜでしょうか、昔からずっと一緒にいるかのような安心感がありますね、光穂さんには」

 

 言われて思い出したが、確かに海未ちゃんとは高校に入るまでは一切の交流がなかった。名前こそ穂乃果からさんざん聞いてはいたのだが、話をしたり遊んだり、なんてことは不思議と1度もなかったのだ。

 

「まるで、長年連れ添った夫婦みたいな」

 

 "夫婦"という単語を海未ちゃんが出した瞬間、横にいた穂乃果と雪穂がガタッと音を立てて立ち上がり、海未ちゃんに強めの口調で食い気味に言う。

 

「なななな何を言ってるんですか海未さんは! 海未さんにはこんなお兄ちゃんみたいな人じゃもったいないですよ!!」

「ふふふふ夫婦はダメだよ夫婦は!! だってお兄ちゃんは穂乃果のだもん!!」

「え、あ、いえ、すいません。じゃあ訂正しますね」

 

 2人の様子に驚いた様子の海未ちゃんは、すぐに発言を訂正すると2人に伝え、なんとか2人を抑えた。

 

「じゃ、じゃあ……」

「じゃあ?」

「じゃあ……?」

 

 海未ちゃんの声に、2人はまたもや食い気味になる。

 

「光穂さんは、まるで私のお兄さんみたいな人だな、と」

 

 海未ちゃんの言葉に2人が固まった。しかし、すぐに2人は口を開いた。

 

「う、海未ちゃんが穂乃果たちの家族に……!」

「いいですねそれ! お姉ちゃんは全くお姉ちゃんらしくないので、海未さんみたいなお姉さんがいると私は嬉しいです!」

「ゆ、雪穂ぉ」

 

 雪穂の発言に穂乃果はがっかりしてしまってはいるが、2人は海未ちゃんのそんな発言がすごく気に入ったらしく、すごく嬉しそうだ。

 にしても

 

「海未ちゃんが、俺の妹か」

「はい。まるでお兄さんみたいだなとは前から思ってました」

 

 海未ちゃんのそんな声を聞き、俺は頭の中で、海未ちゃんがもし妹ならどうなるかを想像してみた。

 

 

『お兄さん! 早く起きてください遅刻しますよ!』

 

『お兄さん、そんなにぐーたらしてたら、穂乃果みたいになってしまいますよ』

 

『課題は終わりましたかお兄さん? 終わってないなら私もお手伝いしますよ?』

 

 

「うーん……兄としての立場がなくなりそうだな」

「何か言いましたか? 光穂さん?」

「いえ、なんでもありません」

「ん?」

 

 俺のつぶやきに反応した海未ちゃんを流す。にしても、海未ちゃんが妹だとしたら俺多分兄としての威厳なくすなこれ。今でさえ雪穂にさんざん叱られてるような感じなのに、海未ちゃんまで加わったら俺本当に立場がなくなるぞおい。

 

 とは言えず。

 

「うん、俺も海未ちゃんが妹だったら嬉しいよ。海未ちゃんと穂乃果と雪穂の3人、こんなに可愛い妹たちに囲まれてる俺は幸せ者だろうな」

「なっ!? か、可愛いって」

「お、お兄ちゃん……」

「だーかーらー! 恥ずかしがらせるのは穂乃果だけにしてって言ったのにーっ!」

「ご、ごめんな穂乃果! ほら、よーしよし」

「ん……えへへ」

 

 なんだろうか、今日の俺、何を言ってもこんな感じになりそうな気がする。海未ちゃんと雪穂は似たようなリアクションをするからいいとしても、穂乃果は怒り方が変だから、どんな言葉を選んでも地雷踏みそうで。

 とりあえず穂乃果を撫でる俺。すると、海未ちゃんがずっと俺の撫でる手を見ていることに気がついた。

 

「どうしたの海未ちゃん?」

「え!? あ、いえ、その……」

「その?」

「も、もし私も妹だったら、穂乃果のように私も撫でてくれるのですか?」

 

 少しだけ頬を赤く染めた海未ちゃんが、期待するかのような目で俺を見つめる。

 

「おう、穂乃果たち以外の女の子の頭を撫でるのはちょっと抵抗あるけど、妹だっていうんだったら話は別だな」

「そ、そうですか」

 

 俺が言うと、海未ちゃんは何とも言えない表情を浮かべた。嬉しそうな、でもどこか寂しそうな。そんな表情だ。

 それを見てか、穂乃果は俺に撫でられながらも海未ちゃんに言った。

 

「なら海未ちゃんも今日1日、妹になってみてよ!」

「えっ? 私が、妹に?」

「うんっ! だって海未ちゃん、すっごく頭なでて欲しそうな顔してるもんっ! それにお兄ちゃんのナデナデすっごく気持ちいいから、疲れてる海未ちゃんにはすごく効くと思うし!」

