約束の日曜日がやってきてしまった。
いや、いつもならプリティでキュアキュアできるしゴロゴロしてても怒られないからいいんだけど、いかんせん今日は用事がある。めんどくせぇな……と思いながら下へ降りると、妹の小町が朝食の準備をしていた。
「あ、お兄ちゃん。おはよー」
「おう」
簡単に挨拶を交わしてから席に着く。
プリキュアを見ながらもそもそとトーストを頬張る。うむ、やはりプリキュアはいいな。
そうこうしながら30分。アニメは終わり、朝食も終わった。
まだ間に合うとは思うが、待ち合わせ場所にはなるべく早くついておきたい。べ、別に楽しみってわけじゃ無いんだからね!?ただ単に他人に迷惑を掛けないという習性からくるものだ。
少しだらけてから着替えを始める。
「お兄ちゃーん! 今から小町とお出掛けに……およ?」
着替えていたら小町が乱入してきた。何それ、乱入とか何処のモンスターだよ。確かに可愛さはモンスター級ではあるが。
「どっか行くの? 珍しいね、いっつも家からでないのに」
さらりと酷いことを言ってくれる。
「いやお前、考えてもみろよ。家からでて何があるんだ? 暑さに車に中学時代のクラスメイトとかそんなもんだろ? そんな危険な所に好き好んで足を運ぶ必要があんだよ。家にいる方がずっと安全だろ」
「中学のクラスメイトを危険物扱いしてるのはいつものことだからいいんだけど……じゃあお兄ちゃん何処行くの?」
「ちょっと遊園地に……あ」
しまった。と考えるには少々遅かったようで、小町は目をキラキラとさせている。いや、そんな生易しいもんじゃない、爛々としている。やっぱモンスターなのか?
「遊園地!? あのお兄ちゃんが!? 誰と!? 雪乃さん!? それとも結衣さん!?」
怒涛の質問ラッシュにたじろぎながらも何とか言葉を返す。
「お、落ち着け。つーか何でその2人が出てくるんだ。違う、そいつらじゃない。お前の知らん奴だ」
「およ?? お兄ちゃんまた女の人捕まえたの?」
「なんだその言い方。人聞きの悪い事を言うな。俺がいつそんな事した」
「ふーん……別にー、まぁー、いいけどー?」
1節1節区切ってわざとらしく言ってくる。くっ、何処でこんな憎たらしい技を覚えやがった……。でも可愛いから許しちゃう! やだ、俺、妹に対して甘すぎ!!
「なら出てけ。俺もそろそろ出るから」
「はーい。……あ、そーだお兄ちゃん」
「なんだ?」
「帰ってきたら、今日の話たーっぷり聞かせてね?」
………………。
「……なんかお土産買ってきてやるよ」
これで何とか誤魔化せ――
「ちゃ・ん・と! 聞かせてもらうからね?」
――る訳がなかった。
「……はい」
しぶしぶそう答えると小町は満足げに頷いて、部屋を出ていった。
「はぁ……」
さらに面倒を増やしてしまった……。
落ち込んでいても仕方が無いので、出掛ける事にする。時間もちょうどいい。
「行ってきます」
「行ってらっしゃーい!!」
小町に見送られ、外に出る。
待ち合わせは駅前なので歩いて向かう。
テクテク歩いて、ほどなく駅についた。
休日だけあって人が多い。人を避けるようにして端の方へ向かい、壁に寄りかかる。
周りを見ても人、人、人……。
うんざりして顔を背けた先に、コンビニの窓ガラス。自分の顔が映っている。
いつも洗面所で見る顔ではあるが、1つ違うところがある。
目だ。
当社比3割増しで腐っている。うわぁ酷い。
そのままぼーっと見ているとひょこっ、と下から千斗が現れた。
うおぉ……びっくりした……。何? モグラたたきなのん? ピコピコハンマー持ってきた方が良かった?
