地霊殿の次は神霊廟にやってきたジャイロ。
そこにはジョニィもやってきていた。
「はぁー、食ったぜェ。久しぶりにこんな食った気がするなァ。」
飯が食べ終わり、俺は横になる。
「布都様より食べるとは、やっぱり殿方はすごいですね」
「お主、やるな・・・ゲフ・・・」
「おい、布都。お前は寝てないで片付けろ」
「屠自古、蹴るでない・・・戻ってくる」
食べ過ぎで倒れた布都は屠自古に蹴られ、立ち上がろうとする。
負けず嫌いなのか、俺がおかわりする度に、布都もおかわりをしていた。そのせいか、今はこんな状態になっている。
「ジャイロやるなー」
「芳香ちゃん、ジャイロさんでしょ?」
「ジャイロ、サン?・・・ジャイロサン!」
「ニョホホ・・・で、青娥だっけか、ちょっと聞きたいことがあるんだがァ」
「いいですよ。何が聞きたいのですか?」
「ここにジョニィ・ジョースターっていう、足の悪い青年は来なかったか?」
「ジョニィ・・・聞いたことがないですね。ジャイロ様の御友人ですか?」
「あぁ、ジョニィもこの世界にいるみたいだが、まだ会ったこともなくてな」
「それで会いたいと・・・。聞いているとは思いますが、ここに来た異世界人もジャイロ様が初めてでして、他には誰も来たことがないんです。力になれなくてすみません」
「そうか・・・こっちこそ、いきなり悪かったな」
「力になれることがあれば、いつでも話しかけてください。それでは失礼します。」
青娥はそう言うと、台所に自分と芳香と食器を運ぶ。
「ジャイロサン!ジャイロサン!」
「どうした?」
芳香は俺の袖の袂に入った鉄球を指差す。
「それ、なんだー?」
「これか?」
俺は鉄球を出すと、手のひらで回して見せた。
「おおー!」
「まぁ言えば、俺の武器だな」
「武器かー、カッコイイなー!何かやってー!」
「何かか・・・」
子供のような頼みに少し戸惑う。俺は鉄球を手のひらでずっと回しながら、目を光らせる芳香を見た。すると、芳香の曲がらない関節が目に入ってくる。
「お前、その関節曲げられるようになりたいか?」
「なりたい!」
「よし、じゃあそれだな」
関節を曲げられるようにするなんて初めてやることだ。こういう場合は筋肉か?それとも骨か?
とりあえず、芳香の右肘に二つの鉄球を挟み込むように当てる。
「行くぞ・・・それ!」
「お?お、おー!?」
芳香の右肘は少しずつ曲がっていき、気がつくと直角に曲がるようになっていた。
「これでどうだ?」
だが、離すと同時に腕はまたピンと伸びてしまう。
「ダメか・・・すまない、こんなことは初めてでな」
「ジャイロ!すごい!どーやった?どーやった?」
芳香は曲がらない腕で俺を叩く。もう一回やってほしいのだろうか・・・。
「これが俺の能力だ。・・・まぁ、普段はこんなことしないがな」
「ジャイロ、お前すごいやつなんだなー!」
「芳香ちゃん!何やってるの!?」
食器を片付け終えた青娥は芳香のところへすぐに駆けつける。
「お、青娥帰ってきたー。ジャイロが、あ、ジャイロサンが腕を曲げてくれたー!」
芳香の語彙力の無さに青娥は首をかしげ、俺を見た。
「?・・・えっと、どういうことですか?」
「コイツ、腕が曲がらないから、俺の能力で曲げれるようにしてあげたってだけだ。まぁ、本当一瞬だったけどな」
「その能力すごいですね。回転・・・でしたよね?」
「・・・どうしてそれを?」
「食事中に思い出しまして。新聞で話は聞いております。色々な場所で異変を解決してますよね?」
「やっとわかってくれる人がいたか・・・」
「話題作りのために新聞を取っていたのですが、まさかここで役に立つとは思いませんでしたよ。」
俺は青娥の言葉に安心したと共に、何かを隠しているというのがわかった。
臭いにこの世界ではありえないハーブの臭いがした。
紅魔館は紅茶など、ハーブの臭いがしてもおかしくはない空間だった。
独断と偏見だが、ここではハーブティーよりも、食事風景を見た限りではお茶の方が良く飲まれているはずだ。
「何か俺に隠していることはないか?」
「隠し事ですか。ないですね。しいていえば、芳香ちゃんみたいに、死体で遊ぶことが好きってことくらいですかね?ふふふ」
青娥は奇妙な笑みを見せる。
「一つ聞いていいか?」
「なんですか?」
「おたくからただようハーブの臭いはなんだ?」
「私、ハーブティーが好きで、ちょっとリラックスしたいときに飲むんです。今度、作りましょうか?」
