というわけで僕が穂乃果ちゃんです(極言)
私プリン大好きなんです。デザートを買うときはほぼプリンとヨーグルトしか買いません。
そんな私の欲望を反映させたのがこの作品
よって今回は、プリン回です。
「お兄ちゃぁん」
「よしよし……今日も穂乃果は可愛いな」
「えへへっ嬉しいっ!」
今日はうちの和菓子屋はお休み。それに合わせてうちの両親はお出かけ、雪穂は遊びに行っている。
家に残った俺たち2人は、いつものように部屋でのんびり過ごす休日を送っていた。いつものように可愛い穂乃果を、いつものように撫でてやる、そんないつも通りの休日だけど、いつも通りの休日を送れるというこの幸せは、しっかりと噛み締めておかなきゃな。
さて、そろそろプリンを持ってくるか買いに行く時間だろう、そう思って穂乃果の頭から手を離したのだが。
「あっ、ダメお兄ちゃんっ、もっとナデナデしてっ!」
「え?」
いつもの休日なら、いつもこのくらいの時間にプリンを食べさせてほしいと駄々をこねてくるはずなのに、今日は動こうとしない。
まさか、体調でも悪いんだろうか?
「穂乃果? 体調でも悪いのか?」
「えっ? ううん、穂乃果は元気いっぱいだよっ!」
「そ、そうか……ところで今日はプリンはいらないのか?」
俺が質問を投げかけると、穂乃果は「うぐっ」と声をあげ、苦しそうにする。
「おい大丈夫か!?」
「お、お兄ちゃん……」
「ほ、穂乃果??」
「ぷ、プリンが……食べたい、です」
「そうだろうな。なら俺が持ってこようか?」
「うぐぅっ!!」
「穂乃果!?」
「じ、実は……お兄ちゃん」
「どうしたんだ穂乃果!」
俺が動こうとする、もしくは"プリン"という言葉を放つと、苦しそうな顔をする穂乃果。何か異常があったんじゃないかと心配する俺に、穂乃果は答えた。
「じ、実はね……」
「プリンを買えるだけのお小遣いがないのぉっ!!!」
心配しただけ、無駄だったようだ。
なんならプリンくらい俺が作るよ
そんなことか、と俺は肩を落とした。心底心配したというのに、そんなことでプリンを我慢していたというのか。
「お兄ちゃぁん! プリンが食べたいよぉっ!」
「……はぁ。家にプリンはないのか?」
「穂乃果の分はもうないのっ。雪穂たちの分は分かんないけど……」
「ん、じゃあもし見つけたら持ってくるよ」
「え、でもでも、それ穂乃果のじゃないよ? もしかしてお兄ちゃんがプリンを隠し持って……?」
「ははっ、それはないよ。もし俺の分のプリンがあるなら、すでに穂乃果にあげてるからな」
「お、お兄ちゃん……」
俺は立ち上がって階段を下り、プリンが入ってる可能性がある冷蔵庫目指して歩く。穂乃果は俺の腕にくっついて、「ごめんね、ごめんね」と謝りながらも、ギラギラとした欲望あふれる瞳で俺と一緒に歩く。
冷蔵庫の前にたどり着いた俺たち。
「もし誰かのプリンがあったら、それを穂乃果が食べればいいよ。俺が食べたことにするから」
「えっ!? いやっ、それはダメだよ! 穂乃果が食べたいんだもんっ! お兄ちゃんのせいにするわけには……」
「いいんだよ、穂乃果はプリンが食べたい。俺はプリンを食べる穂乃果を見て癒されたい。何も悪いことはないじゃないか。」
「お兄ちゃん……っ」
「じゃ、開けるぞ」
「ごめんね、ごめんねっ」
何度も謝る穂乃果と共に、冷蔵庫を開けた。
しかし
「あちゃ~、ないか~」
「あうぅ……穂乃果のプリンがぁ」
地べたにペタンと座り込む穂乃果。正直、この座り込んでいる穂乃果を眺めているだけで1日が終わりそうなくらい癒されているのだが、穂乃果が不満そうにしているのを放置するわけにもいかない。
さて、どうしたものか――――
『今日のおやつ! 先生、今日は何を作ってくださるんですか?』
『今日は、小さい子供から大人までみんなが好きな、プリンを作りたいと思います』
「プリンを……作る」
リビングでなぜかつけっぱなしにされていたテレビ、そこには、プリンを作る人の姿が。
そのテレビを見て材料を確認し、作り方を眺める。
「卵……バニラエッセンス……砂糖……牛乳……」
テレビから流れる音声を聞きながら、俺は家にある材料を確認する。
「卵、ある。砂糖……はまぁ当たり前にあるか。牛乳、あるな。で、バニラエッセンス……あった!」
材料を1つずつ確認していくと、見事に材料がそろっていることに気付いた……なぜバニラエッセンスもあるんだ。プリンなんて作ってもらった覚えないぞ、俺。
「あぅぅぅ!! プリンんんっ!!」
穂乃果は声を出しながら、座った状態から前に倒れて、地面に顔をくっつけるような状態になっている。
ここで、俺はある決断をする。
「よし、穂乃果のプリンがないなら、プリンくらい俺が作ってやる」
こうして俺の、プリン作りが始まったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「えっとまずは……カラメルから作ってたよな」
さっきのテレビで作っていた順番通りに作ることにした俺は、カラメルソース、プリン液の順番で作るべく材料を台に乗せる。
