兄と妹~ときどき妹~   作:kielly

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穂乃果ちゃん!ほのかちゃん?ホノカチャン!




不良と魅了

「おい、プリン持ってこいよ!」

「えっ?」

「いいから早く持ってこいよ!!」

「はっはいぃぃぃ!」

 

 そう言われた俺は慌ててプリンを持ってくる。

 穂乃果の部屋に訪れた俺を待っていたのは、まるで不良のように服装が乱れた、うちの可愛いはずの妹の荒れた姿だった。

 え、なんだこれ。なんで穂乃果があんな感じになってるんだ?今回に関しては何もきっかけなんてないはずなんだが……

 プリンをもって部屋への階段を登りながら、なぜあんなことになっているのかとあれこれ考えてはみるものの、全く理由が分からない。

 

「ほ、穂乃果! プリン持ってきたぞ!」

「遅せえんだよぉ! 早く開けて穂乃果の前に置いてよ!」

「は、はいいっ!!」

 

 こ、怖ぇ……我が妹のはずなのに、恐怖を感じる。普段ののほほーんとした雰囲気とのギャップもあってか、さらに怖く感じる。

 

「お、置いとくからな?」

 

 プリンの蓋を開け、スプーンを添えて穂乃果の目の前にあるテーブルに置き、立ち去ろうとするが、しかし

 

「あ゛ぁ!? 何やってんだよ!?」

「えぇっ!?」

 

 怒られてしまった。これまで東條のイタズラのせいでいろんな穂乃果を見てきた俺だが、この穂乃果だけはどうしていいか分からない。

 

「ど、どうしたらいいんだよ?」

「んなことも分かんねえのかよお兄ちゃんは!?」

(あっ、お兄ちゃんとは呼んでくれるんだな)

「そこはスプーンでプリンをすくってあ〜ん♡ だろうが!!」

「そんな当たり前みたいに言われても知らねえよ!?」

 

 分からん、非常にわからん。怖いのは変わりないが、可愛らしいことを求めてくるあたりはいつもの穂乃果だ。確かに俺は、いつもの穂乃果にならあーんくらい当たり前にやっていただろうが、今の穂乃果にまでそれを要求されるとは思ってなかったわ。

 困惑しつつ、俺は大人しくスプーンを手に取り、プリンをすくって穂乃果に差し出す。

 

「ほら、あーん」

「もっと愛情込めろや!」

「え!? あ、あーん!」

「足りねぇなぁ……もっとぉ!!」

「あ、あーんっ!!」

「あーん♡ なんてされなくったってプリンくらい食べられるんだよこの野郎が!!」

「いやまてそれは理不尽だろ!?」

 

 おかしい、今日はなんだがおかしいぞ? あーんしろって言ってきたくせに、次はそんなのいらない、だと? 理不尽すぎるにも程がある……

 

「……でもまぁ、折角だからもらっといてやるよ、仕方ねぇなぁ」

「そ、そうですか」

「あーん……モグモグ……ふぇへへ♡」

「なんだこいつは」

 

 仕方ないとか言いながらも嬉しそうにプリンを口に入れ、幸せそうな表情を浮かべる穂乃果。もう俺どうしたらいいか分かんねぇ。

 

「あーあ、プリン飽きちまったなぁ」

「あの、まだ一口分しか減ってないのですが」

「んなこた知らねえんだよくそお兄ちゃんが!」

(それでもやっぱりお兄ちゃん呼びなのな)

「甘いもん食べたら、しょっぱいものも食べたいよなぁ!」

「は、はぁ……」

「分かってんならさっさと持ってこいよお兄ちゃん!!」

「えぇ!?」

「ポテトチップスと煎餅持ってこい! あ、コーラも忘れんじゃねえぞ!?」

「お前それふと「うっせえ黙って持ってこいや!!」うわあああ!?」

 

 女の子に対する禁句を言おうとした瞬間、ティッシュ箱が俺の耳の横を過ぎ去った。こ、これ下手な事言ったら――――殺られるのでは……!?

 慌てて階段を駆け下り、急いでコーラとポテチを持って駆け上がる。

 

「穂乃果! 持ってきたぞ、コーラとポテチ。それからせんべ……はっ!?」

「……あ゛?」

 

 やらかした。まさか煎餅を忘れるなんて。穂乃果の表情が険しくなる。やっぱダメか……!?

