ただ陽乃さんとイチャコラしたいだけの人生   作:暇なのだー!!

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決心

「──で、あるからにして....」

 

 

カリカリ、とノートにメモを取るような音が響きわたる。

その光景を横目で眺めながら、自分のノートにも書き写していく。

 

 

 

 

陽乃さん家の車に撥ねられて一ヶ月が過ぎた。俺が通っていた理系の大学は俺が事故にあったと言っても、何も問題無く日々が過ぎ去っていてる。

改めて世界は俺を中心にして廻っているのでは無いと痛感した。

 

 

─一ヶ月前、入院してる間に色々な人が来た。死んだ魚の目をした男の子、どうもビッチ臭がする女の子、陽乃さんの妹さん、あの車の運転手さん。

上の三人が来た時は別によろしかったのだが、運転手さんが来た時なんて土下座してくれました。それはもう、きっちりと。見本のような。....あの誠意に満ちた土下座なんて俺は後生見ないであろう。....僕は....あんな男になりたい....!

 

また、収穫もあった。

あれから、俺は陽乃さんとは少し連絡を取るぐらいの関係にはなる事が出来たのだ。

撥ねられて万歳、とは言わぬが、少し関係が前進したのは嬉しい。

だが、陽乃さんからすれば未だに俺はRPGでいう村人S、脇役である。新たなる進展をし無ければ、と思う毎日だが特にいい案など出る訳など無く、日々苦悩している毎日だ。

 

 

 

カッカッ、というチョークが黒板に文字を刻む音で、ハッ、と現実に戻る。顔を上げると、もはや後ろ姿は見慣れてしまった彼女(・・)の姿が見える。

 

 

 

 

 

 

 

──雪ノ下陽乃さんとは、中学生からの同級生だった。そんなことあの頃から友人が多い陽乃さんが覚えているわけもないが、俺はしっかりと覚えている、陽乃さんとの出会いを。

 

 

 

 

初めて雪ノ下陽乃という人間が会話をしている姿を見たのは、俺が中学生になり、少し過ぎた頃。

第一印象は『完璧』。先生と話している時と、生徒に接する時、両方の顔を使い分けていてどちらの顔にも綻びは無かった。何処か鉄仮面に閉ざされたようなマスクも、そのカリスマ性により一種の美を放っていた。

 

 

俺が中学二年生に進級し、話相手が少ないと言う理由で四苦八苦している時、彼女は中学二年生ながら生徒会長に就任していた。同じ立候補者の顔を赤に染め上げるほど圧倒的に。そう、彼女は二年生にして、溢れんばかりのカリスマ性と話術によって先生と生徒の信頼を勝ち取っていたのだ。

 

生徒会長に就任した彼女は、悪魔的なカリスマ性と共に斬新なアイデアで新たな案を発案。実行していくと、彼女の仕事量と生徒の活気は比例して高まっていった。彼女が本腰を上げて取り組んだその年の文化祭は、中学、高校共に最大級の盛り上がりを見せた。

 

 

──だが、その覇道は必ずしも順調だったとは言えない。

彼女のカリスマ性に魅せられた男性生徒はすぐに彼女の虜となり、ファンクラブまで結成された。裏の人気投票などでは万年一位であると言っていた。

しかし、それとは対極となる性格を持つ、女子生徒からの印象は違かった。男子が雪ノ下陽乃!と、馬鹿騒ぎしているのを見ている女子生徒は嫉妬心に駆られてしまったのだ。

嫉妬心に駆られた女子生徒は皆、雪ノ下陽乃と自分と比べ、彼女に劣っていると結論に至ってしまったのだろう。劣等感が自らのプライドを傷付けてしまい、イジメという醜い手段へと手を染めてしまった。そんなものはもう負けであったが、女子生徒達はそれに気づかないまま手を汚した。

 

イジメの内容などみみっちいほど小さいもので、陰口やら何やら下駄箱にゴミを投げつけるなど下らないものであった。だが、それも積み上がっていくと徐々に頻度は増していく。常人ならとっくに根を上げている所だったが、彼女はやはり雪ノ下陽乃であった。

 

彼女はイジメという行為に屈服などしなかったのだ。

 

彼女が行ったのは自分を利用しての(・・・・・・・・)イジメの告発。そのために彼女は放課後遅くなるまで張り込みをし、自分の下駄箱にゴミを入れられる瞬間をカメラで撮影。その証拠写真を学校に提出し、学校単位の問題とするとイジメを実行させた容疑がかかった女子生徒を停学処分とさせた。単純明快な手であるがこれ以上の報復は無いであろう基本に沿った手法。