「カラメル、砂糖水を火に通して焦がせばいいんだよな」
さっきテレビで見たとはいえ、たったあれだけの時間ですべてを覚えられたわけもなく、スマホで料理サイトを開き、プリンの作り方が載ってあるページの作り方を確認しながら作業に入る。
分量を量り、フライパンに砂糖と水を入れ、火をつける。強火で、砂糖を溶かしながら待っていると、砂糖水の色が徐々に変わってきた。
カラメル独特のいい香りが漂ってくる。
「っ!? このにおい……お兄ちゃんプリン!!」
匂いにつられたのか、地べたに突っ伏していた穂乃果が俺の元に駆け寄る。
「あ、あれ? これって……?」
「さっきプリン作ってる番組があってさ。割と簡単そうだったし材料もあったから、俺が作ることにしたんだ」
「……っ!! お兄ちゃんの、手作りプリン……!」
「買うよりは時間かかるだろうけどし、上手くいく保証もないけどな」
「うんっ、うんっ! お兄ちゃんが作ってくれたプリン、すっごく食べたいっ!」
「おう、上手くいくように頑張るよ」
俺が勝手に思い付きで始めたことだったけど、穂乃果は喜んでくれた。絶対に美味いプリン作って、今みたいに笑ってもらいたいな。
「あっ、穂乃果も! 穂乃果も何か手伝えることないかな?」
「ん~……いや、俺が作るからいいよ」
「え~!? お兄ちゃんだけにさせるのはダメだよぅ……穂乃果のために作ってくれてるのにっ」
「穂乃果に何かあったらダメだろ? 火傷なんかして痣できたらどうするんだ。何より穂乃果に痛い目に合わせたくないからな。ここは俺に任せろ」
「お兄ちゃん……ごめんね?」
「ふふっ、これは俺のためでもあるんだから。さ、向こうでゆっくりしてなよ」
「うんっ。怪我しないようにね?」
「おう」
手伝いたかったようだが、ここは俺がやるほかない。確かに穂乃果と共同で作るプリンもさぞかし美味かろうが、その過程で怪我でもしたら、せっかくの甘いプリンも甘くない。ましてや穂乃果はスクールアイドル。痣なんてできようもんなら、それこそ一大事なはずだ。キラキラ輝く穂乃果を見続けるためには、手伝ってもらうなんて以ての外だ。
……絶対成功させるからな、待ってろ穂乃果。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……ふぅ、カラメルはこれでいいかな」
いい感じの色になったカラメルソースを、カップに流し込むまではできた。カップの数は8個。想像以上に多くなってしまったが、俺と穂乃果、そして家族分と考えると、これでも残り3つしか余らない。ま、その3つの内の2つは穂乃果、残り1つは雪穂の分になるだろうから、余ることはないんだけどな。
まぁそれも、俺がプリンづくりを成功させることができたらの話だけどな。
「で、次がプリン本体か」
カラメルソースは常温で固まるのを待つ必要があるらしいから、次の作業に移る。ついにプリン液を作る工程。
まずは牛乳を鍋で加熱するらしい。このサイトに載ってる通り、牛乳にバニラエッセンスを加え、加熱していく。しかし、ここで沸騰してはいけない。目を凝らしてそのタイミングを図る――――――――今だ! ……よし。
タイミングよく火を止めることに成功し、一安心。火を止めて、その牛乳を蒸らしながら、卵をボウルに入れて、砂糖と共に混ぜ合わせる。砂糖と卵を混ぜていく中、ふと穂乃果のことが気になってチラッと様子を窺う。
「えへへ~♡」
こっそり窺うつもりが、穂乃果はずっと俺のことを見ていたらしく、身体が完全にこっちの方を向いていた……まったく気が付かなかった。
「穂乃果、そんなに俺のこと見なくていいんだぞ?」
「え~? 見てちゃだめ?」
「いや、ダメじゃないんだけどさ」
「えへへっ、じゃあ見てるねっ!」
声をかけると、嬉しそうに笑いながら俺を見続ける穂乃果、見られながらっていうのは何ともやりづらいのだが、それだけ俺を待ってくれているのだと思うと、俄然やる気が出てきた。
卵と砂糖がいい感じに混ざってきて、かつ牛乳も十分に蒸らせたから、卵の入ったボウルにさっきの牛乳を流し込み、しっかり混ぜ合わせる。ここまでくると、いよいよプリン完成が近づいていることがよくわかるな。チラッと穂乃果を窺うも、やっぱり俺を見続けては「えへへ~」と笑っている……こんなとこ見て何が楽しいのかはさっぱりなんだけどな。
まぁ、笑ってくれているのならそれでいい。
十分に混ぜ終わったプリン液を、カラメルの入ったカップに入れていき、1つ1つを丁寧にラップがけしていく。我ながら、すごく旨そうなプリンができそうな予感がしているぞ。
予め加熱して用意しておいた熱湯が入った鍋に、プリンカップを入れていく。鍋の都合で4つまでしか入れれなかったが大丈夫、もう片方のコンロにも熱湯を用意してる。8個まとめて作れるというわけだ。プリンカップを入れ終わってから火をかけ直し、火加減に注意しながら加熱していく。
参考サイト通り10分で火を止めて、そのまま15分くらい蒸らす。鍋の蓋は閉めたままだったから確認はできていないが、大丈夫なのだろうか……?