 

 穂乃果によると、今の海未ちゃんの表情は撫でて欲しいってときの顔だったらしい。さすがは幼馴染ってところだな。

 海未ちゃんは穂乃果の発言のあと、チラッと俺を見てきた。その目は確かに期待しているようだ。ということは穂乃果の言ってることは間違いないのだろう。

 だったら、俺は歓迎だ。

 

「俺のナデナデが効くかはわかんないけど、俺も海未ちゃんが今日だけでも妹になってくれたら嬉しいかな」

「い、いいんですか?」

「今日はわざわざ招待してもらったんだ。海未ちゃんのお願い事なら聞き入れるよ」

「……で、では、お言葉に甘えて」

「おう。今日はよろしくな海未(・・)

「は、はい! よろしくお願いします、お兄さん(・・・・)

 

 ぎこちない言い方ではあったけど、俺のことをお兄さんと呼んだ海未ちゃん。顔を赤くして照れてはいるが、嬉しそうだ。

 

「ほら海未、撫でてあげるからこっちにきなよ」

「っ! は、はい、今いきます!」

 

 海未ちゃんを呼ぶと、笑顔で隣に来た。

 

「お、お願いします!」

「ほら、よーしよし」

「……ふぁぁ……はっ!?」

「ははっ、可愛い声出てたな」

「き、聞かなかったことにしてください!」

「いいだろ? 今は俺の妹なんだし、ほら、穂乃果を見てみろよ」

「え?」

「ふぁぁ♡ お兄ちゃんのナデナデは最高だよぉ♡」

「ナデナデされてこんなに喜んでくれるんだ、可愛いよなぁ」

「……今なら穂乃果の気持ち、わかる気がします」

 

 左に海未ちゃん、右に穂乃果。2人の頭を撫でてやると、それぞれが違った反応を見せてくれて面白い。穂乃果はいつものように気持ちよさそうに抱きついてきて、海未ちゃんもさっきまでは恥ずかしそうにしていたが、穂乃果を見てからというもの、目をつぶって気持ちよさそうに撫でられるがまま。

 ふふっ、本当に妹が1人増えたみたいだ。

 

「……ねえ、私も妹なんだけど。私だけ蚊帳の外なんてひどいよ」

「ごめんごめん、ほら雪穂、撫でてあげるから近くにきなよ」

「ふんっ、私は撫でてもらわなくていいもん。その代わり……えへへ」

「あれ? 珍しいな、俺の前に来て抱きついてくるなんて」

「……いつもお姉ちゃんが占領してるからだもん」

「はは、雪穂もやっぱり可愛いよ」

「っ……うぅ」

 

 不貞腐れていた雪穂を呼ぶと、珍しいことに、あぐらを組んでいる俺の足の上に、俺に向かい合う形で座り、抱きついてきた。いつも穂乃果がやってるのと同じやつだ。

 右手には穂乃果、左手には海未ちゃん、そして正面には雪穂、可愛い妹3人に囲まれた俺は、ただただ彼女たちが飽きるまで愛で続けたのだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「お兄ちゃーん、お腹減ったよぉ」

「そうですね、言われてみれば夕食はまだでしたね」

「そうだったな」

「でもどうする? 海未さんの家の冷蔵庫から勝手に材料出すのって迷惑だよね?」

「ん~、どうするか」

 

 夕食の時間帯、まだ夕食を済ませてなかった俺たちは今更になって夕食をどうするかについて話しだした。

 雪穂の言うとおり、海未ちゃんの家の冷蔵庫から何かを、という考えは、さすがに迷惑になるだろう。かといって正直外食するのは面倒だ。まぁ穂乃果たちがそれを望むのならそれでもいいのだが、おそらくそれはないだろう。

 なぜなら

 

「お兄ちゃぁん、動きたくないから宅配頼もうよぉ」

 

 夕食どきの穂乃果は、身体から力が抜けたようにまったく動かないからだ。それはたとえ海未ちゃんの家だとしても変わらないらしく、穂乃果は俺に擦り寄りながらそう言ってきた。

 

「宅配ですか? 私あまりそういったものはあまり食べたことないので、気になりますね」

「お、じゃあ宅配頼もうか」

「やったー! 穂乃果ピザがいい!!」

「またピザ~!? お姉ちゃん前もピザって言ってたよね!?」

「いいのいいの! だってピザ美味しいんだもんっ!」

「……ピザ?」

「お、おい穂乃果! 海未が!」

「はっ!? う、海未ちゃん! 今のは冗談だよ冗談!! そんな高カロリーなもの食べちゃダメだよね、うん!」

 

