兄と妹~ときどき妹~   作:kielly

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穂乃果ちゃん!ほのかちゃん?ホノカチャン!!!(久々)

ついに更新を再開しました!
非公開に勝手に変えててすいません、これからはもう大丈夫です!

ということで今回は、ツイッターでの投票で選ばれたお話、『穂乃果ちゃんにプリンを作ってもらう』お話です!


穂乃果だって作れるもんっ!

「お兄ちゃん、プリン!」

「はいよ、あーん」

「あー……んーっ♡」

 

 今日も今日とて俺たち2人は、部屋でのんびりしていた。テーブルの上にはプリンやジュースを置いて、2人一緒に漫画を読みつつ、穂乃果が求めるタイミングでプリンを食べさせたりジュースを飲ませたり、そんな具合だ。

 

「お兄ちゃんもう一口!」

「おう……って、さっきの一口で最後だったみたいだな」

「え~! 穂乃果まだまだプリン食べたいよぉ!」

「じゃあちょっとまた冷蔵庫見てくるわ」

「お兄ちゃんが行くなら穂乃果も行く!」

「ん? 部屋で待っててくれてもいいんだぞ?」

「や! 穂乃果はいつでもお兄ちゃんと一緒なの!」

「そっか。じゃあ抱っこしたほうがいいか?」

「うんっ、お願いお兄ちゃん!」

 

 穂乃果のお願いを聞き、俺は穂乃果を抱っこして下の階に降りる。今は家に俺たち2人以外はいない。だから穂乃果もお願いしてきたのだろう。家族がいる中では基本、抱っこはお願いしてこないからな。

 まぁ本当は、俺が穂乃果を抱っこしたかっただけなんだけどな。

 

 

 

 

 

 穂乃果だって作れるもんっ!

 

 

 

 

 

 

 冷蔵庫の前につき、一旦穂乃果を降ろし、冷蔵庫を開け、確認する。

 

「うーん……」

「プリン、プリン!」

「ねえな」

「っ!? そんなぁ!」

 

 しかし、さっき食べたプリンが最後の1個だったらしく、冷蔵庫にはプリンは愚か、洋菓子1つ置いてなかった。うちは和菓子屋だから和菓子は冷蔵庫に入っていたのだが、俺たちが買い込んでおいた洋菓子はもう全て食べてしまっていたらしい。

 

「羊羹ならあるけど」

「やーだー! 穂乃果はプリンをお兄ちゃんに食べさせてもらうのーっ! プリンじゃなきゃやだーっ!」

「だよなぁ」

 

 小さい頃から店で売る新作の試食なり、おやつなりで和菓子ばかりを食べてきていた俺たち兄妹は正直和菓子に飽きている。だから試食とかそういうとき以外は洋菓子、主にプリンを食べる。食感は近いからと思って羊羹を提案してみたが、和菓子だけあって穂乃果は不服そうだ。

 仕方ない、コンビニに買いに……そう思ったところで俺はあることを思い出し、再び冷蔵庫を確認する。卵、牛乳、バニラエッセンス……プリンを作るための材料は揃っているようだ。

 なら、作るほうが早いか。以前俺はプリンを作ったことがある。その経験が、プリンを作るという考えに至らせた。

 

「穂乃果、プリンの材料あるから、ちょっと時間かかるけどプリン作るよ。だからそれまで待っててもらってもいいか?」

 

 正直作るくらいなら買いに行くほうが早いのだが、俺が作ったプリンを穂乃果に食べさせたとき、穂乃果は今までに見せたこともないほどの笑顔を見せてくれた。その笑顔をもう1度見せて欲しくなった。家族からも評判が良くて、ちょっと作りすぎたくらいじゃあっさり食べきられてしまうくらいだ。

 だからあえて、買いに行くのではなく作ることを選んだのだが。

 

「お、お兄ちゃんがプリン作ってくれるの!?」

「あぁ。ダメか?」

「う、ううん、それはすっごく嬉しいよ! お兄ちゃんの作るプリンはどこのプリンよりもずっと美味しいもん!」

「ははっ、じゃあすぐ作るから待っててな?」

「あっ! お、お兄ちゃん! それは待って?」

「え?」

 

