今回は光穂君の少しばっかりの成長を描いてみました。
ただ、この回で注目してほしいのは光穂君ではなく穂乃果ちゃんです。
ネガティブな穂乃果ちゃん、くよくよしている穂乃果ちゃん・・・良き(●・8・●)
「お兄ちゃん」
俺が部屋で漫画を読んでいると、穂乃果が俺の部屋に訪れてきた。何やら浮かない顔をしてるから、用件は大体分かってはいるんだがあえて俺は知らぬふりして対応する。
「お、穂乃果か。どうした?」
「……お話、聞いてくれる?」
「……おう、穂乃果の話ならいつでも歓迎だぞ。おいで」
「うん」
漫画を読むのをやめ足を広げ穂乃果を呼ぶと、穂乃果は俺の正面に向かい合って座り、そのまま抱き着いてきた。穂乃果を優しく抱きしめると、それに合わせるように抱きしめる力をより強くしてきた。頭を軽く撫でてやると、何も言わずに俺の胸に顔をうずめる。
このやりとりで俺は確信した。
あぁ、喧嘩したんだな、と。
甘やかし兄の小さな成長
浮かない顔、何も言わずに抱き着いてくる、部屋で2人きり。前に何度かあったことだから、俺はすぐにわかった。
「……喧嘩、したのか?」
「…………」
「そっか」
声こそ出していないものの、首は縦に振った穂乃果。俺の胸に顔を当てる形で顔を隠しているから表情は分からないけど、きっとすごく悲しい顔をしているんだろう。部屋に入ってきたときの表情ですでに察せるほどだったんだから。ここまで悲しそうな穂乃果を見るのは久しぶりかもしれない。普通の喧嘩ではなさそうだ。
「誰と喧嘩したんだ?」
前に雪穂と喧嘩した時があったが、あの時はむしろ"穂乃果の話を聞いてよ!"と言わんばかりに食い気味な態度を見せていたが、今回はどうだろうか。
「……みちゃん」
「ん?」
「……海未ちゃん」
「えっ!?」
意外な相手だった。俺は今回もどうせ雪穂かμ'sの誰かだろうとは思っていたが、絢瀬や海未ちゃんは無いだろうと予想していたから余計に驚いてしまった。μ'sの中でもとびぬけて大人びている2人は、もっと冷静な態度で相手をいなして場を落ち着かせるイメージだったのだけど……ましてや幼馴染である海未ちゃんとだったから、なおのこと驚きだ。
はてさて、どんなことがきっかけで喧嘩になったのか気になるところだが……
「何があったんだ?」
「……海未ちゃん、穂乃果のこと嫌いなんだ」
「え?」
「きっとそうだもん。ことりちゃんや花陽ちゃんには優しいのに、穂乃果だけ……」
なるほどな、俺は心の中で理解した。もし理解した通りの内容であるなら、この件に関しては俺も無関係ではないだろう。
そう思いつつ、もうちょっと話を聞くことにした。
「穂乃果が練習の時、いつも間違えてるとこまた間違えちゃったんだ。それで海未ちゃんに怒られちゃったの。でもそれだけならいいの、いつも間違えてる穂乃果が悪いんだもん。でも、ことりちゃんもいつも間違えるとこまた間違えたとき、海未ちゃんは怒らずに優しい言葉でことりちゃんに注意しただけで終わったの。ことりちゃんだけじゃない、花陽ちゃんとか希ちゃんにも優しかったもん。どうして穂乃果だけ……?」
顔をあげ、俺を見るその目にはうっすらと涙が浮かんでいる。そんな悲しそうな表情を浮かべる穂乃果を撫でながら、穂乃果の言った事を振り返る。穂乃果が間違えたときだけ厳しくて、他のみんなが間違えても優しく注意する海未ちゃん。
話から察するに、これは穂乃果の一方的な勘違いによるもので、喧嘩なんかじゃない。
そうなると気になる、本当に海未ちゃんは穂乃果にだけ厳しい、もしくは嫌いなのだろうか。そして本当に他のみんなには優しいだけなのだろうかと。
「穂乃果、海未ちゃんに何て言われて怒られたんだ?」
確認のため、穂乃果に聞いてみた。
