今回は真姫ちゃん回。
と思わせて、穂乃果ちゃん回です(いつもの)
感想、お気に入り、評価よろしくお願いします(●・8・●)
今日、俺は俺たちが住んでいるここ東京にしては人の少ない、穏やかな雰囲気を感じさせる街の駅で、ある人を待っていた。
「お待たせ、遅くなってごめんなさい」
現れたのは、特徴的な赤色の髪をした、上品さ漂わせる女の子だった。
「…………」
真姫とデートと監視人
今日はとっても天気が良くて、絶好のお出かけ日和! 穂乃果はすっごくお出かけしたい気分だったの。だからお兄ちゃんを誘ってみたんだけど……
『ごめん穂乃果、今日はどうしても外せない用事があってさ。だからごめんっ!』
って断られちゃったの! でもそれだけならいいの、お兄ちゃんにだって予定くらいあるだろうし、穂乃果だってそういうときあるもん、仕方ないよ。でもそれだけじゃなかったの!
『ど、どうだ穂乃果? 今日の格好、おかしいとこないか?』
って、やたらと服装を気にしてたの! 穂乃果と一緒にお出かけするときはそんなこと聞いてこないのに。これって絶対何かあるんだよ、間違いないよね。
だから、お兄ちゃんに何があるのか気になって、帽子をかぶってサンブラスもかけて、こっそりお兄ちゃんの後をつけてみたの。そしたら……
「お待たせ、遅くなってごめんなさい」
「いや、俺も今来たばっかりだから」
「むむ……むむむ!」
お兄ちゃん、
……お兄ちゃん、もしかして真姫ちゃんと付き合ってるのかなぁ。
光穂side
「じゃあ、行きましょ。この辺におすすめの喫茶店があるの」
「おう。真姫ちゃんはこの辺詳しいのか?」
「えぇ。この辺は人が少なくて落ち着いた雰囲気だから、よく来るの」
「へぇ~」
俺は真姫ちゃんと合流し、真姫ちゃんの言うおすすめの喫茶店まで一緒に2人で歩いていた。にしかし、真姫ちゃんはやっぱ大人びてるな。今日は上品なワンピースを着ているが、真姫ちゃんによく似合っているし、その振る舞いも、前から思ってたがとてもじゃないが高校1年生のそれじゃない。そんな真姫ちゃんと2人きりで会うのは正直緊張する、というかしてる。だから今朝も穂乃果にチェックしてもらったりしたが、それでもやっぱり緊張するな。
それに、女の子と2人きりだなんて、穂乃果や雪穂とじゃなきゃ滅多にないから、それもまた緊張する。
「ねえ」
「ん? どうした真姫ちゃん?」
「穂乃果とは普段、何をしてるの?」
緊張している俺にそんな話を振ってきた真姫ちゃん。なぜそんなことを聞いてきたのかは分からないが、俺は素直に答える。
「ん~、一緒に出かけたりすることもあるけど、大体は部屋でのんびりゲームしたり漫画読んだり、適当なこと話してたりかな。そこらへんは穂乃果に任せてるよ」
「ふーん」
特にこれといった反応もなく、あっさりと返事する真姫ちゃん。自分から聞いてきたにしてはあっさりとした反応を見る限り、おおよそ予想通りだったということなのだろう。
と思っていたのだが、違ったらしい。
「私とあなたってさ」
真姫ちゃんが再び口を開く。
「私とあなたってさ、あまり会話することってないじゃない? ましてや今みたいに2人きりでなんて滅多にない、というより全くなかった。だから今日は、
赤くなった顔を隠すように俯きながら。
さっき俺に質問してきたのはきっと、俺と話すきっかけが欲しかったんだろう。だからすごく頑張ってくれたに違いない。
「俺も、もっと真姫ちゃんのこと知りたいから、今日はたくさん話そうよ、ちょっと緊張するけどな」
だから俺も、相も変わらず緊張しつつも真姫ちゃんにそう伝えた。すると真姫ちゃんは驚いたように顔を上げ、俺を見てきた。
「えっ、緊張してるの?」
「え? あぁ、なんていうか、真姫ちゃんみたいな大人びた女の子と2人きりだなんて、滅多にないことだったからさ」
俺がそう答えると、真姫ちゃんはくすくすと笑い出す。
「な、なんで笑ってるんだよ!」
「ふふっ、ごめんなさい。でも緊張なんてしなくていいわ、私の方が年下なんだし、それに私は緊張なんてしてないし」
「えっ、真姫ちゃんは緊張してないの?」
「そうね、あなたって穂乃果と雰囲気がまるで変わらないもの。だからかしらね」
「そ、そうなのか」
真姫ちゃんがくすくす笑いながら、そんなことを話してきた。良くも悪くも、俺は穂乃果と雰囲気が似てるらしい、だから真姫ちゃんを緊張させずに済んでいるらしい。いいのか悪いのか。
「だから、今日からは私と話すときに緊張なんてしないでいいのよ」
「あはは、って言われてもなぁ」
「なら、こうしましょ。私のことは"真姫"って呼びなさい。私もあなたのこと、"光穂"って呼ぶ事にするわ」
「え? 君はそれでいいのかい?」
「構わないわ。こういうのって、まずは形から、でしょ?」
「それはそうだけど……」
「そういうことよ」
緊張している俺に優しい口調で話す真姫ちゃん。微笑みながら、真姫ちゃんは俺を見る。
