以前に最初の襲撃でワムウ、次の襲撃でカーズに完全敗北したジャイロ。
今度はジャイロだけでなく、そこにシュトロハイムが入る。さらに、あの鬼も・・・
今度は勝利することはできるのか。
今回は少しだけ長いです。
夜の人里。
普段なら人や妖怪は明日のために休むものや、杯を交わすものがいる。
だが、地霊殿の妖怪と俺たちは違う。仗助は未だ戦うには無理がある状態だ。
「ジャイロさん。襲撃予定日は今夜です」
「もうこの人里に入ってきているみたいだ」
「ジャイロさん、何度も言いますが、吸血鬼は太陽の光に弱いです」
「それくらいはな、あと流水とニンニクか?」
今回の襲撃と言うが、この前の襲撃の記憶が無いためどこが違うとか、変わった場所はわからないが、ヤツはここに一人で乗り込んでくるようだ。
「来たぞ、ジャイロ!爆弾の用意はできたぜ!」
「待てよォ~、シュトロハイム!俺はよォ~、こんな真夜中に爆弾ブッ放すアンタの神経がわからねぇよ!」
「ハァ!?何を言っている!ここでヤツを倒さないとな!この人里の平和に!」
「平和とか言ってるヤツがこんな樽爆弾持ってくるかよ!」
シュトロハイムが仲間と共に持ってきたのは大きな樽爆弾。里の民家を何個吹き飛ばせば気が済む、というくらいの大きさだ。ただでさえ、この人里は何本かの川があり、建物が碁盤の目のように区切られている。
ここで通路より高さ2メートル越える大きさのものを爆発させたら・・・。
「ダメだ!却下だ。確かにここで迎え撃つよりかは、里の中で戦う方がいい。特に相手の武器からしてな」
さとりの情報によると、カーズの使う武器はチェーンソーのような回転する刃で、腕や脚などの体のあらゆる場所から生やし、相手を切り裂くというものだ。
そして、何よりもカーズ自身の身体能力が常人とは比にならないものだと言う。
正直、この鉄球でやりあうのはどうかと思う・・・。そして愛馬がいないため、さらに進化した回転技術を使うことは不可能だ。
「隊長!」
「どうした!」
「ヤツがもうそこまで来ています!今のところ、人里に被害はありません!」
「何ィィィ~~!ジャ、ジャイロ!悪いことは言わない!この我が研究機関が大急ぎで作り上げた爆弾で!ヤツを粉々にするべきだ!」
シュトロハイムが、人里へと続く下り坂に樽爆弾を持っていったとき、その樽爆弾は軽々と持ち上げられ、地面に置かれた。
「さとり!遅くなってすまない、ちょっと上に用があってな」
その特徴ある角と金髪、そして赤い盃。そこにいたのは仗助を即K.Oさせた鬼、星熊 勇儀だった。
「勇儀。」
「ここが襲撃されたと聞いてすっ飛んで来てみりゃ、なんだあの樽は。酒か?」
「あなたはいつもそう言いますね」
「そして、今もここにその犯人が来てると・・・。わかった。アタシも参戦しよう。ちょうど遊び足りないしね」
勇儀は拳を自分の手のひらに当てると目の色を変え、人里に飛び出した。
鬼の跳躍力はそこから、地霊殿のある少し高い場所から坂を降りてすぐ下にある建物の屋根に飛び移る。そして、その建物から降り、カーズのところまで走っていった。
「お、おい!シュトロハイム、追うぞ!」
「何ィ!?ここで迎え撃つのは、」
「やめだ!あの勇儀の行動を見て、何も思わねぇのか!」
「・・・クソッ!行くぞ!我が部隊も、彼らに続けェェェ!」
夜になると昼間とは違う活気が溢れるここ地底。太陽のないここで昼間という概念はどうかと思うが、今もなお、仕事をする者がいる。
そのため、辺りはぼんやりとだが、提灯の灯りで明るくなっている。
「やはり、太陽が無いのはいい。最終的にはそれを克服するのが目的だが・・・。キサマにわかるかァ~?女よ」
「アンタにはわからないか。たまには太陽の光を浴びたくなる気持ちが」
「その角からして同種かと思ったが・・・よく考えたら、そんなわけはないな。名を何と言う?」
「アタシは星熊 勇儀。アンタの名前は知っている。カーズって言うだろ?前に聞いたからな」
「覚えていたか。覚えていたぞ、前はよくも、エシディシとワムウをやったな」
カーズは腕から刃を生やす。刃が回る音が二人を興奮させる。二人とも、いつでも戦う準備はできている。
カーズがコインを天に向かって弾く。
「このコインが落ちたとき、戦闘は始まる」
「来いよ!アンタの野望、また打ち砕いてやるよ!」
「鬼よ。あのときの屈辱、晴らしてくれよう!」
コインが宙に上がってから数秒間、沈黙が続く。俺たちはそのコインが見えるところまで来ていた。
そして・・・コインは落ちた。
「今、何が起きたんだ・・・俺には全く見えなかったぞ」
シュトロハイムの言うとおり、俺にもわからなかった。
その一瞬でカーズの刃は折れ、近くの店の柱に刺さる。
勇儀の拳からは血が流れ、カーズはその場で高笑いを始めた。
「やはり鬼よ。我が刃は折れたが、その拳では二度の襲撃は守れんみたいだな。酒でも飲み過ぎたかァ?」
「アンタ、鈍いねぇ。アタシにはもう一本腕がある。それにこの程度かすり傷だよ」
勇儀の傷は明らかにかすり傷という度合いではなかった。
傷はパックリと開き、骨が見えている。それに比べ、カーズは刃を失ったことに何も痛みを感じていない。
「アイツは元はといえば吸血鬼と同じッ!ヤツの刃は折られてもその治癒力で回復するッ!」
「吸血鬼?我が種族はそれ以上の存在だ!」
俺は攻撃に出た。勇儀があの状態じゃあ次の攻撃でもう片方の腕も使えなくなる!