「・・・そうか。じゃ、今度飲ませてくれよ。ここに来るまでずっと異変と戦ってたからよォ~」
「わかりました。・・・あとで私の部屋に来てください。あ、部屋は離れにありますので。それでは失礼させていただきます」
「じゃ、後で行くからよ」
「ジャーナー!」
「おう!・・・しっかしよォ~。怪しすぎるよなー」
☆
「あなたのパートナー。なかなか鋭いですわね」
僕はずっと部屋の中で抵抗していた。
ときどき、飯を運んでくるが全て、手をつけずに残していた。
監禁するヤツの飯なんて食えるか。何が入っているかわからない。いたって、普通に見えるが毒が入っていてもおかしくない。
「あら、食べないんですか。せっかく、屠自古様が作ってくださるのに」
壁に何度も爪弾を撃ち込むが穴一つ開きそうにない。
「あなたの能力では、この結界に穴一つ開けられないでしょう」
「ッ!・・・何が目的だ」
「私のコレクションにすること・・・ですかね。キョンシーって知ってるかしら?」
「なんだそれは?」
「まぁ、なってみればわかるかもしれませんわね。そのためにはまず死なないと」
僕は目の前でハーブティーを飲む青娥に爪弾を向ける。
「あ、そういえば、ジョニィ様はハーブティーが好きなんですよね?ジャイロ様が仰ってましたけど」
「ジャイロ!?ジャイロが来てるのか!」
「えぇ。でも、彼もここに来るかもしれませんね」
「どういうことだ?」
「ジャイロ様と、お茶会をする約束をしましたから。たぶん、少ししたら来るでしょう」
コン、コン、コン。
誰かが扉をノックする音が聞こえる。
「おや、噂をしていれば・・・。」
「ジャイロ!ジャイロ!」
僕は足を引きずりながら、青娥の言う結界の壁を拳で叩く。
「無駄ですよ。私以外、その結界の中からの音は聞こえませんから・・・」
「ジャイロ、助けてくれ・・・」
☆
「はーい、今開けますよ」
離れの建物の扉から青娥が出てきた。
中からはジョニィの好きそうなハーブの良い臭いがする。
「約束通り来たぜ。・・・芳香はどこだ?」
「芳香ちゃんならきっと物部様のところじゃないかしら?この時間はいつも自由にしてますので」
「いや、死体と聞いたが、俺の鉄球を見ていたときの目がまるで子供みたいにキラキラしてたからよォ」
「そうですか。また夕食時になれば、芳香ちゃんも食べに行くと思いますので」
「お、そうか。とりあえずハーブティーを・・・と言いたいところだが。気になることがある」
「なんですか?」
「ジョニィを、返してもらえないか?」
青娥は俺の言葉に表情一つ変えていない。だが、確かにジョニィがいるという手がかりとその根拠だけは揃っていた。
「返すと言われても、ここにジョニィさんは」
「なら・・・オタクのその服についた穴はいったいなんだ?」
「穴?なんのことですか?」
肩の辺りに不自然な穴が開いている。
青娥はその穴を目だけでなく、触れて確かめる。
「触れると危ないぜェ~。なぜなら」
その穴が、ジョニィ・ジョースターなんだからヨォ
穴は肩から足へ、足から地面へと移動する。そして穴はしだいに広がり、広がった穴からジョニィが現れた。
「ふぅ、作戦成功かな?」
「ニョホ。久しぶりだなァ、ジョニィ。少し見ないうちに老けたんじゃあないか?」
ジョニィの顎には髭が見え、少し歳を取っているように見えた。
「ジャイロこそ、老けたどころかオジサン臭くなったんじゃあないか?」
「ニョホホ、言うねェ~」
目の前で起きたことに、青娥はおもわず表情を変えた。
自身の結界から出たということ。それは青娥のプライドを踏みにじる行為そのものだった。
だが、変えた先の表情。まだ何か策を隠し持っている。余裕じみた表情。あれが示すものとは・・・
「正直、驚きました。まさか、あの結界から異世界の人間が出れるなんて、それに背中についたお札が機能しないなんて・・・でも、まだ予想通りといえば、予想通り。まだ策は尽きたわけではありません。」
「じゃあ見せてみろよ、オタクの策ってもんをよォ。」
「わかりました・・・じゃあ、これなんてどうですか?」
青娥は手のひらを合わせ、何かを詠唱する。
「こ、これは!?」
「ジョニィ!」
突如、ジョニィが光始め、ジョニィの周りに見たことのない文字列が浮かび始める。
「ジャイローーーッ!」
そしてジョニィはその場からあとかたもなく消えてしまった。その場にジョニィのフードに付いていた羽だけが残る。
「ジョニィーーーーーーッ!」