まず、完全体白蛇をどうやって攻略するのか。そこからだな。
―私は悩んでいた。
紫さんからの依頼は、ジョニィの心を強くすること。そんなんなら命蓮寺にでも頼んで座禅でもさせればいいじゃないか。
私には無理だ。確かに人の心を読むことで、トラウマを再生し、精神的なダメージを与えることが可能だ。
しかし、そんなんでいいのだろうか。
ジョニィはこのあと、どんどん成長し、最後の方には最初にあったあの悪役感は完全に消える。
彼の出てくるSBRを読んでいる私からすると、幻想郷に来なくても、ジョニィは成長できるのだ。
むしろ、私はジョニィに「ジャイロが使っている鉄球は楕円球になってしまうため、大頭領と戦うときはまず、それを報告しよう」と言えば、万事解決・・・のはずだ。
私は読書家である。特にジョジョは最初から見ていて、何度も今出ている巻まで読破している。
本はこの書斎にないが、図書館に全て置かれている。
図書館の扉は硬く封鎖されていて、私の声でしか開かない、そんな仕組みになっている。
ちなみに、合い言葉は・・・こんなところで言っても意味ないか。
私が考えていると、ジョニィから書斎に現れた。
「お前は、何を知っているんだ?」
すぐさまジョニィの心を読む。・・・考えていることはそのままか。
「あなたのことは紫さんから聞いているわ」
「それにしてはやけに知りすぎじゃあないか?」
また心を読む。
『お前はその心を読む能力で、俺の心を探って俺の情報を収集しているのだろう?』
なんてことを言っている。まぁ半分正解ってところね。
「あなたが、心のなかで考えていることで半分正解ね」
ジョニィはその発言に表情を変えた。怒っているのか、顔が少し強ばっている。
怒る場面なんてあったかな?
「あなたは、あの世界に戻ってある人間と死闘する、そしてそこで大切なものを失うわ」
「何を言っているんだ・・・」
ジョニィは震えている。心のなかで色々な感情が交差するのがすぐに読めた。
『彼女の言う、大切なものとは何だ?まさか・・・』
「もう就寝時間だわ。明日から仕事をしてもらうことになるから、もう寝てください」
ジョニィが真実にあと一歩で届きそうになったとき、私は彼を部屋から出す。
これ以上、彼が真実を知ってほしくないから。
ただ忠告はした。私ができる『精一杯』なのだから。
☆
重たい扉がしまる。
さとりの最後に言ったこと。あれは僕の肝っ玉を冷やした。怖い話をいいところで止められたくらいに、オチが見れないホラー小説のような気分だ。どこか怖いことを想像してしまう。
彼女に未来を見る能力でもあるのだろうか。やけに、自信ありげだった。
まるで、『僕』という人生の先を知っている、それくらいの態度だった。
心を読む能力が未来をも読むことができるなんてことはない・・・だろう。
ただ、その彼女のいう大切なものが、『ジャイロ』でないことを願う。ただ、願うだけだ。
「どうしたの?ジョニィさん?こんなところに」
右耳に声が入ってくる。右にはお空が立っていた。お空は左手に本を持っている。
「そうだ!あのね、この本を読んでほしいんだ」
「本?」
渡された本は子供の読むような絵本だった。
カラフルな絵の中にいる一人の女の子が特徴的な表紙だった。
名前は・・・何だ?