 

当然、この出来事から彼女へのイジメは壊滅、消失した。

 

 

 

─この事件から彼女の権限はより一層強くなり、支持する声もより一層増加した。もはや真っ当にぶつかっては勝ち目は無いと判断した女子生徒達も負けを認め、雪ノ下陽乃を支持し初めていた。

 

雪ノ下陽乃は覇王である。と噂が広まり、近くの中学、高校までその噂が広がり話題となった。現実に、彼女が三年生で再び生徒会長に就任した年が、最も受験者が多かったのだから。

俺の通っていた中学校が有名になったのも雪ノ下陽乃の名前のおかげと言っても過言ではない。

故に、彼女が発案した様々な立案事項は今でも中学校で使用されていると聞いている。

 

 

 

 

 

──ここまで、雪ノ下陽乃という名の凄さは伝わっただろうか。

....しかし一番(?)大事な俺といえば....ぶっちゃけ中学生からの同級生だった俺はその時陽乃さんに見向きもしてませんでしたァ!

....いや、だってあの時は友人を増やしたいという、自分の事で精一杯でして....いや、まあ気になってたりはしてたんですけど、高嶺の花だよなぁ....とか思って諦めてました(泣)

 

 

 

 

だが、とある日俺は目撃してしまった。雪ノ下陽乃を追いかけるきっかけとなった光景を。

 

 

 

 

 

──その日は、俺は相も変わらず友人の事で頭を悩ませていた高校一年生の時であった。

学校に教科書を忘れたという、ドジっ子属性を発生させた俺はまだ日が落ない放課後、教室へ迎った。

教室の中は夕暮れ色に染まっていて、ノスタルジーな心にさせてくれた。....とか、今は想ってるけどぶっちゃけ超怖かった。ノスタルジーとか俺かっこいいってとかじゃなくて、寂しくて。

スパパパっと鞄に教科書を入れた俺は足早に教室を出る。

 

廊下に出ても尚夕暮れ色に染まり、先程の不気味さを維持していた。早く帰りたいよぉ....とか、幼女をチビらせるような声でブツブツ言っていた。が、とある教室の前で足を止めた。

 

 

1-A 雪ノ下陽乃が所属しているクラスである。

 

 

人影が会ったのだ。窓際に、一人ぽつんと、座っている人影が。

最初に見た時は幽霊かと思い、直ぐに逃げ去ろうとした。しかし良く見ると足が透けていなかった。幽霊じゃないな、と一安心すると俺は中をそろり、と覗いた。

 

まだ夕日が出ているので幸い少しだけ明るい教室。その端っこにぽつんと一つの人影が。調度逆行を浴びていて顔は見えなかったが、顔の曲線から女性だと分かった。

人影がどうやら机に突っ伏しているようだった。気を失っているのか?と心配になり、駆け寄ってみると様子が違う。

 

 

 

 

─泣いていたのだ、肩を震わせて。

 

 

 

え?と思い座席表を確認する。

─それは驚くべき事に雪ノ下陽乃であった。初めて間近で見る彼女は、皮肉にも人間らしかった(・・・・・・・)のだ。

吸い込まれそうな黒色をした髪と夕日の日当たり加減が、いいコントラストを奏でていたが、そんなことはどうでも良かった。

 

 

 

それまで俺は雪ノ下陽乃という人物を、『完璧』なる人物だと思っていた。性格に綻びがなく、誰にでも平等に接し、人に弱みを見せるような性格であると。常に人の上に立ち君臨する立場でカリスマ性により、支配する。正に一国の王ではないのだろうか。少なくとも、傍観者(・・・)の俺が遠くから見ていた感想はそれであった。

 

──だが、今俺の目に写っている雪ノ下陽乃(・・・・・)という人物は何者だ?こんなにも人間らしく、少女らしく泣いている姿をきっとただの傍観者(・・・)である俺達が見たら、何者か分からないだろう。

 

知らずと、彼女の頭に手が伸びていた。

 

俺が彼女の頭に手が触れると、彼女はびくん、と肩を跳ねた。しかし、顔を上げる事は無かった。そのまま、手を左右に動かし、頭を撫でる。

相変わらず、反応はないが、雪ノ下陽乃の肩の震えは止まっていた。どうやら、少しだけ気を紛らわせることが出来たようだ。

 

 

考える。この雪ノ下陽乃という少女は何者か、何という声をかけたらいいのか。大丈夫?頑張った?お疲れ様?いや違う。極論を言えばからすれば傍観者(・・・)である俺達から言う言葉など、何もないのだ。当事者(・・・)である雪ノ下陽乃の苦しみなど、心を理解しないような俺達では量れない。そう思ってしまった。

故に、俺から彼女に送れる事など何一つ無い。そう結論付けた。

 

 

 

──だが、同時にこんな疑問も溢れ出てきた。

 

もし、彼女に理解者(・・・)が出来たのなら、彼女の苦しみは無くなるだろうか?