 

「……チッ、じゃあいいよそれで」

「えっ、いいの?」

「待たせすぎなんだよっ」

「ごっごめん!」

「……で? 何か忘れてねえか?」

「あっ!? は、はい、あ〜ん!」

「んっ……ん〜っ♡」

「もうやだ」

 

 可愛い、あぁ可愛いさ。でも普段と違いすぎてどう扱っていいやら分からねえ。助けてくれ雪穂ぉ……

 

「呼んだ?」

「……チッ」

「雪穂ぉ! 助かったぞ!!」

「えっ! ええっ!?」

 

 雪穂が来てくれた! なんてタイミングのいい奴! さすがは雪穂、天才だ……!

 

「雪穂! 俺を助けろ!!」

「……は?」

「雪穂助けてぇ!」

「ど、どどうしたのおねえちゃ……何その格好!? すごく乱れてるけど!?」

「お、お兄ちゃんがね? その、兄妹の垣根を超えよう? なんて……えへへ」

「なぁ!? 俺そんなことしてねえよ!? しかもなんで穂乃果がそんなブラックジョーク使えるようになったんだ! 俺はそんなの仕込んだ覚えねえぞ!?」

「最低っお兄ちゃん! あとお姉ちゃんも嬉しそうに言わないで!!」

「「そ、そんなぁ」」

「どうせそんなことだろうとは思ったけど……くだらない。部屋戻る」

「いや待ってくれゆき……なんでこうなったんだ」

 

 救世主であったはずの雪穂は呆れてしまい、そそくさと部屋に戻っていってしまった。絶望なんだが。

 

「おい」

 

 いきなりの低いトーンの声に驚いて振り向くと、そこには今までに見たこともないくらい怒った様子の穂乃果の顔があった。

 

「なんで」

「……え?」

「なんでジョークとか抜かしたこと言ってんだよ!? 穂乃果は本気で言ってたんだけど!?」

「ひぃっ!?」

「雪穂に助けなんて求めちゃってさぁ!? おかしくない!? 穂乃果が怖いわけ!?」

 

 怖いです、すこぶる怖いです。今すぐ逃げ出したいです。とか言ったら、今の穂乃果からだとぶん殴られてもおかしくない。でもちょっとならぶん殴られてもいいかもしれn穂乃果にそんな暴力的なことをさせてはいけない。 凄い形相で迫る穂乃果に完全に怯えきっている俺は、穂乃果が迫るごとに1歩ずつ、後ろへ下がる。

 しかし、それもついに限界が来てしまい

 

 バンッ!

 

 壁に寄りかかってしまった俺の首元から、壁から音が立つくらいの勢いで手を壁につける穂乃果。やべえ。

 

「……逃げるとは、いい度胸してるじゃねえか! あ゛ぁ!?」

「っ!!」

「へへっ、いいよ……穂乃果に逆らったらどうなるか、その身をもって思い知れよ!!」

「ひ、ひぃっ!!」

 

 穂乃果が拳を握り、振りかぶり、その拳を俺の顔めがけて――――

 

 パァンッ!

 

 俺の手のひらと、穂乃果の拳がぶつかりあった。高い音を立てぶつかったほど、穂乃果の拳の力は強かったみたいで、かなり手のひらが痛い。

 

「痛いじゃねえかよ!? 何やってんだ!」

「ご、ごめん」

「抵抗するたぁ、こりゃ躾がいがありそうだ……ひひっ」

「こ、怖え……!」

 

 発言は本物の不良、しかし見た目は俺の愛する妹。どうしたら……

 

「覚悟しろよおにい――――あれ?」

「……ん?」

「な、なんで手が痛いんだろう?」

「は?」

 

 謎の発言を繰り出した穂乃果に、俺はただ困惑する。

 

「あ、あれ? 夢の中なのに、なんで痛いんだろ……そういえばプリンとかポテチの味もはっきりしてたような」

「ゆ、夢?」

 

 夢の中なのに、などと意味不明の発言をしている穂乃果。

 

「お、お兄ちゃん……?」

「な、なんだ?」

「穂乃果のほっぺ、ぎゅーってしてくれない?」

「は? まぁ、いいけど……ぎゅーっ」

「いたたた!? やっぱりこれ夢じゃなかったんだ!!」

「……夢?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」

「えっ――――えぇっ!?」

 

