本日8月11日は「きのこの山の日」、らしいです
きのことたけのこの言い争い、結構見かけますよね
心底くだらないですわぁ・・・・
あ、僕はきのこ派です。
「お兄ちゃん! チョコ食べよっ!」
「おっ、いいね〜。食べよう食べよう」
「えへへっ。実は今日、穂乃果がお兄ちゃんの分のチョコまで準備したの!」
「おお〜! 穂乃果からのチョコ……早すぎるバレンタインだな」
「お兄ちゃん大好き!」
俺が部屋でゆっくりしていると、穂乃果がやってきた。手にはチョコの箱が2つ、穂乃果が用意してくれたらしい。
……しかしあの箱、なんか見覚えあるな
「はい、お兄ちゃん――――」
「
お兄ちゃんもたけのこ派だよねっ!?
穂乃果のその言葉に、俺は戦慄する。
「ほ、穂乃果……」
「ん、何? お兄ちゃん?」
若干声を震えさせながら、俺は口を開いた。穂乃果は可愛らしく首を横に傾げる。
「お、俺、たけのこ派じゃねえんだよ」
俺は知っていた、穂乃果がたけのこ派だということを。だから俺にもたけのこのチョコを持ってきたのだろう。
だが俺は
俺の言葉に、穂乃果の表情が固まるのを、俺は確認した。
「え? お兄ちゃんきのこ派だったの?」
「あぁ、だからそのチョコは受け取れない」
「嘘だよそんなの!! だってうちの家族みんなたけのこ派だよ!? なのにお兄ちゃんだけきのこ派なんて!!」
そう。うちの家族はみな、たけのこ派。そんなことは分かっている。だが、俺はそれでもきのこだ。
「悪いな穂乃果。こればっかりは譲れねぇんだ」
「…………」
穂乃果が無言になる。そりゃそうだろう、いつも一緒にいるはずの人間が、いつも楽しく笑いあっているはずの家族が、こんな形で自分を裏切ったんだからな。
「ふ……ふふふっ……」
穂乃果が意味あり気な笑みを浮かべる……穂乃果はそんな笑みを浮かべてるつもりなんだろうが、俺から見れば『意味あり気な笑みを浮かべようとして頑張っている可愛い穂乃果』にしか見えないから、正直不気味でも何でもないんだが。
でも、今回は内容が内容なだけに、何を言われるかの予想ができない。
「お兄ちゃん」
穂乃果が口を開く。
「今日だけは……いや今日からはお兄ちゃんもたけのこのチョコ派になるんだよ!!!」
ビシィッ
そんな効果音が聞こえそうなくらいな勢いで、穂乃果は俺を指さしながら、少しドヤり気味に俺を見る。可愛い。しかしまぁ、何かと思えば、そんなことか。
「ふっ……それは俺のセリフだぜ?」
俺もこれだけは譲れない。だけど穂乃果と争うような事はしたくない。どうやら兄妹、考える事は同じらしい。
「穂乃果、今日からお前もきのこのチョコ派だ!!」
きのことたけのこ、長年争われてきたこの両派の争いが、今ここにいる俺達兄妹でも、行われる――――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…………」
「…………」
1つテーブルを挟んで、俺たち2人は向かい合って座っている。穂乃果はいつもみたいな可愛らしい座り方、いわゆる女の子座りではなく、ピシッと背筋を伸ばして正座している。普段は可愛い穂乃果だけど、こういうところを見るとかっこよく見えるのはなぜだろう。
テーブルには、穂乃果が持ってきてくれたたけのこのチョコ、そしてさっき2人で買いに行ったきのこのチョコの2種類が並べられている。
にしても……
「「きのこ(たけのこ)食べたいなぁ……え?」」
気持ちを声に出すと、穂乃果と声が被った。流石は妹というだけあって、俺と考えることが似てる。
だが、似てるだけで"同じ"ではない。
「お兄ちゃん、"たけのこ"、食べたいよね~?」