 作ろうと思って動き出そうとしたとき、穂乃果は俺を止めてきた。それもなんか、落ち着かない様子で。

 

「きょ、今日は穂乃果がプリン作る!」

「えっ!?」

 

 予想外の一言だった。まさかそんなことを言われると思ってなかったがために、俺は少し大きな声でリアクションする。穂乃果は、甘えるときに出す声で俺を見ながら言う。

 

「だめ、かなぁ?」

「ダメじゃないけど、もし火傷とかケガとかしちゃったら」

「絶対にしないって約束するよぅ。そ、それに、お兄ちゃんにはいつも穂乃果のお世話してもらってるから、お礼がしたいのっ……ダメ?」

「……危ないと思ったらすぐに止めるからな?」

「っ! うんっ!」

「じゃあ、今日は穂乃果にお願いしようかな!」

「やったっ!」

 

 世話になってるから、なんて言われてしまっては俺も何も言いようがない。前は穂乃果に何かあってはいけないからと、手伝ってもらうことすらしなかったが、今回は穂乃果に作ってもらうことになった。

 ……正直すごく心配だ。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「よーし! 穂乃果、頑張って作っちゃうよ!」

「ほ、本当に大丈夫か? 俺も一緒に作ろうか?」

「ううん。今日は穂乃果1人で頑張るよ! だからお兄ちゃんはテレビでも見て待っててよ!」

「そ、そうか」

 

 やる気満々の穂乃果は、可愛らしくエプロンを着こなし張り切っている。対して俺はというと、そんな穂乃果を見て心配で仕方がない。何せ穂乃果はスクールアイドル、それ以前に俺の可愛い妹だ。何か問題が起ころうものならすぐにでも穂乃果に手を止めさせなければ。

 

「頑張るぞー!」

 

 ……こんなにやる気に満ち溢れた穂乃果を見るのはいつ以来だろうか。

 

 

 

「えっと、初めはカラメルソースから作ろうかなっ」

 

 穂乃果は手元にスマホを置き、プリンのレシピを見ながら材料の準備をしている。テレビ見て待ってろ、とは言われたものの、とんでもない。穂乃果がエプロンを着て台所に立ってるんだぞ、こんな光景、滅多に見られたもんじゃない。しっかり記憶に収めなければ。

 

 カシャッ。

 

「っ!! お、お兄ちゃん! 今穂乃果のこと撮った!?」

「ん? あぁごめん、穂乃果が可愛すぎてつい」

「恥ずかしいよぅ」

「ごめんごめん、次からは音鳴らさないようにするからさ」

「てことはまだ撮るつもりなの!?」

「……さ、カラメルソース、作るんだろ?」

「もうっ、お兄ちゃんったら!」

 

 俺がカメラで穂乃果を撮ったのが音でバレてしまった。穂乃果が顔を赤くしながら照れているが、決して"撮らないで"と言ってこなかったあたり、撮影はOKなのだろう。だから遠慮なく穂乃果の可愛い姿を収めようと思う……おっ、ベストショットきたわこれ、バックアップしとこ。

 そんなことをしているうちに、ついに穂乃果の初めてのプリン作りが始まったようだ。

 

「えっと……まずはお水と砂糖をフライパンに入れて」

 

 カラメルソース作り。砂糖水を焦がしてカップに入れておくだけの簡単な作業。

 

 のはずだったのだが。

 

「あーっ!! これ砂糖じゃなくて塩だったぁ!」

 

 穂乃果のドジっ子発動、ベタな間違いを素でやらかしてしまうのがうちの妹……慌てる穂乃果の写真、ゲット。今日だけで俺の穂乃果フォルダの写真がさらに潤いそうだ。

 

「ど、どうしようお兄ちゃぁん」

「ははっ、よくあるよくある。もったいないけど塩水は捨ててやりなおしちゃいなよ」

「うぅ~、ごめんねお兄ちゃん」

「いいさいいさ、お菓子作りには失敗はつきものだぞ」

「あぅぅ」

 