 あの後土下座を何度も繰り返していた穂乃果に訳を聞くと、『ずっと夢のなかにいるままだと思ってたのっ』という返事が来た。どうやら、夢の中の穂乃果はヤンキーだったようで、ヤンキーである穂乃果が俺を雑用として扱っている、という設定だったらしい。しかし、拳をぶつけた瞬間の痛みに、これは夢ではないのでは?と思って俺に頬をつねるよう要求来てきたらしい。すると、これは実は夢ではなく現実で、俺に対してひどいことをしてしまった事に対して土下座していたらしい……なんてこった。

 

「ほんっとうにごめんなさいっ!」

「俺本当に怖かったんだが」

「うぅ……ごめんなさい」

「罰として、穂乃果が食べ損ねたプリンは俺のものな」

「そ、そんなぁ!」

「つべこべ言うな! 穂乃果は穂乃果が食べ残したプリンとポテチを俺が食う姿をじっくりと眺めてるんだなぁ!」

「そんなぁ……お兄ちゃんごめんなさい……」

「謝っても無駄だ! 今回ばかりは許さんぞ!」

「……お兄ちゃぁん」

「くっ!? や、やらん!」

「お兄ちゃぁん……おねがぁいっ!」

「うっ!?」

 

 

 結局、プリンとポテチの両方は、俺のあ〜ん付きで穂乃果に美味しくいただかれました。穂乃果いわく、『すごく美味しかったよっ』だそうです。

 

 なかなかに恐怖を感じた、そんな俺の災難な1日だった。

 ……そして、新たな穂乃果の可愛さを見出した1日でもあった。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「お、お兄ちゃん……」

「お、どうした穂乃果?」

「あ、あのね?」

「どうした? 言ってみろ」

「お兄ちゃん――――」

 

 

 

 

 

 「キス……しよ?」

 

 

 

 

 

 穂乃果の口から出たそんな大胆な発言に、俺は凍りつく。理由は2つ。

 1つは、単純に穂乃果の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったから。そしてもう1つが――――

 

 

 ここが、部室であるからだ。

 

 もちろん、みんなもいるわけで。

 

 

「穂乃果!? あんた何言ってるの!?」

「流石に今回はうち何もしてへんで!?」

「じゃあ今までのこと全てはお前のせいだったんだな」

 

 矢澤が驚き、東條は驚きのあまり自らの過去の過ちを暴露する。俺も心底驚きはしたけどこれだけは聞き逃さずに済んだ。

 

「な、なんでって言われても……」

 

 穂乃果が矢澤の言葉に言葉をつまらせる

 理由もなしに穂乃果がそんな唐突に言い出すなんておかしいからな。あ、唐突なのはいつものことか。

 

「漫画読んでて、主人公とヒロインがキスするとこがあったんだけど、穂乃果キスとかしたことないからしてみたいなぁ、なんちゃって……」

「よし穂乃果、今すぐしようかお兄ちゃんと」

「いいの!?」

「おいシスコン」

「お前にシスコン言われたくないわこのシスコンとブラコンの合わせ味噌め」

「そのディスられ方は初めてじゃない!?」

「お前なんかこんにゃくに塗ったくられてしまえ」

「味噌田楽!?」

「こんにゃくみたいなふにゃふにゃした頭持ってる矢澤には、脳みその代わりに合わせ味噌で十分だわ」

「それどういうことよ!」

 

 何故か動揺を隠そうとした俺は、無理矢理な流れで話を変えようとした。でもそれはダメだったようで。

 

「もうっ! お兄ちゃん話そらさないでよ!」

 

 話をそらそうとしたのがバレていた。

 

「あ、あぁ、すまん」

「お兄ちゃん話変えようとする時、いつもそうやってにこちゃん弄りするんだもん。穂乃果にだって分かっちゃうよ」

「……あんた、バレてるじゃない」

「………………」

 

 矢澤はいつも空気を読んで、俺に合わせてくれる。しかしそれに頼りすぎたがために、いつしかそれが癖になってたらしい。穂乃果は俺の実の妹。それだけに、他のどのメンバーよりも俺のことを知っている。もちろん癖も。

