兄と妹~ときどき妹~   作:kielly

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穂乃果ちゃん?ほのかちゃん?ホノカチャアアアアアアアアン!!(新年1発目ver)

ということで、穂乃果ちゃん初めですね。
今回、そして次回投稿分は、少しだけ切なくなるような内容になるかと思います。
光穂は高校3年生。



今年もよろしくねっ!

「お兄ちゃん!」

「こたつ出したって本当!?」

「お~、穂乃果と雪穂か。いい感じに温まってるぞ」

「わ~! 本当に出してる!」

「お兄ちゃん! 穂乃果お兄ちゃんの前に座る~!」

「いいぞ、ほら、来いよ」

「わ~い!」

「お姉ちゃん……未だにそれやるんだね」

「穂乃果の特等席だよっ」

 

 俺の部屋にこたつを出したことを知った穂乃果と雪穂が俺の部屋にやってきた。毎年のことではあるが、大晦日はこうやって兄妹3人でこたつに入って年を越す。穂乃果はいつものように俺の太ももの間に、背中を向けて座っていて、雪穂は俺たちの向かいに座っている。

 年を越すまで、あと数時間だ。

 

 

 

 

 

 

 今年もよろしくねっ!

 

 

 

 

 

 

「ほら穂乃果、みかん剥いたぞ。あーん」

「やったー! あー……ん~っ、やっぱりお兄ちゃんが剥いてくれたみかんはおいしいよぉ」

「そうか! じゃあもう一口、あーん」

「あーん、もぐもぐ……おいしいっ」

「そっかそっか、よしよし、今日も穂乃果は可愛いなぁ」

「えへへ~♡」

「はぁ……今年の最後の最後までいつも通りなんだね」

「ほぇ?」

「どうした雪穂、何か不満でも?」

「なんでもない」

 

 俺が剥いたみかんを穂乃果の口元にやると、穂乃果は餌をもらったときの小動物みたいにパクッと勢いよくみかんを食べる。もぐもぐと口を動かす様子を横から見ているが、やはり穂乃果はどの角度から見ても、いつ見ても可愛い。

 対して雪穂は、穂乃果に食べさせる様子を呆れ顔で見ている。まぁこれもいつものことと言えばいつものことなのだが、今年最後の日くらいはいつもと少し違ったことがしたい。それに雪穂も俺の可愛い妹、穂乃果にばかり気を取られているようでは雪穂も可哀想だ。

 よし、いつもはやらないけど、今日くらいはいいだろう。

 俺は皮をむいたみかんを一切れ、雪穂の口元に差し出す。

 

「ほら、雪穂も食べろよ。あーん」

「わっ、私はいいよ。お姉ちゃんに食べさせてあげなよ」

「いいよ、穂乃果の分もちゃんとあるからさ。雪穂も食べたいでしょ」

「いやその……大丈夫だから」

「ん~?」

 

 食べてもらおうとしたのだが、断られてしまった。これもまぁいつものことなのだが、今日の雪穂の反応はいつもと少し違う。いつもは完全に『お姉ちゃんと一緒にしないで』オーラを放ちながら拒否してくるのだが、今日に関してはマイルドな、かつ食べたそうだが食べられない、そんな感じの反応だ。

 雪穂、みかん苦手だったっけ……あっ、そうか!

 俺はあることを思い出し、みかんの甘皮を丁寧に剥く。

 

「あっ」

「え? 何してるのお兄ちゃん?」

「確か雪穂、甘皮が苦手だったよな……ほら、剥けたからこれなら食べれるだろ。あーん」

「あ、ありがと……あーん……おいしい」

「ははっ、甘皮は確かに苦手な人多いからなぁ」

「えぇ~! 穂乃果は甘皮も一緒に食べられるのに!」

「だって、甘皮が口に残る感じが嫌いなんだもん」

「お兄ちゃぁん! 珍しく雪穂がわがまま言ってるよぉ!?」

「お姉ちゃんにだけは言われたくない!」

「あははっ」

 

 最近の女の子に割と多い"甘皮苦手"、あまりわがままなことは言わない雪穂だが、これに関しては認められないらしい。穂乃果はそれが許せないらしく、俺に抗議してくる。いつもの姉妹の言い合いだが、何度見ても可愛いものは可愛い。ちなみに俺は甘皮は特に好きではないが、別に甘皮を剥かないと食べれない、というわけではない。