「ほぅ、人間よ。無謀にも向かってくるか!」
「ジャイロッ!危険だ!ヤツに負けたことを覚えてないのか!」
「今は関係ねぇッ!それよりもこの回転をこいつに!」
「その回転は前の戦闘で覚えている!無謀だ!」
カーズは俺が投げたモノを刃で切り裂く。
「な、これは!?」
「俺が毎回毎回、鉄球を投げると思うか?」
俺が投げたものは地霊殿に置いてあった、防犯用の蛍光カラーボール。なぜ置いてあるのかわからないが、さとりの部屋から取ってきた物だ。
「グガガガ!な、何だ!この強烈な臭いは!」
「やはり聞いていた通り、テメェは他よりも身体能力が優れているみたいだなァ。その臭い、どんな感じだァ?話ではチーズの腐りきった臭いと聞いたが」
「・・・」
臭いのあまり話せなくなる。そしてカーズはその場から一歩も動かず、その体勢を変えることはなかった。
「今だ、やれ!ジャイロ!」
「うおぉぉりゃぁッ!」
俺は鉄球を投げる。だが、その体勢は一気に解き放たれた。視覚と嗅覚をやられたはずのカーズはそこから一気に俺の方へ走ってきた。
「だから言っただろう。無謀だと・・・」
俺はその攻撃に対処できなかった。その一瞬で俺の左腕はその場に落ちた。
俺はその痛みに叫号した。俺の血が地面を濡らす。
「そうだ!もっと叫べ!どうだ?まだ戦うのかァ?」
「ジャイロ・・・。おい!誰か!ひ、東方 仗助を呼んでこい!叩き起こしてでもいいッ!早くだ!」
「ま、待て・・・」
俺は痛みに耐え、何とか立ち上がる。
「すまない、仗助。約束を破って・・・」
「何を言っている!ジャイロ、このままでは!」
「俺にだって・・・スタンドは・・・いるんだぜ。頼むぞ、オリジン。俺を治・・・すんじゃねぇ。勇儀を治せ!」
右手に握った鉄球を回す。
「おい!ジャイロ!どうして、お前自身を治そうとしない!その力は仗助と同じ、治癒ではないのかッ!?」
「俺は・・・今、あいつとまともに戦えるヤツは勇儀しかいないと思った・・・だけだ」
『キュイ!』
オリジンは勇儀のところにいくと、痛々しい傷痕から体の中へ入っていく。しだいに傷痕は完全に消え、俺の方にオリジンは戻ってきた。
「頼む、勇儀。・・・地霊殿の平和は」
「何言ってんスか!ジャイロさん!」
その声は気絶しかけた俺の耳のなかで何度も響く。俺のところに近づいてきたそれは俺の左肩を殴る。すると、黄金の光に包まれた左腕が俺のところに飛んできて、俺の肩にはまった。
「アンタこそ、この地底を守るべきだ!」
さっきまで地霊殿の部屋のベッドに寝ていたはずの男がそこに立っていた。
「仗・・・助・・・。お前、もう頭は・・・」
「ジャイロさんのオリジンっスよ。オリジンが治してくれた、だから俺は今、ここにいる!」
そのとき、俺は思い出した。傷だらけのなか、俺は体力限界、気絶する間近のところで仗助にオリジンを使い、スタンドを使うことになれていないために倒れてしまったことを。
「ジャイロさん!まだ戦える!アンタなら、カーズを倒せる!」
「・・・おうよ!お前も戦うぞ!」
俺の左腕だけでなく、俺の投げた鉄球を完全に治した仗助はそのスタンドをしまうことなく、カーズに攻撃する。
「この流法にそれで立ち向かうか!」
だが、カーズの刃は仗助のスタンドの腕の間接部分から切り落とす。
「ぐあぁぁぁぁぁッ!」
「仗助ッ!」
俺はオリジンで仗助の腕を治す。
「ほぅ。俺達のように傷を治し復活する・・・面白い」
こうでもしないとヤツを倒すことはできない。
シュトロハイムは役立たずだし、勇儀は傷を治したはずなのに、俺らの行動を見てからはずっとその場で止まっている。