 今回の件も、その癖の一部だったらしい。

 どうしようもなくなってしまった上、部室内の雰囲気がどんよりしてしまった。

 

 と、そんな雰囲気をぶち壊してくれる者が出てきた。

 

「なら、うちが光穂っちにキスしよっかな〜」

「なっ!?」

「希ちゃん?」

 

 この空気の中でこんなことを言い出す東條の思惑は分からないが、そのおかげで少しだけ空気が軽くなった。

 

「のっ……希っ! あなたは何を言ってるんですか!?」

「え? 言葉通りのはずやけど」

「これはスピリチュアルだにゃ……」

「ダレカタスケテ」

「イミワカナンナイ」

 

 東條が平然とそんなことを言い出したせいで部室内のメンバーみんなが困惑する。ただ、そのおかけで穂乃果もさっきまでの様子とは少し変わったようだ。今日の穂乃果、どこか色っぽさがある気がする。いつにも増して。

 そんなふうに思っていた俺に東條がさらに攻めてくる。

 

「さぁさぁ光穂っち! 構えて構えて!」

「構えってなんだよ!」

「ほらほら、遠慮せんといて!」

「いや遠慮とかしてないから」

「素直やないなぁ……なら!」

 

 東條は俺との距離を一気に詰め、そして

 

「んっ」

「っ!?」

「「「「「「「「希(ちゃん)!?」」」」」」」」

 

 目をつぶって顔を俺の顔に近づけ、俺の頬にその柔らかそうな唇をそっと触れさせてきた。一瞬本当にキスしてしまったのではないかという錯覚に襲われたが、東條の顔は俺の右頬にあったため、そうではないことが分かった。

 

「ふふっ、光穂っちの驚いた顔見るんは本当に楽しいわ♪」

「なっ、何やってんだよ」

「穂乃果ちゃんがモタモタしてたからさきにしてもうたわ♪」

「う……」

「ほらほら〜!穂乃果ちゃんがしないなら、うちがもっと光穂っちにラブアタックやっちゃうよ〜?」

「だ、ダメぇ! お兄ちゃんは穂乃果のなのっ!」

「でも穂乃果ちゃんがそんなんやったらうちがすぐに取っちゃうで〜」

「そんなことない! お兄ちゃんは穂乃果のものだもんっ! ねっ、お兄ちゃん? ……お兄ちゃん?」

「…………」

「お兄ちゃん!!」

「……はっ!? ど、どうした穂乃果?」

「お兄ちゃんのバカ!」

「えぇっ!?」

 

 不覚にも東條からの頬キスに気が動転してしまっていて、話を聞いていなかった俺に穂乃果からの罵倒。うん、悪くない。

 違う、そうじゃなくてだな。

 

「何の話してたんだ?」

「もうっ! なんで聞いてないの!?」

「穂乃果ちゃん残念やったね! もう光穂っちはうちからのキッスでメロメロらしいわ〜!」

「そ、そんなことないもんっ! ねえお兄ちゃん、そうだよね!?」

「あ、あぁ」

「なんで詰まるの!!」

「あはは♪ 光穂っちチョロすぎやで??」

「お兄ちゃん……」

「悲しい顔するな穂乃果!! 東條の煽りに乗っただけだから!」

 

 東條によると俺は東條に惚れたらしいが、とんでもない。確かにビビりはしたが、そんな感情はない……穂乃果の前だと、特にな。

 

「大丈夫だよ穂乃果。安心しろ、そんな簡単に人を好きになるほど俺は甘くないから」

「お、お兄ちゃん……!」

「ふふっ、安心したか?」

「うん! やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだもんね!」

「分かってくれたか。うん、いい子にはご褒美をあげなきゃな」

「ん……お兄ちゃんっ」

「ナデナデ気持ちいいか?」

「うんっ♪」

 

「あのー、そろそろ練習してもよろしいでしょうか……?」

 

「「あっ」」

 

 東條の頬キスから急に穂乃果との2人の世界に切り替わり、いつものように2人きりで話していたせいで、今は部室にいるんだということをすっかり忘れてしまっていた。周りを見ると、ニヤニヤするものや軽く引いているものもいて、なんとも言えなかった。

 そして、東條に関しては

 

「にっしっし♪ いいねぇ兄妹愛!」

「お前例に見ないほどゲスな顔してるぞ?」

 

 これでもかというほどのゲス顔を浮かべていた……もしかして、俺に頬キスしたのもこれが狙いだったのか?

