進路のことで忙しくなった駿我は、小説を書く合間もなく、時間が加速していった。
そして、「一週間に一話は必ず投稿する」という目標もメイドインヘブンの時加速の前では無理な話であった。
これからは(たぶん)その目標を達成するよう、努力します!
「ちょっと待って!今小さくたぶんてつけたさなかった?・・・たぶんッ!?」
あれから数時間が経った。
ナズーリンは星によって、彼女の部屋に運ばれた。
彼女の主人と思われる星は、彼女のそばに座り、ずっと名前を呼んでいた。
僕はただ、雨の止んだ空を見ているしかなかった。
空にはウェザーが残したと思われるキレイな虹が架かっていた。
「キレイですね」
「あ、聖・・・さん」
縁側で座る僕のところに聖がやってきた。
「・・・やっぱり、あの子は」
「私が悪いのです」
聖はそう言う。・・・フォローはできない。確かに事の初めを言えば、あれだけの力を持っていたのにも関わらず、彼らの侵入をその優しさ故に許可し、さらには部下にケガを負わせてしまった。
「少し前に永遠亭の方を呼びました。豪雨の後ですし、地面もぬかるんでいますので、あまり早くここまではこれないと思いますが。・・・きっと助かりますよね?」
僕はその言葉に返事をすることはできなかった。
その返事一つで彼女の心情を暗くしてしまうかもしれない。そう考えたからだ。
本当はただ、返事をすることが怖いだけだが・・・
ナズのそのデキモノは大きくなっていた。
そして、
「あれ?何か顔っぽくない?」
人の顔のようにも見える凹凸ができていた。
最初に気づいたのは村沙だった。
「ここが目で、ここが口で・・・ここが鼻か?」
「な、何か不気味じゃないですか」
「そして、腕が生えて」
「やめてください!」
星はナズにこれ以上、心配をかけさせないために村沙の口を塞ぐ。
「・・・それにしても本当に不気味ですね、それ」
一輪はそれを見てそれしか言わなかった。というのも、さっきから口を塞がれっぱなしで、ほとんど呼吸をしていない村沙のようになりたくないからだろう。
「ぶぇ・・・ひぬ」
「あ、ごめん」
ようやく呼吸することを許可された村沙はすぐに深呼吸し、息を落ち着かせる。
そして少し時間が経ち、聖が部屋に入ってきた。
どうやら、人里の方から客が来ていたらしい。
「ごめんなさい、客が来てね・・・。焼けた肌の女性で、用があったみたいだけど、日を改めさせてもらったわ。それで・・・ナズの方は?」
「今だ変わらず・・・むしろ悪化しています」
「そうですか・・・早く永遠亭の方が来てくれるといいのですが」
「皆さんはもう修行を始めていいですよ」
ナズの方から聞いたことのない声で、聖達、命蓮寺の仲間にそう言った。
「い、今のって、ナズが?」
「ま、まさかそんなわけ・・・」
星はナズの腹にできたデキモノを見るために、ナズの服を捲った。
すると、その捲る手の指を何かが噛んだ。
「ッ!何ッ!」
星はすぐに手を離す。
「チッ!噛みきることはできなかったか」
そのデキモノはパクパクと口を開閉する。それは言葉を発しているようにも見えた。
いや、見えたではない、しているのだ。
「アタイの名はエンプレス。女皇帝の暗示」
「う、うぅ・・・」
ナズの顔色がいっそう悪くなる。それもそうだ。自分の腹にできた物がしゃべっている。そんなこと気持ち悪くなるに決まっている。
「ナズ!」
「アタイはこのナズとかいう少女の肉だ!アタイを殺すことはつまり、この子を殺すことにもなる!チュミミー!」
「ッ!卑怯な」
「卑怯?これがアタイの戦い方さ。さぁ、どうする?この子を殺してまでもアタイを倒すか、アタイをこのままこの子に寄生させるか」
「タスク!」
僕は躊躇なく、それに爪弾を撃ち込んだ。ナズの体ギリギリを撃ち抜くことが狙いだった。少しでも爪弾が当たれば、そこに傷ができてしまう。
「ジョニィさんッ!」
「チュミ!そこまで言ってもなお、アタイを殺すなんて・・・」
デキモノの言った言葉は嘘のようだ。
それを倒しても、何も起こらない。むしろ、ナズの腹の上で散らばった肉片は消えていく一方だ。
「ジョニィさん!何てことをしてるんですか!?もしも、ヤツの言葉が本当なら・・・ナズは」
「すまない。だが、僕もそんな状況下でなぜ爪弾を撃ったのかわからないんだ。まるで衝動的にというか、何と言うか・・・」
「・・・」
静寂が包み込む。
僕はタスクを左手にしまう。
「あ、ありがとうございます」
それを壊したのは寝ていたナズだった。ナズの顔色はすっかり元通りになり、ひょいッと布団から立ち上がった。
「ナズ!・・・もう大丈夫ですか?」
「お陰さまでもう平気ですよ。・・・少し手荒いとは思いますけど、終わりよければ全て良しですよ」
星は立ち上がったナズに抱きつく。
星が我慢していた涙は一気に溢れだした。
「ちょ、強いですよ、少し弱めてくださいって」
こうして、命蓮寺での事件は幕を閉じた。
しかし、ジョニィへの刺客は、まだ終わりそうになかった。
☆
ワムウ戦の後、俺はそのまま守矢神社で行われた宴会に参加した。
霊夢や魔理沙もそこに来て、早苗達と盃を交わすなか、俺とシーザーは境内から少し離れた場所で、自らの能力を披露していた。
自慢と言った方が早いか?