「"そんなんじゃ本番でお客さんに笑われちゃいますよ!"って……ことりちゃんには"次は上手くいきます、頑張りましょう!"って。穂乃果も応援してほしかったのに、ことりちゃんだけ」
「うーん」
正直、俺には"負けず嫌いな穂乃果に火をつけさせるための煽り文句"にしか聞こえなかった。だが穂乃果にしてみればそれは"厳しい海未ちゃんからのお怒りの言葉"でしかなかったらしい。
これは俺の勝手な想像だけど、海未ちゃんもたぶん穂乃果を燃えさせるために煽りをいれたつもりだったのだろうが、タイミングが悪かったのか、穂乃果の気分が悪かったのかはわからないが失敗したのだろう。もしこのとおりだったとしたら海未ちゃんがかなり可哀想だ。
そしてもう1つ、穂乃果が"厳しく怒られた"という割にはあまり厳しさを感じられない。なのに穂乃果は悲しんでいる。
これはおそらく、俺が甘やかしすぎたからだろう。
俺はある時から、穂乃果や雪穂の泣き顔や怒り顔を見たくないがために極力優しい言葉を選び、機嫌を損ねないように立ち回り、喧嘩になりそうになってしまったときはすぐに俺から詫びるといった配慮をしてきたつもりだ。その甲斐があったのかは分からないが、穏やかな性格に育った妹たちの間では、言い合いこそあれど喧嘩という喧嘩は小さいとき以来ほとんど無い。
だが、それ故に厳しさに対する耐性がなくなってしまったというのも間違いない。
雪穂にだけ関して言えば、そもそも怒られるようなことをするような子じゃないし、それどころか俺たち2人に対してガミガミ言ってくれるくらいには逞しく成長してくれたともいえる。しかし穂乃果に関しては、雪穂の逆を行ってしまったと言ってもいいほどに甘えん坊になってしまった。
俺の初めての妹だったからというのもあってか、穂乃果には必要以上に甘やかせてきたという自覚も実はある。μ'sのみんなや雪穂に言われなくったってそれくらい分かってはいるのさ。だけど、どうしても穂乃果には笑っていてほしい、その思いが強すぎるがゆえに、叱るときも優しい言葉で、お願い事にも極力すぐ叶えてあげられるよう行動してきてしまった結果穂乃果が甘えん坊になってしまっていた。
それはそれで可愛いと思ってしまっている俺がいるのも間違いないが、今回の一件で分かった。
このままでは、俺が甘やかしすぎたせいで周りのみんなにも迷惑をかけてしまいかねないと。
実際今日の一件がまさしくそれの例で、そんなつもりはなかったはずの海未ちゃんが被害を被ってしまった。
このままではいけない。だけど……
「お兄ちゃぁん……穂乃果、海未ちゃんに本当に嫌われちゃったのかなぁ……」
目を潤ませ、今にも泣きだしそうな穂乃果を見ると、どうしても今の穂乃果を正そうという気持ちが薄れてしまい、いつものように甘やかしそうになってしまう。
…………
「穂乃果」
穂乃果がこうなってしまったのは他でもない俺のせい。
だったら、穂乃果を変えてやれるのも、他のだれでもない、俺だけのはず――――
「甘ったれんな!!!」
心を鬼にして、
本気で穂乃果を変えてやる
そんな想いで放った、精一杯の怒声。
感情を殺して放った。
つもりだったけど
「っ!? うっ・・うわあああああん!! お兄ちゃんが怒っだああああああっ!!」
穂乃果が表情を崩し、子供のようにわんわんと泣き出した。そこが俺の限界だった。
「っ! ごめん、ごめんな穂乃果っ」
「うわああああんっ……うぅっ、グスッ」
本当はちょっと説教するつもりだったのだが、穂乃果の泣き顔を見てしまった俺にそんな余裕は残されておらず、そのままいつものように穂乃果を抱きしめ、撫でながら必死に謝ってしまう。
あぁ、これじゃいつもと変わらないな、頭の中にぽつんと、そんな言葉が駆け回る。
だめだこんなんじゃ、穂乃果は変われやしない。変わらなければ、みんなが迷惑してしまう。