 

 

 練習が終わり、俺と穂乃果、そして穂乃果の幼馴染2人と一緒に帰って来て、俺は部屋でなんとなく勉強をしていた。 なんというかな、部室でのみんなの反応を見てしまったせいか、変に真面目な気持ちになってしまっている。勉強なんて、普段全くしないのにな。

 

 トントン、ドアを叩く音がした。

 

「いいぞ~」

 

 俺がそう言うと、ドアが開かれた。

 

「お、お兄ちゃん」

「穂乃果か。どうした?」

 

 ドアを開けたのは穂乃果だった。

 枕を抱きしめて、パジャマ姿で入ってきたところを見ると、何を言いたいのかが分かってしまった。

 

「……一緒に寝るか?」

「っ! うんっ!!」

 

 俺が聞くと、パァッと明るい笑顔で大きくうなずく。やっぱ、穂乃果の笑顔が一番だ。

 

 

 

「お兄ちゃん、温かいね」

「穂乃果も温かいぞ」

「えへへ」

 

 一緒にベッドに横になって、向かい合ってそんなことを言い合う。たまに穂乃果はこうやって俺の部屋に来ては、一緒に寝たいと言ってくる。そのとき、決まって穂乃果はモジモジして何かを言いたそうに頬を赤らめながら言ってくるのだが、そのときの穂乃果の可愛さたるや、どんな女が迫ってきても穂乃果には到底届かないとまで言えるほどだ。

 だから、東條の頬キスくらいでは何ともないのだ。

 

「……希ちゃんのこと、考えてたの?」

「えっ」

「お兄ちゃん、何か考え事するときいつも目そらすんだもん。しかもその時って他の女の子のこと考えてるんだもん」

「……ははっ、穂乃果は本当に俺のことをよく知ってるな」

「当り前だよ、昔からずっっっっっっとお兄ちゃんのこと見てきたんだもん。知らないわけないよ」

「ははは。ごめんな?」

「いいもん」

「怒ったか?」

「今は穂乃果だけのものだから怒ってないもん」

「優しいな、穂乃果は」

「今からお兄ちゃんをメロメロにした希ちゃんと同じことするもん」

「……え?」

 

 そう言って穂乃果は目をつぶり、こちらに顔を近づけてくる。今はお互いにベッドに横になっている状態。頭から足まで、身体のすべてをベッドに預けている状態。

 ということは、当然顔を動かすとなると、平行移動しかしないわけで。

 そんなことを考えてる間にも、スルスルと布を擦る音と共に、穂乃果の顔が近づいてくる。その穂乃果の唇の先には――――俺の唇が。

 抵抗することもできたのだろうが、今の俺に抵抗の二文字はなく、そのまま目をつぶり、その時を待った――――

 

 

「ん……」

 

「んぇ!?」

 

 

 思わず変な声を出してしまった。何せ穂乃果がキスをしたのは、唇でも、頬でもなく――――首筋だったから。

 

「ちょっ、穂乃果!?」

「えへへ、ぞくっとしたでしょ♪」

「え、いや、えっ?」

「あははっ♪ お兄ちゃん混乱してるでしょ♪」

 

 目を瞑っていた俺に、まさかの首筋に向かってのキス。柔らかな唇に触れられた首筋は、離れ際の穂乃果のかすかな息に触れ、より一層感覚が狂う。

 

「これでお兄ちゃんは、穂乃果のものだよねっ♡」

「あ、あぁ、そうだな」

 

 今もまだ困惑しながら、首筋へのキスの余韻に浸っている俺に対して、色っぽさを含んだそんな笑みを浮かべる穂乃果はどんな女の子よりも悪な、それでいて幼さも残る――――"小悪魔"と言ったところかな。

 今もまだ胸の鼓動が収まらない俺をよそに、穂乃果は俺に抱き着いて、寝てしまった。

 

 結局、その晩は一睡もできなかったのだった。

 

 




穂乃果ちゃんって本当にマルチな才能があると思うんです
そのマルチな才能を皆さんに伝えていくのが私の使命なのではと思えるほどですね

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