ただ陽乃さんとイチャコラしたいだけの人生 作:暇なのだー!!
嫉妬のうちには愛よりも自愛のほうが多くひそんでいる、という言葉がある。つまりは自分の方があいつよりもがこんなに可愛いのにと思っている事=ナルシスト。
その理論が正しいとしたら、この大学にはナルシストが何人程居るのだろうか....と溜息をつく。
ここは大学の一つの設備である食堂。家で作ってきた弁当を持ち込んでいる者も入れば、コンビニで買ったおにぎりやらサンドイッチやらを持ち込んでいる者まで三者三様である。
本来和やかなムードを漂わせるその空間だったが、最近一ヶ月は和やかなムードなど影も形も無かった。
その元凶、それは俺の正面に女王のオーラを放ちながら座している彼女であった。
彼女の名は雪ノ下陽乃。この学校のアイドル的存在である。
つまりは周辺に居る背景とも呼べる人物達は皆P。嫉妬深いPが何人も居るということ。そしてその嫉妬を一心に浴びている俺、柱久遠はそろそろ腹にコロコロでも入れておかなきゃな....とこの頃身の危険を感じていた。ちなみにジャンプじゃないのはコロコロの方が厚いから。
ぶっちゃけこの状況は陽乃さんと飲みに行ったあの日から、一ヶ月続いている。慣れというものは恐ろしく、最初はもう胃の痛みと腋汗で寝苦しかったが、今ではもはや開き直り嫉妬を我が身にあてられても快感を感じられるようになっていた....えぇ....
新たなステータス『視姦』を自らのプロフィールに保存した。悪寒が走る、『かん』だけにってかハハッ、何もかかってねぇ。
「そうだ、久遠君」
「何でしょうか?」
同年齢ながらも彼女のカリスマ性の前には俺のタメ口も自然と収まる。
「君はどんな女の子が好き?」
突拍子も無く放たれたその質問は周りの視線を集中させるのに充分だった。ぞくり、と再び背中にもはや視線だけで俺を殺せそうなほど集中する。
分かった、この人俺を殺す気だわ。もはやコロコロなんて言ってる暇はなんてない、陽乃さんでも盾にしなけれはあいつらに殺られるわ、これ。
「清楚系な女の子かな?それとも露出が多い女の子?....あ、それともドSとか?」
俺に向けられる背後からの殺気など気にせず話している陽乃さんの口を塞ぎ、手を取って外にダッシュした。
羞恥心なんて狗にでも食わせておけ。
陽乃さんと外に出ると真夏を迎えた日本ではカマキリさんが、『おう、輝いてるぜ』とか国語に載るほどギンギラギンの太陽さんがこんにちはをしていた。
とにかく、どこか日陰のところに行こうと歩く。
「いやー....暑いねぇ」
ひらひらと手の平で自分を扇ぐ陽乃さん。そのワンシーンでさえも絵になるなぁ、とぼけーっとしてしまった。
「それで?なんで外に連れ出したの?」
「いや、そりゃあ....」
殺されそうになったからですよ....
先程までのあの視線を思い出すだけで背に汗が垂れる。
「ねえねえ、どんな女の子が好きなの?」
「ぶれねえな....この人」
歩きながらニコリ、と先程までの悪気なんて感じさせない声音。相変わらずの彼女の笑顔。
そんな偽りの笑顔を貼り付けた彼女へ、先程のお返しとばかりに皮肉交じりで言う。
「陳腐な言い方ですけど....裏の顔を見せてくれる人ですかね」
「あら、それじゃ私とは正反対だね」
悪びれなんて感じさせないさっぱりとして言った彼女。勿論、彼女も自覚していた。そうでもなければこのような笑顔を貼り付けたような笑みなど出来るはずもない。
この笑みが張り付いていない裏の顔を表に出させるというのが俺の目的だというのは、自分でも笑えてくる。
俺はあの飲み会の日から決して陽乃さんと距離が近くなったとは思っていない。ただ彼女が俺に対してお礼をしてくれるために、俺の事を知ろうとしてきっかけを作っていただけだった。
故に、言い方は悪いが陽乃さんはあの人達を利用していたのだろう。それを平然とやる彼女はやはり雪ノ下陽乃という訳だ。
真夏の太陽の日差しが肌を射しながら俺達は歩く。
「で、どこまで行くの?」
気付けば何時の間にか学外に出てしまったようだ。
幸い、今の時間に俺と陽乃さんが受ける講習は無い。何処か、涼しいところ....そう探していると緑を基調とした看板にセイレーンをデザインとした絵が描かれている看板が目に入る。
みんな大好き、スタバである。
陽乃さんと共に店に入る。やはり、店内はクーラーが効いていてとても涼しく、自然と汗が引っ込むような感覚に見舞われた。
店内を見回すと机にパソコンを置いている社会人や勉強をしている学生達。さすが駅前に座している店というべきか、店内は広い。
「へー、スタバかぁ、女の子と一緒にカフェをする店では及第点かな?」
「じゃあどんな店が満点なんですか....」
「俗に言う隠れた名店って所だね。あーゆう所、女の子でもワクワクするから。まあ、今日はここで我慢してあげるよ」
「今日はって....」
次もあんな目に会いながら彼女を連れ出さないといけないのか....普通にデートしたいです、はい。
俺達が未だに出入り口で話していると、それを見兼ねたのか定員さんが声をかけてくれた。
「あのー....お客様。ご注文はいかが致しましょう?」
「あ、私はショートチョコレートキャラメルフラペチーノで」
「....俺もそれで」
何だよ、呪文かよ。陽乃さんは土属性で司ってんですか?
