幻想郷にやってきたジャイロは一日でDIOと吉良吉影を倒し、疲労困憊で永遠亭に着くなり、すぐに倒れてしまった。
永遠亭で一休みした俺は一度、人里へ戻ることにした。
ただ休んでるように聞こえるが、これでも一日は寝ていただろう。疲労はたまり、起きたくても身体が動かないということがあったからな。身体さえ動けば、鉄球で筋肉を動かすことができたが・・・。
そしてその後、永遠亭で一日働かされて・・・。
あの医者、温厚な顔してるがやることは不気味でもう少しで帰れずに、実験台になるところだったぜ。
帰り道、もう二度とこんなところ来るかと思ったくらいだ。
そして俺の持つ鉄球の数は二個。最初は何個も作っておいたが、紅魔館での戦いやこの前の戦いで鉄球を紛失、そして破損。使いやすかった紅魔館でもらった青い鉄球もあいつの爆発で壊れてしまった。
それにしても妙だ。この世界と違う世界から迷い混む人が俺以外にもたくさんいるということが。確か最初にあった霊夢とかいう巫女は、ここ最近、異世界からの来た人間は少ないと言っていた・・・気がする。
「ちょっと取材いいですか?」
迷いの竹林を出て少しすると、一人の少女に話しかけられた。少女の背中からは黒い羽が生えている。永遠亭で聞いた天狗ってやつか?
「いいぜ。その代わり情報をくれないか?」
確か永遠亭の医者によると、天狗がたくさんの情報を握っているらしい。そいつなら紫の居場所も知っていると言っていたような・・・。
「まずは取材を」
この天狗の名前は射命丸 文といい、新聞記者をやっているみたいだ。そしてこの世界でその新聞は有名らしい。今は俺のような異世界からの人間の記事を作るために取材をしているようだ。
とりあえず、俺はあの世界に、あのレースに帰るため、新聞に載せてもらうことにした。情報を拡散することで、少しでも解決点が出てくるんじゃないかと考えた。
「あやや、ジャイロさんは乗馬のレースをしていて、この幻想郷に迷い混んだんですか」
「あぁ。大事なレースだ。今すぐ帰らないといけない。それに相棒をおいてきてしまったからな」
「なるほど・・・。なら、次は白玉楼なんてどうですか?」
「何だそこは?」
「そこならよく紫さんが来ますよ。そこの主の西園寺 幽々子さんが紫さんと仲が良いので」
人里を東西の二つに分ける大きな川の橋の上で取材を受けていると、東の方角から叫び声が聞こえた。
「何事だ!?」
「ジャイロさん!行ってみましょう!」
そう言い、射命丸は俺を残して、その叫びの方向へ飛んでいってしまった。
「おい!俺は飛べねぇぞ!・・・行くぞ!」
俺は馬に乗ると、その方向へ走り出した。
里の人々はその叫びの方向へ集まっている。
俺が通ると、人々はざわつく。もうすでに俺の情報は出回っているのか?