 悲しそうな顔でフライパンの塩水を捨てる穂乃果。落ち込んでしまったからか、さっきまでの元気がない。ただ、別にケガをしてしまったというわけではないから、俺としては特に気にしていない。というより落ち込んでいる穂乃果も可愛いから、いろんな穂乃果を見ることができて嬉しい……おっ、またベストショット。

 

「……気を取り直して、カラメルソース作るよっ!」

「おう、その意気だ!」

 

 フライパンを洗い終わると、再び穂乃果が気合を入れ直す。可愛くガッツポーズを決めていたため、俺はその可愛い穂乃果をすかさず撮影……俺写真家向いているかもしれない、撮る写真のそれぞれが常にベストショットだ。いや、被写体が良すぎるだけか?

 

「も、もう! お兄ちゃん写真撮りすぎだよぉ! 恥ずかしくて集中できないっ」

「あはは、すまんすまん」

「撮るなら撮るで穂乃果にバレないように撮ってよぉ!」

 

 ……怒っては来たが、撮られるのは嫌じゃないらしい。ならこっそり撮ろう、穂乃果のためにも。

 穂乃果が水と砂糖を再びフライパンにいれ、加熱を始めた。

 

「あっ、ブクブク泡が立ってきたよお兄ちゃん!」

「そうみたいだな」

「あっ! 少し焦げ始めてきたよお兄ちゃん!」

「いい匂いしてきたな」

「……よーし、もうこれくらいでいいよね! あとはこれをカップに……って! うわああんカップ用意するの忘れてたよぉ!」

 

 ここで再び穂乃果のドジっ子発動。俺は慌ててプリン用のカップを探す。

 

「えっ!? えっとカップカップ……あった! 穂乃果、これに少しずつつぎ分けるんだ!」

「うんっ! よいしょ……やった、できたよお兄ちゃぁん!」

「よくやったな穂乃果!」

「うんっ、えへへぇ♡」

 

 カップにつぎ入れた穂乃果は満足そうに俺に報告してきた。あまりに嬉しそうに笑うから、俺も全力で穂乃果を撫でてやる。カラメルソースを作ることくらい、普通なら何も褒められたことじゃないのだが、"穂乃果が作った"ということに価値がある。それだけで褒めることができる。穂乃果は嬉しそうに俺に抱きついて、甘えた声を出している。何とも愛らしい。

 だが、まだプリンが完成したわけではない。

 

「穂乃果、あとはプリン液を作ってカップに入れて蒸すだけだな」

「うんっ! 頑張るっ!」

「おう、頑張れよ」

 

 穂乃果は元気に笑ってそう答えてくれた。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「温めた牛乳に砂糖を入れて溶かして……卵を溶いてそれを牛乳にいれながら混ぜて……」

 

 プリン液を作る工程、穂乃果はスマホに映し出されているレシピ通りに材料を混ぜ合わせている。真剣な表情で液体を混ぜ合わせる穂乃果はライブ前と同じ緊張感を感じさせる。俺はそんな穂乃果の横でずっと頑張る穂乃果を姿を眺めている。

 

「混ぜすぎないようにしながら、バニラエッセンスを少し入れて……あ、茶濾し用意してなかった!」

「ほらよ穂乃果」

「あっ! ありがとうお兄ちゃん!」

「おう」

「えへへ、なんだかんだでお兄ちゃんに助けてもらっちゃってるね」

「いいんだよこれくらい。それに材料混ぜたりしてるのは穂乃果なんだ、俺は手つけてないからさ」

「そうだね。えへへ、お兄ちゃんに喜んでもらえるように頑張るよ!」

 

 えへへと笑いながら、穂乃果は茶濾しで濾していき、濾した液をカップに注ぐ。それぞれのカップに均等に注いでいく穂乃果の表情はやはり真剣。

 

「……よしっ! あとはオーブンに入れて蒸し焼きにすれば完成だねっ!」

 

 穂乃果はアルミを被せたカップをオーブンの鉄板に乗せ、その鉄板にあらかじめ用意しておいた熱湯を張り、オーブンに入れる。

 