「だから、今日はよろしくね、"光穂"」
優しい笑みを浮かべる真姫ちゃんを見て、少しだけ緊張が解けた俺も、真姫ちゃんに返す。
「こちらこそよろしく、"真姫"」
この日から、真姫は俺を"光穂"と呼ぶようになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「いらっしゃいませ」
真姫に案内してもらった喫茶店に入った俺たちは、窓際にある2人席に座った。そして真姫は座って早々、持っていたバッグから1冊のノートを取り出した。俺たちが今日2人きりで会っている
「じゃあ早速だけど、いろいろと聞かせてもらうわ」
そう言う真姫は、ノートを開きペンを握った。
穂乃果side
「あっ、あそこの店に2人で入っていった!」
お兄ちゃんたちをつけてたら、2人は喫茶店に入っていったの。そこは表の通りから少し外れたとこにある喫茶店で、どっちかっていうと大人向けの雰囲気漂う場所。
うぅ、こんな隠れ家みたいなところに入るなんて、やっぱり2人ってそういう関係だったのかな……でも真姫ちゃんとお兄ちゃんが? あんまり話してるとこ見たことないし、それはなさそうだけど。でも2人がどんな雰囲気で話してるのか見てみたいし……うん、このお店に入るのはちょっと怖いけど、勇気を出して入ってみよう!
「いらっしゃいませ」
わわっ、店内もすごく大人びた雰囲気! どう考えても高校生の来るところじゃないよぉ。ってそうじゃなくて、お兄ちゃんたちは……いた、窓際の2人席。
穂乃果は2人の席を確認して、店内を見渡し、2人の席の横列にある、ちょっと離れた席に座った。なんだか刑事さんみたいでなんだか楽しいかもっ。でもここだと2人の話が聞こえそうで聞こえないよぉ。うぅ、気になる。
あれ? 真姫ちゃんがノートとペン握ってお兄ちゃんを見つめてる? な、なんだろうあれ、何をするつもり……はっ、まさか! あのノートにお兄ちゃんの好きなところいっぱい書いてお兄ちゃんを喜ばせようとしてる!?そ、それはずるいよ真姫ちゃん! 穂乃果だってお兄ちゃんの良いとこいっぱい知ってるもん! 穂乃果の方がお兄ちゃんを喜ばせることできるもんっ! で、でも、2人がもし付き合ってるんだとしたら、やっぱり穂乃果より真姫ちゃんから言われた方がお兄ちゃんも嬉しいのかな……
ってあれ? お兄ちゃんが何か話してる……そしてそれを真姫ちゃんが一生懸命ノートに書いてる……ってまさか、お兄ちゃんが真姫ちゃんの良いとこを自分のノートに書いてるの!? いいなぁ真姫ちゃん、穂乃果もお兄ちゃんにいっぱい褒められたいのに……うわぁん、でも2人が付き合ってるんだったら穂乃果がお兄ちゃんにそんなことできるわけないよぉ!
光穂side
真姫は自分のノートを開き、ペンを構えた。
俺たちが今日2人で集まったのには、ある
「光穂にとって、今のμ'sの好きなところ、そして足りないと思っていることは何?」
これである。真姫は作曲をする上で、μ'sの魅力と、今のμ'sに足りないものが何なのかに悩んでいたらしく、魅力を活かせてかつ足りないところを少しでもなくせるような曲を作りたい、そう思ったらしいのだ。しかしそれをμ'sのメンバーに聞いても意味がない、そう思って、μ'sのメンバーではない俺にそれらを聞くために、他のメンバーに知られることのないよう、2人きりで会って、今のようにインタビューさせて欲しいとお願いしてきたのだ。それが今日、2人きりで会った理由、目的だ。
店員が持ってきたコーヒーを一口飲み俺はその質問に答える。
「明るくて元気、だけど年齢相応の魅力を前面に押し出したグループ。見ているだけで元気をもらえるところ、俺はそんなところが好きだな」
「明るくて元気、ね。結構ありきたりね」
「はは、すまんな。あとは、メンバーそれぞれの魅力が一切無駄になることなく活かされてるところとかかな」
「たとえば?」
「振り付けとか、同じ振りを踊っているときも確かに魅力的だけど、たまに各々で振り付けが変わる部分とかは、そのメンバーに合った振り付け踊ってて魅力的だな。衣装も各々に合わせられたものだから似合ってるし、曲も歌詞も、高校生ならではって感じで凄く良い」
「……ありがと」
「いえいえ」
好きなところを言うだけのはずが、μ'sを褒め殺す形になってしまった。メンバーは真姫しか今はいないとはいえ、その真姫は髪の色のように真っ赤になっているあたり、相当褒めまくっていたらしい。目をそらしながら言う真姫を見て、俺も少し恥ずかしくなってしまった。
すると真姫はハッとなり、慌てたようにペンを握り直し、再び俺に聞いてきた。
「じゃあ、μ'sに足りないものって、なんだと思う?」
穂乃果side
ま、真姫ちゃんが真っ赤な顔してお兄ちゃんから目をそらした……お兄ちゃん何を言ったんだろう。うぅ~! 気になるよぉ、聞きたいよぉ!