穂乃果の挑発的な発言。『食べたい』と思う心は同じでも、それの対象が違う。
「いやいや穂乃果、"きのこ"食べたいんだよな? 分かるよ」
「そんなわけないよ~。穂乃果が食べたいのは"たけのこ"だよっ」
俺は"きのこ"が、穂乃果は"たけのこ"が、お互いの意思を互いにぶつけあう。空気がピリピリする。
お菓子、だけれどただのお菓子ではない。これは、"きのこ"か"たけのこ"かを争う、戦争なのだ。
「おいおい穂乃果……ふっ、いや、"たけのこ風情"がそんなに威張ってんじゃねえよ」
「へえ、お兄ちゃん……ふふっ、"きのこの分際"でそんなこと言っちゃうんだ?」
「……ふふふっ」
「あははっ」
お互いが"敵勢力"への侮辱を込めた言葉を投げつけ合う。それを聞いて、お互い笑ってはいるが、その笑いは楽しいからではない。
「調子に乗るなよたけのこ??」
「そっちこそ! きのこみたいな小さな心じゃ、たけのこみたいな立派な心を持つ人間には勝てないよ???」
「ふん、言わせておけば……」
「所詮はきのこってことだよね!」
いがみ合い、2人して怒り交じりの笑みをぶつけあう。きのこ、たけのこ、この2つの勢力の戦争は、時として仲睦まじい兄妹すらをも引き裂く。
「だいたいさ、きのこの何がいいの?」
「あ? は~、たけのこ民には分からんだろうなぁ……いいだろう、説明してやるよ」
穂乃果が俺にきのこの良さを問うてきた。ふっ、いいさ、俺は穂乃果をきのこ民へと導いてやるんだからな。説明くらいたやすい御用だ。
俺は"きのこのチョコ"を開け、説明するために1つ取り出す。
「いいか? まず、上がチョコ、下にはサクサクのクッキーの生地。チョコはチョコ、クッキーはクッキーで分かれているのが特徴的だな。」
「うん」
「普通に食べてももちろん美味い。だが、チョコはチョコ、クッキーはクッキーで分かれているから、その2つを分けて別々に食べることもできる、1つで2度おいしいんだ」
「…………」
「そして何より……チョコとクッキーが分かれているから、クッキーの部分を持てば、手がチョコで汚れることなく食べることができる」
「待った!」
「っ!?」
俺がきのこの良さを語っていると、急に待ったがかかった。ったく、人が説明してる途中だというのに。
「なんだ?」
「そのクッキー! 確かにチョコが手につかない様につかめるからすごくいいよね!」
「お、ようやく穂乃果もきのこの良さを「そのクッキーが割れてなかったらね!!」何っ!?」
「そのクッキー、開けたときから折れてる時があるよねえ? ふふっ、きのこ民の心みたいに、クッキーも折れやすいんだよねえ!!」
「ぐっ……!?」
そう、この"きのこのチョコ"の悪いところ。それは、生地とチョコが分かれているがゆえに、生地の部分が折れやすいということ。箱を開けてみれば、そこには無残にも割れてしまったクッキー生地が、なんてこともよくある話だ。
しかも、クッキーとチョコを別々に味わえるなどと言ったが、実際はクッキーがチョコの中にめり込まれているため、分離させるには上手いことチョコをはがすか、いっそのことチョコだけ舐めとる他ない。
「手が汚れずに食べれる、なんていうけど! あんなの嘘なんだよ!!」
穂乃果がここぞとばかりにドヤ顔を披露する。とても可愛いのだが、しかし今はそのドヤ加減に腹が立つ。
さすがはたけのこ民、悪しききのこの弱点はお見通し、ということか。
「そんなことよりお兄ちゃん、次はたけのこの話を聞いてよ!!」
ドヤったまま、穂乃果がたけのこの良さをアピールしてきた。
「まずねまずね! この形! 可愛いよねぇ!」