 ピザという単語に海未ちゃんが反応したのがわかった俺はすぐに穂乃果を制した。穂乃果は慌てて訂正を図るが、海未ちゃんは穂乃果をジーッと見ている。雪穂も、ただならぬ海未ちゃんの雰囲気に息を飲んでいる。

 

 だが、海未ちゃんはすぐに表情を崩し、柔らかな笑みを浮かべた。

 

「いいですね、ピザ! 実は私も食べてみたかったんです。それに、今日は特別な日ですから、今日くらい食べたいものを、何も気にせずに食べましょう」

「う、海未ちゃん! ありがとう海未ちゃあああんっ!」

「おっと! ふふっ、今日だけですよ?」

「うんっ!」

 

 特別な日、そう言って海未ちゃんは胸元に飛び込んできた穂乃果を優しく抱きとめ、優しい笑みを浮かべていた。

 っていうかあれだな、この2人見てると……

 

「お兄ちゃん、どう考えてもこれ、海未さんがお姉ちゃんのお姉ちゃんだよね」

「あぁ、今俺もそれ思ってた」

 

 雪穂の言うとおり、海未ちゃんが穂乃果のお姉ちゃんみたいだった。

 俺が長男で、長女に海未ちゃん、次女に穂乃果、そして三女に雪穂……いいなこれ、実現しねえかなこれ。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ふ~、もう入らないよぉ」

「お姉ちゃん食べすぎだよぉ」

「ふぅ。たまにはピザもいいものですね」

 

 頼んだピザを食べ終わった俺たち。食べ終わったばかりだというのに横になっている穂乃果、しかし今日は何も言わずに満足そうな笑みを浮かべている海未ちゃん、そして穂乃果の様子を見ながら、穂乃果と同様満腹と言わんばかりの満足気な表情の雪穂。

 のんびり食べていたせいか、結構時間が経っていた。

 

「そろそろお風呂にしますか?」

 

 海未ちゃんからの提案。確かに風呂に入るにはちょうどいい時間だった。

 

「そうだな。じゃあ海未たち先に入ってこいよ」

「え?」

「え?」

 

 俺の言葉に海未ちゃんはきょとんとした表情を浮かべた。その表情を浮かべた意味が分からず俺もきょとんとしてしまう。

 

「え? ほら、ここ海未の家だしさ、俺らはお邪魔してる立場なわけだから」

「でも、今日は私たちは兄妹ですよ?」

「ん? うん、そうだけど」

 

 海未ちゃんのその言葉にさらに俺は困惑する。何を言いたいのかがわからない。

 

 だが、次の海未ちゃんの発言を聞き、はっきりと理解した。

 

 

「兄妹って、一緒にお風呂に入るものですよね? だから一緒に入りましょう」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、穂乃果と雪穂がガバッと起き上がり、海未ちゃんに食い気味に説教を食らわせる。

 

「なななな何言ってるの海未さん!? 高校生にもなってそんなことしてる兄妹なんていないよ!?」

「そそそそそそそうだよ海未ちゃん! 穂乃果たちだってお兄ちゃんが中学1年のときまでしか一緒に入ってないんだよ!?」

 

 食い気味に、慌てた様子で海未ちゃんに説教する2人。すると海未ちゃんは、少しだけしょんぼりした様子で納得した。

 

「確かに、高校生にもなって一緒にお風呂だなんて聞いたことないですね」

「そうでしょ!? 兄妹ってそんなもんなんだよ海未さん!」

「穂乃果はお兄ちゃんと一緒に入ってもいいいんだけどね! お兄ちゃんと雪穂が必死に止めるんだもん! だからだめなんだよ!」

「そ、そうなんですか。なら仕方ないですね」

 

 やはり落ち込んだ様子のままではあったが、2人の言葉に納得し、頷いた。

 

「では仕方ないので、お兄さんお先にどうぞ」

「え? いやいや、海未たちから先に入りなよ」

「いえ、一番風呂は男性からです」

「レディファーストって言葉もあるが?」

「遠慮なさらずに。それに、ほら」

「ん?」

「お兄ちゃん、お先にどうぞ!」

「海未さんが言うから仕方ないよね」

 

 海未ちゃんの言葉で、2人の様子を見ると、2人とも俺に先を譲ってくれる気でいるらしい。

 まったく、可愛い妹たちだ。

 

「本当にいいのか?」

「構いませんよ」

「……じゃあ、先に行ってくるな」

「はい、行ってらっしゃい、お兄さん」

「行ってらっしゃい! お兄ちゃん!」

「早く出てきてよねお兄ちゃん」

 

 3人の妹たちに見送られた俺は、妹たちに感謝しつつ風呂に入った。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 全員が風呂に入ったあと、俺たちは海未ちゃんの部屋でくつろいでいた。

 