新聞を見たときも少し苦戦したが、どうやらこの世界の人間の描いたものは異世界からきた人間には読めないらしい。
そのせいか、字がぼやけて見える。簡単な平仮名さえも読めない。
「どうやら、この世界の人間にしか読めないみたいだ。あのなんだっけ・・・お燐に読んでもらえば」
お空は僕の言葉に首を横に振る。
「お燐は友達と飲みにいった」
さとりからすると、夜くらいは休みをあげようという心なのだろう。
お空はお辞儀をすると、暗い館の奥へ消えていった。
その後ろ姿はどこか悲しく見えた。
「お空はここ最近まで仕事詰めで私たちくらいしか会話する相手がいなかったの」
さとりが部屋から出てきて、一言囁く。
「この館は元々灼熱地獄だった場所に建ってるの。そしてお空にはこの館の下にある、炎の火力調整をしてもらってるの。時には全くそこから出れないときもあるわ。だから、外に出たときはあーやって、本を読んでとか、遊ぼうとか言ってくるの」
僕はそれを聞き、車イスでお空のところへ行こうとするが、さとりがハンドルを握りしめ、車イスを止めた。
「あなたが言っても、何も生まれない。むしろ、お空を怒らせるだけね」
「確かに本を読むことはできないし、まともに遊ぶことも不可能だが、話を聞いてあげるくらいなら僕でもできるはずだ!」
さとりはそれを聞くと、静かにハンドルから手を離した。
「・・・どうなっても、知らないわ」
そしてさとりは部屋に戻っていった。
「お空?入っていいか?」
僕はお空の部屋の扉をノックする。小さな声で「いいよ」と聞こえた。
部屋には人形や絵本が床に置かれていて、壁はこの館に使われているような静かなものではなく、ポップなかわいい模様が一面に描かれていた。
そして、お空はその部屋の端の方に置かれたベッドの上に寝ていた。
「その・・・何か僕にできることはないかな?気を使わなくていい。何でも言ってくれ!」
お空は起き上がると、車イスから僕を無理矢理降ろした。
そして僕を抱き締めた。彼女の体温は普通の人間のものとは格段に違うもので、まるで熱湯でもかけられてるような、今にも火傷しそうなくらいだった。
「少しの間、こうしてていい?」
僕にはわかった。彼女の涙が。
☆
馬はさらに加速する。・・・というより、周りの世界が加速しているように感じた。
周りの景色は何周も四季を繰り返し、葉は紅葉したあと、枯れて、また新たな花を咲かせる。そしてまた・・・と何度も繰り返している。
「これは・・・新たな異変ッ!」
「おいおい、ヤバイんじゃないか?」
俺は枯れて倒れてきた木を、鉄球で砕き、道を作る。
鉄球にかかる回転もまた、加速しているのか、いつもと威力が桁違いに跳ね上がっている。
「おい!何だあれは!」
枯れた木の枝の先から見えた不穏な雰囲気を漂わせる一つの屋敷。
さらにその周りは時がさらに速くなっている。
四季の変わりも普通の十倍以上の速さで変わっていく。
「ッ!?」
馬は足を止める。どうやら、疲れてしまったようだ。
階段前で息を切らし、倒れてしまう。
「馬はこれ以上走らすことはできない・・・。ありがとうな、ここまで連れてきてくれて」
馬の首元を撫でると、階段を一段また一段と登る。
「優曇華。この先にその妖夢ってのがいるのか?」
「えぇ。でも・・・」
優曇華は拳を握る。
この目の前に広がる暗い空を見ると、その妖夢は死んでいるかもしれない。そう考えてしまっても仕方ない。
「助けにいくぞ」
俺は両手に鉄球を握る。今ある鉄球はこの二つのみ・・・正直、勝てる気がしないが、戦うしかない。
優曇華の親友のためにも、俺があの世界に帰るためにも・・・。
階段を登り終え、重たい扉を蹴り開ける。
広い庭園の先、白髪の少女が刀をかまえている。頭や腕からは血を流し、刀は先の方が変な形になっていた。
正直、戦うことができるというだけですごいことだ。
「妖夢ッ!」
優曇華は妖夢の姿を見て、妖夢の名を呼ぶ。
妖夢は「こっちに来るな」という視線を向け、首を横にふる。
それは優曇華だけでなく、俺にも言っているようだ。
「どこを見ている?」
妖夢の前に立つ、人型のスタンドを出す男は妖夢を後ろの屋敷まで蹴り飛ばす。
そして脅威の速さで近づくと、左拳を振りかざす。
妖夢は畳をゴロゴロと転がって、その拳を避ける。
畳は裏表反対になり、妖夢を上に突き飛ばし、天井に叩きつける。
「彼女もまた、天国に行ける存在だ。ありがたく思ってくれ」
男のスタンドが右手を彼女の頭の上に置いた瞬間、俺は危ないと思い、鉄球をスタンドの右手目掛けて投げる。
鉄球はスタンドの手の甲を砕き、俺の手のひらに戻ってくる。そして男は手の甲から血を流す。
「これが彼を倒した鉄球か・・・」
プッチはそう言い、俺の方を睨んだ。
それは狙いが変わった瞬間にだった・・・