答えは瞬時に出てくる。

NOである。自分の苦しみなど一生をかかっても無くす事などできる訳が無いのだ。何故なら自分を省みるとそう思い知る事ができる。俺にも悩みはある。だがこの変わり果てた少女程重くはないだろう。ふっ、と失笑する。

 

この子の抱えているものが重い重くないなどどうでもいい。ただ目の前で一人の少女が泣いているのだ。

その時から変に正義感が強かった俺は、その自問自答が原動力となってしまった。

 

もしかしたら、俺も理解者が欲しくて友達を作ろうとしてたのかもしれない

ふっ、と失笑する。そんなのは甘えであった。

苦しみなどはなくなる訳が無い、否、無くなってはいけないのだ。一度知った毒の甘味は、二度と忘れられなくなるから。

そんな考えはこの俺でさえも浮かんで来た。

理解者ができても苦しみなど消えない。結論である。

 

だが、その過程が違うものだとしたらどうだろうか。

 

苦しみが消えないと分かれば分け合えばいい。いわゆる痛み分けである。犠牲というものは自分の他に複数人居ると個人よりは安心するものである。

しかし、それは暴論であった。何故ならそれは、そんなことは、自分の弱みを相手に見せるという事。誰が好き好んで自分の弱みを話す事ができようか。

 

 

 

──だが、もしも、そんな....彼女の弱みを話す事ができる理解者が現れてくれたなら、彼女の苦しみは分け合えるのではないだろうか....

そう、思ってしまったのだ。

 

なぜそう思ったのか、などというきっかけなんて分からない。理由なんて無かったのだ。ただ、目の前に泣いている女の子が居るというだけで、自分でも馬鹿だと思うが放って置けられない。

 

 

 

 

決心する

 

理解者になろう。この少女(・・・・)の。

あの瞬間、俺の雪ノ下陽乃へ対する印象は変わった。完璧なる女性、雪ノ下陽乃からただの少女へと。

 

分け合わなければ、この少女の苦しみを。

苦しまなければ、この少女のために。

犠牲となるのだ、この少女の本物の笑顔のために。

 

そのためには対等となるのだ。少女では無い、彼女の何十にも分厚くまかれたあの面皮を破り捨てさせるために。

 

だから、見捨てない。たとえ手足をもがれようと、どれほど本人に罵倒されようと、突き放されようと、俺は彼女の味方である。

 

 

──そう、断言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

酷い話だな、と未だに講師が説明を続けている中、ぼーっと思う。

自分のやろうとしている事は相手の弱みを握る事。見方によってはただの偽善である。

 

だが、一度貫き通すと言ってしまったからには曲げれない。

自分で決めた道だ。

 

 

──また、柄でもないなと、笑が溢れてしまう。

 

ひとまず、当面の目標は雪ノ下陽乃さんの友達となる事である。....ぶっちゃけいきなり無理だと思ったが、頑張るしかないだろう....入院してる時にS○riちゃんと会話しまくったから大丈夫。....いや、どこがやねん。

自分のアホぶりに思わず関西弁になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

──今日も俺の世界は、雪ノ下陽乃(・・・・・)を中心に廻っている。

 

 

 

 

 

 

時刻は夕暮れ。あの日を思い出すような夕日の光を体いっぱいに浴びている中、その連絡は来た。

 

ブーッ、とポケットで鳴り響く携帯。....少し変な所に刺激が当たってしまい変な声が出てしまった。

ポチッポチッポチッ、とL○NEを開く。トークの絵柄に表示される①の文字。誰からだろうか、とトーク画面に写す。

 

 

『from陽乃様 ねーねー、今夜呑みに行こうよー』

 

 

 

............え?




陽乃さんの過去?そんなもん捏造に決まってんだろぅぉ!?(逆ギレ)

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