そんな事を考えていると、千斗はコンビニから出てきて、「行きましょう」とだけ言って、スタスタと歩いて行ってしまう。
慌てて追いかけると、千斗はバス停で足を止めた。
「なぁ、これから何処行くんだ?」
ちょうどいいので気になった事を聞いてみる。すると意外な答えが返ってきた。
「甘城ブリリアントパークよ」
「甘城ブリリアントパーク? 何でまたあんな微妙「微妙……?」な所に……」
やっべ、なんか地雷踏んだわ。めっちゃ食い気味にきたじゃん。凄いどす黒いオーラとか出ちゃってるよ。怖い。
しかもスカートから銃まで取り出してきたって、え? スカート? それパンツ見えるんじゃない?
じゃなくて、やべぇ。謝ってなんとか命だけは守らなきゃ。
「い、いや。気を悪くしたなら謝る。すまなかった。でもあそこはあまり評判が良いとは言えない所だから……」
そんなような事をへどもどしながら伝えると、許してくれたようで、怒りの矛も銃も収めてくれた。良かった。
「まぁ、微妙と言われても仕方ないかも知れないわね……」
それから千斗はそう、ぽつりと呟いたきり、黙ってしまった。俺から話しかける事など、絶対出来ないので、バスが来るまで会話はなかった。
ようやくバスが来たので、気まずい空気のまま千斗からバスに乗り込む。
千斗が1番後ろまで歩いていき窓から少し離れて座ったので、俺はその反対側に、肘を付いて座る。
…………会話がない。
だが話す事もないので、ぼーっと流れる景色を眺める。
しばらくそうして気まずさを誤魔化しているとなんだか城っぽいものが見えてきた。
「次は、甘城ブリリアントパーク。甘城ブリリアントパークです」とアナウンスもかかる。多分あれが正門だろう。
内心、助かった、と思いつつボタンに手を伸ばすと、千斗が短く制止をかけてくる。
「待って」
なんだよ、バスのボタンを押すという俺のささやかな幸せを奪う気か? そんな思いを込めて睨めつける。
「なんだよ。ここだろ?」
「いえ、ここではないの」
「は? え、いやでも甘城ブリリアントパークって……。それに城みたいなのもあるし……」
「あれは、その……」
千斗は逡巡するように言葉を濁し、しばらく目をキョロキョロさせる。なんか見覚えあんなー、と思ったら普段の俺でした。
やがて意を決したようにこちらを真っ直ぐ見てくる。なんだか頬が赤い。え、何これ。なんでこんな青春イベントみたいな事が俺に起きてるのん? ひょっとしてついに春が――
「ラブホテルなのよ」
――来てなかった。今の言葉で春とか全部吹き飛んだわ。
「え? 何だって?」
何故か聞き返す俺。技を借りるぜ! 天津飯!!
いや、あの人は天津飯ではないけど。
「……だから、ラブホテルなのよ」
「ま、紛らわしいな……。間違って降りたらちょっとした悲劇だぞ……」
熱くなった顔を仰ぎながらなんとか俺が答えると、千斗は急に顔を暗くしてこう言った。
「名前変更の申請はしたのだけれどね。色々あって先延ばしになっているのよ。実際、ここで降りてしまうゲストだって多いのに……。」
「ゲスト?」
「お客様の事よ。同様に、従業員の事をキャストと言うわ。覚えておいて」
「お、おう……」
何故覚える必要が? というより、今の口ぶりから察するに、コイツ、パーク関係者か?
心の中で千斗と甘城ブリリアントパークの関係を勘繰っていると、再び「次は西太丸、西太丸です」とアナウンスがかかった。
念の為千斗に視線をやり、彼女が頷いたのを確認してから、今度こそボタンを押した。あぁ、小さな幸せだ……。
しばらく待って、停留所に着く。
ここで降りるのは、俺達だけだった。
コピーとペーストを間違えて書いたものを全部消すというやらかしをしたせいで前書き書いてから投稿まで4時間くらい立ちました(半ギレ)