「美味しくなってねプリンたち! スタート!」

 

 ピッという音とともにオーブンが動き出した。ここまでくれば、もうあとは出来上がるのを待つだけだ。まぁ、ここの工程が一番心配ではあるのだが、ひとまずは作業終了だ。

 

「お兄ちゃん!」

 

 穂乃果は振り返り、俺に勢いよく抱きつく。

 

「やったよぅ! 穂乃果、1人でプリン作れたよぉ!」

「よーしよし、穂乃果はやっぱりすごいなぁ! さすがだぞ~!」

「えへへ~♡」

 

 まだ完成こそしていないものの、全ての工程を終えた安心からか、穂乃果は満面の笑みを浮かべている。俺もそれを見て嬉しくなり、抱きしめ返してはひたすら撫で続ける。こんなに可愛い妹がいていいのだろうか。

 

 プリンが焼きあがるまで少し時間があるため、隣の部屋で待っておくことにした。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「穂乃果疲れちゃったよぉ」

「そうかそうか、穂乃果は頑張ったもんな」

「うんっ! だからお兄ちゃん、いっぱいいい子いい子してぇっ♡」

「ははっ、穂乃果は甘えん坊だな」

「お兄ちゃんにだけだもんっ!」

「良い子だなぁ穂乃果は!」

 

 隣の部屋に移り、俺は穂乃果を抱っこ、穂乃果は俺に甘えた声でひたすら甘えてくる。俺にだけ甘えてくる穂乃果は本当に天使だと思う。そう思いつつ、穂乃果の頭を撫で回す。

 

 今日は穂乃果がプリンを作っている間、たくさん写真を撮りまくったおかげで、俺のスマホのアルバムに穂乃果フォルダには相当数の写真が入っている。豊作だ。

 

「お兄ちゃん」

「ん?」

 

 穂乃果が俺をまじまじと見つめてきたため、俺も見つめ返す。

 

「お兄ちゃん、さっき穂乃果の写真撮りまくってたよね? あれ見せて?」

「え? どうしてだ?」

「処分するの!」

「えぇっ!?」

「だ、だって恥ずかしいんだもんっ! か、可愛く写ってる自信もないし」

「そんなことあるか! どの写真の穂乃果も全て可愛く写ってた! それは俺が保証するぞ!」

「あぅぅ……で、でもやっぱり恥ずかしいもんっ」

「だからといって削除は、削除だけはやめてくれ!! でないと俺の授業中の楽しみが!」

「……え? 授業中? お兄ちゃん、授業中でも穂乃果のこと見てるの?」

「はっ!? しまった!?」

 

 穂乃果の発言に慌てて反応してしまったからか、思わぬ凡ミス。

 そう、俺は穂乃果の写真を撮っては、それを日々の授業の合間にちょこちょこ見ているのだ。そうすることで俺は授業中にも癒しを得ることができ、授業での集中力を保ってきた。逆にそれがなければ授業なんてつまらないに等しい。

 それを、穂乃果に削除なんてされてしまったら最後、俺は授業でやる気を出すことなんてできないだろう。仮にも受験生なのに、それはまずい。

 俺は必死に穂乃果に許しを請う。

 

「頼むよ穂乃果ぁ! これがないと授業なんて集中できないんだよぉ!」

「えぇっ!? で、でもでも、やっぱり恥ずかしいから」

「そこを何とか! 俺は授業中でも穂乃果を感じていたいんだよ!」

「っ!? お、おにいちゃ……そんなに穂乃果のことを?」

「あぁ! 穂乃果の写真がなかったら授業なんてまともに受けれないくらい致命的なんだよ!! だから頼む、俺のためにも!」

「お兄ちゃんの……ために」

 

 俺の必死の訴えに穂乃果は顔を真っ赤にしながら俺の話を聞いている。しかしそれは"俺のために"という発言とともに、真面目な表情に変わる。

 