「見て!あの人って今日の新聞に載ってたジャイロって人じゃない?」
やはりそうだ。
「おい。新聞といったな。その新聞ってあそこを飛んでる天狗のやつか?」
「えぇ。・・・ほら」
ちょうど話しかけた茶屋の看板娘らしき少女は店の奥から新聞を持ってきた。そこにはあの迷いの竹林の中、馬を走らせる俺の姿が、その新聞の見出し一面に描かれていた。
「作っていると言ってたが、正確にはもう作られていたのか・・・」
俺はその新聞を空を飛ぶ射命丸に向かって見せると、射命丸はにっこりと笑い、声の方向へ飛んでいって見えなくなってしまった。
「ありがとな。今度は客としてここに来てやるから」
少女に新聞を渡すと、俺は馬を走らせた。
ヤバイな。何だかわからないが、そこに近づく度に、変な殺気が感じられる。しかもドンドン強くなってやがる。
だが、ここで逃げたら救世主じゃねぇよな。
あの新聞に影響を受けたのか、何か俺自身、『救世主』という文字に誇りを受けたようだ。
次の角を曲がった瞬間、さらに殺気は大きくなる。そしてその先にはこの里には全く似合わない姿の男が立っていた。
「・・・増えたか。どんなに人間が来ようと我に勝とうなど不可能だ」
アルファベットのYのようなかまえをとると、こちらに向かって両手をかまえる。
「お前は何者だ!」
「我が名はワムウ!約束の男と戦うまでの数週間の時間を潰すためにここにきた」
「暇潰しで人を殺すと」
「そうだ。それにこの世界の日光はあの世界のものとは反対に気持ちいいくらいだ。これが人間の言う、日光浴というものなのだな」
「どうやら、お前も吸血鬼みたいだな。しかも日光が効かないとか、気持ち悪いぜ」
「人間の寿命は短い。死に急ぐことはないだろう」
俺はやつの何かが震えたのを感じた。闘志のような、戦士が戦う前に士気を鼓舞するようなそんな感じの何かを・・・。
「いくぞッ!」
家を飛び越えるくらい高く飛び上がったワムウは太陽を背にして、太陽の光で俺の目を閉ざそうとする。
だが、その方向はわかった。どんな超人でも、背中に羽でも生えてない限りは、空中で移動するなど不可能だ。
「くらえッ!」
俺はその方向へ鉄球を投げる。
「この鉄球・・・ただの鉄球ではない。恐らく兵隊の使っていた銃の弾のような回転がかかっているだろう。だが、それでも立ち向かう。それこそが戦士としての誇り!」
俺は眩しくてあまり見えなかったが、ワムウは鉄球を両腕を盾にして、防いだのだろう。鉄球は勢いよく左へと
逸れたようだ。
「やはりあの鉄球は異常な回転がかかっていた。腕の皮膚が焦げている。手のひらで受け止めていたら、穴が空いていたかもなぁ。そして微弱だが波紋のような物を感じた」
「おい!まだ、こいつは空中にいるのか!?もう二分は経つぞ!」
やはりこいつの身体能力は人間離れしているようだ。
俺は鉄球の飛んでいった方向を見る。・・・またなくなるのか。さすがにこの鉄球一つだけでは、戦いの幅も狭くなるだろう。
「ジャイロさん!」
諦めかけようとしたとき、横にいたはずの射命丸は凄い勢いでそこまで飛び、その鉄球をこちらに蹴り返した。
そして俺の手のひらに返ってきた。
「その鉄球がないと戦えませんよね!こっち側に来たら私がそっちに返します!」
「マジすか!・・・だが、さすがに回転のかかった鉄球を足で蹴り返すなんて・・・なるほど、そういうことか」
昔、こんなことを聞いたことがある。東洋にいる天狗という生き物は風をおこすことができるらしい。もしかしたらこの射命丸も風をおこすことができるのかもしれない。この鉄球を跳ね返すくらいの。
「あまり触れるなよッ!」
俺は射命丸を信じて、鉄球を投げる。
「このワムウに同じことは二度と通じない!その回転、とてもすばらしいものと感じた」
「俺が同じ回転で投げたと思うか?」
「何だと?」
鉄球は地面に落ちると、ワムウの顔に向かって跳ねる。
ワムウの顔に当たった鉄球は上に跳ぶと、射命丸の蹴りによって俺の方へ飛んできた。
「何だ!今の球は!」
「次行くぜッ!そらっ!」
「意外だ。この人間がここまでやってくるとは・・・。生かしておくわけにはいかないな」
ワムウは俺を見ると、また両手をかまえる。たが、今度は違う。
「闘技!神砂嵐ッ!」
その両手は言葉にできないがとにかくエグい感じになっていた。
次の瞬間、俺はその場から後ろへ吹っ飛んでいた。やつの腕の間からでたタイフーンのような風が俺を吹き飛ばしたのだ。もちろん、鉄球は粉々になってしまった。
「まさか、この私が波紋使い以外にここまで追いつめられるとは・・・。私たちが寝ている間に、こんな戦士が現れたということか・・・カーズ様に報告しなければ」
「待・・・て・・・」
瓦礫の中から出れた俺は出血多量の手を前に伸ばす。
やつを人里で暴れさせるのはヤバイ。
だんだんは目の前は暗くなり、ワムウを目で追うことすらできなくなっていた。
「大丈夫ですか!起きてください!」
横で射命丸が声をかけてるのはわかったが、それに答えることはできなかった。