苦いコーヒーを飲みながら、穂乃果はサングラスの下から2人をずっと見てる。横目でこっそり見たり、窓の外を見るふりして2人を見たり。真面目な顔をして話してたのに、急に顔を赤くした真姫ちゃん、それなのに特に反応しないお兄ちゃん。何の話ししてるんだろう、すごく気になる。
あれ、このコーヒーってこんなに苦かったっけ。
光穂side
「今日はありがとう、また機会があったらよろしくね」
喫茶店を出た俺たちは、集合した駅に戻った。真姫は俺にお礼を言ってきた。しかしその表情は浮かないまま。
俺は喫茶店で聞かれた真姫の質問に対して、こう答えた。
『高校生らしい、恋愛に関する曲が欲しいかなって思うよ』
真姫はその瞬間から浮かない表情を浮かべ、悩み始めてしまった。それ以来、ずっとその表情は変わらないままだ。
「俺にインタビューして何か得られたかい?」
「……難しくはあるけど、収穫はあったわ。ありがとう」
「そう、ならいいんだけどな」
難しい、はっきりそう言った真姫は苦笑いを浮かべ俺に礼を言った。必死に笑おうとしたのだろうが、上手く笑えなかったらしい。それだけ真姫には難しかったのだろう。
少し間が開いたあとで、真姫は息をつき、背を向ける。
「じゃあ、私はこれを部屋で何とかできるよう頑張ってみるわ」
「おう。あんまり力になれなかったようでごめんな」
「そんなことないわ、貴重な意見をもらえて良かったわ」
「その割には浮かない顔してるけど」
「……私にはまだ、恋愛がわからないってだけよ。それじゃあね。今日はありがとう」
言い捨てるように、駅へ歩いて行った真姫。感謝はされたが、あれではおそらく今日俺が言ったことはあまり活かされそうになさそうだな。
グッ!
「おわっ!?」
俺の後ろから誰かに服の袖を強引に握られ、駅とは逆の方向に無理やり力を加えられ、思わず体制を崩しかける。服の袖を引っ張っている奴の正体を見ると、そこには帽子をかぶりサングラスをした
ある程度歩かされたところで、その人は足を止め、俺の方を向き帽子とサングラスを取った。
「ほ、穂乃果!?」
それは、いつも一緒にいる我が妹だった。
「…………」
顔が怒りきっている。プンプンと言わんばかりに頬を膨らませては何も言わずに俺をジト目で見る。
「ど、どうしてここに」
「それはこっちのセリフだよっ! なんで真姫ちゃんと2人きりで喫茶店に入ってるの! 真姫ちゃんとはどういう関係なの!? 付き合ってるの!?」
「えぇ……?」
胸元を掴まれ、少し涙を浮かべた穂乃果から説明を求められる。人が少ない街とはいえここは東京、全く人がいないということはなく、周りにいる人たちからの注目を浴びてしまっている。
というよりまず、穂乃果は大きな勘違いをしているらしい。だから俺は穂乃果を落ち着かせるため必死になる。
「ま、待ってくれ穂乃果。ちゃんと説明するから! あ、そうだ、そこに美味そうなパフェが食べれる店あるから、そこで話そう、な?」
「……うん」
適当に見つけたパフェの看板を見て咄嗟に穂乃果に提案すると、ギュッと腕を組んできては頬を膨らませたまま頷いた。
その後、パフェを怒った様子でパクパク食べる穂乃果に必死に今日のことを説明した。
「こういうことなんだよ、だから俺は真姫と付き合ってるわけじゃないんだ!」
「…………」
それでも無言のまま、パフェを頬張る穂乃果。しかしその表情には、少しだけ怒りの色が消えていた。
パフェを頬張る穂乃果は、クリームを一口食べ、飲み込んだあとで、再び怒りを顕にしながら口を開いた。
「……呼び捨て」
「え?」
「今まで真姫ちゃんのこと"真姫ちゃん"って呼んでたのに、今は"真姫"って呼んでる!」
「え? あぁ、それは真姫が俺に気を遣ってこれからはそう呼んでくれって」
「だめっ! 真姫ちゃんが許しても穂乃果が許さないもんっ!」
「えぇっ!?」
その日、穂乃果に説教を食らった俺は、次の日から真姫のことを再び"真姫ちゃん"と呼ぶことになってしまっただのだった。
そして
「家に帰ったら穂乃果の良いところいっぱい言ってもらうもんっ!」
この一言をもらった俺は、家に帰って穂乃果の部屋で、穂乃果に言われたとおり穂乃果の良いところを言えるだけ言わされた。だがそのおかげで、穂乃果の機嫌を取り戻すことに成功し、俺は再び穂乃果の笑顔を見ることができたのだった。