「お兄ちゃんのために……穂乃果の写真があったら、お兄ちゃんは頑張れるの?」

「お、おう! そうだ、穂乃果の写真があるから授業も頑張れるんだ!」

「……穂乃果なんかの写真で?」

「違う、穂乃果の写真"だから"いいんだよ!」

「っ! ……う、うん、分かったよ。恥ずかしいけど、お兄ちゃんのためなら、穂乃果はいいよ」

「穂乃果ぁ!」

「でもね!?」

「ん?」

「ほ、穂乃果以外の子の写真なんか見てたら許さないんだからねっ!」

 

 少し涙ぐんだような目で、俺に訴えるように話す穂乃果。俺はそんな穂乃果をとても愛おしく思って

 

「もちろんだ、約束するよ」

「お、お兄ちゃん……えへへ」

 

 強く抱きしめ、撫でる。特に変わったことはしていないのだが、抱きしめる強さをほんの少しだけ強くしたことで、穂乃果も満足したのか安心したのか、また笑ってくれた。

 本当に可愛い妹だ。

 

 ピー、ピー、ピー。

 

「あっ! お兄ちゃん焼けたみたいだよ、プリン!」

 

 可愛い穂乃果と話してたら、あっという間に時間を迎えていたらしい。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「あ、開けるよお兄ちゃん」

「おう、いいぞ」

「い、いくよっ」

 

 少し緊張した様子で穂乃果はオーブンを開ける。その瞬間、プリン独特の甘い匂いが広がる。

 

「ふぁぁ! お兄ちゃんこの匂い、もしかしたら!」

「あぁ! これは期待できるぞ!」

 

 鉄板を取り出し台に置き、カップに被せておいたアルミを外す。

 

「「わぁ!」」

 

 そこには、紛れもないプリンの姿が。穂乃果はさっそく爪楊枝を手に持ち、カップの真ん中付近めがけて刺す。

 

「……液、付いてこない! お兄ちゃん! これって」

「完成、だな」

「やったぁ! 穂乃果の手作りプリン~!」

 

 刺した爪楊枝には、液はまったくついていない。穂乃果は完成した喜びを全身で表すかのようにぴょんぴょんはねている。実に可愛らしい。

 

「お、お兄ちゃん!」

 

 と思っていたら、今度は少し緊張した顔で俺を見つめてくる。

 

「どうした?」

「お兄ちゃん、えと……」

「ん?」

「出来たてのプリン、食べて欲しいの!」

 

 穂乃果が俺にそう言ってきた。元はといえば穂乃果がプリンが食べたがってたかったから作ろうと俺が考えたことだったが、穂乃果は初めから俺のために作ってくれた。お世話なんてしてる覚えはないのに。だが穂乃果はそれでも俺に食べてほしいと言ってきている。なら断る理由はない。

 

「おう、もらうよ」

「……っ! うんっ!」

 

 再び笑顔を見せてくれた穂乃果は、焼きあがったばかりのプリンのカップを持ち、用意してあったスプーンですくい、俺に差し出す。

 

「はい、あーんっ♡」

「っ!? あーんしてくれるのか!?」

「う、うんっ。だってこれはお兄ちゃんに対するお礼なんだもんっ。お兄ちゃんのためなら頑張るもんっ!」

 

 いつもはあーんされるのはいいのに、俺にあーんするのは恥ずかしいと言っている穂乃果、しかし今日は俺になんの躊躇もなしにあーんしてくれている。俺幸せすぎて泣きそう。

 幸せを噛み締めつつ、俺は穂乃果がスプーンですくってくれたプリンを一口、口に入れる。

 

「あむっ……んん」

「ど、どうかな」

「っ! 美味い! 美味いぞ穂乃果!!」

「えっ、本当に!? 嘘ついたって無駄だよっ!? お兄ちゃんのこと穂乃果は何万回も見てるもんっ! 嘘ついてたら一瞬でわかっちゃうんだから!」

「なら穂乃果は今の俺が嘘ついてると思うか?」

「思わない! 本当に美味しいんだねお兄ちゃん!?」

「ああ! 食べたことないくらい美味いよ穂乃果!」

「うわーい! お兄ちゃんが喜んでくれたー!!」

 