「おたくはよぉ、鉄球でワインのビンのコルクをぶっ飛ばすことはできるかぁ?」
「なら、お前は、コップをひっくり返して、中の液体を溢さないことはできるか?」
俺は手のひらの上で鉄球を回転させる。
シーザーは自らの周りにシャボン玉を浮かせる。
「男って、何でこうも子供なのかな~」
「諏訪子~。言っていいことと悪いことがあるんだ~。こんなときは、こう言うんだ。ねぇ、あんちゃん。私と腕相撲しない?」
こちらを挑発する二人の女。
一人は紫色の髪に赤い服、そして背中にはしめ縄という、東洋の寺や神社に存在する縄を円にして背負っている。
もう一人は酒を飲むには、見た感じ年の足りない少女で、頭にカエルのような帽子をかぶっている。
「それじゃあこうするかぁ。この女に何秒で勝つことができるかーッていうので競おうぜぇ」
「望むところだ」
「へぇ、面白いこと言うじゃねぇか。それじゃあ、ちょっと来な」
宴会場の真ん中にセットされた椅子と机。
ドシッとかまえ、椅子に座った女は右腕をを机の上に置く。
「私は八坂 神奈子。この神社に住む神だ。自分で言うのもなんだが、そこらの妖怪とは桁外れの能力を持っている・・・それでも戦うのか?」
「ニョホ♪。そんなこと言っても、俺はひるまねぇぜぇ。だよな?シーザー」
「あぁ、所詮は女だ。少し力を出せば勝てるに決まっている」
シーザーはそのまま一直線に、椅子へ向かうと、神奈子のようにドシッとかまえ、椅子に座った。
両者、右手を握ると、ギュッと力を入れる。
「審判は早苗頼むよ。スタートの合図だけ言ってくれ」
早苗は観客として楽しもうとしていたのだが、神奈子の声にセットへ上がる。
「あやや、これは面白いネタが貰えますかねぇ」
射命丸も来ていた。もちろん、この宴会のためではなく、新聞のネタのためだ。
「さぁ、始めますよ」
二人の目の色が変わる。
その威圧感から空気がドスンと重くなる。
「それでは・・・始め!」
早苗の掛け声と共に手を離した途端、シーザーが倒された。
一瞬だった。
シーザーの手の甲はテーブルに勢いよく突っ込むと、それがテーブルに触れると共に、シーザーは空中へ飛んだ。
「さすが、神奈子様!・・・やっぱり人間ではかなわないのか」
「ッ!・・・波紋じゃどうにもならないのか。彼女は危険だ。あの力は並みの人間では」
「ほぉ・・・並みね・・・」
そのときのシーザーは諦めの表情だった。
どうせ、こいつも負けてしまうんだ・・・と顔が言っていた。
「俺は並みの人間じゃないぜ。おたくのような波紋とは違うってことを教えてやる」
俺は回転させた鉄球を腕の裏に隠させた。その鉄球は俺の筋肉を刺激し、通常の数十倍の力を出せるようにする、言わば『ドーピング』のようなものだった。
「その球体がどんな力を発しているのかわからないけど、始めようじゃないか」
ドシンとかまえた神奈子の手を握る。その瞬間、彼女の溢れる闘志と力を感じた。
だが、怯むことなく、早苗に
「早く頼むぜ」
と、言った。
早苗は俺らの合わさった手の上に手を置くと、シーザーのときと同じく、合図をして、その手を離した。
そのときの結果は、
明白に俺の脳に刻み付けられた。