もう陽乃さんと来る時、キャラメルフラペチーノだけじゃ辱めを受けるわ。辱めを受けたくないからもうスタバ来ないからね、今日来店最後の日。
そう決心していると、定員が「それと」、と言葉を再び紡ぐ。
「今日、恋人割引サービスとなっていまして....お客様は恋人という関係でよろしいでしょうか?」
素早く口を開ける。
「いえ、ちg「そうです」」
ちょっとおおおお!何言ってんの陽乃さああああん!!ペロッて舌を出しながらこっちを向かないで!ムカつくけど可愛いから許しちゃう!
「使えるものは何でも使わないとね」と俺の耳に口を寄せ呟く。いえ、別に喜んだ訳じゃないんですが....残念というか....残念です。
しかし、俺より店員さんさんの方が何かショックを受けているのか、「....そうですか」って俺の方を呪いそうな目で見てるんですけど!やっと安全な所に来たのに呪い殺されそうなんですけどぉ....
つまりこの世界はバイオハザード。安息地なんて無かったんや。
「合計千四百円となります」
「あ、お金は私が出すよ」
「いや、大丈夫っすよ」
「じゃ、遠慮なく」
ここで俺が私がとならないばかり、さすが陽乃さんである。
昔、私がいや俺がと言って俺の目の前でもみくちゃになりながら、見栄を張ろうとしているカップルがいた。日本人の遠慮する精神とはこんなものなのか、とあの時は感じた。一切後ろの俺には遠慮してなくてメチャクソ邪魔だったけどな。
一度対立した関係を治すには、相手を認める他はない。相手を認めるという謙虚な心が損なわれている人間では、争いへと発展していくが、流石は陽乃さん。その事をわきまえてくれていた。いやなんで俺如きが上から目線で陽乃さんの事を語るんだよ。
僕は下僕です。ご主人様の代金を支払うのは当たり前なのです。そう思いながら英世さんをすっと二人店員に渡す。何か字面だと人身売買みたい....
それを店員はわざともぎ取るようにして取っていく。この店のレビュー1にしてやるよ....
恨みがましくお釣りを受け取り品物を貰う。はい、と陽乃さんにも手渡す。ありがとー、と言いながら受け取る陽乃さん。可愛い。
さて、問題は座る席だった。駅前に店を座しているわけか、ほぼ満席であったのだ。
ともすれば、相席を考えなければならないか....あれ嫌なんだよな、変に気を使っちゃうし....しかし、また外に出てあの直射日光の中を歩くなんて嫌だしなぁ....
うんうん唸っていると、隣に居たはずの陽乃さんが何時の間にか姿を消していた。あれ?という隙も無く、聞きなれた声が店の奥から聞こえてきた。
「おーい、久遠君、こっちこっちー」
どうやら陽乃さんの隣に人影が見えるため、相席をしていたらしい。陽乃さんのいる方向へ足を進めながら、相席となった客を見ると、学生二人だということが分かった。ふっ、良かったな陽乃様とご一緒なんて、光栄に思うがいい!え?僕?下僕です。
やがて、その姿が見えた。
一人は頭にアホ毛かぴょコン、と立っていて死んだ魚の目をしている男の子。どうやら、制服から察するに俺の母校総武高校の生徒だと分かった。
そしてもう一人。一目で美少女だと俺のセンサーが感知した。腰まで伸びた長い黒髪に凛とした顔立ち。陽乃さんが陽とするなら彼女は陰。物言わぬオーラを放っている彼女は陽乃さんと似ている部分がある。
....つーか、この二人....
「「「あのっ」」」
──スタバで俺を撥ねた車にのっていた少女とその姉さんと助けた少年に出会った件。
うん、今流行りのタイトル長文ラノベが書けるね!(白目)
キャラメルフラペチーノの呪文は闇が深い。後代金はテキトーです。勘弁してつかあさい....