話しながら、俺と同じようにたけのこの箱を開け1つだけ取り出し、俺にたけのこを見せびらかしながら説明を続ける。
「でね!? この口の中に入れたときの――――ん~っ♡ チョコとクッキーが混ざり合って、絶妙な甘さで穂乃果を癒してくれるの~っ!」
「ふむ……」
持った1つのたけのこを口の中に放り込み、食レポを始める穂乃果。めっちゃうまそうに食うなぁ……CM出れるんじゃねえかな、これ。やはりうちの妹は可愛すぎる。
って、そんなのはどうでもよかった。
穂乃果が美味しそうに食べてる中こんなことを言うのも何なのだが、これは戦争。躊躇や優しさはいらない。
「でもさあ穂乃果」
「ん~?」
「たけのこの周りについてるクッキーのカス、なんか見た目悪くね?」
「……っ!」
「その白さとか形とか大きさとか、理科で習う、葉っぱの裏にくっついてる虫みたいで汚いわ」
「っ!? その言葉はさすがにひどいよお兄ちゃん!!」
迷いも躊躇も遠慮もない、ダイレクトな言葉に穂乃果はひるむ。
立て続けに俺は攻める。
「手にもそのカスがくっつくから、カスが床とか服の上にボロボロ落ちて目障りなんだよなぁ」
「そ、それは食べ方の問題だよっ」
「じゃあ穂乃果、お前のひざ元見てみろよ」
「えっ――――うわぁっ!?」
「なっ?」
「あぅ……うぅ」
俺は、穂乃果が一口入れるときに見ていた。たけのこの周りにくっついている粉が、穂乃果の口元から下に落ちる瞬間を。
「こっ、これは穂乃果の食べ方の問題だったんだよ!」
「いや違うな。この前矢澤が昼休みに食べてた時もそんなんだったぞ」
「それはにこちゃんだったからだよ!! 絵里ちゃんとかならこぼさないもんっ!!」
「さりげなく凄まじい矢澤ディスだなおい」
そう、矢澤が食べていたときもこぼしていたのだ。しかも、特に変な食べ方はしていなかった。
ちなみに、1人1人にこっそり聞いてみたことがあったのだが、3年生組でたけのこ派は東條ただ1人。絢瀬と、たけのこをこぼした矢澤は俺と同じくきのこ派だ。
絢瀬いわく"きのこの方がチョコの割合が多いから"、矢澤いわく"妹たちに食べさせたらボロボロこぼしちゃって掃除が大変だったから"、だそうだ。
残念だったな穂乃果、たけのこを侮辱する言葉なら俺には揃ってんだよ。
「それになぁ、ボロボロこぼす女の子より、やっぱ上品に食べてる女の子の方が、男子評価は得やすいぞ? アイドルとしてそれは致命的なんじゃないのか?」
「えっ!?」
「確かにボーイッシュな女の子が好きなやつもいるだろうけど、やっぱ多少はマナーをわきまえてる女の子じゃなきゃ、たとえボーイッシュが売りだったとしても、人気は得られづらいだろうしなぁ」
「えっ……」
「やっぱり、たけのこよりもきのこだよなぁ穂乃果?」
「うっ……うぅ~、うわああんっ雪穂おおおっ!!」
「あっ!? こらずるいぞ穂乃果!?」
俺が"たけのこ派のスクールアイドル"を更生させるための言葉をラッシュすると、穂乃果は半泣き状態で部屋を駆け出してゆく。もう一度言うが、この家できのこ派は俺だけ。そして穂乃果は雪穂の部屋へと向かった。
……雪穂も当然たけのこ派、せっかく穂乃果を更生する手前まで来たというのに、ここにきて敵が増えるとまた振り出しに戻ってしまう……っ。
「まて穂乃果!!」
俺は慌てて穂乃果を追いかける。
しかし
「雪穂!! 雪穂はたけのこ派だよね!?」
「えっ? ……まぁ、そうだけど?」
「くそっ!? 遅かったか……っ!」
俺が雪穂の部屋にたどり着いたときにはもう遅く、雪穂がたけのこ派であることを表明していた。
くっ! これで敵が1人増えてしまったっ……
「ねえ」
こうなりゃ雪穂も更生させるか?