サイトによれば、蒸らした後完成となっている。蒸らしの時間の間に、穂乃果に報告する。
「穂乃果、蒸らし終わったら完成らしいぞ」
「やったっ! お兄ちゃんお疲れ様!」
穂乃果が駆け寄ってきて、抱き着いてきた。
「もうちょっと待っててな? あと少し時間がかかるらしいんだ」
「うんっ! えへへっ、お兄ちゃんが作ってくれたプリン……♡」
「そ、そんなに嬉しいか?」
「そりゃ嬉しいよ! だってお兄ちゃんが作ってくれたんだもんっ!! もしも美味しくなくっても笑顔で食べきる自信あるよ!!」
「お、おう。さりげなく不安なこと言うのはやめような?」
……とりあえず、穂乃果はご満悦のようだ。さて、そろそろ蒸らしの時間が終わる。
上手くいってるかな?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あ、開けるぞ?」
「う、うんっ」
蒸らしの15分を終え、俺と穂乃果はプリンが入ってる鍋の前に立っている。鍋の蓋を俺が持って、少しばかりの緊張を抑えながら穂乃果に確認を取る。
さぁ、いよいよだ。俺は、蓋を持つ手を上にあげた。
「「わぁ……!!」」
鍋の中にあったそれは、見事に成功し、黄金の輝きを放っている。
「お、お兄ちゃん! こ、これプリンだよ!!」
「や、やったぞ穂乃果!!」
やったぞ、と言いながら俺はなお緊張している。なぜなら、まだ口に入れてない、それどころかそのカップに触れてすらいないからだ。恐る恐る、プリンカップを手に取り、確認する。
プルン、プルン。
プリンカップに入った黄金色は、見事に固まっており、かつプルンプルンと波を打つ。
こ、これは……成功だ!!!
「お、お兄ちゃん! 食べよ食べよっ!!」
穂乃果が食べたくてたまらなさそうな顔をして俺に言ってくる。俺は慌ててスプーンを取り出し、プリンをすくう。冷やしてはいないため固まりきってはいないものの、その柔らかさと少し垂れる生地は店で売っているプリンそのもの。
「あ、あーん」
「あーんっ」
すくったプリンを、いつものように穂乃果の口に運ぶ。ど、どうだ……?
「っ!? んうまぁぁっ♡ 美味しいよお兄ちゃんっ!!」
頬を抑えながら、見たこともないくらい幸せそうな表情で喜ぶ穂乃果。あまりに反応が大きかったため、俺も一口、口に運んでみた。
ぱくっ……こ、これは!
あまりの美味さに衝撃を受ける。滑らかな舌触り、優しいプリンの味に、程よい苦みのあるカラメルソース、そして何も邪魔することのない優しいのど越し。
素晴らしい。
自分が作ったものとはいえ、思わず自賛してしまうほどに美味かった。
「お兄ちゃん! もう一口っ!」
「おう!!」
「もぐもぐ…んんまぁぁっ♡」
何口食べても幸せそうな笑顔を浮かべる穂乃果を見て、プリン作りやってよかったと、心底思うのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「光穂! あんたプリンなんて作れたのね!?」
「美味しい……美味しいよお兄ちゃん!」
「……グッ」
「へへっ、割とセンスあったみたいだわ、俺」
その日の夜、雪穂や両親に食べさせてみたところ、これが大好評、意外なセンスがあったみたいだ。8個あったプリンだったが、余った3個もお母さんと雪穂、穂乃果の3人がその日のうちに食べてしまったため、作ったその日になくなってしまった。
喜んでもらえたのは嬉しいんだけど、これ明日まで残しとくつもりだったんだがな……
喜んでもらえたんだし、いっか。
自分の作ったもので他人を喜ばせる嬉しさは
そんな風に思った1日だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次の日。
「お兄ちゃぁん……」
「ん? どうした穂乃果?」
穂乃果が俺のところに泣きついてきた。なんだろう……?
「プリン……」
「ん? プリン食べたいのか?じゃあ俺が持ってくるよ」
「違うのお兄ちゃん」
「え?」
違うと言われて戸惑う俺に、穂乃果は言った。
「"お兄ちゃんの手作りプリン"がないと、穂乃果もうダメなのっ。だからお兄ちゃん……」
「プリン、また作ってほしいなっ」
それ以来、プリンは買うものではなく、作るものになったのだった。
この作品の穂乃果ちゃん、読んでくださってる方はご存知かと思いますが、プリン好きという設定にしてます
というのも、作者の私がプリン大好きだからです。
今度、プリン作ってみようかなぁ・・・