「さぁ、その能力が使えなくなるまで、お前たちに地獄を見せてやろう。このカーズに戦いを挑んだことを後悔するがいい!」
カーズは異様なポーズを取った後、まばたきの間にその場から消える。
気づいたときには、俺らの上にヤツはいた。
「これが、輝彩滑刀の流法!」
俺らがその攻撃に対処できずに、ただ驚くことしかできないなか、一人だけは違う行動をとった。
「カーズよ、その攻撃は俺が覚えている!」
俺らの上にいたのはシュトロハイムだった。
シュトロハイムはなぜか、その刃を指先でつまんでいた。
「何ィッ!キサマ、まさか・・・」
「そのまさかだ!」
シュトロハイムは腕を後ろにまわす。着ていたジャケットの腹部を貫通して何かが顔を出した。
「このシュトロハイムが!ドイツ軍人のすばらしさを忘れるとは!カーズよ!見ろ!」
それは機関砲だった。
「これがナチスの科学力よ!ブァカ者がァアアアアア!」
シュトロハイムはカーズが俺たちから距離を取った瞬間に、機関砲をブッ放した。
大量の砲弾が飛び、砲声が地底に響き渡る。
カーズは刃で何発かを切ったが、そのスピードと力に敵わないのか、何十発もの砲弾を喰らって近くの川に落ちた。
「今の俺の体は!我がゲルマン民族の最高知能の結晶でありィ!誇りであるゥゥゥ!」
「や、やるじゃねぇの、シュトロハイム!」
「お前たちがそんな傷ついてるなか、このシュトロハイムが後ろで指をしゃぶって見ているなんてことはないィ!」
心のなかでシュトロハイムのことを役立たずと言ったのはあやまる。だが、その機関砲は気持ち悪いな。まさか、シュトロハイムは機械なのか?
「はぁ・・・はぁ・・・この、人間、いや、機械がッ!」
「お前は、少し人間のことをバカにしてたみたいだな。・・・どうした、あのときは飛んでくる虫を叩き落とすくらいに楽に機関砲の弾を切り裂いてくれたよなァ」
「油断をしていた・・・。それにお前が機械だということを忘れていた」
「人間以上の身体能力を持つお前ら柱の男が、忘れていたと。実に滑稽だな」
この野郎、どこまで煽れば気が済むんだ。だが、確かに今のでダメージはあるはずだ。あんな銃弾の雨をくらって生きてるのはさすがに化け物だが、化け物でもダメージは・・・
「なら、覚えているか?お前はあのとき・・・」
身体をこの刃で切られている。
「な、まさか・・・今ので」
カーズにダメージはなかった!あの動き、むしろ今ので本気になりやがった。
「シュトロハイムッ!」
シュトロハイムは上下で真っ二つになると、そのまま崩れ落ちた。
「さぁ・・・今度こそ壊してくれる!」
「カーズ・・・覚えているか?」
「!?・・・まさか!」
「紫外線照射装置作動!」
カーズはすぐに身を引くが、そのときにはもう手遅れだった。シュトロハイムの右眼から放たれた光線は、カーズの右手のひらに穴を開けた。
「ぐ、まさか、それが、まだ使えるとは・・・」
紫外線・・・まさか!
「この世界の日光はあの世界のものとは反対に気持ちいいくらいだ」
「何度も言いますが、吸血鬼は太陽の光に弱いです」
「やはり、太陽が無いのはいい。」
これまでの会話で俺はあることを理解した。
俺にできるがわからないが、やってみる価値はあるな。
「どうしたんスか?ジャイロさん」
「ちょっと・・・太陽でも作ってくるわ。」
ジャイロさんの言ったことはとても奇妙だった。そう言ったあとのジャイロさんはさっきまでの辛い表情とは違い、余裕の表情を見せていた。
そしてジャイロさんは鉄球を握りしめると、シュトロハイムやカーズのいる方向とは違う方向へと走っていった。