「ね、雪穂! たけのこの方が美味しいよね!?」
「ねえってばお兄ちゃん! お姉ちゃんうるさい!!」
いやしかし、雪穂はまだスクールアイドルじゃない……ということはさっきまで穂乃果に言っていた言葉はあまり使えない。
「お兄ちゃんってば聞いてる!? 無視しないで? てかお姉ちゃんいい加減にして!!」
「ねえ雪穂おおっ、お兄ちゃんをたけのこ派にするために頑張ろうよぉっ」
ん? いや待てよ? あれを"スクールアイドル"向けではなくて"マナーあるレディ"向けに話を弄れば――――――――
「2人ともいい加減に私の話を聞けええええええええ!!!」
「「は、はいいいっ!!」」
カンカンに怒った雪穂が叫ぶ。その頭には、まるでたけのこのような悍ましい角が生えているようにも見えた。
小一時間、2人仲良く説教を受けたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…………」
「…………」
説教を終え、再び部屋に戻ってテーブル越しに向かい合って座る俺たち。説教後だからか、お互いが無口のまま時間が過ぎる。
「お、お兄ちゃん」
そんな無言の中、先に口を開いたのは穂乃果だった。
「あ、あの、さっきはごめんなさいっ」
「あ、あぁ。俺も大人げなかったな。ごめん」
「えへへ……でも、お兄ちゃんにもたけのこの良さを知ってほしかったの」
「俺も、穂乃果をきのこ派にしようと必死でな」
「うん……」
ここでまた、会話が止まる。喧嘩じゃないけど、喧嘩に近いくらい言い争ったためか、なかなか次の一言が出ない。
っていうか、何だかんだ俺も穂乃果も同じことを想ってたんだな。
……なら
「穂乃果、ほれ、きのこ一口食べてみろよ」
「え?」
「はい、あーん」
「あ、あーん……んっ! おいしい!!」
「なっ? 美味いだろ? よし、俺にもたけのこ1個ちょうだいよ」
「うんっ! はい、あーんっ」
「ん……ふふ、美味いな」
「うんっ!」
最初からこうすればよかったんだ。互いが互いの好きなものを、相手に認めてほしかっただけなのなら、こうやって与え合えばよかったんだ。
「えへへ、きのこも美味しいね、お兄ちゃんっ」
「おう。たけのこも美味しいな、穂乃果」
戦争だなんて下らないことしなくったって、分かり合えるんだ。
たけのこもきのこも美味しい、それでいいじゃないか。
それが分かってしまった俺たちには、もう言い合いなんて必要ない、汚い言葉で蔑み合う必要なんかない。
終戦を迎えた俺たち兄妹は、仲睦まじいいつもの兄妹に戻り、テーブルに並べられた"2種類のお菓子"を、互いに食べさせ合うのだった。
翌日
「光穂くううううううんっ!!!!」
「光穂っちいいいいいいいいっ!!!」
「ほわっ!? どうしたんだよ2人して!?」
「実はね!? 希が"たけのこ派"だなんて言い出したのよ!? 光穂君はきのこ派よね!?」
「いいや光穂っちはたけのこ派のはずや!!! 昨日穂乃果ちゃんから"たけのこのチョコ"食べさせてもらったんやろ!? 光穂っちのことやから、穂乃果ちゃんに合わせるはずや!!!」
「あー……」
「そんなわけないわ!!! というかにこが悪いのよ! 前まではきのこ派って言ってたくせに、今日になって『え?いいえ、別ににこはどっちでもいいわよ?』とか言い出すし!!」
「せやせや!! きのこなのか、たけのこなのかもはっきりせえへんにこっちなんかにこっちやないで!!!」
「はぁ……」
「さぁ光穂君!」
「さぁ光穂っち!!」
「「君はどっち派!?」」
しょーもない戦争が、ここにまた1つ。
穂乃果ちゃん可愛いですよね・・・
穂乃果ちゃんならきっと、手が汚れるのも気にせずにパクパク頬張って食べるんでしょう・・・
尊い・・・尊いよホノカチャン・・・
尊さのあまり鼻からチョコ出そうです(謎)