 俺の"美味い"の一言に飛び跳ねて喜ぶ穂乃果。

 しかしこのプリン、かなり美味い。俺が作った時は蒸しただけ、それはそれで柔らかくプルプルの食感で美味かったのだが、今回穂乃果が作ったのはオーブンで蒸し焼き。少し固めで控えめな甘さのカスタード、そしてほろ苦のカラメルソース。ちょっとお高めの値段のプリンのような高級感が出ている。正直半端なく美味い。しかもこれは焼き上げてまだ粗熱すらとっていない、もしこれが粗熱をとってかつちゃんと冷やした後なら、きっともっと美味い。

 

「お、お兄ちゃん、穂乃果にもちょうだいっ!」

「あぁ! ほら、あーん!」

「あー……んんまあああああっ♡」

 

 穂乃果は幸せそうな声を上げながらうっとり。でもそりゃそうだ、これだけ美味いプリンなんてそうそう食べれたものではないからな。俺からすれば、俺が前に作ったプリンよりよほどこちらのほうが美味い。

 だが、穂乃果は少し違ったらしくて

 

「……でも、もうちょっと甘さがほしかったなぁ。やっぱりお兄ちゃんの作ってくれたプリンのほうが美味しかったもん」

 

 俺のプリンの方が良かった、と言ってくれている。だから俺も穂乃果に言い返す。

 

「俺は穂乃果が作ってくれたプリンの方が美味いと思うぞ? 高級感出てて大人のプリンって感じがして」

「うー、でも穂乃果はお兄ちゃんが作ってくれたような、優しい味の……まるでお兄ちゃんそのものみたいなプリンが作りたかったのにぃ」

「そうか?」

 

 これだけ美味いプリンを作っておきながら、それでも穂乃果は俺が作ったプリンの方が美味いと言ってくれている……これはまた今度、作ってあげなきゃな。

 

「お兄ちゃん、今度また、あの優しい味のプリン、作ってね!」

「あぁ、もちろんだ。でも、俺もまた穂乃果にプリン作って欲しいな」

「っ! だ、だったら今度は2人で一緒に作ろうねっ!」

「お、いいな」

「えへへ、約束だよっ!」

「おうっ!」

 

 今度は"2人一緒に"プリンを作る、そんな約束をして、焼きあがり、粗熱を取ったプリンを冷蔵庫に入れた。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 その晩、食卓には穂乃果手作りのプリンがデザートに出てきた。

 

「うまっ!? これ本当にお姉ちゃんが作ったの!?」

「えへへ、そうだよぉ」

「そうだぞ。これ店レベルで美味いよな」

「な、なぜうちの子供たちはこんなにおいしいお菓子を作れるのかしら。ねえお父さん?」

「……シクシク」

「泣いてる!? 穂乃果が作ったプリンかつあまりの美味しさ、そして和菓子屋の娘なのに洋菓子のセンスがあることへの複雑な心境がお父さんを泣かせた!?」

「穂乃果よかったな、大好評だぞ」

「うんっ!」

 

 案の定、うちの家族全員からの高評価を得た穂乃果のプリンは、あっという間にみんなの胃袋の中へと消えていった。

 

 

 1個を除いては。

 

 

「はいっ、お兄ちゃんあーん♡」

「あーん……やっぱ美味いなぁこれ」

「えへへっ、嬉しいっ」

「ところで、穂乃果がプリン食べたかったんじゃないのか? いいのか俺が食べても?」

「いいのいいのっ、これは穂乃果が作ったんだもん、だったらお兄ちゃんに食べて欲しいの!」

「穂乃果……今度絶対美味いプリン作ろうな」

「うんっ!」

 

 たった1個、俺が穂乃果に食べさせてもらっているプリンだけは、大切に大切に、味わった。

 

 





穂乃果ちゃんからプリンを作ってもらえたら、それだけでもう、悔いはないですよね←

非公開設定に変更していた点、本当に申し訳ありませんでした。
そのことを活動報告にまとめたので、ぜひご覧下さい。
これからもどんどん投稿していくのでお付き合いくださいね!

活動報告:https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=141097&uid=107373

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