ジャイロは酔いつぶれた妖夢を白玉楼に送る。すると、そこにはあらたなる敵が待っていた。
そしてジョニィは永遠亭でプッチと会っていた。
白玉楼って打ち込むとき、「はくぎょく」よりも「しらたま」と打ち込んだ方が早かった。
俺の横を過ぎたそれは壁を貫くと、轟音と共に、畳をえぐり外へと出ていった。
俺は鉄球を握ると、静かにそれの動きを集中し見ていた。
やがてそれは庭の一点に止まると、本当の姿を現した。
紫色の頭に黄色の目。白い牙を剥き出したそれの口からはそいつの足らしきものが出され、さらにそこから人間までもが姿を現した。
「お前が、DIO様を殺したやつだな?」
「またあの吸血鬼関連か・・・お前は何者だ!」
男は首をコキッと鳴らすと、
「我が名はヴァニラ・アイス」
と名乗り、アイツのスタンドの口の中に入った。
「次こそはお前を暗黒空間にバラまいてやる」
男はアイツのスタンドと共に目の前から消えると、俺の方に突っ込んできた。
俺は鉄球をしまうと、この石畳のそこらじゅうに落ちている小石を拾ってヴァニラに向かって投げた。
ガオン!
その小石は一瞬で消えた。いや、消された。
もしも鉄球を投げていたら、あの小石同様に、二度と帰ってこなかっただろう。
「妖夢!起きろ!妖夢!」
俺は寝ている妖夢を無理矢理でも起こさなければならない。もしもこいつも一緒に消えてしまったならば、誰がこの男とスタンドのことを話すのか。
そしてこいつが消えてしまったなら、この屋敷の主、幽々子に見せる顔がない。
アイツの動いたところは砂ぼこりが舞うため、そのスタンドの形が見えるが、アイツがあの空間内にいる限り、俺たちはダメージを与えることはできない。
アイツが出てきたところを狙うしかないのか。そもそも、あの空間内にいることで無敵な状態が保たれるのなら、出る意味はないんじゃないのか?
もしも俺らの動きがわからなくても、むやみやたらに攻撃すればいつかは俺らを殺すことも容易いはずだ。
ガオン!ガオン!ガオン!
・・・そしてさっきからうるさい。俺の心の声をを読まれたか?
「う・・・朝ですか?」
爆睡していた妖夢が起きるくらいの轟音だ。姿を隠しきれていないと言うべきだ。
「ようやく起きたか。侵入者だ」
「侵入者ッ!?・・・どこですか!?」
妖夢は俺の背中から跳び降りると、自身の背中の鞘から刀を抜こうとするが、妖夢の装備していた刀はここにはない。
「あ、あれ?刀は?」
「・・・それが、あの部屋のテーブルの上に置いたままなんだよな」
「え?」
それに気づいたときにはもう遅く、その刀はヴァニラの攻撃範囲内へと入っていた。そして、
ガオン!
その刀の刃の部分は粉微塵になって消えてしまった。
「あ、あぁ。わ、私の、刀が・・・」
「・・・すまない」
妖夢は膝から崩れ落ちて泣き始めてしまった。
刀がとても大事はものだというのはわかっていた。
プッチによって気持ち悪い形へ変えられても、それをずっと見て、これ治るのかなと考えていたのはすぐにわかった。
「今は刀より命だ。アイツから逃げることを」
「逃げる?何を言ってるんですか!私にはあともう一本あります!今消えたのは楼観剣!私にはまだ白楼剣が残ってます!」
妖夢は畳の上を走ると、間一髪で助かった白楼剣を手に取り、次のヴァニラの攻撃を避けた。
「アイツ、女のクセにジョニィより度胸あるんじゃねぇか?」
さすがに言い過ぎな気もするが、ジョニィもジョニィだ。会ったときよりは大分マシになったがな。
そしてヴァニラが周りを確認するために姿を現した次の瞬間、
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
「な、何だと!?」
妖夢は目の前に現れたヴァニラをその刀で切った。
「ディ、DIO様ぁぁぁぁッ!」
真っ二つに切れたヴァニラは大声で叫びながら、金色の光になって消えてしまった。
「斬れるものなど、あんまりない・・・」
妖夢は刀を鞘にしまうと、その光が天へ向かうのをじっと見ていた。
そのときの妖夢の後ろ姿はまるで、物語に出てくる伝説の勇者のような立ち姿だった。
白玉楼の壁や床や天井にはポッカリと穴が開き、それのせいで妖夢が幽々子に怒られるのはまた別の話で。
☆