 2人の可愛らしい言い合いを見ながら、俺はみかんの甘皮をもう一切れ剥き、剥いた方を雪穂、皮を剥いただけの甘皮付きのみかんを穂乃果、それぞれの口元へ運ぶ。

 

「ほら2人とも、あーん」

「「あーん」」

「えへへっ、おいしいよお兄ちゃんっ」

「ありがと……」

 

 俺がみかんをやると、言い合いをピタリとやめ、みかんを味わう2人。2人ともみかんを口にくわえるとき、大きく口を開けてみかん一切れを覆いかぶせるように口に入れるから、口に入れる瞬間少しだけ俺の指に唇が触れる。2人して俺の指にキスしながらみかんを食べるという、やっぱり姉妹なんだなぁと思わせる行動が何とも微笑ましい。

 2人のおいしそうにみかんを食べる様子を見て思わず頬が緩んでしまった、そんなとき。

 

「はいっ、お兄ちゃん!」

「お返し。あーん」

「えっ!? 2人とも、俺に?」

「えへへっ、ちょっと恥ずかしいけど……」

「してくれたから、お返し」

「あ、あぁ、ありがとう。あーん」

 

 いつもはあーんされるのはいいがあーんするのは恥ずかしいと言っていた穂乃果、そして柄にもなくきっちり甘皮まで剥いてある綺麗な一切れを俺のもとに頬を少し赤らめながら差し出す雪穂、まさかの2人からみかんを差し出されてしまった。あーんされ慣れてないこともあってか、かなり恥ずかしい。

 ……甘いなこのみかん。美味い。

 

「あぅぅ、恥ずかしかったよぉお兄ちゃぁんっ」

「おおっと、よしよし……ありがとうな穂乃果、おいしかったよ」

「あーん程度で恥ずかしいって……よっぽどいつもやってることの方が恥ずかしいじゃん」

「まぁまぁ雪穂。雪穂もわざわざ綺麗なやつくれてありがとうな、おいしかったよ」

 

 穂乃果は俺の方を向いて抱き着いて顔を赤くし、雪穂も雪穂で言葉の割には顔を赤くして目をそらす。なんだかその2人の様子を見てると俺まで恥ずかしくて、穂乃果の頭を撫でながら目をそらしてしまう。

 な、なんなんだこの大晦日は。いつもよりグレードアップしてるぞ……

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「お母さんから私たちの分のお蕎麦、もらってきたよ」

「おぉ~! 年越しのお蕎麦!」

「わざわざありがとうな雪穂」

「いいよ、これくらい。っていうかお姉ちゃんも動いてよ!」

「うわー、お兄ちゃんの温もりが穂乃果を離してくれないから動けない~」

「お兄ちゃんのせいにしちゃだめでしょ!」

「あぅ」

「まぁまぁ。ほら、それよりせっかく蕎麦持ってきてくれたんだから早く食べようぜ」

「もう、お兄ちゃんはお姉ちゃんに甘すぎなんだよ」

「ごめんごめん」

 

 年越しまであとわずか、雪穂がお母さんが作ってくれた年越し蕎麦を下の階まで取りに行ってくれた。文句言いながらでも俺たちに気を遣ってくれる雪穂はきっと、いいお嫁さんになる。しかし穂乃果はだめだな、これは俺がずっとそばにいてやらなければ。いや、できれば雪穂にもずっとそばにいてほしいんだがな。

 って、そんなことはどうでもいいんだ。

 

「さ、早く食べようぜ」

「うんうんっ! 食べようよ!」

「まったく、お姉ちゃんは。食べる時くらいはお兄ちゃんから離れなよ」

「あ、そうだね……んしょっと。あぅぅ!背中が寒いよぉ」

「はは、食べる間だけは我慢してな? じゃ、食べようか」

「「「いただきます!」」」

 

 穂乃果を一旦俺の横に移動させ、3人一緒に蕎麦を食べ始める。これも毎年のことだ。

 年越しまであともう少しか……今年1年も早かったな。

 