でも、もう穂乃果に泣かれたくはない。
俺はもう一度心を鬼にして、でも言葉を慎重に選びつつ、穂乃果に再び話しかける。
「穂乃果、本当に海未ちゃんは穂乃果のことが嫌いだから、そんなことを言ったのかな?」
穂乃果には分かってほしい、優しい言葉をかけることだけが愛情ではない、ということを。
穂乃果にはわかってほしい、穂乃果は、海未ちゃんからの愛情の受け取り方を知らないだけなんだ、ということを。
「グスッ……だって海未ちゃん、穂乃果にだけ……っ」
「穂乃果、海未ちゃんの言葉を思い出してごらん」
「…………」
「海未ちゃんが本当に穂乃果のことが嫌いだったのなら、"みんなに笑われる"だなんて言い方なんてしないで"下手だ"ってはっきり伝えればいいのにな?」
「……っ」
「海未ちゃんはたぶん、穂乃果がお客さんから笑われてしまうような恥ずかしいダンスを踊ってほしくないから、そういう風に言ったんだと思うんだ」
「でっでも! ことりちゃんたちには……」
「そうだな。でもな穂乃果、お前はμ'sのリーダーなんだ。リーダーがちゃんとしてないと、μ's全体がちゃんとしてないように見られてしまう。だから海未ちゃんは穂乃果にだけ厳しめに指導してたんだと思うよ」
「海未ちゃん……」
穂乃果に厳しく接する。兄として情けないが、それは今の俺には到底できないこと。
「海未ちゃんは幼馴染なんだろ? だからあえて穂乃果を煽るような言葉を選んだんだろう。穂乃果は負けず嫌いだってことくらいは、幼馴染なら知ってるだろうし」
「…………」
「海未ちゃんは真面目だ。だからこそ言葉が厳しくなってはしまうけど、穂乃果にだけ厳しくしてくれるっていうのは穂乃果のことが本当に"好き"じゃなきゃできないことだと思うよ。だって今回みたいに喧嘩の原因になってしまうかもしれないからね。穂乃果のことが本当に好きだから、信頼してるからこそ、だったんじゃないのかな?」
「……お、お兄ちゃん! 海未ちゃんに謝ってくる!! 穂乃果、全然海未ちゃんの気持ち考えてなかった……幼馴染なのに」
「ふふ、気づけたことが大切なんだよ。さ! 海未ちゃんきっと悲しんでるぞ!」
「うっうん!! 行ってきます!!」
情けないが、兄ができてなかったところは幼馴染がちゃんとやっていてくれたらしい。こんなんじゃ、兄失格だなこりゃ。
元気を取り戻した妹を見送りつつ、1人で苦笑い。
帰ってきた穂乃果の表情にはもう、さっきまでの曇りはなくキラキラと輝く笑顔が浮かんでいた。穂乃果は1つ、成長したらしい。
……俺ももっと、成長しなきゃいけないな。
にしても穂乃果の笑顔は相変わらず可愛いなおい。
次の日、部室にて
「えぇ~!? もうナデナデおしまい~!?」
「ダメだぞ穂乃果。甘えてるだけじゃ成長しないんだから」
「うぅ~! い~じ~わ~る~!」
「あはは、駄々こねてる穂乃果も可愛いな。よしご褒美にナデナデ追加だ!」
「ふぁ……くぅ~ん♡」
「光穂さん」
「はい――――はっ!?」
「どうやら穂乃果の前に、あなたを指導する必要があるみたいですねぇ……」
「ひっ!? 海未ちゃん!! アイドルが出しちゃいけない表情出ちゃってるぞ!?」
「ふふ……ふふふ……っ!」
「ひっひぃいいいいいいいい!!!」
穂乃果に対する態度を厳しくしたはずだったのに、何かがいけなかったらしく海未ちゃんにおよそ1時間ほどの説教を食らってしまったのだった。
やっぱり穂乃果ちゃんは甘やかしたいですよね~・・・
穂乃果ちゃんにお兄ちゃんと呼ばれたいがために書き始めたこの作品で光穂君が成長なんてしてしまったら本末転倒なんですよね←
最近ワンパターンなものばかり投稿してたような気がしたので、ちょっと雰囲気変えてみたつもりだったのですが、いかがでしたか?