その男からはこれまでの敵とは違うオーラが滲み出ていた。
余裕げな表情は僕と優曇華を震えさせた。
「あなたは何者ですか?妖夢はいないのですか?」
妖夢?優曇華の友達なのだろうか。
「彼女なら今日はいません。私はボディーガードとして、幽々子様についてきました」
「僕からも一つ聞きたい」
僕は足を引きずりながら、ボディーガードの男に近寄る。僕は一つ聞きたいことがあったのだ。
「アンタから溢れる、その殺気はなんだ?」
「殺気?・・・君は何を言っているのかね?」
男は僕の質問を軽くあしらうとまるで、瞬間移動でもするかのように、ピンク色の髪をした彼女の後を追った。
「それでは失礼するよ」
数分後、
「・・・どういうことですか?」
僕はあの男のことが気になっていた。いくら、ボディーガードと言えど、彼から滲み出続ける『殺気』は怪しい。
そのため、僕は優曇華と共に男の後を追った。あの瞬間移動のことも気になる。
「あの男から溢れる殺気・・・まさしく、何かこの後起こるはずだ」
「確かあの人は本当のボディーガードですよ。妖夢も言ってましたし」
「・・・そう言えばその妖夢って誰なんだ?」
「妖夢は私の友達で、あの桜髪の女の人が住んでいる白玉楼の庭師です。それで前に薬を売りに行ったとき、あの男の人のことを聞いたんです」
「へぇー」
僕は優曇華と話ながら次の角を曲がる。すると、すぐそこにやつが立っていた。
「うぉッ!?」
「また会いましたね。」
男は軽く会釈をすると、優曇華の方を見た。
「トイレに行きたいのですが。ここのトイレはどこにありますか?」
「え、あ、えっと、すぐそこを左に曲がったところにあります」
「ありがとう」
男が横を通り過ぎただけでも鳥肌が立つ。
僕は気づくと、男に指を向けていた。
「直感を頼りに・・・」
「待ってくださいッ!」
「タスクッ!」
爪弾は僕の指から放たれると、男へ一直線に飛んでいく。
だが次の瞬間、男の影から現れたスタンドによって弾かれてしまった。
「君がさっきから私を警戒しているのは、会ってすぐにわかったよ。」
次の瞬間、男は僕の前に現れて、自らの足で僕を庭の方へ蹴り飛ばした。
「ジョニィさん!」
「ジョニィ・・・か。私の名はエンリコ・プッチ。よろしく」
男のスタンドは僕の胸ぐらを掴み持ち上げると、近くにあった池に投げ捨てた。
「私は幽々子様にあって、罪を償った。人を殺すことを二度としないと決めた。・・・喧嘩を売られない限りはね」
男はスタンドをしまうとトイレへと歩っていった。 僕はそれをただ見るしかなかった。
「大丈夫ですか!ジョニィさん!」
「うぅ・・・クソッ!」
僕は水面を思いっきり叩いた。
不意打ちをしたのにもかかわらず、相手に気づかれ、そして攻撃をされた。・・・完敗だ。
何よりも、爪弾をあんな軽々と弾かれたことに敗北感を与えられた。
「うおぉぉぉぉッ!!」
僕は彼に向かって爪弾を十発撃ち込んだ。
「・・・まだやるのか」
「落ち着いてください!ジョニィさん!」
僕は優曇華によって止められた。
爪弾はまた、男のスタンドによって弾かれ、屋敷の壁や障子や庭の岩を破壊した。
「・・・ふっ。」
男はこっちをチラっと見て鼻で笑うと、トイレへと入っていった。
「ッ!」
「これ以上、やめてください!彼は悪者じゃないです!」
「・・・すまない。・・・冷静じゃなかった」
僕は優曇華によって、池から引っ張り出され、ビショビショの身体を太陽に見せながら、永遠亭の中へと入っていった。
「・・・あの爪弾とかいう弾。なかなかの威力だった」
プッチはトイレの中で、自らの手の甲を見た。
手の甲には擦り傷や切り傷があり、そこからは血が出ていた。
プッチはトイレでその傷を洗い、ハンカチで拭く。そのときに、スタンドのメイド・イン・ヘブンの能力が発動し、傷は回復していた。
「この能力、傷を回復することも可能だ。・・・しかし、彼は復活するDIO様の敵になりそうだ。始末しなければならないか」
プッチはトイレに用など無かった。
入り口であった男、ジョニィの反応を見るためだけに幽々子から離れたのだ。
その理由は彼もまた、ジョニィのことが気になっていたからである。
「君もまた、オーラを消すのは苦手なようだ。黒いオーラをね」