「今年もいっぱいお兄ちゃんにナデナデされちゃったね!」

「ははっ、来年もいっぱいナデナデしてやるからな」

「えへへっ、約束だよっ」

「お姉ちゃんはもうちょっとお兄ちゃんに甘えないようにしなきゃ駄目だよ」

「いいもん! 穂乃果はお兄ちゃんに来年もいっぱいナデナデしてもらうんだもんっ!」

「むー……お兄ちゃんが甘やかすからお姉ちゃんがお兄ちゃんなしじゃ何もできないんだよ!」

「うっ、何もできないって言われた……」

「あははっ、まぁ俺も穂乃果に甘やかしすぎたかもな」

「えぇっ!? お兄ちゃんまでそんなこと言うの!?」

「当たり前じゃんお姉ちゃん」

「うわーん! 誰も味方してくれないよぉ! じゅるっ……えへへ、お蕎麦おいしいっ」

「まったく気にしてないよね!?」

「ったく、これだから穂乃果は可愛いんだ」

 

 穂乃果の言葉に答えると、雪穂が蕎麦を食べながら穂乃果を叱り始めた。しかし穂乃果は泣き顔を作りながらも、変わらず蕎麦を食べ続け、おいしいと言っては笑みを浮かべていた。穂乃果らしいと言われれば穂乃果らしいが、雪穂からすればそりゃ怒るわ。

 俺からもちょっと言ってやろうと、冗談のつもりで言ってみた。

 

「穂乃果、雪穂の言うこともちゃんと聞いておけよ? もし俺が穂乃果から離れるようなことがあったら、そのとき穂乃果は俺がいない状態で生活しなきゃいけないんだから」

 

 俺がもし友達の家に泊まりに行ったりしたら、その間は俺がいない状態になるんだぞ、そんな意味合いで穂乃果に言ったはずだったのだが……

 穂乃果はひどく悲しむような、雪穂は何かを察したように寂しそうな顔をした。

 

「お兄ちゃん、どこかに行っちゃうの……?」

「そう、だよね。だって今年は……」

「えっ?えぇっ?」

 

 冗談のつもりで言ってしまった俺の一言で、悲しい雰囲気になってしまった。

 そして、雪穂の言葉で改めて意識させられたが、今年は……

 

 …………

 

「大丈夫だよ」

「……え?」

「大丈夫、俺はどっかに行ったりしないから」

「……本当?」

「あぁ、穂乃果や雪穂と離れたくない気持ちは、俺も一緒だからさ」

「……えへへっ」

「だから安心してくれ」

「うんっ!」

「ははっ、やっぱり穂乃果は笑ってる方が可愛いな」

「えへへ、来年もいっぱい可愛いって言われるように頑張るっ!」

「それでこそ穂乃果だ! ほら、だから雪穂も――――」

 

 穂乃果は俺の言葉を聞いて、いつものように可愛い笑みを浮かべてくれた。しかし雪穂は今も変わらず

 

「…………」

 

 俺を悲しい瞳で見つめ続けていた。

 その瞳が、穂乃果の笑顔を見るためについた()を見抜いていることを証明している。

 何も言わずに俺を悲しい瞳で見つめてくるものだから、自然と俺も悲しくなってきてしまう。が、穂乃果はそれに気づかずに俺にスリスリしながら甘えてきている。

 俺自身が雪穂を悲しませることを言ってしまったのは間違いないが、愛する妹の悲しい顔なんて、見たくない。

 

『あけまして、おめでとうございま~す!』

 

「あっ、年が明けちゃったよお兄ちゃん!」

「お、おう。そうだな」

 

 思い耽ていたとき、テレビから新年を迎える挨拶が聞こえた。なんとも最悪なタイミングだ。

 

「今年もよろしくお願いします、お兄ちゃん!」

「……あぁ、よろしくな、穂乃果!――――雪穂も、今年もよろしくな」

「……今年も、よろしくお願いします」

「あぁ、今年もきっちり雪穂にはお世話になるから、だから安心してくれ」

「…………」

「雪穂! 今年もよろしく!」

「う、うん、よろしく」

 

 穂乃果以外、ぎこちない感じで年明けを迎えてしまった。

 雪穂は、俺を目で見て離さない。俺も俺で、今年のことを考えてしまう。

 雪穂には伝えてあるが、穂乃果にはまだ、伝えることができていない。

 

 

 

 

 

 

 俺は、東京ではない場所にある大学に、進学するつもりなんだ。

 

 

 

 




高校3年生って人生の大きな節目の一つだと思うんです。
私も高校3年の正月は、いつも通りに過ごしながらも少しだけ、悲しい気持ちになってました。
ただ、勘違いしないでほしいのは、別にこの作品の終わりが近づいているというわけではないということです()

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