「ふぁぁぁぁ……そろそろ寝ましょうか」

「えっ!? 海未ちゃんもう寝るの!? 早すぎるよぉ」

「10時半か。俺らだったらまだ余裕で遊んでるな」

「さすがだねえ海未さんは」

「そうですかね? ふぁぁぁ」

 

 海未ちゃんがすごく眠そうな声をあげた。俺たちの感覚ならまだ全然寝る時間ではないのだが、海未ちゃんにとってはこれが普通らしい。

 

「隣に客人用の寝室がありますので、そちらで今日は寝ましょうか」

 

 扉を開けた先にあった寝室には、すでに布団が敷いてあった。おそらく俺たちが来る前に海未ちゃんが用意してくれていたのだろう。

 

「ありがとうな海未、わざわざ準備してくれてたのか」

「ん……」

 

 相当眠いのか、寝ぼけ眼で俺を見る海未。そして寝ぼけているのか、さっきまで恥ずかしがっていたことをすんなりと求めてきた。

 

「なら、ご褒美に頭を撫でて欲しいです」

 

 寝ぼけた目で俺を見る海未ちゃん、学校ではあまり見られない様子に驚きつつも、俺は言われたとおり頭を優しく撫でた。

 

「ん……ふふっ」

 

 寝ぼけた目はそのままに、気持ちよさそうに声を上げる海未。そして

 

「おやすみ……なさい……お兄さん」

「おっと。寝ちゃったか」

 

 よほど気持ちよかったのか、眠かったのか、立ったままにも関わらず海未は俺に身体を預ける形で眠りについてしまった。軽く手で身体を支えるが、全くの抵抗がないあたり本格的に眠りについてしまったのだろう。

 俺はそんな海未ちゃんを抱き抱え、3つ(・・)横並びに敷いてある布団の右端に寝かせ、掛け布団をかけてあげた。

 

「おやすみ、海未」

 

 眠りについた海未ちゃんの寝顔を見ながら、軽く頭を撫でる。

 今日1日限りとはいえ、海未ちゃんに"お兄さん"と呼ばれて、まるで本当に妹が1人増えたような感覚を味わうことができて、正直すごく楽しかった。今日限り、というのが悲しいくらいだ。

 と、そう思っていたとき気づいた。

 

「お兄ちゃん……いつまで海未ちゃんの頭撫でてるの?」

「そろそろ離れないと……ねぇ?」

「あ、はい。離れます」

 

 2人の妹が俺の横に立って、白い目で俺を見ていたのだ。何か嫌な予感がしたため俺はすぐに撫でるのをやめ、立ち上がる。

 

「お兄ちゃん、穂乃果たちももう寝ちゃおうよ」

「うん、寝ちゃおうよお兄ちゃん」

 

 少し眠たげな表情で2人は俺にそう言ってきた。

 

「あぁ。あ、でも……」

 

 海未ちゃんを寝かせるときに気づいたが、敷いてある布団は3つ、そのうち1つは海未ちゃんが寝ている。となると残りは2つしかないのだが、俺たちは3人。どうする?

 

「お兄ちゃん、早く真ん中に寝てよ!」

「え? 真ん中?」

「お姉ちゃんの言うとおりだよ、ほら早く真ん中に寝ちゃって!」

「あ、あぁ」

 

 2人に言われるがまま、俺は2つある布団の真ん中に横になった。すると2人は嬉しそうに笑みを浮かべ、俺の横に来た。

 

「穂乃果は右! お兄ちゃんの右は穂乃果だよ!」

「じゃあ私はお兄ちゃんの左にしよっかなぁ」

「お、お前たち……」

「えへへ、これならお布団2つでも足りちゃうね!」

「そうだよ、1つお布団足りないなら、最初からこうすればよかったんだよ」

 

 穂乃果は俺の右側に、雪穂は左側に横になり、2人それぞれが俺の腕に抱きついてきた。それ自体は家で何度も経験があるのだが、今日のは少し様子が違う。

 

「……お兄ちゃん、海未さんにデレデレしすぎだよ。本当の妹を差し置いてさ」

「お兄ちゃんは穂乃果たちのお兄ちゃんだもんっ」

 

 雪穂は不貞腐れるように、穂乃果はプクッと頬を膨らませて。

 

 態度の違う2人の妹を見ながら俺は思った。

 

 海未ちゃんがもし本当の妹になったとしたら、確かにそれもいいだろう。でも、俺にはこんなに可愛い妹が2人もいるんだ、十分すぎるだろう、と。

 

 目を閉じてすやすやと寝息を立て始めた2人から腕を離し、その空いた左右の手で2人を撫でながら、俺は目を閉じたのだった。

 

 




何だかんだ高坂姉妹を優遇(?)するスタイルになってしまったでござる(反省はしてない)


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